日本のBaiduはまずクオリティ向上が最優先、バイドゥ井上社長
中国最大手の検索企業Baiduが、日本法人を設立して日本市場に進出すると発表したのが2006年12月。その後、2007年3月に日本語版のベータサービスを開始し、2008年1月に正式サービスを開始。2008年8月には、元ヤフー検索事業部長の井上俊一氏が日本法人の代表取締役社長に就任した。
中国では70%以上の圧倒的なシェアを誇るBaiduだが、日本ではどのようにしてユーザーを獲得していくのか。中国・北京で開催された「Baidu World 2009」を訪れていた井上社長に、現地で話を伺った。
●検索エンジンの選択肢が少なくなるほどBaiduも有利に
バイドゥの井上俊一代表取締役社長 |
――日本の「Baidu.jp」も正式版としてサービスを開始していますが、広く宣伝して認知度を高めていこうとか、そうした活動はまだほとんどされていないように感じます。
井上氏:その段階はまだですね。やはり、なによりもまずサービスのクオリティがすごく重要なのです。クオリティが良くなって、お客様に満足されるサービスでないと、どれだけ宣伝しても意味がありません。Web検索というプロダクトの性質上、本当に地道な改善の積み重ねというところも大きくて、常に良くし続けていかなければならない。今はまだ土台の部分を地道にやっている段階です。
――現在のBaidu.jpは、Web、画像、動画、ブログという4つの検索サービスを提供しています。中国ではとても多くのサービスを展開していますが、日本でもサービスの数は増やすのでしょうか。
井上氏:中国のようにいろいろなサービス展開をしていくのはまだ先ですね。中国のBaiduには過去9年間やってきた積み重ねがあるわけです。あれこれやって、結果どれもうまくいかなかったというのでは意味が無いですから。自分たちが重要だと思っているものにまず力を注ぐということです。
――Web検索は既に他社が大きなシェアを持っているので競争は大変だと思いますが、そういう意味では画像や動画の検索に注力していくのでしょうか。
井上氏:いえ、一番力を入れるのはやはりWeb検索です。他との違いを出すために、Web以外の検索サービスも提供していくという部分はありますが、最終的にはWeb検索で勝たなければ、他に力を入れた意味がありません。Web検索が、我々にとって一番重要なプロダクトだというところは変わりません。もちろん、現状はYahoo!やGoogleが強いので、Web検索だけではアピールするには時間がかかってしまうため、画像検索や動画検索のようなきっかけになるものも用意していますが、とにかくWeb検索のクオリティを上げていくことが一番重要です。あとは広告です。日本ではまだやっていませんが、広告もなるべく早く導入したいと思っています。
――日本の企業もWeb検索からは手を引いてしまって、エンジンを供給してもらう形になっていますが、やはりWeb検索はコアの部分であって譲れないサービスだと。
井上氏:日本だけでなく、世界的に見てもWeb検索を自分たちでやろうという企業は減っていますよね。Yahoo!とMicrosoftの提携も象徴的です。こうなるともう、GoogleとMicrosoft、あとはBaiduぐらいしかWeb検索をやっていこうという会社が無くなってきている。Web検索は、我々の会社にとって明らかに強くて力を持っている部分なので、これをやらずに何か他のものをやるという発想はそもそも無いですね。
――そうは言っても、日本市場でBaiduをアピールしていくのはなかなか大変だと思います。クオリティが高ければユーザーは乗り換えるでしょうか。
井上氏:いろいろなアプローチがあると思いますが、我々のサイトに直接ユーザーを集めることももちろん力を入れていきますが、パートナー経由でBaiduの検索エンジンを使っていただくというのも重要です。さきほど言いましたように、世界的に見ても選択肢が少なくなっていますし、そうなればなるほどBaiduを使ってもらう可能性が高まってくるのではないかと思います。
●検索エンジンの満足度はまだ低い、クオリティ向上が最優先
――検索エンジンのクオリティはまだ上がるのでしょうか。というのも、どの検索エンジンでも同じような結果は出ますし、クオリティの違いが検索エンジンを乗り換える動機になるのかということですが。
井上氏:そもそも、検索エンジンがユーザーのニーズを満たす度合いは、まだまだ低いと思っています。ナビゲーショナルクエリーと呼んでいる、行き先のサイトそのものを検索するような用途にはかなり正しく答えられるようになったと思いますが、それよりも複雑なニーズに的確に答えられているかというと、まだまだその割合は低いですよね。クオリティを、たとえば満足度を97%から98%に上げようという話であるなら、そこにはもうあまり違いは無いかもしれませんが、現状はまだ6割とか7割というところではないでしょうか。ですから、まだまだ伸びる要素があって、それはやり続けなければいけない。
あとは、検索エンジンは放っておくとスパムだらけになるんですよ。スパムというのは、対応し続けていかないとどんどん出てきます。これに以前と同じように対処していては、あっという間に使えないものになります。スパムの手法は国によっても違いますので、その国に合わせた形で対応していかなければいけません。
――そういう意味では、Baidu.jpの現状の完成度はどのくらいなのでしょうか。
井上氏:まだ足りてない部分があるのは事実です。それはやはり、歴史的な積み重ねであるとか、エンジニアやリソースも整えている最中ですし。そういう部分については、我々も早く他社にキャッチアップできるような体制にしていきたいと思っています。
――目標としてはいつまでには追いつきたいですか。
井上氏:それを測るのはなかなか難しいのですが、やはり1年以内ですね。とにかく、手を抜いてしまえばすぐに追い越されてしまうので、検索エンジンの会社であれば、開発はずっと続けなければいけません。
――中国で開発した検索技術は日本でも有効なのでしょうか。
井上氏:技術には共通の部分と、独自の部分があると思います。ただ、中国で試してうまくいった、あるいはうまくいかなかったという蓄積自体が、日本にとっても価値があります。現状ではまだ、中国のエンジンには入っているけれども、日本のエンジンには入っていない技術がたくさんあります。そうした技術を今後取り入れていく上でも、中国での経験があることが大きいのです。そしてもちろん、BaiduにはWeb検索に取り組んでいる技術者が大勢いるということ自体が大きな財産です。日本向けには専属の開発チームがあり、開発は中国で行っています。
――中国ではQ&Aサービス(Baidu Knows)などが自然文検索にも活かされているといった話がありましたが、日本でそうしたサービスは?
井上氏:その部分は明らかに中国でのBaiduの強みになっていますね。ロボット検索とコミュニティのプロダクトがうまく融合していて、我々もぜひやりたいと思っています。ただ、いずれにしても、土台になる検索エンジンが良くないと、それに何が乗ってもダメですね。そのクオリティが上がらないうちに、あれこれと手を出しても仕方がありません。
●まずは3%~5%のシェア獲得を。モバイル検索への取り組みも
――Baiduの海外進出は日本が最初ですが、それ以外の国への計画はあるのでしょうか。
井上氏:まずは、日本が成功するかどうかというのが試金石になると思います。
――日本での「成功」というのはどの程度を想定しているのでしょうか。
井上氏:成功の定義も国によって違うと思います。日本は既に成熟したマーケットで、ネット人口もこれから大量に増えるわけではないので、中国のように爆発的にシェアが伸びていくということは無いでしょう。まずは、我々が目指すところは、3%~5%ぐらいのシェアを取るところで、これで十分に成功の中に入ってくると思います。
――日本に進出する際にも、まずは先行投資で、広告についても当面は入れずに、クオリティを高める方を優先するという話がありましたが、その方針は今も変わっていないですか。
井上氏:広告はもちろんやりたいですが、広告を入れるのも大がかりな話になりますし、やはりWeb検索自体が良くなければダメですよね。ですので、順序としてまずWeb検索、という点は変わっていません。
――さらにその先のサービスとして取り組んでいきたい分野は何でしょうか。
井上氏:その次はモバイルですね。これは完全に日本独自に取り組んでいくことになります。モバイル検索にはまだまだチャンスがあります。
――モバイル検索は、満足する結果が得られないことが今でも多いように思います。
井上氏:ただ、モバイル検索については、そもそもコンテンツが無いので満足する答も返せない、という問題の方が今は大きいと思いますね。これはBaiduだけの問題ではなく、コンテンツプロバイダーがモバイルにもどんどんコンテンツを出していくようになり、それで検索エンジンが良くなっていき、そしてユーザーがモバイルでも検索を使うようになる、というポジティブスパイラルになることが必要です。ただ、5年前に比べれば、モバイルの世界も確実にオープン化に向かっていますし、そうなれば検索エンジンもさらに活躍できる場が広がると思います。
――中国のBaiduにはニッセンと提携したEC事業「日本の窓」のようなコーナーがありますが、逆に日本のBaiduで中国のコンテンツなどを紹介していくようなサービスは?
井上氏:それは全く考えていないですね。とにかくまず、日本人のための検索エンジンを作ることが最優先です。検索はほぼ文化とイコールなので、検索エンジンはその国のユーザーに合ったものを作る必要があります。中国でどんなにシェアがあっても、そのまま日本では使えません。技術として使えるものは使いますが、どういうサービスを作るのか、提供していくのかということは日本で考えて、これからも徹底的に取り組んでいきます。
――ありがとうございました。
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2009/8/28 18:04
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