拙者はこうしてスポーツ自転車に乗り始めた(後編)


MTBでどこにでも行く

 ロードバイクで走り回っているうちに、さらに欲が出た。サイクリングロード以外の道も、いろいろ走ってみたい。

 それまではある程度キレイな道を選んで走っていた。てのは、拙者は体重超重いし、ロードバイクのタイヤは超細いし、フツーの人よりもパンクの可能性が高いと考えていたからだ。ときには凸凹道や砂利道も短距離走るハメになったが、それでもパンクしないように緊張しつつ注意を払っていた。だからサイクリングロードばっかりに。

 しかし考えてみれば、舗装路でしかもキレイな道ばかり選んでいたら、行けないトコロってあるんだよな、と。実際はそんなこともないのだが、ロードバイクはパンクしやすいかも~とか思い込んでいた拙者は、もっとハードな道でも走れる自転車が欲しくなり、直後、マウンテンバイク(MTB)に興味がわいた。

 ちょっと下調べしてみたら、MTBって技術さえ伴えば登山もできちゃうみたい。自転車による登山と下山。なるほどマウンテンバイクってのはそーゆーことかと思いつつ、どんだけ走るモンなのかをすぐ体験したくなった途端に自転車屋に出向いてセール品のMTBをポチッ……じゃなくて、くださいな、と。SPECIALIZED(スペシャライズド)のStumpjumper(スタンプジャンパー) FSR Comp 2010年モデルを買った。

SPECIALIZED 2010 Stumpjumper FSR Comp。激しく値引きされていたので、いきなりフルサスペンションMTBに手を出してみた速攻でダートロードっぽい道を見つけ、マウンテンバイクで走った。物凄い走破性と意外なほどの乗り心地の良さにビックリ凸凹道も山道も、道なき道も走れちゃう。林のなかを走り抜ける感じは、なーんかフライフィッシングに通じる楽しさがある

 2011年の1月に初めて本格的なMTBに乗ったんだが、もう「すっげぇ~!!」と思いましたよええ。短絡的な思考で「MTB最強」と思った。何しろ、どこでも走れる。歩道と車道の間にある段差なんかも越えられる。ココにも書いたが、思い立ったら道のことなんか気にせず、即座に走り出せる面白さには魔性的なものさえ感じる。

 てなわけで、それからしばらくはMTBにばかり乗っていた。よさそうな場所、興味のある場所へはどこでも出かけた。「自転車で走れるような道なのかな」てな心配は不要。自転車通行禁止でない道ならだいたい走れちゃうんだから、これは走るしかない!!

近所の人工湖付近のダートにて。タイヤが石を弾き葉を踏む音が心地良い。でも獣の鳴き声がしたりするとマジ怖いこれまた近所のトレッキング向きの道。ブロックタイヤとサスペンションで、こういう泥道も安全&快適に走れるのだ興味のあるスポットをMTBで訪れまくり。途中に「悪い道」があってもMTBなら難なく通過して目的地に辿り着ける
奥多摩方面。急坂もMTBが得意とするところ。ロードバイクより高いギア比とやや小径のタイヤで上り坂がラクだとにかく走破性が高いので「あそこに見える場所に行こう」と大胆に走って行けるのが良い。気楽に遊べる自転車だ普段はスリックタイヤ(セミスリックタイヤ!?)で走行。ブロックタイヤより軽快かつ高速で走れる。走破性も上々っす

 MTBに乗って印象的なのは、近くの小さな川を源流まで遡上できたこと。ロードバイクだと絶対通れない川沿いの道をMTBで走行したんだが、恐らくMTBに乗っていなかったらずっと行けなかった場所や風景に多々遭遇。近所にまだまだステキな場所がたくさんあることを知り、なんだか気分がはつらつとした。

 

装備やウェアを楽しむ

 スポーツ自転車に乗り始めた頃は、いろいろなガジェットを試しまくった。サイクロコンピュータから始まり、LEDライト、GPS、フロントバッグにサドルバッグなどなど。前述のGIANT GreatJourney(旧型)~TREK Portlandの頃は、なーんか我ながらイロイロなモノをゴテゴテと自転車に装着して走っていた。

 現在はGARMINのGPSマップ付きサイクロコンピュータやパンク修理用品くらいを携行する程度になった。とは言っても、新しいガジェットやパーツを見つけるとついつい試してしまう。ので、押し入れの自転車関連品保管スペースが徐々にその容積を増したりなんかしている。

 ガジェット~パーツ類にハマることは自分の性格から予想できていた。各種自転車関連ガジェットやパーツは超楽しいっすよ。それぞれ独自の機能性があったりして、自転車に乗るのがさらに愉快化する。そしてまた新たなガジェットやパーツに興味が出てくる。

 しかし拙者的に予想外にハマったのがウェアだ。最初は普通一般のジャージで乗っていた。サイクルジャージじゃなくて、普通の運動用ジャージ。またそのときの正直な考えを言えば「レーパンはナイな。アリエナイ」であった。

 レーパンとは自転車用のスパッツのよーなパンツで、ライクラ的な伸縮自在の生地で立体縫製されていたりする。股間部内側にはパッドが入っていたりして、サドルでお尻が痛くなることを防いだりもする。

 まあソレはイイのだが、レーパン、基本的には「下着をつけずに着るもの」なのである。体の線丸出し。ピチピチ。ムチムチ。モッコリな感じ。イヤ~ンそんなの恥ずかしい~ん☆ とか思ったので「レーパンなどという恥ずかしい感じのウェアなんか絶対着ないんですよええ」と考えていた。さらに「レーパン履いてスネ毛剃る? 完全にアリエマセンから!!」とも思っていた。

 でも結果から言えば、俺とかレーパン超必須だし夏場はスネ毛も完璧に剃らないとね♪ という人になった。現在は夏はビブパンツで冬はビブタイツ派。ビブ、いいっすよ~♪

 なんでレーパンなのかと言えば、第一にパッドが入っているのでホントにお尻が痛くなりにくい。スポーツ自転車に乗り始めて多くの人が悩むのが「お尻が痛い~」ということだと思うが、パッド入りレーパンを履いて、ある程度自分に合ったサドルを使えば、ウソみたいに痛みがなくなったりする。

 それから下半身の動きを全然と言っていいほど妨げないのもレーパンの良さだ。結果、疲れにくくなる。夏用レーパンなら吸汗性に優れ、冬用なら保温性に優れる。さすがに専用ウェアだけあって非常に快適。レーパン以上に快適に走行できるウェアはないように思う。サイクルジャージも同様ですな。

 スネ毛を剃る件だが、これは転倒(落車)に備えてのこと。一度砂利道でゆっくり転倒したんだが、ゆっくり転倒なのに一発でスネ周辺がスリ傷だらけになった。痛くナイけどけっこー血だらけキズだらけ。

 そういうキズを治すには、キズパワーパッドなどを使っての湿潤療法が最適だが、スネ毛があると湿潤療法を行えない~行いにくい。結局、治療に時間がかかってしまい、傷跡が長く残ったりする。拙者はスネ毛状態で転倒した後、完全に傷跡が消えるまで1年以上かかった。それ以来、膝下がないレーパンを履くときはスネ毛を剃っている。……まあ極太足にスネ毛ボーボーだと微妙にアレという見た目からのこともあるんですけどネ。

 レーパンはかなりオススメなんだが、まあ嫌う人もあると思うのでご自由にって感じですな。ただ、アイウェアとグローブは絶対に装着したほうがいい。あ。もちろん、当然、アタリマエだがヘルメットも。

 ヘルメットしてないとコケたとき死ぬ可能性が超高まるし、グローブしてないと手を傷めて日常生活に支障が出る可能性が高まるし、アイウェア(つまりサングラスなど)をしていないと目に虫とかが飛び込んで目を開けなくて事故ってコケて死んだり他人にぶつかって被害を与えて一家離散的な額の損害賠償金支払ったりという諸々の可能性が激UPで深刻と言えよう。

 あと自転車は軽車両なので、車道の左側を走らないと違法。現在は自転車が歩道を走ったり車道の右側を走ったりしている状況がなんとなく黙認されているという雰囲気が否めないが、それで事故を起こしたりすると「道交法違反の無法自転車が事故起こしやがった」ということになる。その状況でヒトに被害を与えていたりすると一発で人生が暗転する可能性がマジ高いので、そのあたりはゼヒ熟考する方向で♪

 

シッカリ補給で楽しくサイクリング♪

 サイクリングしていて「これってマジでヤバい」と思ったのは、熱中症とハンガーノックだ。何もナイところで事故って大怪我~死亡する可能性すらあると思う。

 自転車の熱中症はかなり怖いと思う。走行中なので風を全身に受けられるものの、それでも体温を十分下げられていない。また走行中なので運動中であり、体は発熱中。実際に経験したが「あれ、これ熱中症?」と思ってスピードを落として止まって間もなく、目眩や吐き気がドッと来たりした。止まった場所が運良く公園だったので水をかぶって木陰で安静にし、命拾いしたように思う。

 言うまでもなく走行中は水分補給が必須であり、水分補給をしていれば多くのケースで熱中症を防げる。補給のタイミングは人それぞれだと思うが、拙者の場合は「口のなかが潤っていなかったら補給」であり「汗が頬を伝ったら補給」でもあり「信号待ちなら補給」であり「ボトルに目が行ったら補給」であってナニカと頻繁に補給している。

 熱中症は「寒くない時期」に注意すべきものだが、年中注意しないといけないのがハンガーノック。これは極端な低血糖状態であり、エネルギーが底をついて動けなくなっちゃうのだ。長距離/長時間の持久力を必要とするスポーツで起きがちと思われがちで拙者もそう思っていたが、自転車に乗り始めたばかりだとサクッと簡単に起きたりもするっていうか、拙者はそうであった。

 じつはずーっと前に登山したときにもハンガーノックになった拙者だが、自転車でも登山でも、ハンガーノックにはいくつか共通する症状がある。思考が鈍ったり力が全然出なくなったりする(というかへたり込む)のもそうだが、拙者の場合は「平らなところを見ると無性に横になりたくなる」ということ。ただ、横になると恐らく即眠ってしまって運が悪いと死んでしまうと思われる。

 これを防ぐには、低血糖状態に陥らないよう、こまめに糖分(やそのモト)を補給することだ。1時間走ったらなんか口に入れるくらいのカンジ。飴とかチョコバーとかそーゆー甘いものを食べるのがいいと思う。

 ただ、実際は「今、食べる気分じゃないんだよね~」とか思っちゃうと思う。拙者もちょっと長距離だとか坂が多いだとか、いつもよりキツめの走行じゃないと糖分などの補給はサボりがち。しかし、サボっているとイロイロとツケが回ってきたりする。

 後になって「やっぱ糖分補給は大切」とか思うのは、サイクリングの後半~走り終えた頃。走行後半に「もうすぐ家だ、早く家につきたい」とか思った拙者は確実に補給不足。同じコースを走っても、こまめに補給していれば「もう家か、ちょっと遠回りして帰ろうかな」くらい気分が違うし、出せるスピードも全然違う。

 あとこれは水分でも糖分でも同様だが、補給不足で家に辿りついたときは、なんというか弱まってヘボまってショボまって負けて打ちのめされて暗い気分になりがち。しかし十分な補給ができたサイクリングなら、フツーに出かけるときより帰って来たときのほーが元気だったりしてイーヤッハァ自転車最高っ!! みたいな気分になれる。肉体的にも精神的にも、こまめな補給が本当に大切なんだなぁとか思って止まない拙者である。

 逆に、補給を心がけるとスポーツドリンクや行動食選び~摂取が楽しくなる。よりオイシクて効果のあるドリンクは? もっと安くてウマくてキく行動食は? 的な探求がサイクリングの楽しみのひとつに加わったりする。

 

スポーツ自転車に乗って後悔したこと

 スポーツ自転車に乗り始めて良かったことは多々ある。

 何しろ楽しい。興味本位で気の向くままに、アッチはどうだソッチはどーだと走ってみれば、キレイな景色にエキサイト、これがあるからやめられねえ、的にアップテンポなレジャーとしてハマれる。サイクリング中はどーも脳内にある種の物質とかが分泌されるっぽく、それまでモヤモヤしていた気分もスッと晴れるから不思議だ。

 健康に関しては、自転車、ホントにイイと思う。拙者の場合、前述のように若干のサイズダウンや心肺機能向上、血液検査結果の良好化などを実感できたが、ほかにもイロイロ。オッサンが言うのもナンだが肌つやが良くなったりもした。これは禁煙による効果も大きいと思うが、仕事が忙しいと出がちだった不整脈も激減した。

 それにスポーツ自転車の趣味性の高さ。自転車というハードウェア、そしてそれを扱うこと自体もオモシロイが、その周囲につながる事柄がそれぞれ愉快であり趣味性が強い。別の趣味とリンクしていたりもして、たとえばスポーツ自転車で遠くに出かけて写真やビデオを撮るとか、史跡を巡るとか、おいしいものを探すとか、野良猫と仲良くなるとか、いろいろ。

 愉快ずくめのスポーツ自転車だが、スポーツ自転車の暗黒面もあって、「あ~あ」と後悔することも。

 たとえば、ほかのコトのプライオリティが落ちてしまうこと。「自転車乗りた~い♪」という思いが強くなりまくるので、可能な限り日常のアレコレを後回しにしてしまう。全然片付いていない室内を見て「あ~あ」的な。それが一年続いて「あ~あ」って人も。

 自転車に乗れないと痛恨級の残念感を味わうってのもある。スポーツ自転車で疾走すると、恐らく脳内麻薬とかが出まくっているんだと思う。その脳内麻薬出まくり状態を何度も経験すると、自転車に乗れない日々を我慢できない。春先や秋口の良い季節に雨天が三日も連続すると口がへの字になりがちだという自転車乗りは多い。「あ~あ」ってより「んもぉ~なんだよ~雨なんか降りやがってぇ~雨天爆発しろ!!」くらい鬱憤がたまるようになるのだ。

 あと、拙者の場合は、玄関が狭くなったこと。スポーツ自転車が3台もあって狭い。ペダルが体にぶつかって超痛ぇ。と思ったらハンドルで頭を打った。でも、あと一台、今度はハードテイルMTBが欲しい。あとクロスバイクも。あとCANNO(以下略)。

スポーツ自転車「あ~あ」集。目前に激坂が現れたとき。下り坂なら「やったァ」ですな。激坂大喜びの方々もいらっしゃいますが雨に降られたとき。拙者は「雨メッシュ」など気象情報アプリを使って雨雲が去るのを待つ。雨中を突っ走るのも爽快(だけと危険)ちょー向かい風になったとき。これを喜ぶ人もいるが、強風向かい風ではサイクリングが鍛錬や苦行になってしまうのであった
道に迷ったとき。写真は自宅から50km地点で迷子の図。遠方で迷子になると焦りを通り越してなんだか楽しくなってきたりもする暗いトンネルのなかで砂利積んだダンプカーに迫られているとき。路面には浮き砂。奥多摩とか行くとこういうシチュエーション多々舗装路が突然途絶えたとき。そして無理に突進してパンクするも速攻修理で決して後戻りなどしないのが自転車乗りのJus……tice!?
目的地としていたお食事処がまさかの定休日だったとき。だったらコーラ500ml飲んで補給だ!! そして帰り道になんか買い食いだ!!お目当てのニャンソンがその日に限って居なかったとき。サイクリングロード沿い、なぜか猫ポイントがけっこーあったりするのだ高級スポーツ自転車を玄関に保管したらスポーツ自転車に全然興味ナシの家族に「狭い」と言われたとき。ぼくもそう思いますっ!!

 人によっては「これ以上スポーツ自転車が流行ったらテレビでロードバイクの価格などが紹介されてしまって家庭不和勃発の可能性が高いからスポーツ自転車なんかに乗るんじゃなかったあ~あ」と思っているかもしれない。拙者的に最大級に「あ~あ」だったのは、スポーツ自転車に乗ってしまったがために「もっと早くからスポーツ自転車乗っときゃ良かった」と悔やんだことである。

 スポーツ自転車サイコーなので、一秒でも早く実機に触れて、乗りまくって走りまくって笑顔になりまくってほしい。


スタパ齋藤
1964年8月28日デビュー。中学生時代にマイコン野郎と化し、高校時代にコ ンピュータ野郎と化し、大学時代にコンピュータゲーム野郎となって道を誤る。特技は太股の肉離れや乱文乱筆や電池の液漏れと20時間以上の連続睡眠の自称 衝動買い技術者。収入のほとんどをカッコよいしサイバーだしナイスだしジョリーグッドなデバイスにつぎ込みつつライター稼業に勤しむ。

関連情報

2011/8/16 06:00