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日銀が「中央銀行のデジタル通貨」の技術レポートを公開、ブロックチェーンは必要なのか?

「現金と同等の機能が必要」

(Image: Shutterstock.com)

暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

日銀が「中央銀行発行デジタル通貨」(CBDC)に関する技術レポートを公開

 今週は日本銀行による「中央銀行発行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」にトピックを絞って取り上げる。

 日銀は2日、CBDCの発行に伴う技術的な課題についてまとめたレポート「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」を公開した。現時点ではCBDCを発行する計画はないとしたものの、実証実験などを通して技術観点での実現可能性を確認していく意向を明らかにしている。

 昨今、新型コロナウイルスの影響により各国でデジタル通貨の必要性が議論されている。CBDCは、中国が先行し米国の連邦準備理事会(FRB)でも既に研究が進んでいるため、日本は遅れを取っていると言わざるを得ない状況だ。

 今回発表されたレポートでは、CBDCには現金と同等の機能を持たせる必要があると説明された。要件は2つ、「ユニバーサル・アクセス(Universal Access)」と「強靭性(Resilience)」だ。

 前者については、「誰もがいつでもどこでも、安全で確実に利用できる決済手段」と定義し、電子端末にアクセスすることが難しい子供や高齢者を考慮しなければならないとした。後者については、地震や大雨による災害時でも利用できるように、オフライン決済の機能が欠かせないと説明する。

 これらの要件を満たすために、CBDCが有するべき機能として以下の項目があげられている。


    CBDCの利用対象者が制限されないこと
    子供から高齢層まで幅広い世代が利用できること
    訪日外国人観光客も利用できること
    個人から法人への送金(店舗決済など)で利用できること
    個人間も含めた双方向の送金(P2P取引)で利用できること
    ユーザーのプライバシーを確保すること
    AML/CFTへの対応といったコンプライアンス上の課題を解決すること

 CBDCについて考察する上で、必ずテーマに上がるのがブロックチェーンだ。本レポートでは、ブロックチェーンを活用すると明言はせず「ブロックチェーンを含む分散型台帳技術(DLT)の活用は期待できる」という表現に留めている。また、台帳の管理方法としては「中央集権型・分散管理型」、台帳の管理場所としては「リモート型・ローカル型」が想定されるという。

 日銀は、CBDCを発行する上での懸念点として、利用者の安全性やプライバシーの保護、マネーロンダリングへの対応などをあげている。特に、利用状況を把握することが難しいオフライン決済の場面における課題を強調した。これに対しては、オフライン決済の利用金額に上限を設定する、という解決案が提示されている。セキュリティ面では、使用する端末を定期的に交換する運用方法が検討されているという。

 CBDCは、基本的に政府が発行および管理する通貨として認知されてきた。しかし、本レポートを通して日本銀行は、民間を主体とする決済手段としてCBDCを発行する可能性も示唆している。

参照ソース


    中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題
    [日本銀行]
    Bank of Japan explores prospects of a digital Yen
    [Decrypt]

今週の「なぜ」CBDCにとってブロックチェーンはなぜ重要か

 今週はCBDCに関するトピックを取り上げた。ここからは、「なぜ重要なのか」解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

暗号資産の誕生がCBDCへの取り組みに拍車を掛けた
CBDCに重要なのは世界規模のインターオペラビリティ
CBDCの基盤はブロックチェーンでなくてはならない

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

中銀デジタル通貨にブロックチェーンは活用されるか

 CBDCは元々、デジタル化の波によるキャッシュレス社会の延長に位置づけられ、是非が議論されてきた。2008年にビットコインが誕生し、デジタル通貨としてのステーブルコインの必要性が認知されると、急速に新たな通貨の姿が現実的なものとなっている。

 当然、既存ガバナンスである政府も、通貨を監視化に置き続けるために新たな通貨の開発に着手し始める。その結果生まれたのが、現在議論されているCBDCだ。さらには、サプライチェーンの非効率性や新型コロナウイルスへの対応が後押しし、時代は世界規模のCBDC論争に発展している。

CBDCを活かすためには相互互換性が重要

 CBDCが世界規模で発行されるようになると、その特性を最大限活かすためには、通貨のインターオペラビリティ(相互互換性)が重要になる。そこで欠かせないのがブロックチェーンだ。

 ブロックチェーン上で流通する暗号資産は、現代金融に細分化を引き起こしている。経済活動でまず必要なのは、その経済圏における価値交換をどのように合意させていくかということだ。これは通貨の三大要素であるため、異論はないだろう。

CBDCの発行基盤はブロックチェーンでなければならない

 私は、CBDCの発行基盤はブロックチェーンでなくてはならないと考えている。細分化された金融では、規模に関わらず非常に多くの経済圏が誕生するようになる。その場合、現状の通貨機能では間違いなく対応できない。なぜなら、異なる経済圏を相互に接続することができないからだ。

 全てのCBDCがブロックチェーンを基盤に発行されていれば、異なる価値(価格)になっていようがシームレスに接続することができる。例えば、ビットコインやイーサリアムのプロトコルを使えば、通貨の発行が容易になるだけでなく、異なる通貨同士を簡単に交換することも可能だ。各CBDCの価値はその国の経済活動にのみ左右され、日本のように世界最大の債務を抱えているにも関わらず円の価値は安定している、といった謎現象も起きにくくなる。

 世界規模でCBDCの是非について議論するのであれば、その基盤となる仕組みもグローバルを想定しなければならない。現状、グローバルに統一されたプロトコルは、インターネットとブロックチェーンしか存在しないのだ。

Web3.0の時代はプロトコルが価値を持つ

 ブロックチェーンがなぜ革新的なのか、その1つの要素がこの共通基盤としてのインターオペラブルなプロトコルだ。これを最初に体系的に表現したのが「Fat Protocol」である。Union Square VenturesのJoel Monegro氏による言葉だ。

 Web3.0の時代では、Web2.0との収益構造が完全に逆転する。プロトコルが価値を持ち、アプリケーションはその価値を超えられないのだ(いずれ機会があればFat Protocol理論についても詳しく述べたいと思う)。つまり、共通基盤から外れたアプリケーション(ここでは各国のCBDC)には価値がつかなくなると予想できる。

 日本のような先進国にとって、すぐにでもCBDCが必要になる状況は考えにくい。なぜなら、既存通貨を前提とした経済圏が大きくなりすぎてしまっているからだ。安易にCBDCを発行しようものなら、民間経済への打撃は計り知れないものになるだろう。この点については、日銀の雨宮副総裁も危惧している。

 しかしながら、出口の見えないコロナ禍では引き続き注目のトピックだといえるだろう。

編集部より: 当連載は、第9回(3月末掲載)まで仮想通貨 Watchにて掲載していたものです。第9回以前はこちらからご覧ください

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami