第237回:DLNAガイドラインに対応した無線LANデジカメの意欲作
ソニーのサイバーショット新モデル「DSC-G1」



 ソニーからIEEE 802.11b/gに準拠した無線LANを搭載したデジタルカメラ「DSC-G1」が登場した。無線LANによる通信を利用してDLNAによる写真の共有、複数台のDSC-G1による連携撮影が可能な製品だ。DLNA機能を中心にその魅力に迫ってみよう。





無線LAN搭載が徐々に進むデジタルカメラ

 ソニーから登場した新サイバーショット「DSC-G1」は、IEEE 802.11b/g準拠の無線LANを搭載したデジタルカメラだ。1/2.5型600万画素CCDを搭載し、デジタルカメラとしては初という約92.1万ドット、1,677万色表示の3.5型「エクストラファイン液晶」、2GBという大容量の内蔵メモリを搭載(メモリースティックDuo/PRO Duoにも対応)するなど、見どころの多い製品に仕上がっている。


ソニーの新サイバーショット「DSC-G1」。閉じた状態から上部のスイッチを操作すると、中央からスライドさせるような感じでレンズ部分が現れる。背面には3.5インチという大型の液晶を搭載

 サイバーショットと言うと、D端子で接続してハイビジョンテレビで写真を楽しめる機能や、「音フォト」と呼ばれるBGM機能が特徴の「T100」「T20」などのTシリーズがいわゆる売れ筋の製品だが、このG1はこれらの製品とは明らかに方向性の異なる製品だ。前述したようにIEEE 802.11b/g準拠の無線LANをサイバーショットとしては初めて搭載し、ネットワークを利用したデジタルカメラの新しい使い方を提案している。

 無線LANが搭載されたデジタルカメラはまだ珍しい存在ではあるものの、製品自体はこれまでにもいくつか存在した。本コラムでも取り上げたニコンのCOOLPIX P1、キヤノンのIXY DITITAL WIRELESSなどがそうだ。ただし、今回のDSC-G1はこれまでの無線LAN搭載デジタルカメラとは無線LANの用途が異なる。

 これまでの無線LAN対応デジタルカメラは、無線LANをPCとの接続、つまりUSBの代わりとして使うものであり、無線LAN経由でデータをPCに送信したり、PCからリモートで撮影することができた。これに対してDSC-G1は、このようなPCとのインターフェイス的な使い方はできない。カメラ同士、他の家電製品との連携(コラボレーションショット)のために無線LANを利用するようになっている。





コラボレーションショット、DLNAに対応

 もう少し具体的に見てみよう。DSC-G1が無線LANによって実現している機能は大きく分けて3つある。1つはDSC-G1同士を連携させる「コラボショット」だ。複数台のDSC-G1をアドホックで接続することにより、他のカメラで撮影した写真も自分のカメラに保存される。たとえば結婚式などでさまざまな角度からの写真がほしいといった場合に便利な機能だ。

 続いての機能が「ピクチャーギフト」だ。これは単純でDSC-G1で撮影した写真をほかのDSC-G1へと転送する機能となる。携帯電話の赤外線通信のように、無線LAN経由で写真の受け渡しができる機能と考えると良いだろう。

 デジタルカメラとして見た場合、これらの機能はこれまでになかったもので、新しい使い方を提案するものと言える。しかしながら、いかんせん複数台のDSC-G1がないと実現できないのが欠点だろう。

 そこで注目したいのが3番目の機能となるDLNA対応だ。デジタルカメラとしては初めてDLNAガイドライン1.0に対応しており、DSC-G1で撮影した写真をネットワーク経由で公開し、PCやメディアプレーヤーで再生することができるようになっている。これまでPCやDVDレコーダなどを中心に搭載されてきたDLNA機能がデジタルカメラにも搭載されたことで、DLNAが目指すホームネットワークが徐々に現実味を帯びてきた印象だ。


本体にIEEE 802.11b/g準拠の無線LANを内蔵。本体上部のWLANボタンによってコラボレーションショットなどのネットワーク機能を利用できるDSC-G1同士で利用できる「コラボショット」「ピクチャーギフト」機能




撮影した写真を無線LAN経由で公開

 では、実際にDSC-G1のDLNA機能を使ってみよう。まずはDSC-G1の無線LAN機能を使い、家庭内のアクセスポイントに接続しておく必要がある。

 最近ではゲーム機などにも「AOSS」や「らくらく無線スタート」などの無線LAN設定機能が搭載されているが、DSC-G1にはこの手の機能は搭載されていない。このため、無線LANの設定は基本的に手動となる。アクセスポイント側でSSIDをアナウンスしている場合は検索によってSSIDを設定することができるので、暗号化の方式と暗号キーを入力する必要がある。

 本体側面に用意されているスティックタイプのコントロールボタンの操作に慣れが必要だが、画面上に表示されたスクリーンキーボードから入力できるので暗号キーがそれほど長くなければさほど手間はかからないだろう。


無線LANの設定画面。無線LANの簡易設定機能は搭載されていないため手動で設定する。アクセスポイント側でアナウンスされていればSSIDは自動検出可能だ画面操作や入力操作などは、本体側面(若干斜め手前)のスティックで操作する。小さいため操作がしにくいが、慣れると直感的な操作が可能だ

 欲を言えばもっと手軽な設定方法が搭載されて欲しいが、Wi-Fiアライアンスが策定したWPSの関係もあって、無線LANの設定方式というジャンルは少々混乱気味になっている。既存の設定方式を搭載することも難しい現状では、手動というもっとも確実な設定方法を採用せざるを得ないのかもしれない。

 無線LANの設定が完了すればあとは簡単だ。PSPなどで採用されているXMB(クロスメディアバー)に似た形式のメニュー画面を操作し、「ツールボックス」にある「画像公開」という機能を選択する。すると先ほど登録したアクセスポイントへの接続が開始され、画像の公開画面が表示される。


本体のメニュー画面から「画像公開」を選択。これによってはじめて無線LANによる接続が開始され、画像の共有が可能となる

 ここで共有を開始すれば、その画像がネットワーク上に公開され、PCのDLNAクライアントやDLNA対応メディアプレーヤーなどから写真を参照し、画面上に表示できるようになる。DLNAと聞くと難しそうなイメージがあるが、無線LANにさえ接続してしまえば、あとは共有するだけとカンタンだ。





自分の意志で写真の公開を制御できる

 このように、DLNA機能といっても、搭載されているのは本体に保存されている写真を公開するサーバー機能のみで、公開できるコンテンツも写真のみ(撮影した動画の公開は非対応)という単純なものだ。しかしながら、実際に使ってみて感心させられたのは、実際の利用シーンがよく考えられているということだ。

 通常、DLAN対応機器というと、シームレスなコンテンツの共有という部分ばかりが注目されてしまうため、PCやレコーダなどに保存されているコンテンツが片っ端から公開されてしまうのが普通だ。

 しかし、これは実際の利用シーンでは不都合なこともある。たとえば自分のPCに保存されている画像や映像、音楽が残らず公開され、それをリビングのプレーヤーなどから家族の誰もが自由に閲覧できるとしたらどうだろうか? コンテンツがパブリックなものであれば問題ないだろうが、プライベートなコンテンツであった場合、それが無条件にほかの人に見られては困るというシーンも十分に考えられる。

 おそらくDSC-G1の開発者はこのあたりを相当に配慮したのだろう。DSC-G1では、基本的に前述した「画像公開」を選択しない限りはDLNAサーバーとしての機能は動作せず、「画像公開」で公開する画像もユーザーが自分で選択できるようになっている。画像の左側を選択すると保存されているすべての画像がネットワーク上に公開されるが、公開したい写真を1つずつ選択すれば、その画像しかネットワーク上には公開されない。


写真の一覧をすべて選択して公開するのはもちろんのこと、特定の写真だけを公開することが可能。これにより、見たい、もしくは見せたい写真だけを自分の意志で選ぶことができる

 つまり、ユーザーは自分の意志で画像の公開を開始することができ、しかも公開するコンテンツも自分で選択できるようになっているわけだ。

 この発想は非常にすばらしいもので、個人的に大いに賛同したい。コンテンツは、それが音楽であれ、映像であれ、文書であれ、写真であれ、無闇やたらに共有すれば良いというものでは決してない。現状、ホームネットワークがあまり普及していない状況では、実質的にコンテンツの公開者と閲覧者が同一人物であるケースがほとんどとなるため問題にならないが、本来は公開者と閲覧者が別の人物であることも十分に考慮する必要がある。

 大切なのは、単純にコンテンツを共有することではなく、コンテンツの所有者が、自分の意志によって、それを選別して共有できるようにすることだ。これができなければ、ホームネットワークなどというものは絵空事に過ぎなくなってしまう。

 理想を言えば、DLNAの拡張ガイドラインで紹介されている「2Box Push」のケースのように、他の機器(テレビなど)に表示したいコンテンツを保存元の機器(デジタルカメラ)からプッシュするという使い方が、デジタルカメラのようにプライベートなコンテンツが保存されている可能性がある機器には適していると言える。しかしながら、DSC-G1では、擬似的であるにせよ、この2Box Pushに近い考え方がDLNA1.0ベースのまま実装されている。この工夫には正直感心させられた。





DLNA対応機器の方向性を示した意欲作

 このように、DSC-G1は無線LANの接続設定が若干手間ではあるものの、DLNA対応機器としての完成度が非常に高く、ホームネットワークで画像を共有するという行為が手軽に、そして何より「安心」して楽しめる製品となっている。

 もちろん、DSC-G1自体はデジタルカメラなので、この機能だけに注目して製品を選ぶ必要はない。むしろデジタルカメラとしては高価であり、サイズも若干大きい印象さえある。しかしながら、デジタルカメラの画像をテレビなどのほかの機器で見たいというニーズが確かに存在することを考えると、その新しい方法を提案したという意味では存在意義のある製品だ。

 特に利用者が自分の意志で公開するコンテンツを選べるようにした工夫は、今後のDLNA対応機器、ネットワーク機器に対して、コンテンツを共有するということはどういうことなのかという方向性を示した画期的な製品と言える。この点に関しては、個人的に非常に高く評価したいところだ。


関連情報

2007/3/20 11:04


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。