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保護期間延長の是非を問う議論がスタート、文化審議会小委


 文化庁の文化審議会著作権分科会は26日、「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の第4回会合を開催した。今回の会合では、第2回と第3回の会合で行なわれた関係者ヒアリングの意見をふまえて、著作権の保護期間延長についての是非や利用促進のための方策などについての意見が委員の間で交わされた。


著作人格権と著作財産権の関係を巡って議論が交わされる

過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の第4回会合
 今回の会合では、30人以上に及んだヒアリングで出された意見のまとめを事務局が紹介した後、意見のまとめ方や検討課題の整理などについてを議論する予定としていたが、日本文藝家協会副理事の三田誠広氏から「まだ発言できていない委員も多く、委員の意見もさらに集めるべき」と提案があり、各委員が主に保護期間の延長について意見を表明した。

 三田氏はヒアリングでの発言に対する印象として、「多くの発言者が、保護期間の延長でどのようなインセンティブがあるのかという話をされていた。多くの方は金銭をインセンティブと考えていると思うが、著作者としてはそれは違うのではないかと考えている」と発言。「多くの著作者はお金のためではなく、評価されたい、リスペクトを受けたいという夢を持って創作しており、それが創作意欲になっている」として、インセンティブという言葉はもっと幅広く捉えてほしいと訴えた。

 また、図書館などのアーカイブへの収蔵については裁定制度を活用できるようにすることで十分に対応が可能であると説明。二次利用という側面では、冨田勲氏がホルストの「惑星」を手掛けた際に、当時はまだホルストの著作権の保護期間内であり、冨田氏も当初はホルストの未亡人に使用を断られたが、作品を聴いてもらうことで理解を得られたというエピソードを紹介。こうした許諾を得るために良い作品を作ろうというモチベーションは、創作にも良い影響を与えるのではないかとした。

 東京大学の中山信弘教授は、「ヒアリングやこれまでの話を聞いていて、著作権法の基本的な構造を理解していない方があまりにも多いことに驚いた」とコメント。「議論している著作権の保護期間は、著作財産権の問題。リスペクトといった話は著作人格権の問題だ。世界的に見ても、期間の問題がリスペクトの問題であるといった話は聞いたことがない」として、この場では著作財産権という財の問題についてのみ議論すべきだと主張した。

 漫画家の里中満知子氏は、「主に経済効果の話が強調されているが、お金のことだけで考えていいのかどうか。著作人格権は著作者の死によって無くなるが、著作財産権は残るため、利用させないといった形で人格権が守られている部分がある」として、人格権と財産権には密接な関係があると主張。「経済的な側面もあるだろうが、著作権が生きている間は、利用するにはやはり理解を得なければいけないのは当然のこと」だと述べた。


保護期間は国際的な水準に合わせるべきという考えにもさまざまな意見

 作曲家でJASRAC理事の都倉俊一氏は、海外でミュージカルなどを手掛けた経験から、「作曲家だけが日本人で他が米国人であるといった場合が多くあるが、こうした場合にはプロデューサーがたとえば保護期間が違うといったことを嫌う傾向にある。個人的には50年が70年になったから創作意欲が増すといったことは無いが、国際的な標準に合わせることが不可欠だということは現場からの認識として強調しておきたい」と述べた。

 劇作家・演出家の平田オリザ氏は、「三田氏が語った作曲家のエピソードは、たしかにそういう話もあるだろうが、そうでないケースもたくさんある」として、著作者の遺族の理解が得られずに上演ができないケースも多いと説明。また、「さきほどの話は未亡人だからまだ良かったが、これが50年から70年になると孫やひ孫が権利者になる。その場合に、はたしてその人がおじいさんやおばあさんの芸術をきちんと理解して判断する能力があるのか」と述べ、保護期間の延長はこうした問題をさらに拡大することになると危惧を表明した。

 また、平田氏が国際共同の仕事を手掛けた経験からは、「ヨーロッパのエージェントに何度も確認したが、日本人だけが保護期間が短いということで問題が起こるということはまず考えられないという答をいただいている。分野によっても違うのだろうが、具体的に問題になっているということは私には想像がつかない」と述べた。


 日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏は、ヒアリングの場で「デジタル時代においては、著作権の保護期間は国際的な標準に合わせるべき」と述べたことに対して他の委員から質問されたが回答する時間が無かったとして、意見を表明。欧米ではまだ保護期間内だが日本では保護期間が切れているコンテンツについて、日本国内の配信サーバーに対して海外からアクセスできるという問題があり、国外からのアクセス制限といった技術も必ずしも完全ではないとして、デジタル時代においては保護期間も国際的な標準に合わせるべきだと述べた。

 また瀬尾氏は、「創作者の17団体が揃って延長を希望しているという現実がある。自分達の権利として考えた時に、欧米並みの権利を得たいという点からも要望している。保護期間は、延長した時のプラスマイナスと、延長しない時のプラスマイナスを勘案することが議論の焦点であると思う」として、「延長した時のプラスという面には、創作者団体が延長を要望しているという点を加えていただきたい」と主張した。

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は、「自分は著作物を作って暮らしている人間であり、知人のクリエイターなどもそうだが、まさにお金のために著作物を作っているという面がある。三田氏が発言されたような『多くの著作者はお金のために作っているのではない』といった形での一般化は危険ではないか」と述べた。

 さらに、ネットワーク配信を考えれば保護期間は国際的な水準に合わせていくべきという意見に対しては、「たとえばメキシコのように、死後70年より保護期間の長い国もある。そうなると、世界で一番長い国に合わせなければいけないのか。国際的な水準に合わせるというのであれば、死後50年と定めたベルヌ条約に合わせれば良いのではないか」と主張した。


次回以降の会合で各課題について議論

 会合ではこのほか、日本に課されている戦時加算の問題について、6月1日に行なわれた著作権協会国際連合(CISAC)の総会において、各国の加盟団体が会員に対して戦時加算の権利を行使しないよう働きかけることを要請する決議が、全会一致で採択されたことが紹介された。CISACの決議によれば、戦時加算を行使しないこととする時期については、日本の著作権保護期間が死後70年に延長される時期等を基準に、当該加盟団体の判断に委ねるとされている。

 次回以降の会合では、7月9日の第5回会合では権利者が不明な著作物の利用についての円滑化方策など、7月27日の第6回会合ではアーカイブ事業の円滑化方策と意思表示システムの法的課題について、8月の第7回会合では保護期間の延長と戦時加算の取り扱いといった形で、各課題について議論する予定となっている。


関連情報

URL
  過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第4回)の開催について
  http://www.bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2007/chosaku_kako_070612.html
  過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第3回)議事録・配付資料
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07051627.htm
  過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)議事録・配付資料
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102.htm
  過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第1回)議事録・配付資料
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07040204.htm

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( 三柳英樹 )
2007/06/26 20:51

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