5分でわかるブロックチェーン講座
国内大手7社による貿易業務のデジタル化、核となるのはブロックチェーン活用
トヨタが社内でデジタル通貨を発行
2020年11月4日 07:56
暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。
国内大手7社が共同で貿易業務にブロックチェーンを導入
国内大手7社が、業界横断で貿易業務のデジタル化を本格化させる方針を明らかにした。NTTデータの運営するブロックチェーンプラットフォーム「TradeWaltz(トレードワルツ)」へ共同出資する。
参画企業は、NTTデータ、三菱商事、豊田通商、東京海上日動火災保険、三菱UFJ銀行、兼松、損害保険ジャパンの7社だ。2024年度までに国内外400社の顧客獲得を目指すという。
現状の貿易業務は、紙ベースの作業が中心となっており、システムへの手入力や倉庫管理などで多大なコストが発生している。昨今のデジタル化の波を受け、これらをブロックチェーンで管理することによるコスト削減や効率化を図る狙いだ。
アナログ・デジタルに関わらず、貿易業務には多くのステークホルダーが存在する。これは国内外問わずであり、決済までに時間がかかったり国際間で異なる仕様になっていたりといった問題が生じていた。ここにブロックチェーンを導入することで統一されたプロトコルを適用させることができ、大幅なコストカットが期待できる。
今回の取り組みは、2017年より実証実験という形で進められており、商用化の目処が立ってきたことから共同出資に踏み切ったとしている。後半のパートでは、本件を効率化の観点から考察する。
トヨタがデジタル通貨の導入へ
トヨタシステムズは、暗号資産取引所を運営するディーカレットと共同で、デジタル通貨に関する実証実験を開始すると発表した。トヨタシステムズ社内の福利厚生における決済処理の自動化に、ブロックチェーンを活用するという。
具体的には、福利厚生として付与されたデジタル通貨を、実証実験用に用意されたカタログギフトや福利厚生ポイントに交換するという処理だ。対象となる社員は2500名以上になり、大規模な実証実験となる。
主に、P2P型の通信におけるスケーラビリティ性や業務との兼ね合いなどが検証ポイントとしてあげられた。ブロックチェーンの実用化を見据えた意図が伺える。日本円との交換は行われず、発行されるデジタル通貨には6ヶ月の有効期限が設けられている。
トヨタでは、「100年に一度の変革期」と銘打った上で以前より「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」という専門組織を立ち上げている。今回の取り組みは、当然グループ全体としての活用を模索してのことだろう。
トヨタによる動きなだけあって、今回の発表は海外のメディアでも数多く取り上げられていた。日本では、これまでにソニーやホンダといった大手企業が、モビリティ活用の文脈でブロックチェーン導入に取り組んでいる。
今週の「なぜ」貿易業務にブロックチェーンはなぜ重要か
今週は国内企業7社による貿易業務のブロックチェーン活用に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
【まとめ】
Web3.0はブロックチェーンを基準に周辺システムを構築
ステークホルダーが多くなるほどブロックチェーンは効果を発揮する
ブロックチェーン活用は基本的に効率化目的
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
Web3.0はブロックチェーンを基準に周辺システムを構築
先述の通り、貿易業務には国内外問わず多くのステークホルダーが存在する。そのため、各業務も複雑になり自然とコストも肥大化していくのだ。これらを背景に、元来ペーパーワークであったものをデジタル化するのは骨が折れるといえるだろう。
貿易に限らず企業間で調整が発生するような場面では、ブロックチェーンが大いに活躍する可能性を秘めている。ブロックチェーンは、サーバとデータベースが一体となった共通プロトコルであるため、このプロトコルに従ってワークフローを組んでいけば良い。
従来は、各企業ごとに意見を主張し折り合いをつけること自体困難であったが、ブロックチェーンであればそもそもそういった議論は発生しない。企業間で使用する共通部分はブロックチェーンで、各社で必要な部分はブロックチェーンに対応した周辺システムを個別に開発すれば良いのである。
ステークホルダーが多くなるほどブロックチェーンは効果を発揮する
今回発表されたNTTデータのTradeWaltzは、まずは貿易業務をデジタル化するために使用されるものの、マネーロンダリング対策や税務対応を効率化する業務も想定して開発されている。これは、将来的に貿易だけでなく保険や物流といった他分野にも横展開できることを想定しているためだ。
複雑かつ膨大な作業が発生する場面では、サプライチェーンの途中で情報を追跡できなくなったり不正に書き換えられていたりといった問題が発生してしまう。こうした問題の解決は、情報の改ざんが難しく透明性に優れたブロックチェーンの得意分野だ。
従来は、異なる企業がそれぞれに開発したシステムを、その都度カスタマイズされたAPIなどで半ば無理やり接続していた。これから新しく構築されるシステムでは、共通プロトコルであるブロックチェーンが採用されるのは当然の流れといえるだろう。
ブロックチェーン活用は基本的に効率化目的
今年のダボス会議(世界経済フォーラム)では、貿易業務のデジタル化フォーラムが開催された。TradeWaltzのロードマップによると、2021年度より「貿易取引の完全ペーパーレス化実現」を、2022年度からはそれらのさらなる高度化を目指すという。
NTTデータは、TradeWaltzの実用化が進むことにより貿易に関わる全ての業務を電子データで管理することができるようになると主張している。これにより、貿易業務の作業量を50%程度まで削減することも可能だという。
昨今話題の中心にある暗号資産を除けば、ブロックチェーン活用は基本的に既存システムの効率化に収束する。今回の取り組みのように、少しずつ事例が増えていくことによりブロックチェーンの社会実装は進んでいくだろう。
どこかのタイミングで突発的に導入が進むわけではないが、気づいた人から徐々に取り組みを開始している印象を受ける。激動の2020年を経て2021年は更なるデジタル化が進み、ブロックチェーンの導入事例も指数関数的に増大していくことが予想される。
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