ニュース
「シェアする前に考えて」――青少年の安全なネット利用の実現に向け、Facebookからのお願い
2016年6月24日 06:00
Facebookが17日、青少年向けの啓発パンフレット「シェアする前に考えて」の日本語版を公開し、都内で記念イベントを開催。SNSを安全に利用してもらうために同社が取り組んでいる対策を紹介するとともに、専門家らによるパネルディスカッションを行った。
「シェアする前に考えて」は、6~16歳の学生にインターネットリテラシー/メディアリテラシー学習プログラムを提供するMedia Smartsの協力により作成されたガイドを日本語化したもの。友人・恋人間の写真・動画の共有など、SNSの利用で引き起こされる可能性のある問題点と、その対策について解説している。
Facebookが備える3つの安全対策
Facebook公共政策部の山口琢也氏は、同社が取り組む対策として、健全なコミュニティ形成のためのポリシー・規約の制定、問題への迅速な対処を行えるツールの提供、教育・啓発活動の3点を挙げる。
Facebookアカウント開設時には利用規約において、ユーザーのどのような情報・行動が報告・削除の対象になるかコミュニティガイドラインで説明している。ツールに関しては、情報の共有、閲覧、報告機能を提供。世界4カ所に設置された調査センターにおいて、法律・法執行・行政・人権・ビジネス・コミュニケーションなどの各専門家によって、日本語を含む24カ国の言語で24時間365日体制で対応。報告内容の重要度に応じて優先順位を設けており、特に青少年保護とテロリズム関連は迅速に対応しているという。
そのほか、外的な認識が困難ないじめやハラスメントのコンテンツは、Facebookや関係者にメッセージを送信する「ソーシャルレポーティングツール」を提供。プライバシー設定について解説する「プライバシーべーシックス」や現在の設定をすぐに確認できる「プライバシーショートカット」機能も備えている。
青少年の投稿はデフォルトで「友人に公開(≠一般公開)」に設定されており、コンタクト情報、学校名、生年月日などの個人情報を大人のユーザーの検索にかからないような措置を取っているという。また、友達申請の際や位置情報がシェアされている場合は警告を表示するなどの特別措置を取っている。
教育・啓発の面では、保護者、教育関係者、青少年本人、法的執行機関への情報の提供を行う。「シェアする前に考えて」など海外の啓発コンテンツの日本語化や、安心ネットづくり推進協議会への加盟、国民生活センター、総務省消費者行政課、NPO団体との意見交換を実施している。
山口氏は、炎上に関する教育以外に、インターネットで実践できる良い面にも目を向けさせることが必要ではないかと指摘。「危険性に閉じた議論だけではなく、リテラシーを学び、どういった人材を作りたいのか、日本のブランドデザインという視点で考えられる活動に繋げていきたい」と述べた。
スマートフォンが普及した時代に必要なネットリテラシー教育
NPO法人カタリバの三箇山優花氏は、主に高校生の進路意欲を高めるためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を通じて、生徒たちの主体性を育む活動を実施。三箇山氏によると、中高生を対象にした意識調査では、「自分は駄目な人間だと思う」が65%、「自分は世の中を変えていけない」が70%、「ロールモデルがいない」が70%という結果が出ており、生徒の自己肯定感が低い傾向にあるという。その代わり、「ネットで承認欲求を満たしたいという気持ちが強いのではないか」と分析する。
カタリ場は、主に中堅校や進路多様校で授業を行っているが、生活保護を受けている学校の生徒でもスマートフォンを所有しているという。「皆が使っているインフラだからこそ、どのようにリテラシーを身に付けるか取り組まなければいけないと思う。『シェアする前に考えて』や政府の政策など、どのように一個人に情報を届けて共に考えることができるか考えてきたい」。
シェアする前に自ら考える力を身に付ける
ネット教育アナリストの尾花紀子氏は、SNSの拡散力を生徒に実感させるため、Twitterで行われたアイドルのCD購買運動や熊本地震などの活用例を紹介する。身近な例を用いることで、いかに個人の情報が拡散されやすいか把握してもらう目的があるという。
「ネットに常に繋がった環境では、学校と私生活を切り分けた生活を送ること自体が困難になった。SNSごとの特性を知り、共有する前に自分で考える力を養うことが重要だ。」
尾花氏によると、もともとサードプレイスを得にくい立場にある子供達が、現代では常にインターネットに繋がった環境にいるため、ネットの中に居場所を探すようになったという。また、カタリバのイベントのような校外活動への参加や、選挙権年齢が18歳に引き下げられることによる校内での政治活動を禁止する学校も存在しており、気分転換や新たな発想を得ようとする子供達の芽を学校側が摘んでいると指摘。
炎上防止のためには、「人との直接的なコミュニケーションや心の居場所を増やすこと、炎上により将来に与える影響について考えさせなければいけない。今は何でもネットで答が分かるが、自分で考える力を身に付けることが重要。SNSでシェアする前にまずは使い方について考えてもらいたい」と述べた。
集団極性化を引き起こすインターネット
「ネット炎上の研究」「ソーシャルゲームのビジネスモデル」などの共著がある国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教の山口真一氏は、炎上の事例を紹介しつつ、その社会的影響や実態について説明。炎上の背景として、インターネットの普及による非対面コミュニケーションが容易に行えるようになったことを挙げた。
2014年に2万人を対象に行われた調査では、炎上に参加した人の割合は過去全体で1.1%、1年間に絞ると0.5%程度だったという。また、炎上参加の動機として「間違っていることをしているのが許せなかったから」が51%、「その人・企業に失望したから」が19%で、約7割が正義感から起こした行動ということが実態として分かった。
インターネットでは同じ思考・主義を持つ者同士を繋げやすいことから、集団極性化を引き起こし、各個人の意見よりも、より先鋭化した決定がされやすい特徴があるという。
「SNSの活用により、企業に対して消費者の声が通りやすくなり、反社会的行為への抑止になるなど良い点もあるが、炎上対象者を特定し、制裁を加えることは私刑になる。」
過去に韓国で導入されたインターネット実名制は、一般の書き込み数の大幅な減少を招いた一方で、誹謗中傷の抑制効果はあまり得られなかった。炎上に加担する側は正義感を持って行うため、実名制であることを気にしないが、これまで匿名で利用していたユーザーは監視の目を気にして萎縮するようになるという。
そこで山口氏は炎上の対処法として、「具体的な炎上対処法と法的根拠の周知」「捜査機関関係者の炎上への理解向上」「正しい情報の流布」「炎上リテラシー教育の促進」の4つを挙げる。
実際に炎上被害者となった場合の具体的な対処法と法的な根拠を周知することで、法的行為への心理的障壁を下げられる。また、捜査機関関係者の炎上の理解が進めば、捜査・立件の高速化が可能になる。さらに、正しい情報をソース付きで示すプラットフォームの提供、炎上の知識や適切な情報発信への理解により、炎上被害を回避させ、炎上参加も防ぐことができるとしている。
山口氏はこのほか、フィルタリングによる過剰な情報の排除は、炎上の要因を学ばないまま、いずれ規制のない場所に子供を放り出すことになるとも指摘。「さんざん今まで炎上の事例があったにもかかわず炎上を起こしてしまう。まずは、情報を把握していない子たちに向けて、どのようして伝えていくかが課題になってくる」と述べた。
学校や事業者と連携した普及啓発活動
総務省総合通信基盤局消費者行政課長の湯本博信氏は、総務省の実施する取り組みの紹介にあわせ、現在の青少年のフィルタリング利用率について説明。スマートフォンのフィルタリング利用率は、2015年度で45.2%。2013年度の47.5%、2014年度の46.2%から、わずかずつだが下がっており、フィルタリングの利用率を上げることが課題になっているという。
「青少年インターネット環境整備法」は2009年4月に施行されたもので、当時のフィーチャーフォン(ガラケー)の使用を前提としたものになる。スマートフォンは、「iモード」「EZweb」「Yahoo!ケータイ」のように携帯電話事業者によるフィルタリングサーバーを経由する必要なく、公衆無線LANや専用アプリケーションからのインターネットへの直接接続が可能なため、従来の方法では対処しきれなくなったことを問題として挙げた。
政府では毎年、「春のあんしんネット・新学期一斉行動」において、フィルタリングの推進や青少年・保護者・教育関係者のリテラシー向上に向けた取り組みを展開。「メディアを利用した周知啓発、研修会・説明会の開催、イベントの実施など、人がたくさん集まるところ、興味をもつところに対してどうリーチしていくかが重要だと思っている」。
2012年度から全国の高校1年生を対象に、インターネットリテラシーの向上施策を効果的に進めるためのテストも実施。同時にスマートフォン使用実態調査も行い、分析結果を毎年公表している。また、今年4月からは、フィルタリングの仕組みの改善や新サービスへの体制の整備について、専門家の意見を聞きながら施策実現に向けて取り組む「青少年の安心・安全なインターネット利用環境整備に関するタスクフォース」も開催している。
湯本氏は、「各SNSのフィルタリング機能はかなり制限が設けられており、初めから何でも制限するのが良いのか、という議論はある。また、行政側はすぐに規制したがる傾向があり、特に捜査機関は犯罪防止の名の下にできる限り何でも規制を強めるのが普通の発想になる」という。今後は使用者のリテラシーを上げていくことが重要になると述べた。