文化庁は21日、IPマルチキャスト放送に関する報告書案を公開した。放送の同時再送信に関しては、地上デジタルの同時再送信も踏まえて早急に「有線放送」と同等の取り扱いにするといった意見が示されている。
● 早急にIPマルチキャスト放送を有線放送と同等に
この報告書は、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で検討が進められたもの。IPマルチキャスト放送に対し、「地上デジタル放送への移行の対応」「他の知的財産権制度との調和維持」「模倣品・海賊版対策の強化」といった観点から検討が進められており、著作権法上におけるIPマルチキャスト放送の取り扱いに加えて、著作権法違反への罰則引き上げ、税関における水際取り締まりに関わる著作権法の在り方が議論されている。
IPマルチキャスト放送に関しては、放送と著作権法での違いが指摘された。放送法では2001年に制定された電気通信役務利用放送法により、IPマルチキャスト放送も番組編成に関しては放送事業者とほぼ同様の規制が課されている。これに対して著作権法上では「有線放送がすべてのチャンネルを各家庭まで届けているのに対し、IPマルチキャスト放送はIP局内装置までチャンネルを送り、各家庭へは要求があった番組のみを送信する」という仕組みの違いから、IPマルチキャストは放送ではなく自動公衆送信と見なされている。
文化庁審議会では、総務省が2006年中の実施を予定するIPマルチキャストを利用した地上デジタル再送信を例に取り、「通信・放送の融合という観点からも、このサービス形態の普及が望まれている」と指摘。早急にIPマルチキャスト放送を著作権法上でも有線放送と同様の取り扱いとするとの方針を示した。
● 難視聴地域での放送義務など公共的な役割もIPマルチキャストに
一方で、現行の著作権法が制定された当時は、規模が小さく地域中心の事業展開を進めるメディアだった有線放送も、近年の制度見直しによって地元事業者要件の廃止や外資規制の撤廃など規制が緩和されており、都市部での大規模な事業展開や、IP電話やインターネット、VODなどを含めたサービスの充実が進んでいると指摘。こうした有線放送事業の大規模化という現状を踏まえ、有線放送とIPマルチキャスト放送に対しては実演家およびレコード製作者に対し、新たに報酬請求権を付与することが適当とした。
また、難視聴地域での放送再送信はCATV事業者には義務として課せられているが、IPマルチキャスト放送では義務が課せられていないという点も指摘。IPマルチキャスト放送事業者に公共的な役割を与え、有利な取り扱いを根拠づけるための重要な要素であり、速やかに必要な法的措置を講じる必要があるとした。
● インターネットでの動画配信は「今後の議論」
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文化審議会著作権分科会の模様
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6月20日に開催された文化審議会著作権分科会の第19回では、「地上デジタルの完全実施は著作権法を変更せずとも著作権の集中管理で十分では」との意見も見られたが、大方の意見は「専門家の審議には大変酷な短かい期間ながら一定の成果が見られた」との方向で一致。副文化会長を務める東京大学の中山信弘教授は、「今後すべき議論は残っているだろうが、同時再送信に関しては議論を尽くしたのではないか。学者としてもこの報告書は良くできていると思う」と評価した。
審議に参加した委員からは、「IPマルチキャスト放送が技術的に違ったとしてもユーザーの視点から同じサービスとして受け止められるのであれば、著作権法上も同じに扱って良いのではないか。両者の間に不均衡が生じ、それが競争制限になってはいけない」との考えが示された。一方で、「IPマルチキャスト放送は全国への配信が可能であり、技術的にはNHKの全国放送よりも大きなメディアになる可能性もある」と指摘、「視聴者のレベルだけでなく、CATVや既存電波の放送局との競争の観点も必要だろう」とした。
また、「インターネットを利用した配信でも同時再送信をやりやすくする、との一部報道があったが、我々はそんな議論はしていない」と強く否定。「サービスを受ける視聴者の視点から同じであればいいのではないかという原則があるとすれば、この点は注意を払わなければいけないし、今後の議論は必要だろう」とした上で、「今回の報告書はあくまで電気通信役務利用放送法の範囲内であり、そこからまったく外れたインターネットコンテンツの議論はしていない」と注意を促した。
関連情報
■URL
「(IPマルチキャスト放送及び罰則・取締り関係)報告書(案)」に対する意見募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=185000205&OBJCD=100185&GROUP=
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・ IPマルチキャスト放送の是非を著作権関連団体や放送事業者が議論(2006/04/05)
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( 甲斐祐樹 )
2006/06/21 16:10
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