5分でわかるブロックチェーン講座

イーサリアムの「燃料」が高騰、過去最高水準に……結果、DeFiは富裕層の遊びに?

DEX(分散型取引所)がついに世界トップ3の座を獲得

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

イーサリアムのガス代が過去最高に

 イーサリアムの取引手数料(Gas:ガス代という)が、過去最高を更新した。「イーサリアム上で稼働するサービスを気軽に利用したい」という観点ではネガティブなトピックだ。背景には、話題の絶えないDeFi市場の盛り上がりが存在する。

 ここ数ヶ月にわたってイーサリアムのガス代が高騰し続け、9月1日時点までに過去最高の11.75ドルに達した。これは、例えば0.01ETH(約350円)を送金する場合でも、手数料に10ドルかかってしまうことを意味する。

 このような状況下では、DeFiを含めイーサリアム上で稼働するサービスを気軽に利用できなくなってしまう。つまり、ガス代の高騰はイーサリアムを我々から遠ざけてしまうのだ。海外でも「DeFiはもはや富裕層の遊びになってしまった」と揶揄されている。

 なお、これに伴いイーサリアムネットワークを支えるマイナーたちは、1時間あたりのマイニング報酬として80万ドルを手にしている。マイナーは、マイニングによって新規に発行されるイーサリアム(ETH)と、形成するブロックに含まれる取引にかかった全てのガス代を報酬として受け取ることができる。そのため、ガス代の高騰はマイナーにとっては嬉しい事態だといえる。

参照ソース


    高騰続くETHのネットワーク手数料、Uniswapでのガス代が歴史的水準に
    [CoinPost]
    Ethereum Transaction Fees Set a Record Once Again as DeFi Becomes Even Pricier
    [CoinDesk]

分散型取引所がついに世界トップ3の取引所に

 DeFi市場の中核を担うDEX(分散型取引所)のUniswapが、世界最大手取引所Coinbase Proの24時間あたりの出来高を上回った。Coinbaseは、CEX(集権型取引所)の第一人者として業界の発展を牽引してきた存在だ。

 Uniswapの24時間あたりの出来高は4億ドルを超えており、これを上回る取引所はHuobi GlobalとBinanceしか存在しない。今まさに、時代の過渡期を迎えているのだ。

 DEXそのものはUniswap登場前よりいくつか存在していたものの、使い勝手が悪く流動性に欠けていた。そのため、取引がなかなか成立せずユーザーも増えないといった悪循環に陥っていたのである。

 2020年に入りDeFi市場が急激に盛り上がったことでこの悪循環から脱却し、今やCEXを含めた取引所トップ3に食い込むまでとなった。

 Uniswapは、誰でも任意のトークンを自由に上場させることができる点が最大の特徴だ。そのため、トークンの発行母体はこれまでのようにCEXに対して高い金額を支払い上場を目指す必要がなくなったのである(株式の上場と同じイメージだ)。

 Uniswapを含むDEXの成長が続く場合、従来の集権型取引所(CEX)は非常に厳しい立場に追いやられるであろう。もちろん、規制当局が介入することでDEXの成長が止まる可能性は考えられるが、本質的にユーザーは便利な方を使うものである。

参照ソース


    Uniswap Moves Billions to Pass Coinbase, Maker in DeFi Metrics
    [Decrypt]
    Defi Platform Uniswap Outpaces Coinbase Pro in Global Trade Volume
    [Bitcoin.com]

今週の「なぜ」イーサリアムのガス代高騰はなぜ重要か

 今週はイーサリアムのガス代高騰とUniswapに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

エコシステムの成長に比例するガス代の高騰
ガス代の高騰はイーサリアムを崩壊させかねない
イーサリアムの成否を占うセカンドレイヤー

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

イーサリアムの強みは強固なエコシステム

 「ワールドコンピュータ」の思想を掲げ2015年にスタートしたイーサリアムは、今やその他のブロックチェーンを圧倒的に凌ぐエコシステムを形成している。DeFiやブロックチェーンゲームなど、話題に上がるブロックチェーンを使ったWebサービスは、基本的に全てイーサリアム上で稼働しているものだ。

 数あるブロックチェーンの中でもイーサリアムを採用する最大のメリットは、形成されたエコシステムが既に他を寄せ付けない規模になっている点だ。ブロックチェーンは、全てのWeb3.0サービスの共通基盤となる。そのため、例えば人気DeFiサービスと互換性を持たせるには、現時点では自らもイーサリアム上にサービスを展開しなければならない。

エコシステムの成長に比例するガス代の高騰

 このようにしてイーサリアムは着実にそのエコシステムを大きくしてきた。しかしながら、その過程でいくつかの解決すべき課題が生じている。その1つが今回のガス代の高騰だ。

 イーサリアムでは、トランザクションを実行する度にガス(Gas)という手数料が発生する。これは、スパムや悪質なbot、DoS攻撃に対策するために必要な仕組みだ。

 ガス代は固定されたものではなく、トランザクションを実行する人物が自由に設定できる。ガスはマイナーが報酬として受け取ることになっているが、マイナーはガスの高いトランザクションを優先して受け入れることができるルールになっている。

 すると、ガス代を安く設定したトランザクションはいつまで経っても実行されない。反対に、ガス代を高く設定すれば瞬時に実行されるということだ。これがガス代の高騰を生み出す1つの要因となっている。先述した「DeFiが富裕層の遊びになっている」という表現は、ガス代を高く設定できる者しかDeFiを利用できないということを意味している。

ガス代の高騰はイーサリアムを崩壊させかねない

 昨今のDeFi市場の盛り上がりを受け、DeFiサービスの利用が急増しイーサリアム上で実行されるトランザクションが増加した。トークンの買い時・売り時を逃したくないトレーダーは、ガス代を高くしてトランザクションを実行するため、自然とガス代が高騰していくという流れになる。

 こうなると、小規模のトランザクションは永遠に実行されないことになる。これでは、イーサリアムはワールドコンピュータどころか全く使い物にならない。たかが手数料といえど、イーサリアムネットワーク全体を崩壊させかねない可能性を秘めているのだ。

ブロックチェーンの次のステップ

 この問題を解決するために、セカンドレイヤー(Layer 2)と呼ばれる仕組みの開発が急ピッチで進められている。これは、イーサリアムなどのブロックチェーンそのものをLayer 1として定義し、その上に形成される新たな仕組みを総称したものだ。

 セカンドレイヤーが成熟することで、イーサリアムは現在よりもはるかに使いやすいブロックチェーンへと進化する。逆にセカンドレイヤーの開発がうまくいかない場合、イーサリアムはガス代の高騰に悩まされ続けることになるだろう。

【編集部よりお知らせ】

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田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami