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「ブルーレイ課金は当然、早期実施を」権利者団体が意見表明


実演家著作隣接権センター(CPRA)運営委員の椎名和夫氏

日本映画製作者協会代表理事の新藤次郎氏
 ブルーレイディスクと同録画機に補償金を課金することを盛り込んだ著作権法施行令の改正案が公表されたことに対して、音楽や映像などの権利者団体で構成される「デジタル私的録画問題に関する権利者会議(以下、権利者会議)」は5日、「関係者が速やかに合意されるものと確信している」と意見を表明した。

 ブルーレイ課金について実演家著作隣接権センター(CPRA)運営委員の椎名和夫氏は、「現行制度の枠内で当然行われるべきことが行われるに過ぎない」と主張。その上で、地上デジタル放送の録画ルール「ダビング10」開始の前提条件とされていた「クリエイターへの適正な対価の還元」は、ブルーレイへの課金で解消されるものではないとした。

 ダビング10をめぐっては、地上デジタル放送番組の複製回数が増えることに対する「対価の還元」として、権利者側が「HDDレコーダーに補償金を課金すべき」と主張。これに反対するメーカー側との間で合意が形成されず、ダビング10の開始時期が当初予定の6月2日から延期されていた。

 暗礁に乗り上げたダビング10の早期実施を図るために、文部科学省と経済産業省の両大臣は2008年6月、私的録音録画補償金制度の対象にブルーレイディスクと録画機を加えることで合意。これにより、ダビング10は7月4日に開始されたが、その後もブルーレイを補償金の課金対象とするための政令指定がなされていなかった。

 両省大臣の合意から約7カ月が経過してもブルーレイに対する政令指定が行われなかったことについて、椎名氏は「極めて異例な事態」とコメント。日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏も「大臣の合意というのはそんなに軽い話だったのか」と不満を漏らした。

 「ブルーレイ課金はダビング10の『バーター』という印象だった」という日本映画製作者協会代表理事の新藤次郎氏は、2008年11月にブルーレイレコーダーの販売台数がDVDレコーダーを上回ったことを挙げ、「ブルーレイが(政令指定から)抜けているのは現状が反映されていない」と憂いを見せた。「我々は映画の1本1本が勝負。(補償金を)制作費に還元できるかは重要な問題だ」。


ブルーレイ課金が遅れたのは経産省の主張が影響

 椎名氏によれば、政令案の調整が長引いたのは、メーカーを所管する経済産業省の主張が影響しているという。「今回の政令案策定に関する経産、文科両省の調整過程において、経産省側から『現行の録画補償金はアナログ放送の録画に限定したものである』との解釈が述べられ、その解釈に基づく制約を政令案に付すべきとの主張がなされたようだ」。

 ブルーレイへの課金をアナログ放送の録画に限定するという主張について椎名氏は、「両省大臣の合意では、今回の指定がデジタル放送のコピールールであるダビング10の早期実現のための環境整備であるとのことがすでに明言されている」と述べ、このような主張が行われること自体あり得ないことだと嘆いた。「そもそもブルーレイディスクにアナログ放送を録る人はいない。お金がもったいなくて」。

 「よって、今回文化庁から示された政令案については、関係者が速やかに合意されるものと確信している。また、今後のそのような議論は、省庁間の机の下ではなく、開かれた公開の場で行われるべきものと考えている。」

 さらなる懸念として椎名氏は、今後発売されるアナログチューナー非搭載のDVDレコーダーなどについて、「制度の対象とはならないので協力義務は果たさない」というメーカーが現れる可能性もあると指摘。このような主張をするメーカーに対しては、「明確な法令違反として、法的措置も辞さない」とする考えを示した。


権利者軽視のコンテンツ流通ビジネス促進に「強い怒りと危機感」

日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏
 会見ではこのほかJASRACの菅原氏が、2008年12月に「ニコニコ動画」で実施した「私的録音・録画に関する実態調査」の結果を紹介。「私的録音録画に用いる機器は72.4%がPC」「83.4%がPCに収録された楽曲をさらに(携帯音楽プレーヤーなどに)コピーしている」「30代までのユーザーが所有するPCに保有されている楽曲は239億曲超」といったデータを引き合いに出し、iPodを含む携帯音楽プレーヤーやPCに補償金を課金する必要性を訴えた。

 「昔は『PCで音楽を録音する人はいるのか』という人がいたが、それは現状に即していない。録音補償金については、MDからのデバイス移行が進む中で補償金が激減し、実質ゼロに向かっているが、それは新たな機器や媒体が政令指定されていないためだ。早急に補償金制度全体の見直しと実施が必要だと考えている。」

 また、椎名氏は「世の中には合法・非合法を問わず『コピーされたコンテンツ』が大量にあふれている」と調査結果を分析。その上で、「コピーされたコンテンツ」の大きな一角をなす「コンテンツの私的複製」に関する補償金制度の問題が棚上げにされたままで、コンテンツ流通ビジネスの促進が語られていることに「強い怒りと危機感を覚える」とした。

 「ネット流通促進の議論は、著作権が悪いというところから始まるが、結局はネットの収益性の悪さに行き着く。(テレビ番組配信サービスの)『トレソーラ』も結局は経費倒れ、『第2日本テレビ』も苦戦するなど、コンテンツがフリーな状況でビジネスモデルを据え付ける難しさがあらわになってきた。『30代以下のユーザーのPCに239億曲超の楽曲が収録されている』という調査結果は、そのことを裏付けている。」


補償金制度の見直しの席には裁量権を持つ人を

 なお、権利者側が求めている私的録音録画補償金制度の見直しについては、これまで文化庁の文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」で検討されていた。しかし、関係者の合意には至らず、携帯音楽プレーヤーを補償金制度の課金対象とする、いわゆる“iPod課金”を含む補償金の見直しについては結論が見送られている。

 私的録音録画小委員会は2008年12月の会合をもって終了したが、今後の見直しについて文化庁では「新たな枠組みでの検討が適当」と提案。今後は、権利者、メーカー、消費者などの利害関係者が「忌憚のない意見交換ができる場」を文化庁が設け、合意形成を目指すとしている。

 この「新たな枠組み」について椎名氏は、「メーカーはJEITA(電子情報技術産業協会)というかたまりになって、補償金制度を廃止するミッションを帯びた専門家が理論武装して会議に出てくる。こちらとしては、この2年間(小委員会で)議論を戦わして徒労感がある。そういうことを踏まえると、いろんなことを裁量できる人が席に着いて物事を決めていくべきだ」と述べ、補償金制度の抜本的な見直しに期待を寄せた。


関連情報

URL
  Culture First
  http://www.culturefirst.jp/

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( 増田 覚 )
2009/02/05 20:57

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