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著作権の保護期間等を検討する小委員会、関係者ヒアリングを実施


 文化庁の文化審議会著作権分科会は27日、「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の第2回会合を開催した。今回の会合では、創作者団体や権利者団体、放送・出版業界、図書館、青空文庫、エンドユーザーなど様々な立場からの意見のヒアリングが行なわれ、著作権保護期間の延長や著作物の利用促進について意見が交わされた。


創作者側からは保護期間の延長を求める意見が多く挙がる

文化審議会著作権分科会の「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」第2回会合
 創作者団体や権利者団体の出席者からは、著作権の保護期間を現在の「著作者の死後50年」から「著作者の死後70年」への延長を求める意見が多く挙がった。

 日本文藝家協会の坂上弘氏は、欧米主要国のほとんどが死後70年になっている中、日本だけが死後50年であるのは国際協調の観点からも望ましくないとして、保護期間の延長を要望。また、保護期間の延長により利用許諾が困難になるのではないかという点については、著作権者データベースの整備により解消できるとした。

 日本脚本家連盟の寺島アキ子氏は、著作物利用の円滑化方策について、特にテレビ放送においては過去の作品が利用されるケースは実際にはそれほど多いわけではないと指摘。保護期間のあり方については、テレビ放送に関しては将来の問題としてあり得るが、現時点では戦時加算も含め問題は無いと思うとした。

 日本シナリオ作家協会の西岡琢也氏は、脚本家は著作物の創作者としての立場と、原作を脚色するといった著作物の利用者としての立場があり、議論の中では利用者の立場からは保護期間の延長に慎重な意見もあったが、全体の意見としては創作者の立場を優先すべきであり、保護期間の延長を望むとした。また、現状では脚本家が置かれている立場は弱く、権利を主張することには大きなリスクが伴うことから、法律により著作者の権利や創造者への配慮を明確にしておく必要があるとした。

 日本音楽作家団体協議会の川口真氏は、著作権を少しでも早く消滅させてパブリックドメインになれば良いという考えは、創作を軽視するものであり間違った考え方だと主張。早期に保護期間を延長し、欧米に合わせるべきだとした。音楽出版社協会会長の朝妻一郎氏も同様に、主要各国が死後70年という共通ルールとなっている中で、日本だけが特別なルールとなっており、これを改正することが戦後日本に懲罰的に課せられた「戦時加算」の問題を解消する好機であると訴えた。

 日本漫画家協会の松本零士氏は、国際的な合作も増える中で、各国のルールはなるべく共通化すべきと主張。創作者個人の意思も尊重すべきで、保護期間が短くてもいいという人は意思表示ができる仕組みもあれば望ましいが、原則としては保護期間を欧米と共通化して死後70年に延長すべきだとした。

 実演家著作権隣接センターの椎名和夫氏は、過去の著作物の円滑な利用と、実演家の就業機会創出との間で、バランスの取れた方策が求められると主張。著作物の円滑な利用のためとして、権利者が保有する権利を安易に制限することは望ましくないとした。また、コンテンツが今後パッケージという形態を失って、デジタルデータとして単体で流通することを想定した場合、データと権利者情報を結びつけるための一定のルールが必要だと指摘。保護期間については、著作者は死後50年、実演家は実演後50年となっている格差から是正してほしいとした。


放送局や配信事業者などは、保護期間延長には賛否両論

 放送局や出版社、音楽配信事業者など著作物の流通に携わる関係者からは、過去の著作物を円滑に利用するための方策を求める意見が多く挙がり、著作権保護期間の延長については団体の会員間でも賛否両論があるという現状が報告された。

 日本民間放送連盟の池田朋之氏は、過去の放送番組を利用する場合には出演者や演奏者など実演家の許諾を得る場合が多いが、こうした著作隣接権者の消息が不明な場合の制度は未整備だとして、著作隣接権についても裁定制度の創設を訴えた。

 NHKの梶原均氏も同様に、著作隣接権の裁定制度の創設や、放送番組のように多くの権利者が存在する著作物については、正当な理由がない限りはその利用を拒否できない制度の検討などを求めた。また、NHKが放送番組の保存・公開を行なっている「NHKアーカイブス」の現状について、音楽や実演家等の権利団体から包括的な許諾を得ているため、概ね円滑に権利処理は行なえているが、団体に所属しない権利者と条件面で折り合いが付かないケースや、人権やプライバシーなどの問題で番組が公開できないケースも多いとした。

 日本書籍出版協会の金原優氏は、出版社には権利者の立場と利用者の立場の両方があり、協会としては保護期間の延長については判断が困難な立場にあると説明。著作権の保護期間については利用状況や著作権継承者が受ける利益の妥当性、公的利益の期待等を勘案して判断すべき問題で、国内においてはベルヌ条約が求める死後50年以上の保護の必要性は少ないとした。ただし、欧米諸国の多くが保護期間を死後70年に延長したことを考えれば、国際協調の面からは延長もやむを得ないが、その際には戦時加算の廃止が望ましいと訴えた。

 音楽電子事業協会の戸叶司武郎氏は、着メロ・着うた・音楽配信企業などのコンテンツプロバイダーに対して実施したアンケート調査の結果を公表。保護期間の延長については、賛成が43%、反対が57%と意見が分かれたとした。また、権利者に対しては積極的にロイヤリティを支払いたいが、不明な権利者を探すためなどにかかる「ロイヤリティを支払うためのコスト」がロイヤリティの何倍にもなってしまうことが利用を阻害する要因になっているとして、円滑な利用促進のための仕組みの整備を求めた。


利用者の立場からは保護期間延長には反対や慎重な議論を求める意見

 過去の著作物のアーカイブ化や、著作権の新たな意思表示システムの推進、エンドユーザーの立場からは、より利用を円滑化するための提言や、保護期間延長への反対意見、慎重な議論を求める意見などが挙がった。

 国立国会図書館の田中久徳氏は、国会図書館が進めるデジタルアーカイブ事業の取り組みを説明。明治期に刊行された図書においては、全著者の7割に相当する51,712人の著作権の有無が不明となっており、所定の調査を経ても連絡先が判明しなかった38,794人(全体の53%)について文化庁長官裁定を受けたという。このためにかかった費用は、1冊あたり約1,225円、著者1人あたり約2,300円にも及び、新聞や雑誌など多数の著作者が関与する著作物ではさらに権利処理が増大することから事実上利用が不可能となっており、新たな制度の検討を要請したいと訴えた。

 「青空文庫」呼びかけ人の富田倫生氏は、著作権の保護期間延長には反対を表明した。保護期限が過ぎた著作物について広範な利用を促すことは、著作権法が目的とする「文化の発展に寄与する」ための有効な手段であり、インターネットの普及がその追い風になっていると説明。世界各国で過去の著作物のアーカイブ化が進められているが、欧米においては保護期間の長さが障害となっており、保護期間の延長はインターネット社会の流れに逆行する時代錯誤の選択であると主張した。また、利用の円滑化のためには著作者の没年データベースの整備や、生没年が不明な著作者についての保護期間の規定の新設、著作権の一部放棄などの意思表示システムについては法律面からの裏付けを与える法改正を求めた。

 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン専務理事の野口裕子氏は、権利の柔軟な選択肢を権利者に与える意思表示システムである「クリエイティブコモンズ」について説明。意思表示システムを採用するコンテンツは急速に増加しており、一定の範囲では著作物を自由に利用してほしいと考えている権利者が多く存在しているとした。保護期間の延長については、権利処理がさらに複雑化することが予想されるとして反対を表明。また、保護期間の延長によって創作意欲が高まるとしても、その影響は今後創作される著作物に反映されるものであり、延長を議論するとしてもその対象は将来創作される著作物に限定されるべきであるとした。

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は、エンドユーザーとしての立場から意見を表明。エンドユーザーが著作物を楽しむ際に重要となる要素は「著作物の入手性」や「価格」であるとした。書籍や音楽CDなどには絶版や廃盤といった問題があり、これが中古品のプレミア化や違法コピーなどにつながってしまうのは、作り手側と受け手側の双方にとって不幸なことであると説明。これを解消するためには、アーカイブ化やデジタル配信などを進める必要があり、こうした多様な利用を阻害する可能性が高い保護期間の延長には慎重な対応が求められるとした。

 小委員会では、次回は5月16日に第3回会合の開催を予定。教育関係者や創作者、関連団体などから引き続きヒアリングを実施する。


関連情報

URL
  過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)の開催について
  http://www.bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2007/chosaku_kako_070413.html

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( 三柳英樹 )
2007/04/27 19:03

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