特別企画

知っておこう青色申告 ~青色申告ってメッチャ得じゃん~

 確定申告の期間も後半戦。そろそろ焦っている人もいるだろう。確定申告書の提出期限は3月15日だが、その日は「青色申告承認申請書」の提出期限でもある。これまで白色申告で、平成28年(2016年)分から青色申告に切り替える人は、管轄の税務署に申請書を提出しよう。

 白色申告をしている人を対象としたアンケート調査を見ると、青色申告に切り替えない理由の上位は「売り上げが多くないから」「白色申告は記帳義務がない、記帳が楽」となっている。確かに、もうかっていないころは白色申告、少しもうかったら青色申告、ガッツリもうかったら法人化というのはよく聞く。白色申告なら確定申告は簡単、というのもよく耳にする。果たして本当にそうなのか。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。

稼いでないからこそ青色申告

 先日、売り上げは多くないけど青色申告をしている2人の女性の話を聞いた。1人目の女性は、雑誌社の編集時代に社内結婚して旦那さんは現在もサラリーマン、彼女自身は個人事業主でライターをしている。筆者とは10年以上前からの知り合いだ。語学に堪能なので年に数回は海外取材などもしている。彼女は青色申告特別控除の65万円を生かし、所得を38万円以下に抑えることで、旦那さんは配偶者控除を受けている。もう1人はベテランの編集者と飲んだときに、奥さんが個人事業主でクリエーターとのことで、同じように青色申告をして配偶者控除の対象になるかならないか、という話題だった。

 稼いでから青色申告というのも一理あるが、このように、それほど稼いでいないからこそ青色申告という考えもある。確かに記帳の手間は増えるかもしれないが、税制の優遇面では青色申告は白色申告より明らかに得だ。

知らなかったじゃすまない白色申告の記帳義務化

 平成26年(2014年)分から白色申告の記帳義務化が始まった。すでに、2年が経過したがまだまだ記帳義務化を知らずに白色申告をしている人が多いようだ。それ以前は所得が300万円以下なら、記帳や帳簿の保存、領収書などの保存をしなくても許されていた。売り上げが500万円で経費が200万円なら所得は300万円となり「どんぶり勘定」で確定申告を済ませていた人もいるだろう。

 現在は白色申告をする人も、収入や経費を記載した帳簿は7年、請求書、納品書、領収書などは5年保存しなければならない。もし3~4年後に税務調査が入ると「経費の200万円分の領収書を見せてください。あら、保存してない。では経費は100万円だけ認めましょう」となり、過去数年にさかのぼって修正申告することになったら、立ち直れないほどの悲劇だ。所得税だけでなく、その直後に住民税のお知らせが追い打ちで届くだろう。

 筆者の勝手な予想では、記帳義務化から5年を経過した2019年の確定申告後が要注意だ。特に経費が多い人は狙われやすいと思われる。売り上げ800万円、経費500万円……本当に500万円も経費を使っているのか、と疑われる可能性は高い。

 白色申告の人も、記帳義務化により記録を残さなければならない。手書きの時代は複式簿記による記帳は難しく、自力で青色申告をするのは不可能と思えただろうが、パソコンで記帳する時代となり、複式簿記による記帳はそれほど高いハードルではなくなった。

 例えば。プリンターを現金で購入したことを青色申告ソフトで記帳するなら、プリンターと入力すると事例が表示されるので。現金で買ったことと金額を入力すれば複式簿記で記帳は完了する。

プリンターと入力すると事例が表示される(やよいの青色申告オンラインの例)
勘定科目に消耗品費が自動的に記入される
取引手段に現金を選択
金額を入力
複式簿記で記帳された

 取引の記帳が完了したらその先は楽勝だ。面倒な扶養控除や生命保険料控除は自動計算され、確定申告書などは簡単に完成する。当たり前だが、2年目からは住所、氏名、屋号、家族の名前、生年月日、生命保険の種類や支払額など、同じ内容は何もする必要がない。INTERNET Watchの読者なら、簿記の知識などなくても青色申告は難しくないはずだ。それでも心配という人は、14カ月無料の「やよいの青色申告オンライン」を試用されるのがよいだろう。

 「自分はたくさん納税したい」「自分のところには税務調査は来ないから領収書がなくても経費は200万円」と言う人は白色申告でもよいと思うが、白色申告が記帳義務化されたことを考えると、数々のメリットのある青色申告に切り替えるのが得策だと思われる。

青色申告ってメッチャ得

 青色申告は税制面でさまざまなメリットが受けられる。その代表格は「青色申告特別控除」「減価償却の特例」「青色事業専従者給与」「赤字の3年繰り越し」の4つだ。特に「青色申告特別控除」「減価償却の特例」はほぼすべての事業者に恩恵があるので、毎年数十万円の節税ができるだろう。

メリット1 青色申告特別控除

 青色申告特別控除は、青色申告をするすべての事業者が条件を満たしていれば受けられる特典だ。複式簿記で記帳、貸借対照表、損益計算書を作成して期限(通常は3月15日)までに確定申告をすれば、控除が受けられる。青色申告特別控除には65万円と10万円の控除があるが、青色申告ソフトを使用すれば、難なく65万円の控除を受けることができる。「しっかり記帳できましたね。期日までに提出しましたね。頑張ったご褒美に10万円~税金を引きましょう」といった感じだ。

 65万円の所得控除は大きい。個人事業主にはサラリーマンのような給与所得控除がないので、1円の出費もなく大きな控除が受けられるのは、青色申告特別控除と基礎控除くらいだ。所得税の税率が20%の人なら所得税で13万円、住民税も合わせると20万円近くの節税となる。青色申告特別控除の税率ごとの節税効果を確認しておこう。

 これ以外に、復興特別税や国民健康保険料も減額(金額は地域差あり)となる。あまり稼いでいない人でも10万円、チョット稼いでいる人は13万円、そこそこ稼いでいる人は20万円もの節税効果がある。メッチャ得なのだ。仮に、白色申告の作業に2日掛かった人が3日で青色申告ができたら、日給10万円~20万円となる。これなら普段の仕事よりも割がよい人も少なくないだろう。確定申告を苦痛な作業ととらえず、日給10万円~の仕事だと思えば、楽な気分で作業ができるかもしれない(筆者は一度も思ったことはないが)。この節税が毎年続けば、大きな差となるのは明白だ。

 サラリーマンの妻が青色申告をするとどうなるかを計算してみよう。都内在住、売り上げ-経費=98万円(所得)の主婦(個人事業主)がいたとしよう。白色申告であれば、所得税の課税所得は98万円-38万円(基礎控除)で60万円となり、所得税額は3万円(5%)だ。パート主婦と違い給与所得控除がないのは痛い。

 住民税は、98万円-33万円(住民税の基礎控除)=65万円が課税所得となる。住民税は所得割、調整控除、均等割を合計すると6万7500円。所得税、住民税の合計は9万7500円となる。

 青色申告に切り替えるとどうなるか。所得は98万円-65万円(青色申告特別控除)=33万円。所得税は基礎控除を引くと0円となり無税だ。所得が38万円以下となるので、サラリーマンの旦那さんの配偶者控除の対象となる。住民税も所得が33万円なら所得割、均等割と課税されなくなる。この段階で9万7500円の節税だ。

 旦那さんが配偶者控除を受けることで、所得税10%、住民税10%の節税を受けるとそれぞれ3万8000円、3万3000円の節税となり、合計は16万8500円もの節税となる。98万円の所得に対し約17万円の節税はメッチャでかい。

メリット2 30万円未満の資産の即時償却

 10万円以上の工具、器具、備品、車両などは固定資産となる。購入価格を耐用年数で割って、数年に分けて経費とする(減価償却)仕組みだ。耐用年数は物品ごとに決められていて、パソコンは4年、カメラは5年、車は6年などとなっている。

 例えば10万円以上のパソコンを購入した場合、定額法で減価償却すると4年=48カ月に分割して経費とする。12万円のパソコンであれば毎月2500円、12カ月分で3万円だ。1月に購入すれば3万円を経費にすることができるが、「今年は稼いで資金にゆとりができた」と年末に購入しても、12月分の2500円しか経費にすることができない。

 青色申告をしていると減価償却の際も特典が受けられる。10万円以上30万円未満の資産を「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」により、即時償却をすることが可能だ。その年に全額経費にできるので、この制度を使えば年末ギリギリに12万円のパソコンを買っても、全額をその年の経費とすることができる。

筆者は昨年末にMacBook Proを購入した

 サラリーマンと違い、個人事業主は収入に浮き沈みがある。今年稼いだとしても、来年以降も稼げるかは不透明だ。業種によっては赤字になることもあるので、「稼いだ」「資金にゆとりができた」「税率が上がった」その年に、高額な備品を全額経費にできることは重要だ。この減価償却の特例は青色申告特別控除と同じく、多くの事業主が受けられる特典だ。

メリット3 青色事業専従者給与

 青色事業専従者給与は、その特典が受けられる人は限定される。家族に支払った給与を経費にできる制度なので、独身で親を含め給与を払う家族がいなければ使用できない特典だ。

 白色申告では家族に支払う給与の制限が厳しい。白色申告の場合、配偶者(奥さん)に対する給与は年間86万円まで経費とすることができる。扶養親族(子どもや親)に対する給与は50万円となっている。家族に給与を支払うと、その家族は配偶者控除、扶養控除の対象外となる。

 例えば、子どもに年間100万円の給与を支払っても経費となるのは50万円だけだ。経費が50万円増えも扶養控除が38万円減るので差し引き12万円しか課税所得は減らないことになる。子どもが高校を卒業して19歳~22歳なら特定扶養親族となるので、63万円の控除の方が増えた経費を上回ってしまい増税となる。

 青色申告をしていれば、青色事業専従者給与として家族に支払った給与を全額経費とすることができる。条件として1年のうち6カ月以上従事すること、15歳以上(学生はだめ)などはあるが、常識の範囲の給与を経費として支払うことができる。

 節税効果を検証してみよう。課税所得が550万円、奥さんを配偶者控除の対象としている個人事業主がいたとしよう。この場合、所得税の納税額は67万2500円となる。

課税所得×税率(20%)-控除額(42万7500円)=所得税額
550万円×20%-42万7500円=67万2500円

 奥さんにフルタイムでしっかり働いてもらい、年額260万円の給与を支払ったとしよう。奥さんに支払う給与で経費が年間260万円増え、奥さんの配偶者控除の38万円が減るので、差し引きすると課税所得は328万円となる。一方、奥さんは年収は260万円、給与所得控除が96万円、基礎控除が38万円で、課税所得は126万円だ。2人の所得税を計算すると旦那さんは23万500円、奥さんは6万3000円で合計29万3500円となる。奥さんを青色事業専従者としたことで37万9000円の節税となった。住民税なども加味すると50万円ほどの節税となる。

旦那さん
課税所得×税率(10%)-控除額(9万7500円)=所得税額
328万円×10%-9万7500円=23万500円

奥さん
課税所得×税率(5%)=所得税額
126万円×5%=6万3000円

青色専従者なし-青色専従者あり=節税効果
67万2500円-29万3500円=37万9000円

メリット4 赤字の3年繰り越し

 4つ目は赤字の3年繰り越しだ。これも業種によって赤字になりにくい業種となりやすい業種があるので、特典を受けられる人は限定的だ。ライターのようなフリーランス系の仕事は経費が少ないので、赤字にはなりにくい。設備投資が必要だったり、固定費が掛かったりする業種は、売り上げの波により一時的に赤字となる可能性がある。

 飲食店を開業する場合、店舗の改装や厨房(ちゅうぼう)設備、調理器具、什器類などの初期投資が必要となり、1年目は赤字になることも珍しくない。お店が軌道に乗り2年目、3年目と黒字を増やしていったとしよう。このようなケースでは青色申告をしていれば、赤字の3年繰り越しが可能だ。

 例えば1年目は1000万円の赤字の場合、2年目の黒字の200万円を1年目の赤字の200万円分と相殺、3年目も黒字と1年目の赤字の400万円分を相殺することで納税の必要がなくなる。4年目は1000万円の黒字から1年目の赤字の400万円分を差し引いた600万円の黒字となり、納税はするものの納税額を減らすことができる。

 白色申告であれば1年目は赤字なので納税しなくてもよいが、黒字化した2年目以降は納税をすることになる。浮き沈みが激しく、定期的に赤字になる業種であれば赤字の3年繰り越しを利用することで、大きな節税をすることが可能だ。

 青色申告の4大メリットは以上だが、これ以外にも家事按分のルールが白色申告は厳しいなど細かな差があり、青色申告を選択する価値は高い。まだまだ気付いていない人も多い白色申告の記帳義務化だが、冷静に判断すれば白色申告を選択するメリットはないと言えよう。パソコンとインターネットが使える人なら、迷わず青色申告を選択するべきだ。これから起業する人は最初から、現在白色申告をされている方は3月15日までに届けを出し、青色申告に切り替えることをお勧めしたい。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。