特別企画
無料マンガアプリと広告
インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2016」より<第1回>
2016年9月8日 06:00
7月28日に発行したインプレス総合研究所の調査報告書「電子書籍ビジネス調査報告書2016」をもとに再編集し、4回にわたってお送りします。
- 第1回:無料マンガアプリと広告(この記事)
- 第2回:電子雑誌の動向
- 第3回:定額制読み放題と今後の展望
- 第4回:多様化する電子書籍市場の今後
電子書籍・電子雑誌のビジネスモデルは1冊(1ダウンロード)ごとに課金することがほとんどであったが、近年はサブスクリプション(定額制)モデルや広告収入等により無料で読めるマンガアプリなど、さまざまな形態のモデルが導入されている。本シリーズでは、最近注目されている電子書籍・電子雑誌の形態について、その動向やビジネスモデル、今後の展望などを整理して紹介する。
第1回は、無料マンガアプリ/サービスについてお送りする。
スマートフォンユーザーの無料マンガアプリの利用率は28.6%
無料でマンガを読めるアプリの利用が拡大している。多くの部分を無料で楽しめることが最大の特徴で、アプリによっては1000万ダウンロードを超えている。また、多くがIT企業など出版業界以外の事業者によってサービスが提供されているのも大きな特徴である。2013年位から「マンガボックス」(DeNA)や「comico」(NHN comico)など多数リリースされてきており、その他にも代表的なマンガアプリに、「ジャンプ+」(集英社)や「マンガワン」(小学館)、「スキマ」(TORICO)、「マンガBang!」(Amazia)などがある。
インプレス総合研究所がスマートフォンユーザーに実施した調査では、無料マンガアプリやサービスの利用率は28.6%となり、昨年の25.4%からも3.2ポイント増加している。特に若年層の利用率が高く、女性の10代や20代では4割、男性の10代や20代では3割強の人が利用していると回答している。
利用している無料マンガアプリやサービス名は、「comico」が30.7%で最も高く、「LINEマンガ」が27.0%、「少年ジャンプ+」が12.8%、「マンガボックス」が12.3%で続く。
2015年度の無料マンガアプリの広告市場は41億円、2016年は85億円へ
こうした無料マンガアプリ/サービスの主な収益源は、無料で閲覧できない巻や話の有料電子書籍の販売(無料で閲覧できる部分は冒頭の巻や連載される一部分に限定されている)、閲覧時間回復のための課金収入(一定時間は無料で閲覧できるが超過して閲覧したい場合は課金が必要)、紙の単行本や関連グッズの販売、そして広告収入等が主な収益源である。これらを組み合わせているアプリやサービスが多く、無料連載でユーザーを集め、広告と有料販売や課金でマネタイズする手法が王道となっている。
特に広告に関しては急成長しており、2015年度のマンガアプリ広告市場規模は前年の約3倍の41億円になった。中心となっているアプリやサービスは2014年度の途中に開始されたものが多く、この1年間で広告市場が形成された形となった。
主な広告の種類は、ユーザーに他のアプリのインストールやサービスの会員登録等のアクションを起こさせる「リワード広告」、クリック課金となる「インフィード広告」、ビューワーのフッターに表示される「ディスプレイ広告」や「動画広告」、「タイアップ広告」などがある。なかでもリワード広告が好調である。リワード広告とは、成果報酬型広告の一種で、広告のリンク先のウェブサイトで、アプリのダウンロードや会員登録など成果が発生すると、広告主からアプリ事業者に成果報酬が支払われる。アプリ事業者は、その会員にアプリ内で使えるポイントなどを付与する仕組みで、ユーザーは先行して次の話を読んだりすることができる。
また、ユーザーがコンテンツを利用する際の導線の中に組み込まれた広告は、広告効果が高い傾向にある。たとえば、ユーザーがマンガを読んでいるときに、広告が自然と認知されるように、マンガの中に広告が組み込まれていたり、マンガの最後のページに広告を入れていれたりするものである。こうしたユーザーの導線上に設計された広告はクリック率が高い。
現在、広告出稿主はゲーム関連事業者が多いという傾向がみられる。マンガを読むユーザーはスキマ時間を楽しみたいユーザーが多いことから、ゲームと親和性が高い。
無料マンガアプリの今後の展望
今後も、無料マンガアプリの認知度が拡大し、無料マンガアプリユーザーは増加すると見込まれる。特に、ソーシャルゲームやSNSをしない、あるいは関心が低くなった人の利用も期待される。また、ベンチャー企業や出版社など無料マンガアプリに取り組む事業者が増加、すでに取り組んでいる出版社が横展開を図るなど、無料マンガアプリの数が増えると予想される。
中でも、「NARUTO-ナルト- 無料マンガ連載&アニメ放送公式アプリ」や「ONE PIECE 無料連載公式アプリ」のように、有名なマンガタイトルの作品名を冠した単体のアプリが提供されているケースも増えている。これらのアプリは毎日1話ずつ新しい話が更新されており、ユーザーがアプリを定期的に利用するための仕掛けが施されている。無料連載によってトラフィックを稼ぐことで広告収入を増やし、マンガの続きが気になるユーザーは課金をすることで先のコンテンツを見ることができるため課金収入が得られる。ビジネスモデルが確立してきており、今後もさまざまなマンガが単体アプリになることも予想される。読者属性に合わせた広告を出稿していくケースも増えていくことが考えられ、また、読者属性の近い単体アプリ同士のアドネットワークを組むことで広告収入を得ていくケースもあるだろう。
また、アプリ事業者がマンガの版権を抱える事業者と提携しているケースも存在する。アプリに掲載するコンテンツは必ずしも新作のマンガだけではない。旧作のマンガであってもユーザーが読んだことが無いコンテンツであれば、ユーザーを十分にひきつけられる。今後、こうしたマンガ版権を抱える事業者と提携し、タイトルを豊富に集めることでサービスの魅力を高め、広告収入や課金収入を得ていくケースも増えていくだろう。
また、広告に関しては、閲覧者がより深い理解や関心を示すよう広告マッチング精度の向上や新たな表現パターンの開発など広告手法も進化することが見込まれる。一方で、今のように無料マンガアプリ内で展開している限りは、広告のターゲット属性もある程度限定されてしまうという課題がある。また、ユーザーは過度な広告出稿を嫌がる恐れもあるため、広告とコンテンツのバランスが重要だ。