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私的録音録画小委員会、CD売上減と私的複製の関係めぐり議論は平行線


 私的録音録画補償金制度の抜本的な見直しを図るために、文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」の2007年第4回会合が、31日に行なわれた。今回の会合では、地上デジタル放送のコピー制限に関する総務省の見解が説明されたほか、私的録音録画による補償措置の必要性について議論が交わされた。しかし、私的複製とオーディオレコードの売上減少との因果関係をめぐり意見が対立、議論は平行線のまま終了を迎える結果となった。


地デジのコピー制限は「本体を消さずにn回コピーできる方向で調整」

 現在運用されている「コピーワンス」は、デジタル放送番組に対して1回だけコピー可能とする制御信号を加えて送信するもの。しかし現在のルールでは、デジタル放送番組をHDDレコーダーなどに録画し、それをDVDなどのメディアにコピーした場合、コピー元となったHDDレコーダー内の番組は消去される。つまり、記録媒体へのコンテンツの移動(ムーブ)は可能だが、HDD上にコンテンツを残したままコピーすることはできない仕組みとなっている。また、放送番組を記録媒体に録画した場合、直接録画した媒体は再生できるが、それをさらにコピーすることはできない。

 コピーワンスの問題をめぐっては、消費者から「ムーブを行なう際、オリジナルのバックアップできない」「ムーブが失敗すると、オリジナルの放送番組が使用できない」などの声が挙がっていた。これを受けて総務省の情報通信審議会では2006年9月、コピーワンスの見直しを議論する「デジタル・コンテンツ流通促進等に関する検討委員会」を設置した。

 同委員会が2006年8月に提出した第3次中間答申では、デジタル放送のすべての番組について、出力保護付きでコピー制限なしとする「EPN」の取り扱いとしていく方向で検討する方針を発表。しかしその後、権利者団体から「EPNは実質上のコピーフリー」などの反対意見が出たことから、現在まで結論には至っていない。文化庁の川瀬著作物流通推進室長によれば、「本体(HDDに録画したコンテンツ)を消さずにn回コピーできる方向で調整している状況」で、6月にも結論が出る予定という。

 この動向についてデジタル・コンテンツ流通促進等に関する検討委員会の構成員である、実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫氏は、「権利者からは『コピーネバー』という意見もあったが、一定の合意に向かって委員会が動いたのは私的録画補償金制度があったから」と述べ、私的録音録画補償金が廃止されればコピーワンスの問題は振り出しに戻りかねないと訴えた。


権利者と消費者の利益を調整する意味で補償金制度は必要

 電子情報技術産業協会(JEITA)の亀井正博氏は、私的複製の範囲と補償措置の必要性について、著作権の国際的保護条約「ベルヌ条約」に照らし合わせて説明した。ベルヌ条約では、私的複製について「経済的損失があるか」「『著作権者等』による技術的コントロールが可能か」という観点から、重大な利益の損失が生じる場合には補償が必要であるとしている。

 これを踏まえると、デジタル放送や音楽配信サービスについて、著作権者などの意思でコンテンツ利用をコントロールできる場合は、「コピー可能回数の大小にかかわらず、コピーに伴う重大な経済的損失はないため、補償措置の必要はない」(亀井氏)。その一方、音楽CDやアナログ放送などリリース後のコンテンツ利用をコントロールできないものについては、「コピーに伴う経済的損失があるかどうかで補償の必要性が決まる」と主張した。

 日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎氏は、私的録音録画補償金制度が導入された経緯などを交えて、補償措置が必要であるという持論を展開した。小六氏によれば、オリジナルと同質のコピーを容易にするデジタル複製技術が一般家庭に普及したことにより、「私的複製の受忍限度を超えてしまった部分をカバーする解決策」として、メーカー、消費者、権利者の3者による話し合いの結果、1992年に私的録音録画補償金制度が導入されたという。

 しかし、その後はPCや携帯音楽プレーヤーの普及により、私的複製の総体が拡大していると指摘。「私的複製の総体に対する受忍限度を超えてしまった分をカバーする解決策としての補償金制度であるならば、その重要性は小さくなるどころか、なお増す一方である」と訴えた。

 また、購入したCDやレンタルしたCDからの私的複製に関しても、「消費者にとって利益があるということであり、それはつまり著作物の利用により利益が生じている。一方に利益があるのであれば、私たち著作者もその利益から生ずる恩恵にあずかるべき」と主張。ただし、補償金制度を廃止することについては、「(権利者の立場からは)全く理解できない。私自身一消費者としても恩恵にあずかっている」として、お互いの利益を認め合う意味でも、補償金制度は必要であるとアピールした。


「重箱の隅つつく議論はやめて」関係者の利害調整訴える

 続いて椎名氏は、私的録音録画補償金制度を改良して維持する必要性を述べた。椎名氏はまず、「補償金制度の中で一定の自由度が確保されることが、権利者にも消費者にもメーカーにも利点をもたらすとの前提で話をしている」と説明。仮に私的複製を禁止した場合、補償金制度がなくなることは自明だが、それによって権利者だけでなく、消費者、メーカー、そして社会や文化全体が、この制度からの恩恵を失う不利益の方が大きいとした。

 なお、前回の私的録音録画小委員会では、主婦連合会の河村真紀子氏が「私的複製によって経済的損失が発生するということは、複製がなければ売上が上がるということ。しかし、権利者は私的録音録画禁止による商品の売上増について明確な説明ができていない」と指摘。さらに、権利者は私的録音録画を禁止するつもりはないとしていることから、「実際には私的録音録画によって視聴効果やファン層が拡大し、その結果として利益が得られると考えているからではないか。そうであれば、私的録音録画によって損失があるという理由で補償が必要というのは矛盾している」との意見が述べられた。

 これに対して椎名氏は、「権利者としては補償機能が十分に働いていないことを問題にしている。自らの利益だけを主張して、言葉尻や立場の違いの細部をあげつらうようなことではなく、よりよい落としどころを探る努力を重ねなければ、到達点はない。もう重箱の隅をつつくような議論はやめにしましょう」と反論。権利者や消費者、メーカーの利害が調整されない場合には、私的複製を認める著作権法30条1項の廃止を求めるとした。


私的複製による権利者の利益損失は明らか、メーカーにも補償金負担を

 椎名氏は、消費者が購入した商品からの私的複製が権利者に与える不利益については、タイムシフトやプレースシフトなど、権利者に不利益をもたらさない複製行為があることは認めながらも、「現実には、そうした部分とそうでない部分の境界はあいまい。むしろ、不利益をもたらす部分が相当量混在して行なわれることが実態」と指摘。さらに、2000年前後から、PCにCD-R/RWドライブが搭載されるようになったことで、「PCで作成したCDのコピーを使って、また孫コピーを作るという、MD時代には不可能であったことが可能になり、1998年にピークを迎えたオーディオレコードの売上が減少傾向に変わった」として、PCのHDDについても補償金の対象とすべきとの考えを示した。

 一方、これまでの小委員会では、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏から、「オーディオレコードの売上が減少した背景には、携帯やゲームに消費者の可処分所得が奪われたため」とする意見が寄せられていた。椎名氏は津田氏の考えを認めながらも、「音楽の需要そのものは減っていない。例えば、iPodに収録されているコンテンツの大半は音楽で、かつiTunes Storeで配信されたものよりはCDからリッピングされたものが多い。オーディオレコードを購入することに代替えしうる様々な手段が提供され続けたことによって、オーディオレコード産業が急激に不利益を被ったのは明らか」とし、私的複製が権利者に与える不利益の一端を確認できると強調した。

 このほか椎名氏は、2004年から2005年までの諸外国における私的録音録画補償金制度の補償金額を日本円で換算したデータを提出。それによれば、ドイツは231億3,900万円で国民1人口あたり281円、フランスは244億6,000万円で国民1人あたり405円に対して、日本は36億200万円で国民1人あたり28円にとどまるという。さらに、補償金の支払い義務者を機器・媒体の購入者としているのは日本のみで、他国は製造業者と輸入事業者としていることを挙げ、「我が国のメーカーは世界の中でも有力なプレーヤー。日本の権利者にも是非利益を還元してほしい」と呼びかけた。

 なお、今回の会合では、「過去のレポートでは、私的録音をする理由としては『レコードを買うより安く済むから』という声が多い」(日本レコード協会の生野秀年氏)や、「友人から借りたCDが良ければ買う人も多い。iPodにしても、音楽に興味をなくした人が、iTunes Storeなどを通じて音楽を購入するなどポジティブな影響もある」(津田氏)など、私的複製とオーディオレコード売上高の因果関係に関する意見が目立った。

 一橋大学教授の土肥一史氏は、「これまでに、私的複製による損失が大きいという統計が出ていることから、それを仮に前提として補償金制度の設計について検討しなければ、議論の入口で委員会が終わってしまう」と苦言を呈して議論の進展を求めた。


関連情報

URL
  私的録音録画小委員会(第4回)の開催について
  http://www.bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2007/chosaku_rokuon_070514.html

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( 増田 覚 )
2007/05/31 20:30

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