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児童ポルノの閲覧をISPが一律ブロック、2009年度に実証実験を

総務省が「『安心ネットづくり』促進プログラム」骨子案

26日に開催された「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」第9回会合
 総務省は27日、2007年11月より開催してきた「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の最終取りまとめ案を公表した。同案についてのパブリックコメントを12月17日まで募集する。

 総務省が推進する「『安心ネットづくり』促進プログラム」の骨子として位置付けられるもので、2009年4月1日に施行予定の「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(青少年ネット規制法)を受けて、今後、違法・有害情報対策として講じるべき施策を提言している。

 例えば違法情報への対策の中には、児童ポルノやわいせつ物などの社会的法益を侵害する情報に対する取り組みの方向性が示されており、そのための方策として、「特定電気通信役務提供者の損害賠償の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)の適用範囲を拡大することで、プロバイダなどによる自主的な削除を促す施策を挙げている。また、児童ポルノ対策に関しては、ISP側でユーザーの閲覧を一律に遮断する「ブロッキング」にも言及した。


現行のプロバイダ責任制限法、対象は「権利侵害情報」のみ

 プロバイダ責任制限法は、名誉毀損やプライバシー侵害、著作権・商標権侵害といった情報に関して、プロバイダによる自主的な削除を促すことを目的としたもの。具体的には、プロバイダーが、権利を侵害された者や、逆にその情報を発信した者に対して負う損害賠償責任の範囲を制限する。これにより、誤って権利侵害情報ではないものを削除してしまった場合でも、発信者に対する損害賠償責任を免れる。判断基準や対応手順を示したガイドラインも業界団体によって策定されている。

 ただし、プロバイダ責任制限法が対象としているのは、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害された」という条文にあるように「権利侵害情報」のみだ。児童ポルノやわいせつ物公然陳列、覚せい剤取締法違反など「社会的法益侵害情報」は対象になっておらず、「個別の刑罰法規を除いて、他に対応する法制度は存在しない」という。

 これら社会的法益侵害情報に対する取り組みは、業界団体による「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」や「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」、違法・有害情報の通報窓口である「インターネット・ホットラインセンター」の活動といった自主的取り組みに委ねられているとしている。

 したがって、プロバイダがこれらガイドラインに沿って対応したとしても損害賠償責任を免れるものではなく、判断を誤った場合に法的責任を追及される可能性はあるという。また、「ガイドラインはあくまでも違法性判断の指針を示すものにすぎず、最終的な判断の責任はプロバイダ等に留保されているため、個別の事例において違法か否か悩むケースがみられ、プロバイダ等によって違法性判断の困難性は依然として大きな課題」と指摘している。


「社会的法益侵害情報」に対しても、法律上の責任範囲を明確に

 このような背景から最終とりまとめ案では、「プロバイダ責任制限法の適用を社会的法益侵害情報に拡大し、プロバイダ等が、社会的法益を侵害する違法な情報だと考えて削除したところ、実はその情報は違法ではなかったという場合について、プロバイダ等において違法と信じるに足りる相当な理由があった場合には、削除したことによる発信者に対する損害賠償責任を制限するという方策が考えられる」とした。

 なお、社会的法益侵害情報については、大手プロバイダにおいてはすでに自主的な削除が進んでおり、適用範囲が拡大されたとしても、直ちに削除件数が大幅に増えることは見込めないとの指摘もあるという。また、インターネット・ホットラインセンターによる削除依頼に応じず、違法情報を放置するプロバイダ等に対しては効果が薄いと考えられるとしている。

 しかし、「法的知識や判断能力が十分でない小規模なプロバイダ等や個人の掲示板の管理者等に対しては、法律上も責任の範囲を明確にすることで、自主的対応を促進する一定の効果が期待できる」とし、今後の検討を求めた。


不適切管理の掲示板に包囲網? 自主的削除にインセンティブ

 プロバイダ責任制限法に関してはこのほか、違法情報に対する自主的取り組みにインセンティブを与える「信賞必罰的」な制度も考えられるとしている。

 制度のイメージとしては、普段から違法情報の自主的削除に務めているプロバイダに対しては、違法ではない情報を誤って削除してしまった場合も発信者から責任を問われないようにする一方、「違法情報の存在を認識していながら放置するというように不適切な管理運営を行うプロバイダ等」については、現行法よりも責任の追求を容易化するというものだ。

 具体的には、「被侵害者において当該プロバイダ等が普段から不適切な管理運営をしているという外形的事実を立証した場合には、当該違法情報の流通についての認識及び違法性の認識の有無にかかわらず、責任を負うこととする」。

 なお、このインセンティブ制度については、社会的法益侵害情報と権利侵害情報で差異を設ける理由はないことから、両方を含めた制度設計にすべきとしてる。


現状の児童ポルノ対策は、抑止効果が限定的

 児童ポルノに関する対策としては、民間において促進する自主的取り組みの1つとして、閲覧防止策の検討を盛り込んだ。

 「インターネット上の児童ポルノの流通・拡散の抑止という見地からは、アップロードされている情報を削除することが最も確実」であり、これまでも業界のガイドラインやインターネット・ホットラインセンターの活動により相応の成果が上がっているとしながらも、プロバイダによる自主的削除は基本的に国内サーバーに限られると説明。同センターに通報があった児童ポルノ情報の約3分の1は海外サーバーだったという。

 現在、閲覧防止の手段としては、大手ISPなどではフィルタリングサービスを提供しているが、これはユーザーが自ら設定し、使用に同意した場合に限られる。「児童ポルノ情報の閲覧を希望し、積極的にインターネット上の児童ポルノ情報を探索するようなユーザーは、フィルタリングサービスを提供されても利用も同意もしないのが通常と思われ、こうしたユーザーに対する抑止効果は期待できない」。

 また、検索エンジンにおいては、画像検索でポルノ画像などを除外する「セーフサーチ」機能があり、デフォルトで有効になってる場合が多いと説明。児童ポルノ情報の流通抑制効果はあるとしながらも、やはり、利用するかどうかはユーザーの意志に委ねられており、児童ポルノ情報の閲覧を希望するユーザーに対しての抑止効果は期待できないとしている。

 「現行の取組は、海外のコンテンツへの対応が困難であり、ユーザーの設定や同意を必要とするため積極的に児童ポルノの閲覧を希望するユーザーに対する抑止効果が限定的といった課題を抱えている。」


DNSポイズニング方式などによる「ブロッキング」を提示

 そこで今後取り得る手法として、発信側ではなく、受信側のISPにおいて一定サイトへのアクセスを遮断する「ブロッキング」が考えられるとし、代表的な方式として「DNSポイズニング方式」と「ハイブリッドフィルタリング方式」を挙げている。

 DNSポイズニング方式は、DNSサーバーに対して閲覧規制対象のホスト名でクエリがあった場合に、ダミーのIPアドレスを返すことでアクセスを阻止するもの。ブロッキングとしては一般的な手法で、スウェーデンなど北欧諸国において民間の自主的取り組みとして導入されているという。ただし、ホスト名単位での遮断となるため、児童ポルノ以外のコンテンツが混在しているホストの場合、オーバーブロッキングされる恐れがある。また、ISPのDNSサーバーを経由しなければブロッキングを回避できるという弱点もある。

 ハイブリッドフィルタリング方式は2段階の仕組みでブロックするもので、まず第1段階としてパケットフィルタリングにより、アクセス先のIPアドレスが閲覧規制対象かどうかで選別。該当する場合は第2段階のWebフィルタリングを行い、URLベースで閲覧規制リストに合致する場合に遮断する。DNSポイズニング方式より精度が高いほか、直接IPアドレスを入力したり、ISP以外のDNSサーバーを使うことで回避するのが難しいという。ただし、ISPの通信設備への負荷が大きいことや、「通信の秘密」との抵触が問題となり、ユーザーの同意なく実施することは困難だとしている。なお、この方式は英国において民間の自主的取り組みとして採用されているという。

 これらの検討結果から、最終取りまとめ案では、ブロッキングは児童ポルノの閲覧防止策として期待できるが、課題もあると指摘。今後、海外における運用実態などを調査するとともに、趣旨に賛同するISPの協力により実証実験などを行うことの必要性を訴えている。

 具体的には、「民間の自主的取組を進める産学連携の新たな組織に、児童ポルノ情報対策を進める枠組みを設け、これに警察、総務省などが協力して検討を行っていくことが望ましい」とし、2008年度中に作業部会などを設置、2009年度中には実証実験に着手するなど次のステップに進めるよう関係者間で協力すべきと述べている。


改正児童ポルノ禁止法では、ブロッキングを回避したらクロ?

 なお、26日に開かれた「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の第9回会合では、同検討会のメンバーである楠正憲氏(マイクロソフト技術統括室CTO補佐)が、児童ポルノのブロッキングについて補足説明を加えた。

 楠氏は、児童ポルノを公開しているようなサイトはパスワードがかかっている会員制サイトも多いため、規制対象リストを作成する者が中身を確認できない点があること、また、児童ポルノの流通経路としてP2Pファイル交換ネットワークによる比率が高まっていることを指摘。さらに、積極的に児童ポルノを閲覧しようとしているユーザーに対しては、フィルタリングと同様、ブロッキングも必ずしも抑止効果が期待できるわけではない点も説明した。

 ただし、衆議院で審議中の「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」(児童ポルノ禁止法改正案)との関連で重要になってくるのではないかと指摘する。これは、改正議論では提供目的以外の児童ポルノの「取得」についても、要件を付した上で罰則を設けることも挙がっているためだ。すなわち、仮にそのような罰則を新設する改正が行われた場合、検索エンジンで簡単に児童ポルノにたどり着けてしまう現在のような状況では、たまたま取得したとする場合との区別が微妙だが、ブロッキングが導入されれば、それを回避した時点で取得意志があったことが明らかになるというわけだ。


施策の推進はあくまで「民主導」で

 最終とりまとめ案は150ページに上るボリュームとなっており、海外との連携、コンテンツレイティングの普及促進、家庭・地域・学校を含めた情報リテラシー教育の必要性などのほか、事業者だけでなく、個人のサイト運営者や利用者も含め、誰もが気軽に参加できる国民運動としてインターネット利用環境の整備に取り組む「e-ネットづくり!」(仮称)宣言を提案するなど、内容は多岐にわたる。

 なお、児童ポルノ対策の推進で言及されていた「新たな組織」については、最終とりまとめ案では繰り返しその必要性を述べている。これは「産学の自主的な取組及び啓発活動の結節点となる組織」であり、総務省が策定する「『安心ネットづくり』促進プログラム」の実際の受け皿として機能する「基本的枠組み」だという。

 これは、同プログラムに盛り込まれる施策が「民主導で行われることを想定」しているためであり、具体的には、2008年10月に設立に向けた発表が行われた「『安心ネットづくり』推進協議会」のことを指している。同協議会はインターネット関連企業やPTA団体、識者ら19名が発起人となっており、2009年1月設立予定だ。

 最終取りまとめ案では、「同協議会が、青少年インターネット利用環境整備法の基本理念に則り、その活動を軌道に乗せることにより、「安心ネットづくり」促進プログラムに盛り込まれる諸施策の多くが着実に実施されることを期待したい。また、本来、インターネット利用環境整備の主体は利用者であり、産学連携組織の取組にとどまらず、国民一人ひとりの自覚的取組にまで発展することが究極的な目標であろう」と述べている。


関連情報

URL
  ニュースリリース
  http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/081127_7.html

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( 永沢 茂 )
2008/11/28 17:44

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