山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国政府、違法音楽ダウンロード禁止を明確に ほか
2009年9月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる、政府方針などの堅いニュースから三面ニュースまで、また中国インターネットのトレンドも合わせてレポートしていきます。

中国政府、違法音楽ダウンロード禁止を明確に

日本の音楽も検索結果に出てくる、百度のmp3検索

 9月3日、中国政府文化部はインターネット上の音楽を規制する「インターネット上の音楽コンテンツの審査作業強化に関する通知(文化部関於加強和改進網絡音楽内容審査工作的通知)」を発表した。

 同通知では、おもに海外の音楽コンテンツや、音楽コンテンツの検索を強化するとしている。強化策の対象はPC向けWebページのほか、携帯電話向けのWAPも含む。mp3ファイルなどの音声ファイルだけでなく、動画ファイルによるプロモーションビデオや、アンオフィシャルなFlashによるプロモーションビデオも含まれるとしている。また、今後の音楽ファイル検索サービス提供には、年内に政府機関のチェックを通す必要がある。

 同通知の発表で多くのメディアが、音楽検索サービスと動画検索サービスを提供する百度の動向に注目。百度は音楽検索サービスで利用者を増やし、9月発表のCNNICの統計によると、音楽検索サービスの利用率は、百度ユーザーではGoogle利用者に比べてずっと高くなっており、現在も音楽検索サービスが百度の目玉のサービスとなっていることが伺える。

 世界的な音楽レーベル連合が百度の音楽サービスが原因で百度と戦った裁判では、最高裁に相当する中国最高人民法院が下した今年2月の判決で、百度の音楽検索サービスは、ファイルへのリンクを提供しているだけなので無罪判決としている。


海賊版動画配信サイトとコンテンツホルダーが互いに訴訟

海賊版があるなら言えば削除すると言う「土豆網」サイト

 中国3大ポータルサイトのひとつ、「捜狐(SOHU)」が中心になって「中国オンラインビデオ反海賊版聯盟(中国網絡視頻反盗版聯盟)」を立ち上げた。同聯盟は設立日の9月15日にさっそく、動画共有サイト「優酷網(YOUKU)」を訴えた。「優酷網」サイトにある動画のうち503のコンテンツが海賊版であるとして、5000万元から1億元程度(約6億5000万円~13億円)の損害賠償を求めて提訴したのだ。

 同聯盟は、「優酷網」に広告を出しているコカコーラ社やペプシコーラ社に対しても、広告の掲載とりやめと損害賠償を求めて提訴した。同聯盟はさらに、動画共有サイトの「優酷網」や「土豆網(TUDOU)」、それにP2Pサイトの「迅雷」の3サイトで、合計1000以上の海賊版動画コンテンツが公開されていると指摘している。

 これら一連の動きに対して、訴えられた「優酷網」は、「海賊版が発見されたら削除している」とサービスの正当性を訴え、「優酷網は8000万元の版権を買っている」と反論。同聯盟の行為は権利侵害と名誉侵害に当たるとして、中心となっている「捜狐」を逆提訴。侵害行為の停止と公開謝罪を求めている。

 また、土豆網(TUDOU)は「土豆網のコンテンツに海賊版があるなら言えば削除すると書いてあるのに、その掲示を無視して提訴するとは金目当ての恥知らずだ」とコメントした。

 中国のオンライン動画コンテンツ市場の規模は、9月3日に発表された中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」の調査によると、2009年第2四半期で、前年同期比57.2%、前期比22.3%増となる1億2210万元(約15億8700万円)となっている。


人気のオンラインショッピングサイト「淘宝網」、台湾に進出

2009年上半期の中国大陸オンラインショッピング市場規模

 中国で最も人気のオンラインショッピングサイト「淘宝網(TAOBAO)」が台湾に進出した。淘宝網がライセンスを供与した台湾の企業がサイト運営を行うが、台湾内だけではなく、中国国内全体の取引に参加できる。

 同じアリババホールディングスグループの子会社で、兄弟会社にあたる第三者支払いシステムの「支付宝」を利用することで、台湾の利用者も、人民元とニュー台湾ドルの通過の違いを気にしないで利用できるわけだ。台湾のオンラインショッピング市場は600億元(約8000億円)規模と言われており、中国大陸のかける期待も大きい。

 中国のリサーチ会社「iResearch」が9月22日に発表した調査レポートによれば、2009年上半期の中国大陸オンラインショッピング市場規模は1034億6000万元(約1兆3450億円)と、はじめて半年で1000億元の大台を突破(前年同期は531億元、前期は750億元)。うち淘宝網をはじめとしたC2C(個人対個人取引)が92.1%を占め、C2Cのシェアでは淘宝網がほとんどを占める。

 また9月から新学年が開始される中国では、中国一モノが集まる都市として知られる浙江省義烏の大学で、淘宝網を利用してオンラインショップを開設・運営する学科がスタートした。中国国内の淘宝網を利用したオンラインショッピング熱はますます高まりそうだ。


中秋節を前に、淘宝網で1週間に月餅が約8000万円の売上

淘宝網では、多種多様な月餅が販売されている

 日本の十五夜にあたる中国の一大イベントである中秋節が10月にあるが、中秋節を祝うためにこの時期食べる月餅が早くも9月前から販売が開始されている。前述の淘宝網によれば、9月1日から6日までの間に約8000万円(600万元)の売上があったそうだ。これは去年の同期比で120%増にあたる。

 月餅といってもピンキリで、ピンは1000元(約1万3000円)を超えるギフト用の豪華なパッケージの月餅から、キリは5元(約65円)以下のシンプルな紙に包んだだけの月餅までさまざま。

 中国メディア「深セン特区報」の記事によれば、淘宝網においては、シンプルな10元以下の月餅の売上が最も多く1カ月で6000個を超える。ギフト用の月餅はその3分の1程度の売上となっており、300元以上の非常に高価な月餅では、販売量は30個弱だという。


中国のアクティブチャットアカウントは5億6500万

中国のIMアカウント数の推移

 易観国際(Analysys International)の発表したインスタントメッセンジャー(IM)市場のレポートによると、2009年第2四半期時点でのアカウント数は16億7570万、アクティブチャットアカウント数は5億6500万となった。

 CNNICの統計では、中国では6月末時点で3億3800万人のインターネット利用者がいて、そのうちの72.2%にあたる2億4404万人が利用している(メールの利用率は55.4%、利用人口は1億8725万人なので、IM利用者はメール利用者よりも多い)。すなわちアカウント数をIM利用者数で割ると、IM利用者ひとりあたり7弱のアカウント、2強のアクティブアカウントを所持していることになる。


旅行サイト大手、中国各地の旅行社を買収

 中国2大旅行サイトのひとつ、「携程旅行網」(2大サイトのもうひとつは「e龍」)が、四川省や江西チワン族自治区の桂林や雲南省の麗江、海南島など、中国全土の著名観光地10カ所の現地旅行社を買収しようとしていることが判明した。

 中国各地の旅行会社を買収することにより、「携程旅行網」のサイトより、著名観光地でのガイドやドライバー付きレンタカーサービス、チケット購入などのサービス提供を目指すという。

「携程旅行網」は日本行きのツアーも扱う


アカウントなど死後のネット遺産を管理する会社が登場

 南京のIT企業が、万が一利用者が亡くなった場合のために、生前の各種アカウントを委託管理する「オンライン遺産管理委託(網絡遺産托管)」サービスを開始して話題となった。

 人気のインスタントメッセンジャーサービスを提供するQQのIDをはじめ、MSNやオンラインゲームの各種アカウント、さらに掲示板なども管理するという。しかし、法曹関係者からは「法律上、アカウントなどは相続の対象と定められていない」として、こうした扱いを問題視する声も上がっている。

 また、利用者からは、ハッカーによるアカウント奪取が常態化しつつある中で、アカウントの安全な管理をどうやって保証するのか、という問題提起もされている。実際、9月の1カ月だけでもさまざまな手法でアカウントが盗まれた事件が数多く報道されているのが実状だ。

西安の区役所でオンラインスポークスマン制度が開始

 西安市未央区政府は、区役所とインターネット利用者の交流の場を設けるため、政府インターネットスポークスマン(未央区政府網絡発言人)制度をスタートさせた。すでにスポークスマン担当者は、西安におけるいくつかの著名なサイトに「未央区政府網絡発言人」の名でユーザー登録済み。今後、各サイトのさまざまな質問や意見などに耳を傾け、必要であれば数日以内に質問疑問にコメントするという。

中国全土のインターネットカフェ協会、法の遵守を発表

 北京市や上海市など中国全土の30の市と省の各インターネットカフェ協会が9日、西安に集まり共同で「インターネットカフェ業クリーン自立宣言(浄化網〓行業自律宣言。〓は口へんに巴)」を発表した。宣言の内容は、未成年の入室を禁止するなど国の法律を遵守し、政府の未許可インターネットカフェ取り締まりに協力する。また、インターネットカフェ内の配信コンテンツも、国の方針に従い有害情報を流さないようにつとめ、海賊版も配信しない、というもの。

 宣言の内容から、逆に今までそうでなかったインターネットカフェも中国全土にあることを意味する。たとえば、インターネットカフェではローカルなコンテンツサーバーが用意されていることが普通だった。また、この発表から数日後、重慶の未許可インターネットカフェに警察が入ったところ、20人以上の小学生が利用していた、という報道もあるなど、法の遵守を徹底するには時間が必要となりそうだ。


関連情報


2009/10/8 11:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。