5分でわかるブロックチェーン講座

次世代Webブラウザ「Brave」が分散型金融(DeFi)に注力、東京五輪の開催確率は60%?ブロックチェーン活用の予測市場が開設

ブロックチェーン業界におけるマネタイズのスキームを考察

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

次世代WebブラウザBraveがDeFiへ注力

 次世代WebブラウザBraveが、プロジェクトの事業計画を更新したロードマップ2.0を公開した。分散型金融(DeFi)への注力を強調し、ウォレットの刷新と分散型取引所(DEX)機能の提供を開始するとしている。

 Braveはプライバシー性能に強みを持つブラウザであり、Webサイトに実装されているトラッキングのためのタグをブロックすることで、結果的にWeb広告を非表示にしたり表示速度を高めるなどの新たなユーザー体験を提供している。

 今回公開されたロードマップ2.0では、昨今注目のDeFi市場への注力を明らかにした。具体的には、DEXを実装することでWebブラウザにログインしているアカウントを使って暗号資産の取引や管理ができる状態を目指す。

 現状、暗号資産を管理するにはウォレットのアカウントを作成する必要があり、暗号資産を取引するには取引所のアカウントが必要になる。これがBraveアカウントに集約されることで、普段使用するブラウザにだけログインしておけば全て完結するのだ。

 これは、ブロックチェーン業界におけるスーパーアプリを目指す戦略だと言えるだろう。1月には次世代通信プロトコルIPFSへの対応も発表するなど、積極的な開発が進められている。

 ブロックチェーン業界では、主な営利企業として「取引所」「ウォレット」「その他」の3つに分類される。取引所は文字通り暗号資産の取引サービスを提供しており、ほとんど唯一マネタイズに成功している事業領域と言っていいだろう。

 取引所よりも先に登場していたのがウォレットだ。文字通りユーザーが暗号資産を管理するための機能を提供するものだが、長年ウォレットのマネタイズは全くできていない状態が続いていた。

 ところが近年、ウォレットが取引所事業に勢力を伸ばしつつある。今週の後半パートでは、暗号資産・ブロックチェーン業界でマネタイズするためのスキームとして、取引所とウォレットがしのぎを削っている昨今の情勢について触れていきたい。

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東京五輪の開催有無を予測する市場が登場

OLY2021

 暗号資産デリバティブ取引所FTXが、東京オリンピックが開催されるかどうかの予測市場を開設した。予測市場はデリバティブ取引市場として位置付けられ、実際にオリンピックが開催された場合は1ドルに、開催されなかった場合は0ドルに契約価格が着地する仕組みとなっている。

 予測市場(Prediction Market)とは、群衆の知恵を活用することで将来に起こるであろうことを予測するメカニズムだ。米Googleなどでは、経営の意思決定に従業員からの知恵を借りた予測市場を活用している。少数の経営陣による意思決定よりも、多数の従業員による予測市場の方が正確かつ優れた意思決定を行うことができるという調査結果も出ているようだ。

 予測市場にブロックチェーンを活用することで、予測が的中した場合にスマートコントラクトで自動的に報酬の支払いを行うことが可能となっている。FTXは、過去に米大統領選挙の予測市場も開設しており、トランプ氏かバイデン氏のどちらが当選するかの予測市場を提供していた。

 なお米国大統領選挙については、2024年に再びトランプ氏が当選するかどうかの予測市場が既に開設されている。現時点(3/1)では0.1ドルとなっており、全体の9割が再選しないと予測している。

 今回の東京オリンピックに関する予測市場では、8月9日までに15以上のメダルが授与されることが判断基準となっている。現時点では0.605ドルとなっており、開催されると予測する人がやや多くなっている状況だ。

 従来の予測市場は、胴元が不正を行なっていた場合でも追求することが難しく、市場の参加者が不利な状況に陥っていた。ここにブロックチェーンを導入することで、胴元を排除した形で市場を開設することができる。

 報酬の支払いもスマートコントラクトによって確実に実行される点は特徴的だろう。FTX以外にも、AugurやGnosisといったプロジェクトが予測市場を提供している。

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今週の「なぜ」ウォレットの取引所事業参入はなぜ重要か

 今週はBraveのロードマップ2.0やFTXの東京オリンピック予測市場に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

取引所とウォレットはお互いにシェアを奪い合う関係になった
本人確認の有無で大きな違い生まれることに
ウォレットはDeFi市場の成長を受けマネタイズに成功した

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ウォレット事業に染み出す取引所

 ビットコインやイーサリアムのようなパブリックブロックチェーンの場合、不特定多数のノードをネットワークに巻き込むために、インセンティブとしての資産が必要だ。こうして誕生したのが暗号資産であり、因果関係としてはブロックチェーンのために暗号資産が存在することになる。

 そのため、ブロックチェーン業界で営利事業を行うには自然と暗号資産を取り扱う必要が出てくる。そこで誕生したのがウォレットであり取引所だ。長らくウォレットがマネタイズを実現できなかったのに対し、取引所は急激に事業規模を拡大してきた。

 BinanceやCoinbaseをはじめとする大手取引所は、獲得した利益を再投資する形でウォレット事業に参入し、取引所と接続することで既存ウォレットのシェアを奪いつつあったのだ。

 ところが近年、この情勢が逆転しつつある。取引所がウォレットサービスを提供しようにも本人確認(KYC)などの規制がネックとなり、高いUXを提供できない状況となっている。

取引所事業に染み出すウォレット

 これに対して、ウォレット側は地道なアップデートを繰り返してきたことで高いUXを実現することができており、このUXを持って取引所事業に参入している。具体的には、これまでユーザーの資産を管理するための箱でしかなかったものが、そこに取引所機能を実装することでウォレットから直接取引ができるようになったのだ。

 両者の違いとしては、事業者が秘密鍵を管理するか否かだ。取引所の提供するウォレットは取引所内に存在するウォレットになるため、ユーザーの資産を預かる形で管理している。この場合、AML/CFTの観点から本人確認が必須となるのだ。

 一方の既存ウォレットは、元々の役割としてユーザーが自身で資産を管理しつつ、そのインターフェーズだけを提供していた。つまり、ユーザーの資産を預かっているわけではないため、本人確認が必要ないのだ。

 この違いが大きな差として表れたのがDeFiである。

DeFi市場の成長にあやかるウォレット

 DeFi市場では、基本的に全ての取引が匿名で行われる。ユーザーはウォレットを各種DeFiサービスに接続することで取引を行うが、このウォレットが取引所ものだと接続することができないのだ。

 実際、ウォレットと取引所の勢力図が逆転し始めたのはDeFi市場の盛り上がりが本格化し出した2019年頃となっている。このトレンドにいち早く気付いた海外の大手取引所Coinbaseは、取引所と別でウォレット事業を本格化させ、DeFi市場に接続できるよう開発を進めていた。

 さらに、DeFi市場の基軸通貨となるステーブルコイン(USD Coin)の開発も行なっており、抜かりない事業展開を見せている。

 今回紹介したBraveは、以前より従来型のウォレット機能を実装していた。ここに取引所機能を追加することで、DeFi市場への参入を狙う姿勢を見せている。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami