5分でわかるブロックチェーン講座
ステーブルコインUSDCの一部が凍結。影響は急成長中のDeFi市場にまで波及
ブロックチェーンプロジェクトにどこまで非中央集権性を求めるか
2020年7月14日 10:02
米国初、持分をトークン化したファンドが誕生
デジタル資産への投資事業を運営する米Arcaが、米国証券委員会(SEC)に認可されたファンド「Arca U.S. Treasury Fund」の提供を開始した。当ファンドの特徴は、ファンドへの出資者に対して持分に連動する量のデジタル証券「ArCoin」を発行する点だ。
ArCoinはブロックチェーン上に発行されるデジタル証券であり、1単位ごとの持分(出資のリターンを得る権利)に応じて付与される設計となっている。これは、持分のトークン化ともいえるスキームであり、いわゆるセキュリティトークンの一種だ。1940年制定の投資会社法下では初の事例となった。
ArCoinは、イーサリアムのERC-1404を使って発行される。このプロトコルは、証券法に準拠した設計となっている点が特徴だ。また、通常のトークンと同じくユーザー(出資者)が自身のウォレットでArCoinを管理するものの、秘密鍵を紛失した場合に備えて復元できる設計になっている。
なお、持分をトークン化してブロックチェーンで管理するのであって、ファンド自体がトークンに投資するわけではない。ポートフォリオの80%は利子付きの短期国債を対象にするという。ファンドのスキームは先端的である一方、ポートフォリオはローリスクな設計になっている。
参照ソース
ファンド持分をデジタル証券で管理 米SECが認可
[CoinPost]
Arca Offers The First SEC-Registered Fund Issuing Digital Securities
[Arca U.S. Treasury Fund]
ステーブルコインUSDCの一部が凍結
今週は国内外を問わずこの話題で持ち切りだった。世界最大手取引所CoinbaseとCircleによって設立されたCENTRE社の発行する、ステーブルコインUSD Coin(USDC)の一部が、運営元によって凍結されたというニュースである。ブラックリスト関数:Function: blacklist(address investor ***)の実行、という内容だ。
凍結されたUSDCはハッキング被害に合った可能性が高いものであり、CENTRE社が当局からの要請を受けた経緯が背景にある。このニュースが話題になったのは、ブロックチェーンを使って発行されたステーブルコインが運営元によってコントロールされて良いのか、という点だ。
意見は両極端に分かれている。凍結の擁護派は、AML/CFT(マネーロンダリング対策/テロ資金供与対策)の観点から必要な対応であり、エコシステムの更なる発展に貢献するという見解だ。一方の懐疑派は、言うまでもなくDecentralization(非中央集権)の性質を指摘している。
今回の一件は、昨今成長著しいDeFi市場にまで波紋を広げた。DeFi市場の主要通貨として流通しているステーブルコインDaiが、USDCを担保に発行されているためだ。論点は次の通りである。
1.USDCはDaiの生成手段(担保資産)として採用されている
2.仮に凍結されたUSDCを担保にDaiが生成されていた場合、そのDaiの価値はどうなるのか(担保資産に価値がある前提でDaiは発行されている)
3.つまり、USDCに当局の意見が反映されるのであれば、それはDaiにも影響するといえる
4.これはDeFiの根幹を揺るがす事態なのではないか
現状、USDCを担保に生成されているDaiは全体の約12%弱であるため、致命的な影響を与える可能性は低いとされている。それでも、DeFiにとって大きなトピックであることに変わりはないだろう。この後のパートで、改めて「Decentralization」について考察する。
参照ソース
「初のブラックリスト入り」ステーブルコイン1000万円相当に法的機関の凍結措置
[CoinPost]
Why blacklisting stablecoins could undermine DeFi
[Decrypt]
Blocked USDC in Ethereum Address Proves Decentralization Purists Right
[The Difiant]
今週の「なぜ」ブロックチェーンプロジェクトにどこまで非中央集権性を求めるか
今週はファンド持分のトークン化とステーブルコインの凍結に関するトピックを取り上げた。ここからは、トピックを後者に絞って「なぜ重要なのか」解説と筆者の考察を述べていく。
【まとめ】
規制(AML/CFT)と非中央集権性はトレードオフ
MVDという考え方もある
分散化を実現するにはいくつかの方法がある
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
規制(AML/CFT)と非中央集権性はトレードオフ
ビットコインから始まる一連のブロックチェーンプロジェクトは、特定の管理主体を排除した状態での運営を前提としている。管理者が存在しないことで、マイクロペイメントやボーダレス、プライバシーの保護が実現できるからだ。
今回のUSDCの一件では、まさにこの非中央集権性がトピックになっていることから、国内外を問わず白熱した議論が展開された。USDC凍結の擁護派と懐疑派のように、AML/CFTと非中央集権性はトレードオフの関係にあることが多い。
実用最小限の非中央集権性
実際にブロックチェーン事業を運営している身としては、この2つの要素は両方とも考慮しなければならない、という認識がデファクトスタンダードになりつつある。
新規事業を立ち上げる際の考え方に「実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)」というものがあるのは皆さんご存知だろう。これを元にブロックチェーン産業で提唱されているのが、「実用最小限の非中央集権性(MVD:Minimum Viable Decentralization)」だ。最初から完全な非中央集権は困難だが、徐々に分散化させていこうという考え方である。
ガバナンストークンとコンソーシアム型による分散化
実際、DeFi市場でもMakerDAOやKyber Network、Compoundといった有力プロジェクトが、次々とガバナンストークンを発行している。これは、プロジェクトのロードマップを徐々にコミュニティに任せていくための取り組みであり、ガバナンストークンの保有量に応じて意思決定への影響力を調整している。
他にも、一時期話題となったFacebook主導のLibraがわかりやすい。Facebookのザッカーバーグ氏は、現実的な非中央集権性を非常に高いレベルで理解していたため、完全な分散化ではなく100以上の団体からなるコンソーシアム型の運営組織を採用していた。しかしながら、AML/CFTの観点を犠牲にしすぎたため、各国の規制当局から強い反発を受け、ロードマップを大幅に修正せざるを得なかったのである。
Web3.0の時代は、非中央集権が大前提である。これは規制当局によるAML/CFTや中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行がどれだけ進もうとも変わらない。一方で、国という経済圏が存在する以上は、完全な非中央集権性は実現できないと考えるべきだろう。いかに落とし所を見つけていくかがキーポイントとなりそうだ。
編集部より: 当連載は、第9回(3月末掲載)まで仮想通貨 Watchにて掲載していたものです。第9回以前はこちらからご覧ください