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「DeFiは金融業界にパラダイムシフトを巻き起こす」米中央銀行が分散型金融(DeFi)の調査レポートを公開
Forbesが優れたブロックチェーン企業を選出
2021年2月17日 06:55
暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。
FRBがDeFiレポートを公開
中央銀行に相当する米連邦準備制度理事会(FRB)の地区連邦準備銀行であるセントルイス銀行が、分散型金融(DeFi)に関する調査レポートを公開した。DeFiは金融業界にパラダイムシフトを起こすと言及されており、中央銀行に相当するFRBからの取り組みということもあって大きく話題を集めた。
調査レポートでは、下図のようにDeFiをレイヤー構造に分解して説明している。DeFiを説明する際にはよくレゴブロックが用いられるが、レイヤーごとに特徴や役割を掴むことが重要だ。
これは、インターネットの通信モデルを定義する際に使用されるOSI参照モデルに近い考え方だと言えるだろう。これまでにもいくつかのレイヤー構造モデルが定義されてきたが、今回のFRBレポートでも独自の図式が作成されている。
・Settlement layer(決済層): ブロックチェーンとネイティブアセット(例:ビットコイン、イーサリアム)で構成されている。ネットワークはアセットの所有権を保証し、決済とコントラクトの実行を担う
・Asset layer(資産層): 決済レイヤーで発行される全てのアセットで構成されている。これには、ネイティブアセットと追加アセット(一般的にはトークンと呼ばれる)が含まれる
・Protocol layer(プロトコル層): DEXやレンディング、デリバティブ、オンチェーンアセット管理など特定のユースケースのために整備されている。通常はスマートコントラクトによって制御され、このレイヤーの各プロトコルはインターオペラブル(相互互換性)である
・Application layer(アプリケーション層): プロトコルに接続するためのインターフェース。通常はWebブラウザによってアクセスされる
・Aggregation layer(アグリゲーション層): アプリケーション層の延長線上にあり、複数のアプリケーションやプロトコルをまとめて管理する。異なるアプリケーションやプロトコルに同時接続することにより、最適なサービス体験を提供する
レポート内では、DeFiが既存の集権型金融サービスよりもなぜ優れているのかについてや、現状のDeFiが抱える課題やデメリットについても解説されている。今週は、昨今話題のDeFiについて後半パートで考察していきたい。
参照ソース
Decentralized Finance: On Blockchain- and Smart Contract-Based Financial Markets
[セントルイス銀行]
Ethereum: The Digital Finance Stack
[David Hoffman氏ブログ]
Forbesが優れたブロックチェーン企業を選出
米メディアForbesが、優れたブロックチェーン企業を選出する「Forbes Blockchain 50」を発表した。今年で3回目となるが、3年連続の選出となった企業は12社にとどまっている。いかに変化の激しい業界であるかがわかるだろう。
過去2回との大きな違いとしては、ブロックチェーン特化型企業の選出数が減った点があげられる。特化型企業の3年連続の選出はCoinbaseのみとなっており、世界的にブロックチェーン事業に参入する企業が急増していることの表れではないだろうか。
国別の傾向としては、過去2回は欧米が全体の9割以上を占めていた中で、今年は中国を含むアジアの台頭が目立った。中国におけるブロックチェーン国家プロジェクトBSNへの参画企業が多く選出されており、世界のブロックチェーン動向の中心にいることがわかる。なお、残念ながら日本企業の選出はない。
業界別の傾向としては、3年連続で金融業界から最も多くの企業が選出された。これは、ブロックチェーンが金融のための技術として発明された点から納得できるだろう。注目すべきその他の業界としては、サプライチェーンや製造業があげられる。
本連載でも、これまでにサプライチェーンにおけるブロックチェーン活用の取り組みは何度か紹介してきた。具体的には、トヨタやホンダが参画するモビリティ領域の国際団体MOBIや、コカコーラのCONA、NTTや三菱商事などが出資する貿易領域のTradeWaltz、日立製作所とみずほのサプライチェーンファイナンスなどがあげられる。
これらに共通するのは、いずれも一社独占での事業展開ではない点だ。2021年の見通し記事でも触れたが、今年はコンソーシアムの設立が相次ぐことを予想している。これは、ブロックチェーンの性質上、複数社に跨る事業を展開する際に、ブロックチェーンが最も大きな効果を発揮するためだ。
サプライチェーンや製造業は一社で行える事業ではないため、ブロックチェーンと相性が良いと言える。今回選出された企業の中では、ウォルマートやLVMH(ルイヴィトン運営)などがこの領域を牽引している。
参照ソース
Blockchain 50 2021
[Forbes]
今週の「なぜ」DeFiのレイヤー構造はなぜ重要か
今週はFRBセントルイス銀行のDeFiレポートやForbes Blockchain 50に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
DeFiは金融を真に民主化する
DeFiはBaaS(Banking as a Service)を象徴する
DeFiのレイヤー構造はデメリットにもなる
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
DeFiの本質は金融包括
DeFiは真に金融の民主化と言われ注目を集めている。その理由として主に2つをあげたい。1つは、DeFiの本質が金融包括にある点だ。
昨今のDeFiは、トークンの価格が不必要に高騰してしまっているために投機需要が目立っているが、本質は金融包括だ。既存の集権型金融の場合、事業者は利益を目的にサービスを提供するため、一定以上の所得や社会的な信用を有している層しか対象にしない。
私自身、起業以前は大企業に勤めていたものの、起業直後は銀行口座が開設できなくなったりクレジットカードが作れなくなるという経験をした。DeFiであれば、こういった不都合は発生しない。
2つ目の理由にも関係するが、DeFiサービスは開発・運営する際のコストが劇的に安く、ほとんど非営利事業として展開できるため、顧客を選ぶ必要がなくなるのだ。まさに金融包括そのものだと言えるだろう。
DeFiとBaaS(Banking as a Service)
2つ目は、金融サービス開発の民主化だ。今回紹介した調査レポートのレイヤー構造からもわかる通り、DeFiの各サービスは全てスマートコントラクトで接続することができる。
細かい名称の違いはあるものの、DeFiのレイヤー構造を定義した最も知られている図式が下記のものだ。こちらは2019年7月にDavid Hoffman氏によって作成されたもので、各レイヤーにどういったプロジェクトが存在しているかが紹介されている。
イーサリアム上には既に無数のDeFiサービスが存在しており、これらが全てスマートコントラクトで繋がっている。これをコンポーザビリティというが、既存の集権サービスで同じことを実現しようとすると、個別のAPI開発が必要だったり、そのためのアライアンス交渉やサービスごとに本人確認や審査が発生したりする。
このトレンドは、BaaS(Banking as a Service)などとも呼ばれているが、DeFiがまさにその最たるものだと言えるだろう。金融機関を作らずとも、何か一つの金融機能を作ってしまえば足りない機能は他のDeFiサービスに繋ぐことで瞬時に補完できてしまうのだ。
DeFiの抱える課題とデメリット
一方で、当然ながらDeFiにもデメリットや課題は存在する。まずは先述のコンポーザビリティがデメリットとしても作用する点があげられるだろう。例えば、どこかのレイヤーでトラブルが発生した場合に、その上に構築されている全てのレイヤーに被害が及ぶ可能性があるのだ。
これはスマートコントラクトで全てが接続されているがために発生する問題であり、以前より指摘されていた。その他にも、各DeFiサービスを接続および制御するためのスマートコントラクトに関する課題があげられる。
スマートコントラクトといえど結局は人間が定義するものになるため、そこにはヒューマンエラーが必ず発生する。人間がやることに100%はないのだ。また、開発者ではない人はプログラムを読むことができないため、DeFiサービスの潜在的なセキュリティリスクを評価することができない点も課題だろう。
この点はFRBのDeFiレポートでも指摘されており、DeFi専用の監査や保険サービスも出てきているが、完全にリスクを排除することはできないとしている。