【年末企画】
編集部が選ぶ'98年のキーワード
編集部では、インターネット業界の今年1年をもっともよく表わしていると思われるキーワードを5つピックアップしてみた。記事中に繰り返し登場した言葉もあれば、一度も使われなかった見慣れない言葉もある。しかしこれらは、'98年のインターネット業界を語るうえでなくてはならないものだ。キーワードとともに1年間を振り返ってみたい。
●ポータル
インターネット業界の流行語大賞があるなら、'98年の大賞は間違いなく“ポータル”だろう。「入口」「玄関」を意味する、我々日本人にとっては耳慣れない言葉が、今年に入り突然、当たり前のように使われるようになった。
そもそもポータルというのは、CNETの創設者であるHalsey Minor氏が「Snap! Online」を立ち上げる時に掲げたビジネスモデルで、当初はプロバイダーと結びつき、インターネットの入門者を囲い込むという色合いが強かった。
それが後に、Yahoo!やExcite、Lycos、Infoseekといった検索サイトをはじめ、NetscapeやMicrosoftのようなブラウザーメーカーまでもが“ポータル”でユーザー獲得合戦に参加。ターゲットはインターネットユーザー全般へと拡大され、無料メールサービスやパーソナライズ、ニュースの提供など、さまざまなサービスが“ポータルサイト”で提供されることとなった。
そして米国は年末商戦に突入。ポータルにオンラインショッピングという新しい要素が加わった。各々のポータルサイトがAmazon.comやCDnowのようなショッピングサイトと提携し、商品検索もできる巨大なショッピングモールとして機能しはじめた。
こうした一般ユーザー向けのサービスに加え、来年には企業向けの電子商取引サービスも始まる見通しだ。AOLに買収されるNetscapeは、企業向けの「Custom Netcenter」なるサービスを発表している。
一方、日本でもYahoo! JAPANやgooなどの検索サイトがポータルサイトとしてニュースサービス等を提供するようになった。しかし、オンラインショッピングや企業向けサービスについては、一歩も二歩も米国に後れを取っている状態。今年に入ってExciteやLycosが日本市場に本格参入を果たしたこともあり、本当の意味で日本のポータル競争が激化するのは来年あたりになりそうだ。
■関連記事
・マイクロソフト、「MSNスタートページ」でportal争いに参戦(6月11日)
・MicrosoftがAmazon.comと提携、ショッピングに傾斜するポータルサイト(11月25日)
・NetscapeのJames Barksdale社長「ポータルサイトが個人からビジネス向けに」(10月9日)
・Yahoo!が巨大ショッピングモールをオープン(11月18日)
・Yahoo! JAPANがパーソナライズサービスを7月下旬スタート(7月21日)
・検索サイト「goo」がリニューアル、総合情報提供サイト化を進める(5月20日)
・米大手検索サービス「Lycos」が日本進出、住友商事、IIJと合弁会社(4月14日)
●インスタントメッセージング
'98年はICQなどを始めとした“インスタントメッセージング”と呼ばれるソフトがブレイクした。従来のチャットソフトと似通った部分もあるが、いわゆる“チャット”のイメージとは違うスタイルで利用されている。
メッセージングソフトは、相手のパソコン画面にメモ程度のメッセージを送り合うもの。電子メールよりも手軽に使えて便利だ。日常でも携帯電話に文字メッセージを打ち合ったり、留守番電話に伝言を残しておいて後で電話をもらったりといったことをするが、それと同じことをインターネットでするものだ。インターネットに接続しているかどうかなど、お互いの接続状態がわかる点も、これまでのインターネットコミュニケーションツールになかったものだ。
数あるソフトの中で、一番の人気ソフトはやはりICQ。Windows版しかないメッセージングソフトが多い中、機能に差はあるものの、Windowsはもちろん、Windows CE、Macintosh、Javaなど、あらゆるプラットフォームで動作する唯一のソフトだ。'96年11月に登場してからバージョンアップをくり返し、中でもWindows版はファイル転送機能やチャット機能、ログ機能など、他のソフトに比べて格段に機能が多い。人気が高い反面、ユーザーが多いためかサーバーは不安定でヘビーユーザーからは厳しい声もあがっているが、これに追従するソフトがなく未だ人気は不動だ。
ICQが注目を集めるようになったことで、今年に入って続々と新しいメッセージングソフトも登場した。中でも、ポータルサイトがサービスの一つとしてExcite PAL、Yahoo!ページャーを立て続けに投入した。現在では20を超えるメッセージングソフトが存在している。インスタントメッセージングは、WWW、E-mailに続き、第3のコミュニケーションの手段として定着したようだ。
■関連記事
・新定番ツール「ICQ」を使ってみよう!(6月8日)
・エキサイトがメッセージ送受信ソフト「Excite PAL」発表(7月17日)
・メッセージ受送信ソフト「Yahoo! ページャー」が登場(7月27日)
・お気に入りのインターネットチャットソフトを見つけよう(10月26日)
●オープンソース
「ソフトウェアのソースコードを公開し、ユーザーが自分でバグ取りや機能追加などをできるようにしよう」というのが“オープンソース”の考え方。これ自身は、インターネットでも古くから存在するもので、sendmailやbind(DNS)といった標準的なソフトもソースの形式で公開されている。
それが今年に入って大きな話題となったのは、NetscapeがCommunicatorのソースコードを公開すると発表したことが一つのきっかけだろう。世界中に衝撃を与えたこの戦略は、ソースコード公開により世界中の開発者コミュニティを引き付けることが目的と言われている。
同時に'98年は、一部で支持されてきたオープンソースのOS「Linux」が、MicrosoftのWindows NTやSunのSolarisなどを脅かす存在として急に日の目を浴びてきた。「MicrosoftがLinuxを脅威と考えているという内部文書」と言われる「Halloween文書」も公開された。一方、Sunは開発者向けにSolarisの無償提供を開始し、12月にはJava 2のソースコードを条件つきで開発者に出すという発表もあった。
“オープンソース”は、最初に書いたように技術力のあるユーザーには魅力のある形態だが、一般に普及するにはその点が弱点でもある。仕様が固定しない、開発者的知識を持っている人によるサポートが必要、それ自身で利益を上げにくいといったことだ。しかし、Linuxをブラックボックス化し一般のユーザーにも使えるようにしたサーバーや、Linuxのユーザーサポートを行なう会社も現われている。sendmailも、ユーザーサポートなどを整備した商品版「Sendmail Pro」が登場。オープンソースであっても、サポートを含めてビジネスへと展開する例が増えてきている。今年広く認知された“オープンソース”だが、一般にも普及・定着するかどうかは、こうした製品次第と言えよう。
■関連記事
・ネットスケープ社が「Netscape Navigator」の無償配布開始、
次期「NetscapeCommunicator 5.0」のソースコード公開も発表(1月23日)
・Sun、開発者向けにSolarisを無償提供(8月11日)
・JDK 1.2改め「Java 2」 、条件付きでソースコード公開(12月9日)
・sendmailが商品化(3月18日)
●MP3
“MP3”は、正式名称をMPEG-1 Audio Layer-3と言い、ISOの下部組織として設置された標準化団体、MPEG(Moving Pictures Experts Group)で規格化された音声データ圧縮方式の一つだ。高い圧縮率で音楽CD並みの品質を保てるため、ネットワーク上での音楽データ配信に適している。
普及が期待された反面、CDの音源を無断でインターネット上に公開する悪質なサイトが氾濫し、国内外の著作権団体の間で違法MP3ファイルが問題視された。国内では、JASRACなどが違法MP3サイトの撲滅運動を展開したほか、日本レコード協会が違法MP3コンテンツの排除をプロバイダーに要請するといった動きがあった。
今年は携帯用MP3プレーヤーも登場。海外では、米国レコード産業協会が携帯用MP3プレーヤー「Rio PMP300」を販売するDiamond Multimedia Systemsに対して「著作権保護を侵すもの」として製品の出荷・販売の停止を訴えたが、米連邦地裁が販売差し止め請求を棄却。12月には日本国内でも販売が開始された。
ネット上の音楽配信についてはまた、ビジネス利用に不可欠な著作物使用料についても論議された。11月にはJASRACとネットワーク音楽著作権連絡協議会との間で暫定合意が発表されたが、双方とも主張を譲っておらず今後の協議の行方が注目される。
'98年は音楽配信の技術そのものよりも、“MP3”に象徴されるように、その利用方法に注目が集まった年だと言えそうだ。
■関連記事
・JASRACなどが違法なMP3サイトの撲滅キャンペーン(7月30日)
・日本レコード協会、違法MP3コンテンツの排除をプロバイダーに要請(8月7日)
・米国レコード産業協会、携帯用MP3プレイヤーを販売するDiamond社にクレーム(10月12日)
・音楽配信はどうなる!「JASRAC vs. NMRC」~暫定合意はしたけれど(12月3日)
●IPキャリア
買収、合併、新会社設立など、'98年は通信業界の動向が激しい1年だった。不況や事業不振の影響も確かにあるのだろうが、実はこれらは、これからのインターネットサービスを大きく変える布石となるものとも言える。それを表わすのが、この“IPキャリア”というキーワードである。
従来、プロバイダーにとって「回線はキャリアから提供されるもの」という図式が当然のように存在していた。しかし一方で、OCNをはじめとする低価格のプロバイダーサービスをキャリア側でも提供するようになった。価格面で不利になる既存ISPでは、従来のような「キャリアから基盤回線を借り受け、ユーザーにインターネット接続サービスを提供する」というビジネスが成り立たなくなる。ベッコアメが自社APを廃止し、バックボーン事業をテレウェイに全面委託したニュースからもうかがえる。
そこで逆に、ISPが自らバックボーンを保有し、回線事業と接続サービス事業を統合しようというのが“IPキャリア”である。リムネット、東京インターネットなどを立て続けに買収したPSINetは、回線事業への参入を表明しており、IPキャリアとして事業を推進していくことが予想される。また、IIJもソニー、トヨタと共同でデータ通信の新会社、クロスウェイブコミュニケーションズを設立。これも、同様にIPキャリアに位置づけられるだろう。
一方、既存の電話系キャリアも当然ながらIPを意識している。日本テレコムはCiscoと提携し、IPベースの次世代通信網の構築へ向けて動き出した。NTTドコモは、通話料のみでインターネットに接続できるサービス「mopera」を開始したほか、吸収合併したNTTパーソナルのPHS事業を引き継いだことでデータ通信サービスも強化した。海外では、AT&TとBritish Telecommunicationsが、IPベースを見据えた国際通信の合弁会社を設立することで合意。来年にも事業がスタートする見込みだ。
'98年は、インターネットプロバイダー事業を、回線事業を含めた“IPキャリア”として捉え直すきっかけとなった年と言えるだろう。
■関連記事
・ベッコアメがテレウェイと事業提携、自社のAPを全面廃止し、テレウェイの基幹網を利用(4月9日)
・“新生”東京インターネットが記者発表会を開催(10月6日)
・ソニー、トヨタ、IIJが共同でデータ通信サービス会社を設立することで合意(9月30日)
・日本テレコムと米Cisco、IPベースの次世代通信網構築「PRISM」で提携(12月17日)
・NTTがPHS事業をドコモに営業譲渡すると発表(5月22日)
・BTとAT&Tが提携、売り上げ100億ドル規模の合弁会社を設立(7月27日)
('98/12/25)
[Reported by INTERNET Watch編集部]
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