第307回:ブラウザ搭載で利便性が向上
USENのSTB型映像配信サービス「ギャオネクスト」



 USENが提供するテレビ向けの映像配信サービス「ギャオネクスト」において、専用端末へのブラウザ搭載が開始された。これにより、映像だけでなく一般的なWebページも家庭用のテレビで楽しめるようになった。早速、その使い心地を検証した。





競争が激化しつつある映像配信サービス

 USENの「ギャオネクスト(GyaO NEXT)」は、家庭用のテレビで利用できる映像配信サービスだ。本家「GyaO」がPC向けに無料で映像を配信するのに対して、ギャオネクストは家庭用のテレビに接続する専用端末を利用し、ビデオや専門チャンネルなどのさまざまなコンテンツを楽しむことができる。

 本サービスについては本コラムでも以前に取り上げたが、今年6月のリニューアルでサービス内容が変更された。新たに多チャンネル放送サービスの提供が開始され、さらにPPVによる個別課金のコンテンツの提供を開始。その一方で、月額料金を従来の3,900円から2,980円へと値下げした。


リニューアルによってサービスが充実したギャオネクスト。ビデオサービスに加えて、チャンネルサービスなども利用可能となった

 テレビ向けの映像配信サービスとしては、前回取り上げた「ひかりTV」、テレビに標準されつつある「アクトビラ」なども登場しつつあり、競争が激化しつつある。多サービスとの差を無くし、価格やコンテンツでの競争力を強化しようというのがその狙いだろう。

 個人的には、当初全コンテンツ見放題だった料金体系が、アニメなどの一部PPVコンテンツの追加によって完全な見放題ではなくなってしまったのが残念ではあるが、見放題契約の場合630円分のPPVクーポンが利用可能なので、言わば準見放題とでも言ったところであろう。

 いずれにせよ、サービス競争が激化する中、同社がさらなるサービス拡充のために新たに開始したのが今回のブラウザの提供だ。これにより、映像配信サービスだけでなく、専用端末を利用したWebサイトの閲覧が可能となった。





「Opera Ver.9.5 for device」を採用

 今回のブラウザ機能は無償で提供されるサービスだ。ブラウザ提供開始に併せて、アイ・オー・データ機器によって「AV-LS500L」と「AV-LS500UL」という専用端末の新モデルを2製品も開発されたが、従来の専用端末である「VIP-1200J」でもファームウェアのアップデートによってブラウザの利用が可能となっている。


従来の専用端末となる「VIP-1200J」とリモコン。ファームウェアのアップデートによってブラウザを利用可能

 筆者宅の専用端末は長らく放置していた関係もあり、数回のアップデート作業が必要になったが、20~30分前後(回線状況によって異なる)の時間をかけてアップデートすれば、新しいユーザーインターフェイスの画面に更新され、画面左下に「インターネット」という項目が追加される。このボタンをリモコンで選択すれば、ブラウザが起動するというわけだ。

 新たに追加されたブラウザ機能は、Opera Softwareが開発した「Opera Ver.9.5 for device」を採用。ギャオネクストで採用されている専用端末はWindows CEが採用されているが、IEではなく、Operaが採用されているというのは、なかなか興味深い。

 起動すると、まずリモコンを利用した操作方法のヘルプページが表示される。筆者宅の専用端末は初期モデルのため簡易的なリモコンとなっているが、それでも方向ボタンを利用したフォーカス移動やスクロール、「前」ボタンや「次」ボタンを利用した前ページ、次ページへの移動(戻る、進む)、「再生/一時停止」ボタンによるリロード、「チャンネル」ボタンによるお気に入り操作、数字ボタンによる文字入力が可能だ。


起動時に最初に表示されるヘルプページ。色合いはどこかWiiを彷彿とさせるリモコンの使い方をチェックしておかないとうまく操作できない

BB Watch。画面は狭いが記事を読むには十分

 試しに、いくつかのページを表示してみたが、ニュースサイトやポータルサイトなど、一般的なページは問題なく表示できた。画面解像度がVGAということもあり、表示される情報は限られるが、たとえば本サイトでニュースを見るなどという使い方は十分に可能だ。

 もちろん、インターネット上のすべてのページを表示できるわけではない。FLASHには対応しており、設定画面で有効にすることで単純なコンテンツであれば表示することができるのだが、複雑なコンテンツやアニメーションなどはメモリ容量の問題からかうまく表示できないことの方が多く、Youtubeやニコニコ動画などの動画再生もできない。

 また、iGoogleのガジェットなどもRSSの表示などを除いて表示されないものが多く、Gmailに関しても表示には簡易表示への切り替えが必要だった。残念ながら同社の「GyaO」もサイトは表示できるが動画の再生はできなかったので、用途としてはテキスト+画像ベースの情報表示と割り切る必要があるだろう。


GyaO。一部コンテンツがうまく表示されず、動画も表示不可
Flashを利用したコンテンツは表示は可能だが、アニメーションなどは不可。メモリが足りなくなると表示できない場合も多い

iGoogleではRSSは表示可能だが、他のガジェットは利用不可
Gmailは簡易HTMLで読み込めばOK

URLはポップアップウィンドウからリモコンで入力

 表示速度に関しては、筆者宅の専用端末は初期型ということもあり、サクサクという軽快な操作感からもほど遠い。文字入力に関しても、基本は数字キーを数回押す携帯電話方式だが、もともと映像再生しか考慮されていないリモコンだけに、あまり入力しやすいとは言えない。

 ブラウザのお気に入り機能を利用するのも1つの手だが、Yahoo!ブックマークなどが利用できたので、このようなオンラインブックマークサービスによく見るサイトを登録しておくのが手っ取り早い。もしくは、iGoogleなどでめぼしいニュースサイトのRSSを取得し、気になるニュースを選んで表示するという使い方をするのが良さそうだ。


お気に入り機能も利用可能オンラインブックマークサービスを利用するとPCからURLを登録できて便利




専用コンテンツが必要

 このようにギャオネクストの専用端末向けブラウザを利用してみたが、現状はとりあえずいくつかのページも見られるという最低限の使い方であり、レスポンスもあまり良くはない。

 そもそも、家庭用のテレビにもブラウザが搭載されているケースが多くなっており、Wiiのインターネットチャンネルのような直感的なUIと専用コンテンツを備えたブラウザ(というよりサービス)が存在することを考えると、わざわざ本端末のブラウザを使うメリットは正直言ってそれほど感じられない。

 もちろん、家庭用テレビに内蔵されているブラウザの方が表示できるサイトに制限が多い場合があるが、アクトビラや各メーカーが用意した専用コンテンツを利用することができるため、実質的に入手できる情報は豊富だ。

 このため、同社が今後の予定としているように、ギャオネクストのコンテンツと連動した情報の表示など、ブラウザを使ったサービスに発展させないとあまり意味がないだろう。たとえば、直前に見た映像のキーワードがブラウザに自動的に渡され、ブラウザから手軽に出演者や作品情報などを検索できるとか、関連するコンテンツを表示するといった工夫がないと日常的な利用は難しそうだ。

 Opera Ver.9.5という最新のブラウザが搭載されたことは歓迎すべきだが、ソフトウェアをサービスへと発展させるさらなる工夫が必要と感じた。


関連情報

2008/8/26 10:57


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。