第249回:バージョン「1.5」でホームネットワークの世界はどう変わるのか?
DLNAのトータルソリューションを提供するACCESSに聞く



 携帯電話や組み込み機器などのブラウザ「NetFront Browser」の開発で知られるACCESS。そんな同社が、最近注力しているのがDLNA関連のホームネットワーク事業だ。「DLNA 1.5」の登場によってホームネットワークがどのように変化するのか、同社開発本部 第6開発部の園田雅文部長に伺った。





ホームネットワークの世界が一歩現実へ

ACCESSの開発本部 第6開発部の園田雅文部長

 テレビやオーディオなどの家電製品やPC、携帯電話などをネットワークで接続し、相互連携が可能なホームネットワークを実現する。もはや聞き飽きてしまったフレーズかもしれないが、どうやら今年は、この世界観が現実へ一歩近づく年となりそうだ。

 すでに一部で話題になっているが、DLNAが提唱する次世代のガイドライン「DLNA 1.5」対応した開発キットが各社から続々と発表されており、今年の後半から来年にかけて実際の製品の登場が見込まれている。これにより、詳細は後述するが、より多くの機器がホームネットワークへと接続可能となり、ホームネットワークの新しい使い方が期待されている。いわば次世代のホームネットワークの進化だ。

 そこで、今回は、そんなDLNA 1.5に対応したトータルソリューションである「NetFront Living Connect 1.5」の提供を今夏に予定する(1.0対応は発売済み)、株式会社ACCESSの開発本部 第6開発部の園田雅文部長に、これからのホームネットワークの在り方について話を伺った。

 なお、「DLNA 1.5」というのは、現状のDLNAガイドライン1.0を拡張したという意味での通称であり、正式には「DLNA Network Device Interoperability Guidelines expanded: March 2006」と呼ばれるものだが、ここでは便宜上「DLNA 1.5」と記載することをお断りしておく。また、DLNAガイドライン1.0についても以下「DLNA 1.0」と記載する。





DLNA 1.5とDLNA1.0の違いはどこにあるのか

 「次世代のホームネットワーク」。そう言われてもいまひとつピンと来ない人も多いだろう。DLNA 1.0に対応した機器はテレビやレコーダ、PCなどさまざまな機器やソフトが市場に出ており、たとえばPCに保存された画像をネットワーク経由でテレビに表示する、レコーダで録画した映像をPCで再生する、という利用形態が実現できている。では、このような環境と次世代のDLNA 1.5は何が違うのだろうか?

 この点について、園田氏はDLNA 1.5で実現される世界を新たに追加されたデバイスクラスを例に説明してくれた。園田によれば、DLNA 1.5では、頭に「M」が付いたモバイル向けのデバイスクラスが新たに定義されており、携帯電話をホームネットワークに参加させることなども可能になるのだという。

名称内容
DMCDigital Media Controllerサーバーやプレーヤーを操作するコントローラー
M-DMCMobile Digital Media Controllerコントローラーのモバイル版
DMRDigital Media Rendererメディアの再生機器(Pushやコントローラー利用時)
M-DMSMobile Digital Media Serverサーバーのモバイル版
M-DMPMobile Digital Media Playerプレーヤーのモバイル版
M-DMUMobile Digital Media Uploaderモバイル機器からのデータアップロード
M-DMDMobile Digital Media Downloaderモバイル機器へのデータダウンロード
+UP+Download Controllerダウンロード機能
+DN+Upload Controllerアップロード機能
+PU+Push Controllerプッシュ機能
DLNA1.5で追加されるデバイスクラスと機能

 このモバイル向けデバイスクラスの具体的な例としては、家のレコーダで見ていた番組の続きを、外出中に携帯電話で見るといった使い方が考えられるという。また、それとは逆に、外出先の携帯電話でワンセグを視聴中に、「何の番組を見ているか」という情報を家庭のレコーダなどに送信。このデータを利用して外出先で視聴中の番組を自宅でも同時に録画し、家に帰ってからその続きを見る、という利用方法も実現できるのだ。

 もちろん、園田氏が「このような使い方をするには携帯電話の機能が1世代進化する必要がある」というように、DLNA 1.5だけが登場してもこのような機能は実現できない。ただし、ホームゲートウェイによって携帯電話網から自宅のネットワークにアクセスする、携帯電話と固定電話を融合するFMCといった技術動向の背景があるだけに、こうした利用方法も決して現実離れした世界ではないだろう。

 なお、このようなDLNA1.5のデバイスクラスを使った利用シーンは、実際にユースケースとしてまとめられいる。たとえば、携帯電話のカメラで撮影した写真をテレビに映し出す、携帯電話を使ってレコーダを操作し、録画された番組をテレビに映し出すといったことが可能になるというわけだ。


DLNA1.0とDNLA1.5の違い。単純なサーバー(DMS)とプレーヤー(DMP)という世界から、モバイル系デバイス(M-DMP/M-DMS)が追加。データのアップロードやダウンロード、コントローラー(DMC/M-DMC)の役割を持つデバイスによる遠隔操作、さらには印刷なども可能となる




家庭内のあらゆる機器をシームレスに連携

 DLNA1.5の登場によって、現在、家庭内にある機器の使い方も大きく変わりそうだ。特に園田氏が注目するのはNASの重要性だ。「テレビやレコーダだけでなく、PCやNASなどの機器が相互に接続されれば、たとえばテレビ番組の録画先がNASになっても良い。レコーダのHDDが足りなくなったら続きをNASに録画する、という連携も可能になるだろう」。

 DLNA対応のNASは、すでに数多く登場しているが、まだ家庭で一般的に使われるというほどまで普及しているとは言いがたく、ユーザーの意識も「ネットワーク経由で接続するハードディスク」というのが一般的だ。しかし、DLNA、特にモバイル機器なども参加可能なDLNA 1.5の世界になると、映像や写真、音楽など、NASはネットワーク内のあらゆるデータを集約し、機器間の受け渡しを担当するホームサーバー的な意味合いの方がより強くなる。ホームサーバーを中心にDLNAによってモバイル機器も含めた家庭内の機器がすべてつながる世界観が、ようやく現実になりそうだ。

 また、DLNA 1.5によるホームネットワークでは携帯電話の存在もかなり大きいものとなりそうだ。前述したように、DLNA 1.5では携帯電話を「M-DMC」と呼ばれるコントローラーとして利用できる。図の例ではわかりやすくレコーダーの映像をテレビに映し出す場合を紹介したが、実はこれは既存の赤外線リモコンでも実現できる使い方だ。では、わざわざ携帯電話をコントローラーとして使うメリットはどこにあるのだろうか?

 これについて、園田氏は「家の中にはテレビとレコーダだけでなくPCやNASもある。既存のリモコンのようなコントローラは機器同士を1対1で制御するが、DLNA 1.5のM-DMCなら、ネットワーク上のすべてのサーバーのコンテンツから、見たいものを見たい機器に表示できる」と語った。リモコンの場合はそれぞれの機器ごと使い分けなければいけないが、DLNAであれば、コンテンツの場所や再生する場所を選ばず、1台の携帯電話から操作できるというわけだ。

 もちろん、現状のDLNA 1.0でも複数機器のコンテンツをシームレスに扱えるが、DLNA 1.5では、それを再生する場所も選べるようになり、本当の意味でシームレスなネットワークが構築できるようになる。そして、このようなネットワークの中で、携帯電話はコントローラーとして、その用途を広げていくことも考えられるだろう。





家電のネット化へのインセンティブとしてのDLNA

 このようなDLNA 1.5の世界は家電製品のネット化を推し進める起爆剤にもなりそうだ。現状、テレビやレコーダなどの中にはネットワーク端子を装備した製品がいくつかあるが、これらの製品のネットワーク接続率は約2割程度だと言われている。

 これはテレビの設置場所にネットワークケーブルが存在しなかったり、無線LANの接続が難しいなどという配線の問題もあるが、それに加えて、ネットワークにつながる家電を所有していたとしても、それをつなげるメリットを消費者が感じていないという問題もかなり大きい。

 このような現状に対して、園田氏は「現状、家電製品をどうしたらネットワークにつないでもらえるかに多くの企業が苦心しているが、DLNA 1.5がその強力なインセンティブになってくれることを期待しています」と言う。現状、家電のネットワーク機能はハイエンド製品向けの趣味性の高い機能として位置づけられているが、携帯電話やデジタルカメラの画像がテレビで見られる、NASに録画した番組が見られるなど、具体的なネットワークの活用シーンがDLNA 1.5によって消費者に理解されるようになれば、メーカーとしても家電のネットワーク化をさらに進めやすくなるだろう。

 また、園田氏によると、DLNA 1.5の登場によって、これまでPC周辺機器を主に扱っていたメーカーが家電の分野に進出するきっかけになる可能性もあるという。そういう意味では、DLNA 1.5は我々ユーザーだけでなく、メーカーに与える恩恵も大きいと言える。

 ACCESSという企業としては、もちろん開発キットなどのプラットフォームを提供することが目的だが、園田氏個人としてはプラットフォームの提供に加えて、家電メーカーや携帯電話メーカー、ゲームメーカー、そして利用者などを巻き込んだDLNA 1.5の盛り上げをサポートしていきたいと考えているそうだ。





あらゆるメディアを扱うプラットフォームを提供するACCESS

 以上、DLNA 1.5の展望を中心に株式会社ACCESSの園田氏に話を伺った。現状、家電のネットワーク化という試みに関しては、アクトビラのようなコンテンツ配信や映像配信サービスなどといったインターネットからのアプローチと、今回のDLNA 1.5のようなホームネットワークからのアプローチがある。しかし、将来的には、これらが統合され、ユーザーがシームレスにネットワークやコンテンツを利用できるようになれば理想だ。

 同様のDLNA 1.5ソリューションは、ACCESSを含め、さまざまなメーカーによって提供される予定だが、同社の強みはトータルにソリューションを提供できる点だ(DLNAだけでなく、「ALP:Access Linux Platform」と呼ばれるLinuxプラットフォームも提供している)。特に携帯電話向けではプレーヤーやブラウザなどの分野で高い技術力を持っているのは同社ならではの強みと言える。今後の同社の動向がさらに注目されるところだ。


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2007/6/19 11:01


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。