特別企画
定額制読み放題と今後の展望
インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2016」より<第3回>
2016年9月22日 06:00
7月28日に発行したインプレス総合研究所の調査報告書「電子書籍ビジネス調査報告書2016」をもとに再編集し、4回にわたってお送りします。
- 第1回:無料マンガアプリと広告
- 第2回:電子雑誌の動向
- 第3回:定額制読み放題と今後の展望(この記事)
- 第4回:多様化する電子書籍市場の今後
電子書籍・電子雑誌のビジネスモデルは1冊(1ダウンロード)ごとに課金することがほとんどであったが、近年はサブスクリプション(定額制)モデルや広告収入等により無料で読めるマンガアプリなど、さまざまな形態のモデルが導入されている。本シリーズでは、最近注目されている電子書籍・電子雑誌の形態について、その動向やビジネスモデル、今後の展望などを整理して紹介する。
第3回は、定額制読み放題サービスについてお送りする。
ついに「Kindle Unlimited」が始まった
2016年8月3日、「Kindle Unlimited」が開始された。月額980円で、12万冊以上の本、コミック、雑誌および120万冊以上の洋書を読み放題で楽しめるというサービスである。米国では2014年7月に始まり、その後、11月にスペインとイタリアで 、12月にフランスとブラジルで 、翌2015年2月にはカナダとメキシコで それぞれ展開されて、世界的ネットワークで急速に拡大している。
国内では電子雑誌ジャンルで「dマガジン」がこのモデルを定着させた。電子書籍も含めた定額制読み放題サービス(電子雑誌のみのサービスは除く)は、2012年12月「ブックパス」(KDDI)の「月額読み放題プラン」を皮切りに、2013年1月「コミックシーモア」の「読み放題ライト」「読み放題フル」、2015年7月「Yahoo!ブックストア読み放題」がそれぞれ開始されている。
国内での“読み放題サービス”(電子書籍を対象とするもの。電子雑誌のみのサービスについては前回記事を参照)は、以下の通り。
「ブックパス」は昨年度の調査で約2万冊だった対象書籍が4万冊へと拡大している。利用者も増えているとのことだ。「Yahoo!ブックストア」では、「『無料作品』で集客し、『読み放題』で会員化(月額課金化)し、『アラカルト販売』でさらに収益性を高めていく」と、明確な導線を敷いている。
「Kindle Unlimited」が始まったことにより、各出版社、各ストアでの価格施策も大きく影響することになるだろう。動向を注視したい。
定額制と本の“ディスカバラビリティ”
この数年、電子書籍の普及の鍵としていわれるのが、本の“ディスカバラビリティ”(発見される能力)である。
既存の出版ビジネスでは、書店店頭での販売力で勝負してきたが、書店の絶対数が減り、そしておそらく書店の集客力そのものも落ちている今、スマートフォンのようなプラットフォーム上で、いかに本(電子/紙、書籍/雑誌を問わず)との出会いを演出できるかというのは、既存の出版ビジネスにとっても最重要課題であろう。
電子書籍ストアを含むオンライン上のストアでは、リアルな店舗と違って一覧性に欠ける。そのため、この1年ストアが打ってきた施策の中には、リコメンド機能の改善、キュレーションアプリの開発や提携、メタデータの充実、レビューをはじめとするコミュニティの活性化ということが目立った。ユーザーは必ずしも自主的に本を探すわけでない。これはリアルな店舗で“目的買い”“衝動買い”という言い方でより多く売るために“衝動買い”を誘発するための仕掛けをしてきたのと同様で、ましてスマホ世界で可処分時間を奪い合っている中では、ユーザーに探させるのではなく、ユーザーを動かさずにユーザーが興味を持ちそうな、閲覧に時間を割いてくれそうなコンテンツを提示する方が効率がよい。
このような観点から、定額制サービスが果たすことのできる役割も大きい。定額制サービスの普及により、ユーザーが書籍に対して興味を持つきっかけをつくり、今まで手に取らなかった書籍や雑誌を見る機会を増やすことができるからだ。たとえば、閲覧数ランキングやストアからのリコメンド、特集などにより、ユーザーと書籍(あるいは雑誌)との接点が作られる。さらには、定額制を利用することで、好きな作家の発見や関連作品の購入へとつながる可能性もある。定額制サービスの閲覧が習慣化されていくことで、電子書籍の利用が定着し、電子書籍市場が拡大していくだろう。また、出版社は定額制サービスの仕組みを利用し、コンテンツの読める期間や巻数を限定して、マーケティング目的に利用していくことも考えられる。