特別企画

急げ!まだ間に合う個人事業主の年末節税

 今年も後わずか。年賀状、大掃除、帰省など年末ギリギリまで予定がつまっている人もいるだろう。個人事業主はもう1つ年末にやるべきことがある。それは節税対策だ。確定申告は2月~3月とまだ先だが、今年もうかった人は年末に仮決算+節税対策をしないと確定申告の結果を見てガッカリすることになる。

 今回は起業して日の浅い個人事業主を対象に、残り数日でも間に合う個人事業主の節税について解説しよう。独立を考えているサラリーマンもチラッと目を通すと、将来役に立つかもしれない。

2014年の年末は40万円ほどの機材を購入
2015年は30万円ほど。今年は……

 2枚の写真は筆者が2014年、2015年の年末に購入したものだ。記憶では2014年は40万円ほど、2015年は30万円ほどの機材を年末ギリギリに購入した。ちなみに2013年は「あれを買おう、これ欲しいなあ……」などと妄想しながら仮決算をしたら全然もうかっていなくてゼロ。今年も2016年が終わる数十時間前から仮決算を始めて、もうかっていれば大晦日に段ボール箱を積み上げる予定だ。

 「どうして年末に機材を買うの?」と思った読者もいるだろう。筆者は2006年の起業して今年で10年を迎えた。10年前の筆者は、まさに「どうして?」という1人だった。サラリーマン時代は税金の知識が皆無だったので2007年の1月に独立後、初の確定申告に備え税金の本を2~3冊購入。ビッグカメラ名古屋駅西店のソフト売り場に仁王立ちして、青色申告ソフトのパッケージやPOPを見比べなんとなく「やよいの青色申告07」を購入した。それから徐々に税金の仕組みを理解し実際に売り上げ、経費などを入力し、納税額を算出してガッカリした。

 ガッカリしたのは「こんなに税金払うの」という納税額と、税金についてもっと早く理解していれば節税できたことを知ったからだ。「時すでに遅し」。節税は年が明けてからでは遅い。年末は節税の最後のチャンスだ。振り返ると、不幸中の幸いだったのは「なんか得らしい」と青色申告を選択していたこと。当時は白色申告という言葉も知らなかった筆者だが、青色申告の届けを出したのは正解だった。

 念のために言っておくが、年末にあわてて仮決算を行い節税するのはお勧めできない。毎週あるいは毎月キッチリ売り上げや経費を帳簿に記入し、常に事業の収支を把握していれば年末にあわてることはない。それは夏休みの宿題を毎日コツコツこなせば二学期直前にあわてることがないのと同じだ。筆者自身は「できないものはできない」と割り切って年末集中型となっているが、可能な人は年の初めからコツコツ記帳をしていただきたい。

所得税を理解する

 節税への第一歩は所得税の仕組みを理解することだ。もうかると税金が増えることは、なんとなく理解されていると思うが、「売り上げが10万円増えると税金はいくら増えるの?」「経費が3万円増えると税金はいくら減るの?」と聞かれても答えられない人は多い。まずは所得税を算出する式を確認したい。

売り上げ-経費=所得
所得-各種所得控除=課税所得
課税所得×税率=所得税

所得税の計算式の概念図

 一行目の式の売り上げは、取引先や顧客から得た報酬。経費は事業を行う際に必要な電車や高速料金などの交通費、スマホなどの通信費、事務所の家賃などさまざまな出費だ。売り上げから経費を差し引いた額が所得となる。

 二行目の各種所得控除は配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除などで、個人の事情によって所得から一定額が差し引かれるものだ。所得から各種所得控除を引くと課税所得となる。

 三行目の税率は課税所得の額により定められていて、195万円以下なら税率5%、195万円を超え330万円以下の部分は10%などと、課税所得の額が増えると税率があがる仕組みになっている。

 この式で注目してもらいたいのは売り上げ、経費、各種所得控除の3つだ。

 1つ目は売り上げ。売り上げがあがると所得が増え課税所得も増える。課税所得が増えると所得税も増える。売り上げを減らせば納税額は減るが、税金を減らすために意図的に売り上げを減らす必要はほとんどないだろう。

 2つ目は経費。会社勤めをしていると「経費節約、経費節減」といった言葉を耳にすることは多い。経費が減れば所得が増える。経費が増えれば納税額は減る。経費をコントロールして、所得と納税額のバランスを取ることが重要となる。

 3つ目は各種所得控除。控除額が増えると納税額は減る。可能な限り控除額を積み上げることは節税につながる。

 実際に計算をしてみよう。売り上げが480万円、経費が110万円、各種所得控除の合計額が90万円の場合

480万円(売り上げ)-110万円(経費)=370万円(所得)
370万円(所得)-90万円(各種所得控除)=280万円(課税所得)

 課税所得は280万円となる。所得税の税率は表のように課税所得の額に応じて5%、10%、20%……と税率が上がっていく。

所得税の税率
課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%9万7500円
330万円超 695万円以下20%42万7500円
695万円超 900万円以下23%63万6000円
900万円超 1800万円以下33%153万6000円
1800万円超 4000万円以下40%279万6000円
4000万円超45%479万6000円

 表を見ると税率が5%から45%まで上がっていくが、課税所得全体にその税率が掛かるわけではない。例えば課税所得が280万円の場合、195万円までの部分は5%、195万円を超え280万円の部分は10%となり、それらの合計が納税額となる。課税所得が195万円から196万円になったら納税額がいきなり倍近くになるわけでないので、神経質になる必要はない。計算してみると

280万円(課税所得)×税率=所得税

195万円×5%=9万7500円 ①
85万円(280万円-195万円)×10%=8万5000円 ②
①+②=9万7500円+8万5000円=18万2500円

 となる。税率表の右側にある控除額を使用すると、簡単に計算することができる。

課税所得金額×税率-控除額
280万円×10%-9万7500円=18万2500円

この例で仕事用にスマホやノートPCを購入して経費が10万円増えたとしよう。110万円の経費が120万円に増えると、

480万円(売り上げ)-120万円(経費)=360万円(所得)
360万円(所得)-90万円(各種所得控除)=270万円(課税所得)
270万円(課税所得)×10%-9万7500円=17万2500円(所得税)

と所得税の納税額は1万円減る。加えて住民税も1万円減り、国民健康保険は地域差があるが9000円減ったとすると所得税、住民税、国民健康保険の減額の合計は2万9000円となる。この例では所得税の税率が10%なので1万円の節税だが、課税所得が400万円の人なら経費が10万円増えると所得税2万円、住民税1万円、国民健康保険9000円、合計3万9000円となり、かなりお得感を得ることができる。

 このように課税所得が多い(=税率が高い)人ほど節税効果が高いことを理解したい。税率の上がる境目で神経質になる必要はないが、例年より課税所得が増えたことで税率が上がり、手元の現金にゆとりを感じるときは節税を考えてみよう。逆に税率5%(課税所得が195万円以下)の人は経費を年末に増やしても年始に増やしても大差はない。節税よりも稼ぐことを考えるべきだ。所得税の計算式は知ってしまえば単純だ。節税の方法も単純で「経費を増やす」「控除を増やす」の2つとなる。

経費を増やして節税

 先ほどの例では、経費が10万円増えると所得税の納税額が1万円減った。経費を20万円増やすと2万円、50万円増やすと5万円の節税となるが、経費による節税はそれほど単純ではない。

 まず大切なのは「経費を増やす=所得を減らす」という認識を持つことだ。節税は事業の目標ではない。仮に手元に30万円の現金があったとして、30万円を経費として使うことが得策か、20万円は残して10万円を使うことが得策か、あるいは30万円を全て残すことが得策かを冷静に考えていただきたい。

 次に注意したいのは、無駄な経費を使わないことだ。勢いで衝動買いをして経費を増やしても、事業の役に立たなければ無駄遣いとなってしまう。本当に事業に必要な投資なのか、よく検討して判断をして欲しい。

 では具体的に、経費を増やす方法を考えていこう。仕事に必要なさまざまな出費が経費の対象になる。代表的な経費は、確定申告書の経費の科目にある荷造運賃費、水道光熱費、旅費交通費、通信費、接待交際費、修繕費、消耗品費などだ。どの経費を増やしても節税にはなるが、できれば来年以降の事業に役立つ出費で経費を積み上げたい。

損益計算書の経費欄には荷造運賃費、水道光熱費、旅費交通費などさまざまな経費が並ぶ

 荷造運賃費や水道光熱費を増やすことが有効な投資とは思えないし、短期間で経費を積み上げることは難しい。年末節税に即効性があるのは旅費交通費、接待交際費、消耗品費あたりだろう。遠方のクライアントに年末の挨拶に行けば旅費交通費。手土産を買って行ったり、忘年会を開いたりすれば接待交際費となる。いずれも来年以降の事業につながれば有効な投資となるだろう。

 消耗品費は年末節税の主役だ。消耗品費の対象となるのは、10万円未満または使用可能期間が1年未満の少額減価償却資産のことで、平たく言うと10万円未満の備品だ。パソコン関係ならMacBook Airも4Kディスプレイもレーザープリンターも10万円未満であれば消耗品費として経費にできる。

 10万円未満の判定は、消費税の免税事業者であれば税込の購入価格で行う。通常、開業から2年間は免税事業者なので「消費税課税事業者選択届出書」を提出した記憶がなければ、税込で10万円未満なら消耗品費となる。

 「24万円のMacBook Proが買いたい」という場合は少々複雑となる。10万円以上の備品は固定資産となる。固定資産は品目ごとにPCは4年、車は6年などと耐用年数が定められている。24万円のMacBook Proは4年=48カ月に分割して経費とするので、12月に購入すると1/48の5000円だけ経費となる。翌年は12カ月分の6万円、その翌年も6万円と4年後まで分割して経費とする。このように高額な物の価格(=価値)を分割して経費にしていくことを、減価償却という。

 減価償却には特例がある。10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産として3年で均等に割って償却することができる。さらに青色申告をしていれば、10万円以上30万円未満の資産は「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」により、その年に全額経費とすることが可能だ。

 例えばパソコン関連の6万円、12万円、24万円のものを購入した場合、6万円なら消耗品費でその年に全額経費となる。

 12万円なら3つの選択肢があり、4年=48カ月に分割して毎月2500円を経費とするか、一括償却資産として3年に分割して毎年4万円を経費とするか、少額減価償却資産の特例でその年に全額経費とするかを選択する。

 24万円なら2つの選択肢があり、4年=48カ月に分割して毎月5000円を経費とするか、少額減価償却資産の特例でその年に全額経費とするかを選択する。

控除を増やして節税

 各所得控除には、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、小規模企業共済等掛金控除などがある。配偶者控除や扶養控除は年末ギリギリに控除額を増やすことは難しい。生命保険料控除は、年払いの生命保険などに加入すれば年末に控除を増やすことはできるが、年末節税に即効性があるのは小規模企業共済等掛金控除だ。

確定申告書には小規模企業共済等掛金控除の欄が用意されている

 個人事業主の節税に役立つ制度としては小規模企業共済(http://www.smrj.go.jp/skyosai/index.html)、確定拠出年金(http://www.npfa.or.jp/401K/)、国民年金基金(http://www.npfa.or.jp/)、中小企業倒産防止共済掛金(http://www.smrj.go.jp/tkyosai/index.html)などがある。詳細はそれぞれのウェブサイトを参照していただくとして、年末ギリギリの節税に有効なのは小規模企業共済だ。

 理由は、年払いが可能で仕組みがシンプル、手続きも簡単だからだ。比較すると確定拠出年金はややお勉強が必要で、申し込む金融機関ごとに手数料などの条件が異なるし、運用方法を自分で選択するので事前に調べる時間が必要だ。加えて年払いができないので、年末に節税できる金額が少ない。

 小規模企業共済は経営者の退職金制度と言われていて、その年に納めた掛け金の全額が小規模企業共済等掛金控除として控除される。払い込み方法は月払い、半年払い、年払いから選択できるので、年末に12月から翌年11月分を年払いすれば、年末ギリギリでも大きな節税が可能だ。

 掛け金は月額1000円から500円刻みで7万円まで選択できる。年額にすると最大84万円となる。84万円の満額を掛ければ、所得税の税率が10%の人は所得税で8万4000円、住民税も8万4000円の節税となる。所得税の税率が20%の人なら、所得税と住民税を合わせて25万2000円も節税することができる。経費を支出する節税はお金を支払う必要があるが、小規模企業共済の掛け金は将来戻ってくるので、先々のことを考えると安心だ。

 申し込みは金融機関などで受け付けているので、普段使用している銀行の窓口に行けばよい。12月の最終営業日(2016年は12月30日)までに手続きをすれば年内に加入できるが、書類の不備など不測の事態も考慮すると数日前には手続きをしたい。

今すぐ収支の確認を

 今年はもうかった。銀行口座の残高も多い。欲しいものもある。小規模企業共済は魅力的……となれば今すぐやるべきことは収支の確認だ。冒頭に書いたように売り上げ、経費、各種所得控除の3つを集計する必要がある。

 年末のこの時期になれば、今年の売り上げほぼ確定しているはずだ。経費も、水道光熱費など未確定の経費があっても、ある程度はみなしで集計はできる。控除は毎年大きく変動することはないので、配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除などを再確認しよう。

 過去に確定申告の経験があり、日頃からこまめに記帳している人は12月分をみなしで追加すれば、かなり正確に収支を把握することができるので問題ないだろう。

 毎年、確定申告の時期に1年分の売り上げ、経費を集計している人は来年2月に作業しても、今すぐ作業しても労力は同じなので前倒しで、集計をしていただきたい。

 今年起業し、来年2月に初めて確定申告をする人は少しハードルが高くなる。少なくとも3~4日集中して勉強&作業をする時間のある人は、青色申告ソフトを用意して入力したい。Excelなどの表計算ソフトで集計する方法もあるが、そこから最終的な申告書や決算書を作成することは難しい。同じ入力作業をするなら、最初から青色申告ソフトを利用した方が効率的だ。

 青色申告ソフトの定番は「やよいの青色申告」だ。全国の量販店のPOSデータを集計した「BCNランキング」で申告ソフト部門12年連続1位(https://www.bcnaward.jp/award/section/soft/soft32.html)を獲得している定番中の定番ソフトである。筆者自身も起業してからずっと使い続けていて、最新バージョンは「やよいの青色申告17」だ。

青色申告ソフトの定番「やよいの青色申告17」

 機能的な特徴は、銀行口座、クレジットカードなどのデータが取り込めるアグリゲーション機能に対応していること。ここ数年話題となっているクラウド型の申告サービスと同様のアグリゲーション機能に対応しており、いわばクラウドとパッケージソフトのハイブリッド型となっている。実勢価格は1万1000円くらいだが、「やよいの青色申告17」を購入すると来年発売の「やよいの青色申告18」が無償提供されるので、2年分の価格と考えるとお得感がある。

 弥生は、クラウド型の申告サービスとして「やよいの青色申告オンライン」「やよいの白色申告オンライン」も提供しており、パッケージ、クラウド、青色申告、白色申告と個人事業主の確定申告を全方位でカバーしている。「やよいの青色申告オンライン」はお試し版ではなく、全機能が使用できる製品版サービスが初年度無料。「やよいの白色申告オンライン」は12月26日から無料化される(サポートが付属するプランは有料)ので、いずれもコスト面のメリットは大きい。

 クラウド型の申告サービスはここ数年注目を集めていて、市場調査のデータを見ると毎年利用者の比率が上昇している。現状はパッケージソフトの利用者が8割、クラウドサービスの利用者が2割くらいのようだ。最終的にどこまでクラウドサービスが拡大するかは分からないが、ここ数年はクラウド比率が上がっていくと思われる。

 クラウド型の申告サービスで人気が高いのは、freee(https://www.freee.co.jp/)、「やよいの青色申告オンライン」、MFクラウド確定申告(https://biz.moneyforward.com/tax_return)。いずれも銀行口座などのデータが取り込めるアグリゲーション機能に対応しているので、自分が使用している口座の入出金データを取り込めると作業時間の大幅短縮が可能となる。

 ただし、初年度は金融機関によってデータ取得できる期間の制約があるため、クラウドの恩恵を受けられないケースもある。例えば三菱東京UFJ銀行は、前月の1日以降のデータしか取得できないことから、12月末に取り込めるデータは11月1日から12月末までとなり、1月から10月の入出金は手入力するしかない。ジャパンネット銀行は過去1年以上のデータが取得できるので、これから始める人でも1年分のデータを取り込むことが可能だ。クレジット会社も取得期間はまちまちのため、それにより作業時間は異なるだろう。

 パッケージソフトもクラウド型の申告サービスも、難易度に大きな差はないと思われる。Excelのピボットテーブルが何も勉強せずいきなり使える人が少ないように、それなりに慣れる必要はある。税金の知識もそこそこ必要だ。Officeソフトと同様にバージョンが変わっても基本的な操作は同じなので、筆者の過去の製品レビューも参考になるかもしれない。

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 今年起業し、来年2月に初めて確定申告をする人で年末まで仕事がぎっしり。ほとんど時間的なゆとりがない人は……節税対策は「何もしないで諦める」のも間違った選択肢ではない。サラリーマンより個人事業主は収支が不安定なので、手元に資金を残しておくことも大切だ。

 それでも節税対策がしたいなら開業時と現在の預金残高を比較。12月分の請求書(=売り上げ)、クレジットカードや銀行引き落としを加味して資金のゆとりを推計しよう。経費になると思っていたらならない出費や誤差があることを考慮しよう。お勧めはしないが、推計したゆとり資金の一部で経費や控除を増やせば節税となるだろう。

 繰り返しとなるが節税は目的ではない。所得を増やすべきか節税をするべきか、その経費は事業に有効かを冷静に判断してから行動をして欲しい。