文化庁は、12月15日に第165回臨時国会で成立した著作権法の一部を改正する法律案について、改正法の内容を説明するページを開設した。
● IPマルチキャスト放送(自動公衆送信)における許諾手続きを見直し
今回の改正は、「放送の同時再送信の円滑化」と「時代の変化に対応した権利制限等」、「著作権等保護の実効性の確保」の3つを柱に実施された。いずれの改正事項も、文化審議会著作権分科会での審議を踏まえた内容になっている。
「放送の同時再送信の円滑化」では、2011年までに地上波放送がデジタル放送へ全面的な移行を予定する中で、難視聴地域が発生する可能性があると指摘。難視聴地域を解消し、デジタル放送への全面移行を円滑に進めるために、IPマルチキャスト放送による同時再送信の役割が期待できるとしている。
ただ、IPマルチキャスト放送は著作権法上は「(有線)放送」ではなく、「自動公衆送信」に該当しており、一般のインターネット送信と同様に、権利者の許諾が原則として必要となっている。こうした中で、2006年末にIPマルチキャスト放送による放送の同時再送信が開始されることから、著作権法上の扱いについて早急に見直しが求められていた。
そこで今回の改正法では、一定の範囲で実演家等の権利を制限するなど、放送の同時再送信に関する著作権上における権利関係の見直しが行なわれた。具体的には、「自動公衆送信」における放送の同時再送信で実演家およびレコード製作者の権利を制限し、許諾を要しないこととする一方で、保証金の支払いを義務付ける。合わせて、「有線放送」による放送の同時再送信では、有線放送事業の拡大等を踏まえて実演家等に新たな報酬請求権を付与して、均衡を図っていくという。ただし、著作権者に対しては現行通り許諾が必要になる。
なお、権利制限の対象になる自動公衆送信は、原放送の放送対象地域内で再送信が行なわれる場合に限られる。このため、個人が行なうインターネット送信など、放送対象地域に限定して同時再送信ができないインターネット送信は、権利制限の対象にはならないとしている。
● 公衆送信の定義から無線LANが除外に。保守目的の一時的な複製へも対応
「情報化等に対応した定義の見直し及び権利制限の拡大」では、公衆送信の定義見直し(同一構内の無線LANによる送信の除外)が行なわれている。これまで、同一構内の有線LANによる送信は、著作権者の経済的利益を不当に害するものではないため、原則として公衆送信の対象外とされていた。現在普及している無線LANは、有線LANと伝送方式が異なるだけで著作権物の利用は実質的に同じことから、公衆送信の定義から除外されることになった。
また、機器の保守・修理などにおけるバックアップ目的の一時的な複製に関しても、著作権者の許諾を得ずとも一時的に複製が行なえるように措置がとられた。ただし、所有者の嗜好による新製品の買い換え、劣化等を理由にした買い換え等の場合は、今回の措置の対象外になる。このほか、視覚障害者に対する録画図書のインターネット送信に関して、情報格差をなくすという観点から、権利者の許諾を要することなく認められることになった。
「著作権等保護の実効性の確保」に関しては、著作権侵害等に係わる罰則強化も行なわれている。ただし、罰則の引き上げ幅が大きいことを考慮して、引き上げ対象は著作権や著作隣接権等の侵害罪本体に限定され、著作者人格権などのその他著作権法違反罪に関しては引き上げは見送られたという。
改正法は2007年7月1日に原則として施行される。ただし、自動公衆送信での放送の同時再送信における実演者およびレコード製作者の権利制限に関する施行日は、公布日から起算して20日を経過した日とされている。
関連情報
■URL
文化庁
http://www.bunka.go.jp/
著作権法の一部を改正する法律の制定について
http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/chosakukenhou_kaisei.html
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( 村松健至 )
2006/12/18 18:37
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