公正取引委員会は27日、日本音楽著作権協会(JASRAC)が放送事業者と結んでいる音楽の包括契約が同業他社の参入を制限しているとして、独占禁止法違反(私的独占)で排除措置命令を下した。
公正取引委員会による排除措置命令は法的に即時効力を発揮するため、JASRACは可及的速やかに、他社の参入を阻害するとされる包括契約を改める必要がある。
● 放送事業者との包括契約で、他社の事業活動を排除
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独禁法違反で排除措置命令を受けたJASRACのビル
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JASRACでは、使用曲数に関わらず事業収入の一定金額を楽曲の使用料として徴収する「包括的利用許諾契約」を放送事業者と結んでいる。この契約により、放送局はJASRACに一定の使用料を支払うことで、JASRACの管理楽曲を自由に利用できる内容だ。
公正取引委員会では、かねてからこの包括契約がJASRAC以外の管理事業者の市場参入を制限している可能性があるとして、2008年4月にJASRACへ立ち入り検査を行うなどして調査を進めていた。
排除措置命令書では、放送事業者が使用した音楽著作物の総数のうち、JASRACの管理著作物の占める割合が、使用料に反映されないような包括契約の方法を取ることにより、放送事業者が他の音楽著作物管理事業者に使用料を支払うと、放送事業者の支払う総額が増えるようなやり方を改めるよう求めている。
● 公取委の挙げる排除の事実の経緯
著作権管理事業は2001年9月30日までは仲介業務法により文化庁長官の許可を必要とする許認可事業であり、事実上JASRACの独占だった。2001年10月1日から仲介業務法が廃止され、著作権等管理事業法が施行されたことにより、文化庁長官の登録を受け管理委託契約約款などを提出して届け出ることで管理事業の営業が可能になった。
この法改正にともない、JASRCのほか、株式会社イーライセンス、株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス、ダイキサウンド株式会社、株式会社アジア著作権協会が順次管理事業を開始した。
新たに管理事業に参入した4社のうち、イーライセンスが2006年3月にエイベックスマネジメントサービスなどから放送等利用に係る音楽著作権の管理の委託を受けた。イーライセンスは放送事業者に対して管理楽曲全体を包括的に利用許諾した上で、使用料は個別徴収とする内容の契約を締結した。
当時エイベックスマネジメントサービスがイーライセンスに対して放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した楽曲の中には、大塚愛の「恋愛写真」を含め、すでに人気のあった楽曲や人気が出ることが予想される楽曲があった。
しかし、FMラジオ曲を中心とした放送事業者は、エイベックス楽曲を放送番組で使用すると、JASRACの包括契約の他に、イーライセンスに支払う放送等使用料の追加負担を生じることを嫌って、2006年10月以後はエイベックス楽曲をほとんど使用しなかった。
● 包括契約により、他管理業者の楽曲利用=追加負担になることが問題
こうした事態を受けてエイベックスマネジメントサービスとイーライセンスは10月から12月までの使用料を無料としたが、無料期間終了後も放送等使用料を徴収できる見込みが立たないことから、エイベックスマネジメントサービスは2007年1月以後のイーライセンスへの放送等利用に係る音楽著作権の管理委託契約を解除するに至った。
イーライセンスの管理楽曲を使うこと、すなわち放送事業者にとっては音楽著作権料のコストアップを意味するため、イーライセンスでは放送等利用に係る著作権の管理を委託されることはほとんどない。また、イーライセンス以外の他事業者についても、放送等利用に係る著作権管理事業の委託を受けることができないため、放送等利用料の管理業務を開始していない。
こうした事実から、公取委ではJASRAC以外の管理事業者は放送等利用料に関する委託を受けることができないことから、管理業務を営むことが困難な状態であると認定。
放送事業者にとって、JASRAC以外の音楽著作権管理事業者の管理楽曲を使用すると、追加負担が生じるような形の包括契約を締結することで、他の事業者の活動を排除していると指摘。これにより、公共の利益に反して、実質的に放送等利用料の分野での著作権管理業務における競争を実質的に制限しており、独禁法第2条第5項に規定する私的独占に該当、独禁法違反であるとしている。
関連情報
■URL
社団法人日本音楽著作権協会に対する排除措置命令について(公取委、PDF)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.february/090227.pdf
JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/
公正取引委員会
http://www.jftc.go.jp/
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( 増田 覚/工藤ひろえ )
2009/02/27 11:56
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