Internet Watch logo
記事検索
最新ニュース

私的録音録画小委員会が経過報告、権利者側からは早期決着求める声


「文化審議会著作権分科会」の第24回会合
 著作権制度に関する審議を行なう文化審議会著作権分科会は30日、第24回会合を開催した。今回の会合では、私的録音録画補償金制度について議論する「私的録音録画小委員会」、著作物の保護期間や過去の著作物の円滑な利用などについて検討する「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」などが、上部組織である著作権分科会に今期の審議経過を報告。それぞれ来期も継続審議する意向が示されたが、特に私的録音録画小委員会に対しては、権利者側の委員から早急な結論を求める声が多数上がった。

 これまでの私的録音録画小委員会では、事務局側が将来的に補償金制度を縮小する方針を提言。その上で、「無料デジタル放送からの録画」と「音楽CDからの録音」は、当面補償金制度によって、権利者が被る経済的不利益を補なうことを検討してもらうよう要請した。音楽CDや無料デジタル放送以外からの私的録音録画については、デジタル著作権保護(DRM)の環境下で、権利者が利用者との契約により経済的利益を確保できる場合は、契約モデルに移行すべきと提案していた。

 これらの点について小委員会では、権利者やメーカー、消費者の関係団体で検討されている状況で結論が出ていないことから、来期も審議を続ける必要があると報告した。


日本レコード協会「違法サイトからのダウンロードだけでも違法化を」

 こうした状況に対して、違法音楽配信サイトからのダウンロードを違法化することだけでも早急に法改正すべきと訴えたのは、日本レコード協会会長の石坂敬一氏。「2007年12月に発表した我々の調査によれば、携帯向け違法サイトからの音楽ダウンロード数は3億9,900万ファイルに上る。これは約860億円分の売り上げに相当する。正規の音楽配信ビジネスを阻害しているのが実態だ」。

 また、日本映画製作者連盟参与の迫本淳一氏は、デジタル放送の録画ルール「ダビング10」が運用開始予定の2008年6月までには、次世代DVDとそのレコーダーを補償金対象とすべきと要請。日本民間放送連盟専務理事の玉川寿夫氏も、「補償金制度はテレビ番組を録音できる視聴者の利便性を守りながら、権利者の正当な利益を確保し、両者のバランスを図るために必要不可欠な制度」と語り、次世代DVDとレコーダーを早急に補償金対象機器にすべきという迫本氏の意見に同意した。

 普段から音楽CDの私的録音を楽しんでいるという日本文藝家協会副理事長の三田誠広氏は、私的録音録画を行なう権利を確保するためにも補償金制度の存続・拡大が必要であると主張する。「現在は、PCやカーナビ、iPodまでもが補償金の対象外。PCを利用する人のほとんどは、PCに音楽CDを取り込んでいるし、最近のカーナビでは、音楽CDを再生しただけで勝手に(カーナビ内のHDDに)録音される。こうした利便性を確保するために消費者は、ビタ一文払わないというのではなく、ある程度お金を払うことを考えるべきではないか」。

 三田氏の意見に対しては、私的録音録画小委員会の主査を務める東京大学教授の中山信弘氏が反論。小委員会では、私的複製によって生じる権利者の経済的不利益について、何らかのかたちで対価を支払うことで合意を得ていると話した。「ただし、補償金制度で対応する場合、対応機器を買ってもコピーしない人が出てきて不公平が生じる。従来は、そのほかに方法がなかったので補償金制度が作られたが、最近ではコピー回数ごとに課金できる仕組みもある。こうした技術発展の状況において、どのように消費者から権利者にお金を流すかを検討していることをご理解いただきたい」。


補償金制度の維持・拡大を求める権利者に「保護政策」との批判も

 補償金問題の議論が続く間でも権利者の利益が損なわれていると訴えるのは、日本音楽著作権協会(JASRAC)理事の岡田冨美子氏。「審議は4年が経過したが、1日でも早く、結論が出るところから対処してほしい。この議論は、お金を払う人と頂戴する人の綱引きではいけないと思う。まさに『Culture First』。文化のクリエイターを支えることで、文化の恩恵を受けられる。お金にこだわらず、広い目から、広い心から物事を考えてもらいたい」。

 「文化ありき」という岡田氏の意見には、日本芸能実演家団体協議会専務理事の大林丈史氏も同調する。「論語には『利を見ては、義を思う』というすばらしい言葉があるが、文化の問題もこれに尽きる。クリエイター、事業者、消費者は対立するものではなく、3者が互助互恵の精神で補償金制度を維持することで、文化は創られる。お金がどうこうではなく、まず何が一番大切なのか、それをはっきりさせるべきだ。ただし、ダビング10の機器については、透かしのついた1万円札を10枚刷らせるようなもの。検討している段階ではなく、5月までには(補償金対象にするよう)結論を出すべき」。

 文化の保護で補償金制度の維持・拡大を求める権利者側の意見に対しては、ITビジネスの研究機関であるイプシ・マーケティング研究所代表取締役社長の野原佐和子氏が、「補償金制度は著作権者への保護政策」と批判する。「基本的にビジネスの世界は、経済的価値のあるものに対価が支払われる。海外では日本のアニメが人気だが、激しい競争の末に世界に通じる『文化』となった。しかし実際の議論を聞くと、過去の関係者というか業界団体が議論を進めていて、新しい時代の変化を反映しているのかと疑問に思う。権利者側は、消費者との契約モデルに移行すべき」。


コンテンツを市場原理に委ねると、クリエイターの使い捨てにつながる

 コンテンツへの対価を市場原理に委ねるべきという野原氏の主張に対して、日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏は「クリエイターの使い捨てにつながる」と真っ向から反論する。「若いときは競争原理でやれるが、40歳を過ぎて生き残る写真家は数パーセント。みんな食えなくなって仕事を辞めている。アニメのクリエイターも悲惨で、労働基準法があるのかという厳しい環境で、すばらしい作品が創られている。こうした現状を抜きにして、流通原理だけで文化を維持できるのかは大変疑問。少なくとも、日本は知的財産立国の方針を掲げるのであれば、社会的にクリエイターを保護すべき」。

 これに対して野原氏は、環境が厳しいのはクリエイターだけでなく、他のベンチャー企業も同じであると訴える。「ベンチャー企業が起業して、そのうち5年後に何社が残りますか? 誰がそれを支えてくれるのですか」。また、補償金制度によって社会的にクリエイターを保護すべきという権利者側の主張に対しては、中山氏が補償金制度の問題点を提示した。「補償金制度を充実させても、お金がまわってくるのは売れている監督や作曲家。新人にお金が出回ることはない」。


著作物の二次利用が進めば、現行のクリエイターに重要な影響が生じる

 著作権分科会ではこのほか、著作権法制のあり方を議論する「法制問題小委員会」が、「親告罪の範囲の見直し」や「デジタルコンテンツ流通促進法制」などの審議経過を報告。著作権法違反行為ついて「非親告罪化」することに関しては、社会的な影響が大きいことから、慎重な見極めが必要であるとした。非親告罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる。現在、著作権法違反行為は、起訴するためには著作権者など被害者の告訴が必要な「親告罪」となっている。また、インターネット上でより多くのコンテンツを流通させるデジタルコンテンツ流通促進法制についても、今後の検討が必要としている。

 インターネットで著作物の二次利用を促進させるという考えについて三田氏は、文化の保護が不可欠だと指摘する。「インターネットの発達によって、著作物の二次利用が盛んになりつつあるが、我々が文化を享受できる時間は限られている。インターネットで過去の映画やテレビ番組を見られれば、今創られている芸術を楽しむ時間が少なくなる。これは、現行のクリエイターに大変重要な影響が出てくる。著作物の二次利用の促進は、ネット業者とネット機器のメーカーが主導で動いていて、文化を創っている人がなおざりにされる傾向がある。我々は、まずは文化ありきという『Culture First』を掲げているが、文化や芸術がなければコンピュータもテレビもタダの箱。文化を大事にするのは、(二次利用を促進する)経済産業省よりも文化庁にがんばってもらいたい」。

 インターネットで過去の著作物の二次利用が促進されると、現在の創作物が損害を受けるという三田氏の意見に首をかしげるのは、主婦連合会副常任委員の河村真紀子氏。「過去の著作物へのアクセスが確保されることが、文化を大切にすることに反するような言い方には説得力がない。だとしたら、図書館に過去の著作物があることは、作家にとって損害になるということか。文化を大切にすることは、今までの文化を大切にすることで、今創っている人の収入を保護することとは別の話ではないか。過去の著作物へのアクセスを高めることに反対するために『Culture First』という言葉を使うのは抵抗を感じる」と述べた。


関連情報

URL
  文化審議会 著作権分科会(第24回)の開催について
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/kaisai/08011705.htm

関連記事
私的録音録画小委員会、補償金問題の結論は来期に持ち越し(2008/01/23)
「20XX年、DRMの普及で補償金は廃止」文化庁がビジョン提示(2007/12/20)
権利者団体が「Culture First」宣言、文化保護で補償金の拡大求める(2008/01/15)


( 増田 覚 )
2008/01/30 20:43

- ページの先頭へ-

INTERNET Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.