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P2Pサービス事業者向けのガイドライン、P2Pネットワーク実験協議会が策定


 P2Pネットワーク実験協議会は19日、P2P技術を利用したサービスやソフトを提供する事業者を対象として、利用者に対して示すべき要件などをまとめたガイドラインの第1版を公表した。協議会では今後、事業者や開発者などに対してガイドラインの周知を図るとともに、P2P技術の実証実験などを通じて利用者側からの意見を取り入れていきたいとしている。

 P2Pネットワーク実験協議会は、総務省の「ネットワークの中立性に関する懇談会」での議論を契機として、P2P技術を利用したサービスについての技術的検証やガイドライン策定などを目的として、2007年8月に設立。P2P技術を利用したサービスやソフトウェアを提供する事業者向けに、P2Pサービスが満たすべき要件をガイドラインとしてまとめた。

 ガイドラインでは、事業者がコンテンツ配信ネットワークとしてP2P技術を利用する「事業者配信型P2Pサービス」と、ユーザー側からも作成したコンテンツを配信する「利用者発信型P2Pサービス」の2種類にP2Pサービスを分類。それぞれについて、ユーザーがサービスの安全性などを判断できるよう、事業者が開示すべき要件を定義している。

 P2Pサービスの提供にあたっては、事業者はサービス全体の一連の流れをユーザーに明示することとともに、ユーザーが取得を要求していないコンテンツを他のユーザーの中継のためにダウンロードする機能が存在する場合には、事業者はその機能について明示するとともに事前に利用者に許諾を得ることなどを求めている。

 また、どのようなリソースが利用されるかをユーザーに明示することや、取得したコンテンツの削除方法、簡易なアンインストール方法を提供することなどを必要項目として提示。セキュリティ対策としては、脆弱性が発見された場合には利用者に対処方法を周知することや、流通するコンテンツの安全性について事前に確認を行なうこと、利用者の機密情報の流出に対する対策などを求めている。


ガイドライン策定の経緯 ガイドラインでは、事業者がユーザーに明示すべき項目や、許諾を求める必要のある項目を規定している

「開発する技術者にもガイドラインを一読してほしい」江崎浩教授

P2Pガイドライン策定ワーキンググループの主査を務める東京大学大学院教授の江崎浩氏
 19日にはP2Pネットワーク実験協議会によるシンポジウムが開催され、ガイドライン策定ワーキンググループの主査を務めた東京大学大学院教授の江崎浩氏が、ガイドライン作成の目的などを説明した。

 江崎氏は、ガイドラインを作成した背景として、「P2Pのように革新的な技術は、それ自身の力が非常に大きく、制御することができないので、社会との摩擦を最初に起こす」と語り、これを制御するための技術の研究開発と、社会的ルールを確立する必要があると説明。ガイドラインの目的は、事業者に対してP2Pサービスが満たすべき要件を定義するとともに、ガイドラインを利用して事業者から適切な情報を開示することで利用者の理解を広げることだとして、P2P技術によりブロードバンドネットワークの効率的利用に資することを目指すと述べた。

 また、ガイドラインはP2Pサービスを提供する事業者を対象としているが、サービスやソフトウェアを開発する技術者にも規範が求められるようになっているとして、技術者にもガイドラインを一読してほしいと呼びかけた。


実証実験ワーキンググループの副主査を務めるNTTコミュニケーションズの山下達也氏
 協議会ではガイドラインの策定とともに、P2P技術を利用したネットワークの効率的利用に向けた実証実験も行なっている。シンポジウムでは、実証実験ワーキンググループ副主査を務めるNTTコミュニケーションズの山下達也氏が、実験の概要を説明。実証実験には現在28の企業・団体が参加しており、「BitTorrent」「SkeedCast」「Einy」といったP2P配信技術を活用した、コンテンツの配信実験が行なわれている。

 山下氏は実証実験に至った背景として、増大するトラフィックコストを低減する手段としてP2P技術は有望であるものの、P2Pに対する規制やP2P技術自体への不安があるとして、ガイドラインの策定によりP2P技術を安心して利用できる環境を整えるとともに、P2P技術が実際にトラフィックの低減につながるかの検証が必要と説明。実証実験では全国に測定用のノードを設置し、P2P技術によるコンテンツ配信がネットワークに与える影響を調査するとした。

 また、現在のP2P技術の多くは実際のインフラ構造を考慮せずに独自のネットワークを構築しているが、ネットワークの効率的利用の観点からはインフラ構造を考慮したP2Pシステムについても可能性を検討していくと説明。特に、地方から東京や大阪といった拠点へのトラフィックを削減するためには、地域内での「折り返しトラフィック」が有効に働くだろうとして、地域IXの取り組みにも期待したいと語った。


P2P実証実験では、2007年度は現状の把握、2008年度はネットワークの負荷軽減に向けた検討を行なう 全国に測定用のノードを設置し、P2P技術によるコンテンツ配信の効果を検証する

関連情報

URL
  P2Pネットワーク実験協議会
  http://www.fmmc.or.jp/p2p_web/

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( 三柳英樹 )
2008/02/19 19:22

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