LTEから4Gへ、発展のシナリオ・周波数再編の動きを総務省・ドコモが語る


 「ワイヤレスジャパン2011」のコンファレンスでは、最終日の27日に、LTE/4G専門コースとして「LTE&4G移動通信技術フォーラム」が開催された。

モバイルのトラフィック増加に対応するための周波数再編~総務省・田原氏

 総務省総合通信基盤局電波部移動通信課長の田原康生氏は「モバイルブロードバンド実現に向けた政策動向」と題し、モバイル通信に関わる電波政策について、特に周波数再編による新たな周波数の確保を中心に語った。

総務省総合通信基盤局電波部移動通信課長の田原康生氏

 田原氏は、まず、携帯電話の需要増やM2M(機械同士の通信)により携帯電話番号がひっ迫している状況を取り上げ、070で始まる電話番号を携帯電話で利用できるよう情報通信審議会に対して諮問したことを説明した。同様に、主にスマートフォンの普及によって無線通信トラフィックが爆発的に増大していることを提示。スマートフォンが従来型携帯の24倍のデータトラフィックを生み出すというシスコ社の調査を引きながら、周波数利用効率の高いシステムの導入や、新たな周波数の確保が必要だと説いた。

 従来より高度な携帯電話サービスとしては、LTEなどの3.9G携帯通信を挙げ、世界市場でもサービスが始まってきていることなどを紹介した。また、携帯以外にも、スマートメーターなども含む固定無線通信の広帯域移動無線アクセス(BWA)システムの高度化について、情報通信審議会情報通信技術部会傘下の委員会において審議が開始されたと説明した。

 一方の周波数の確保については、「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」がまとめている「2015年に向けた周波数確保の基本方針」を中心に説明した。2015年までに5GHz帯以下で300MHz幅超の周波数を新たに確保することを目標としており、特に700/900MHz帯で100MHz幅程度を確保するという。

 700MHz帯は地上波アナログ放送の終了により利用可能となる。一方、900MZh帯は、800~900MHz帯を再編して800MHz帯に詰め込むことにより利用可能となる。再編対象としては、FPU(放送の中継用マイクロ波)やラジオマイク、MCA無線(業務無線システム)、RFIDなどが含まれる。田原氏は、700MHz帯では他無線システムとの干渉について検討継続中だとする一方、900MHz帯にはおおむね実現可能との検討結果を紹介し、ここにLTEやW-CDMA/HSPAなどを入れていくという情報通信審議会一部答申を説明した。

 技術的には用意できても、今まで利用していた周波数を変更してもらうには、手間とコストが必要だ。田原氏は、新しくその周波数帯を利用する事業者が今まで利用していた事業者の移行費用を負担する制度について説明。これが、ちょうど前日である5月26日に成立した改正電波法に盛り込まれたことを報告した。別のアプローチとしては、周波数オークションの検討についても触れ、落札額の高騰などさまざまな論点について議論し、12月をめどに取りまとめると語った。

 そのほか、3.9Gに続く4G携帯の技術や、東日本大震災で浮き彫りになった安定性や継続性への取り組みにも言及して、話を終えた。


スマートフォンの普及によるトラフィックの増大700/900MHz帯の周波数再編
700/900MHz帯での干渉の検討結果周波数移行のスキーム

LTEが国ごとに周波数が違う問題~NTTドコモ 尾上氏

 NTTドコモ執行役員・研究開発推進部長の尾上誠蔵氏は、「LTEサービスXiの商用開始と今後の発展シナリオ」と題し、LTEの現状とその後について語った。

NTTドコモ執行役員・研究開発推進部長の尾上誠蔵氏

 尾上氏は冒頭、「ワイヤレスジャパンで2004年から毎年、LTEについて話してきた」と前置きし、2010年にNTTドコモが開始したLTEサービス「Xi」について紹介。回線速度やサービスエリア、端末ラインナップなどを概観し、ユーザー数が4月末で5万人を超えたこと、2011年度で100万台の計画であることを説明した。

 また、「W-CDMAでは日本が先行したが、ほかの国がついてこなかった。その反省から、LTEでは“先頭集団”を作ることを計画した」と述べ、フィリピンのSMART社や香港の1010社、米国のAT&T社など、世界で十数社がLTEサービス開始を表明したことを紹介した。

 ただし、尾上氏は、各国のLTEで周波数がばらばらであることを危ぐする。日本が1.5GHz帯や1.7GHz帯、2.1GHz帯、800MHz帯を採用するところを、北米は700MHz帯を採用。欧州が2.6GHzや1.8GHz、800MHzを採用しているという。これについて尾上氏は、「LTEは従来の携帯と共存できず、新しい周波数帯が必要という思い込みがある。既存の周波数帯にLTEを入れていくことを提案していきたい」と指摘した。周波数が重なるわけにはいかないが、同じ周波数帯で隣り合うには問題はないという。そして、実際にフランスで開かれたDigiWorld Summit 2010や、スペインで開かれたLTE World Summit 2011でこの提案を発表したことを報告。「興味を持ってもらえた」と、報道やブログなどでの反応を紹介した。

 続いて尾上氏は、LTEの屋内カバレッジと性能について説明。従来の屋内配線をRadio on Fiberで利用してMIMOを設置することにより、20~50Mbpsの速度が出たという実験結果を見せた。

 さらに「LTE World Summit 2011のプログラムになぜか書かれていた」と言いながら、2Gサービスを終了して世代交替させる秘訣を講演してきたことも紹介した。日本とは違い、ヨーロッパでは2Gサービスが残っていて、終了は考えづらい状況だという。尾上氏は、「古い技術のEvolutionをやめること」と秘訣を語ったこと、そして「同じことが3Gでも起こるので気を付けたほうがいい」と警告を伝えたことを報告した。

 最後に、今後の発展シナリオとして、4G(LTE-Advanced)サービスについて言及した。尾上氏はワイヤレスジャパン2004年のときの資料を引きながら、LTEもともとのコンセプトは「4Gへのスムーズな進化パスを提供する」であることを説明。そして、LTEに投資をすれば4Gでの投資が大きくならずに済むと主張した。そして、「社長の山田の基調講演でも紹介しましたが」と断りながら、LTE-Advancedで下り1Gbpsを測定した実験結果を紹介し、講演を締めくくった。


世界のLTE導入状況。NTTドコモを含む十数社がサービス開始を表明している各国のLTEで周波数がばらばらである問題
既存の周波数帯でのLTEの共用屋内にMIMOを設けたLTEの通信速度の実験
「LTEは4Gへのスムースな進化パスを提供する」というコンセプトLTEから4G(LTE-A)への設備拡張のシナリオ




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(高橋 正和)

2011/5/30 06:00