5分でわかるブロックチェーン講座

スイスでブロックチェーンに法的効力を認める法律が施行。マスアダプションが一気に加速。

米国ではDAOを法人として認める法案も

(Image: Shutterstock.com)

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

スイスがブロックチェーンの法的効力を認可

 暗号資産・ブロックチェーンに友好的なことで知られるスイスが、「DLT Law」と呼ばれる新たな法律を施行した。デジタル証券(セキュリティトークン)をブロックチェーン上に発行する際に、法的効力を認めるものとなっている。

 今回施行された分散型台帳技術関連法(DLT Law)では、デジタル証券を新たな金融アセットとして認可することで既存証券と同様に取り扱うことになるという。これは、ブロックチェーンが法的な効力を持つようになったことを意味する。

 これまでは、ブロックチェーン上に発行されたアセットだとしてもその所有権を法的に示すことはできなかった。DLT Lawによって、ブロックチェーンに所有権が記録されていれば、そのアセットの所有者であることを法的に主張することができる。

 つまり、第三者による所有権の証明が必要なくなるのだ。分散型台帳としてのブロックチェーンにとって、この意味合いは非常に大きいものがある。

 今回の法改正に伴いCrypto Financeというスイスの企業が、既に不動産やその他の高級品をトークン化しブロックチェーンによってその所有権を管理する取り組みを開始している。

 今後は、様々なリアルアセットがセキュリティトークン(デジタル証券)という形でブロックチェーン上に発行されることになるだろう。ブロックチェーンのマスアダプションが一気に近付いたといえる。

参照ソース


    Sygnum Bank and Fine Wine Capital issue first tokenized asset under new Swiss DLT law
    [Sygnum Bank]
    SEBA Bank is issuing its Series B equity as security tokens
    [SEBA Bank]

米国でDAOを法人として認める法案が提出

 米ワイオミング州で、自律分散型組織(DAO)の法人化を認める法案が提出された。可決された場合、全ての意思決定がスマートコントラクトで自動実行される次世代の会社が誕生することになる。

 早ければ2021年7月にも施行される予定の本法案では、DAO(Decentralized Autonomous Organization)を法人として認める内容が盛り込まれた。ワイオミング州は、米国の中でも規制産業に積極的なアプローチを行なっている。

 2020年9月には大手暗号資産取引所Krakenに対して、米国初となる暗号資産銀行としてのライセンスを付与し大きく話題となった。今回の法案は、ブロックチェーンなどの先端テクノロジーを担当するイノベーションワーキンググループから提出されている。

 米国の強みは、各州が比較的独立して法制度を整備できる点にある。今週はこの点とDAOの重要性について後半パートで考察していきたい。

 なお、気になるDAOの法的な定義だが、有限責任会社として扱われることになるという。株式会社における「Inc.」や「Ltd.」のような表記は、「DAO」や「LLC」が用いられるとのことだ。

 株式会社の場合、定款に定めた内容に従って事業を展開し、事業内容を変更する際には定款の書き換えも求められる。DAOの場合は、設立時に定義したスマートコントラクトを変更する際に、合わせて定款の変更が必要になるという。スマートコントラクトで全てが完結する仕組みとしては、理にかなった良く考えられている法案だといえるだろう。

参照ソース

今週の「なぜ」DAOと規制特区はなぜ重要か

 今週はスイスで施行されたDLT Lawと米ワイオミング州のDAO法人化法案に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

DAOはオープンソースプロジェクトに必要な仕組み
DAOはガバナンストークンによって管理される
規制は0か100ではない

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

DAOとオープンソースプロジェクト

 まずはDAOの重要性について考察したい。DAOは、スマートコントラクトという予め定義されたプログラムによって、あらゆる意思決定が自動実行される新たな組織の形だ。

 全てが自動実行されるため、当然ながら複雑な仕組みにすることは推奨できないものの、特定の管理者による恣意性を排除した形で契約を実行したい場合には適している。例えば、金銭の貸し借りや選挙などの投票が発生する場面があげられるだろう。

 このDAOが、昨今はオープンソースプロジェクトを運営する際に使用されている。オープンソースプロジェクトには特定の管理者が存在しないため、DAOのような仕組みが適しているのだ。

 特に金銭のやり取りがメインとなるDeFi市場で積極的に導入されており、DAOにおける意思決定への影響力を「ガバナンストークン」と呼ばれるもので制御する仕組みも出てきている。

DAOの影響力を示すガバナンストークン

 ガバナンストークンとは、文字通り組織の意思決定を左右するために使用されるトークンだ。ガバナンストークンの保有量に応じて、組織への影響力が変動する仕組みになっている。株式会社における議決権をトークンで表現したものといえるだろう。

 例えば、ステーブルコインDaiを発行するMakerDAOは、DeFi市場におけるDAOの元祖のような存在だ。MakerDAOにおける意思決定は、ガバナンストークンMKRの保有者によって下されている。

 Web3.0の時代におけるプロジェクトは基本的にオープンソースが前提になるため、DAOやガバナンストークンといった仕組みが必要不可欠になると考えている。こういった未来を見越して、a16zやUnion Square Venturesといった著名ファンドが以前よりガバナンストークンへの投資を積極的に行なってきた。

 ガバナンストークンへ投資することで保有量を増やし、将来的に規模が拡大したDAOへの影響力を強めたい方針だろう。

日本と世界の規制に対する考え方

 DAOやガバナンストークンの仕組みは、正直なところ現時点ではグレーな点が数多く存在していると言わざるを得ない。ブロックチェーンの世界は基本的に匿名性になっているため、マネーロンダリングやテロ資金供与の温床になりやすいという意見も間違ってはいないだろう。

 こういった文脈で、とりあえず全て一律に規制してしまうのが日本という国だ。日本は0か100かといった考え方に偏る傾向が強く、イノベーションをうまく引き出すことができていない。

 一方で米国では、各州にある程度の権限を与えて特定の地域内でのみ認められる法律を整備している。今回のワイオミング州の例がまさにそうであり、他にもハワイ州が今年に入って暗号資産サンドボックス制度の積極拡大を発表していた。

 国家全体としては守りの姿勢を維持つつ、一部の地域で特区を設けることにより攻めの姿勢も出していく。規制産業ではこのようにしてイノベーションが生まれるため、日本でもこの考え方は積極的に取り入れてもらいたいところだ。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami