第222回:家庭用のテレビでロケーションフリーを楽しむ
ソニーのロケーションフリー TVボックス「LF-BOX1」



 新型ロケーションフリー「LF-PK20」の発売から遅れること約1カ月。ようやく「TVボックス(LF-BOX1)」が発売となった。これでPCだけでなく、家庭用のテレビでもロケーションフリーを楽しめるようになる。その実力を検証してみよう。





待望のTVボックス登場

LF-BOX1

 ソニーのロケーションフリーに待望のTVボックスが登場した。当初は本体のLF-PK20と同時発売の予定だったが、遅れること1カ月、ようやく発売に至ったことになる。

 このTVボックス「LF-BOX1」という製品は、家庭用のテレビに接続できるロケーションフリークライアントだ。本体に有線LAN、IEEE802.11a/b/g準拠の無線LANを内蔵しており、ロケーションフリーのベースステーション(LF-PK20)にネットワークで接続。ベースステーションのテレビやビデオ入力の映像をネットワーク経由で受信し、ビデオ出力(コンポジット、またはS端子)で家庭用のテレビに表示するという仕組みになっている。

 すでにロケーションフリーには、PC、PSPなどのクライアントが存在していたが、これに家庭用のテレビを加え(専用液晶クライアントも存在する)、さらに利用環境を広げたことになる。

 筆者宅では、これまで2階のリビングに設置してあるDVDレコーダの映像をロケーションフリーで転送し、ほかの部屋に持ち込んだノートPCで閲覧するという使い方をしていたが、今回のTVボックスの登場によってノートPCではなく、家庭用のテレビで閲覧できるようになった。わざわざPCを起動する手間がなくなっただけでなく、リモコンによる操作も可能になり(詳しくは後述)、非常に利便性が向上した。


LF-BOX1本体外観

本体背面同梱のリモコン




有線で接続すればわずかな時間でセットアップ完了

 いつも感心するのだが、ロケーションフリーのシリーズはセットアップが誰にでも手軽にできるようによく工夫されている。ベースステーションで外出先からアクセスできるようにするための設定(ポートフォワードやDynamic DNSなど)が自動的に行なわれるのもそうだが、今回のTVボックスも接続だけなら、ものの数分もあれば完了してしまう手軽さだ。

 具体的には、TVボックスを家庭用のテレビに接続しておく。続いて、ベースステーション前面のボタンを押してSETUPモードに移行し、その状態のままTVボックスの電源をON。これで自動的にネットワーク上のベースステーションを自動的に検索、接続が完了する。


TVボックスの設定は、家庭用のテレビに映し出された画面を見ながら行なう。有線でも無線でも、ベースステーションをSETUPモードにしてさえおけば、ほぼ自動的に接続設定が完了する初期設定ではチャンネルとビデオ入力機器の設定も必要。はじめての場合は若干わかりにくいが、設定自体は難しくない。もちろん、後から設定することも可能だ

 この設定方法が優れているのは、ネットワークの設定も考慮しなくて良い点だ。有線LANで接続している場合はもちろんのこと、ベースステーションを無線LANのアクセスポイントにしている場合も同様の設定が可能になっている。初期設定時に自動的にベースステーションのSSIDや暗号化設定などの情報がやり取りされて、ネットワークの接続が確立される。

 ユーザーが行なうのは物理的な接続と、ベースステーションをSETUPモードに移行するだけ。たったこれだけの操作で、ネットワーク接続から、機器同士のペアリングまで、すべての設定が可能になるというわけだ(別途チャンネルの設定などは必要)。

 こういった製品の場合、PCやネットワークの設定に不慣れなユーザーが利用する可能性もあるが、これなら誰でもカンタンに設定ができるだろう。





やっぱり良いMPEG-2の画質

 気になる画質だが、TVボックスでは、PC向けのクライアントソフトやPSPなどで採用されているMPEG-4 AVCに加えて、MPEG-2(最大12Mbps)による映像伝送もサポートしており、オプション設定から「通信優先モード」を選ぶとMPEG-4、「画質優先モード」を選ぶとMPEG-2というように切り替えられる。


TVボックスで受信した映像。画質有線のMPEG-2モードの映像品質はかなり高い。チャンネルの切り替えは画面上のパネルを操作して変更する

 PCやPSPで映像を見る場合、基本的には小さな画面で映像を表示するため、一定のビットレートを確保できていればMPEG-4でもさほど画質は気にならない。しかし、これが大画面のテレビとなると話は変わる。今回、24インチのDELL製液晶モニタを利用してビデオ入力経由で映像を表示してみたが、このクラスの画面に全画面で映像を表示するとやはりMPEG-4は荒さが目立つ。これに対して、MPEG-2は、もちろん帯域とビットレートにも左右されるが、MPEG-4に比べると明らかにクリアで、細部にわたってシャープな映像が得られる。


左がMPEG-4(通信優先)の映像で、右がMPEG-2(画質優先)の映像。写真なのでわかりにくいかもしれないが(キャプチャでは画面が小さく差がわかりにくいため)、MPEG-2の映像の方が細部にわたってシャープでクリアな映像だ

 この差は、旧モデルのベースステーション「LF-PK1」を利用するとさらに顕著だ(LF-PK1のファームアップデートが必要)。LF-PK1のMPEG-4(AVC4非対応)の場合、大画面に映像を表示すると、細部がかなりぼやけた印象となり、とてもではないが見る気になれない。しかし、「画質優先」にしてMPEG-2表示にすると、LF-PK20と同様にかなりクリアな画質が得られる。正直なところ、TVボックスでMPEG-2の映像を体験してしまうと、MPEG-4では映像を見る気になれなくなってしまう。

 とはいえ、MPEG-2はそれなりに帯域が必要になるため、無線LAN環境での利用はある程度制限される。筆者宅(木造3階建て)の場合、2階に設置したベースステーションの映像を1フロア上、もしくは1フロア下でTVボックスで受信する程度なら画質優先のMPEG-2でも問題なく再生できたが、マンションなどの電波を通しにくい環境、間にさらに多くの遮蔽物がある環境では、MPEG-2での再生は難しい可能性もある。TVボックスにはリアルタイムにビットレートを表示する機能がないため、はっきりしたことは言えないのだが、目安としては無線LANで15~16Mbps程度の実効速度は欲しいところだ。

 なお、TVボックスでもNetAV機能を利用してインターネット経由での再生が可能となっており、たとえばTVボックスを外出先のネットワークに接続して、自宅のテレビを見るということも可能だ。ただし、この場合はPC向けのクライアントなどと同様にMPEG-4のみでの再生となり、MPEG-2での再生はあくまでも家庭内でのみ利用可能となっている。





カーソルリモコンでレコーダの操作もラクラク

 実際の使い勝手の面では、リモコンでの操作、特に新たに搭載されたカーソルリモコンでの操作性がかなりの好印象だ。

 TVボックスの画面インターフェイスは、基本的にPC向けのクライアントと共通だが、その操作は付属のリモコンで行なうようになっている。個人的には、チャンネル切り替え用の数字ボタンか、「+」「-」くらいは搭載して欲しかったところだが(一応、上下方向でチャンネル選択できるが、その後に決定を押す必要がある)、PC用クライアントと異なり、やはりリモコンで離れた場所から操作できるのは楽だ。

 特筆すべきは、前述したカーソルリモコンだろう。リモコンの「カーソルリモコン」ボタンを押すと、リモコンの上下左右の方向キーと中心の決定ボタンの操作が、そのままビデオ入力機器の操作として入力される。PC向けのクライアントでは、レコーダの録画タイトル一覧から見たい番組を選ぶ場合、リモコン画面に表示された上下左右のボタンをマウスでクリックしなければならなかったが、TVボックスでは手元のリモコンの上下左右と決定の操作が、直接レコーダの操作として認識されるため、画面上のリストの選択などを直感的に行なえる。


従来と同じ画面上のリモコンに加え(画面左)、新たにカーソルリモコンを搭載(右画面)。リモコンでの方向ボタン操作が、直接、ビデオ入力機器に反映されるため、画面のようなメニュー画面の操作が直感的にできるようになった

 映像をバッファする関係上、ボタンを押してから、その操作が画面上に反映されるまでタイムラグがあるのは致し方ないが、それでもPC向けのクライアントなどに比べるとストレスフリーな操作感で、はじめて利用する場合でも違和感なくビデオ入力機器の操作ができ、かなり快適だ。





わかりやすいソリューション

 以上、新たにロケーションフリーのラインナップに追加された家庭用テレビ向けのクライアント「ロケーションフリー TVボックス LF-BOX1」を実際に使ってみたが、画質や操作性などがかなり良好で、かなりおすすめできる製品と言える。

 ロケーションフリーは、実際に使ってみるとなかなか便利なのだが、その利便性を理解してもらうことが難しい製品とも言える。この傾向は特にPCをクライアントとして利用する場合に顕著だったが、今回のTVボックスの場合、ベースステーションが飛ばした映像をTVボックスで受信するという、比較的わかりやすい構造になっているため、以前に比べると一般ユーザーに受け入れられやすそうだ。

 ただし、個人的には、ビデオ入力機器操作中のビットレートやバッファを減らすなどしてタイムラグがもう少し改善を希望したい。また、チャンネルを一発で切り替えるためのボタンくらいは欲しかったところだ。さらに今後PLCなどの普及を考えると、無線LANの搭載は思い切ってやめてしまうというのも1つの手ではないだろうか。有線LANのみで、もう少し低価格なモデルが登場してくれるとありがたい。


関連情報

2006/11/28 11:04


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。