5分でわかるブロックチェーン講座

2021年のブロックチェーン業界を見通す
~「テクノロジー・ビジネス・規制」の観点から~

既に社会実装フェーズから実用化フェーズに

(Image: Shutterstock.com)

 新型コロナウイルスにより予期せぬ1年となった2020年が終わり、引き続きのコロナ対策および経済政策が求められる2021年を迎えた。ブロックチェーン業界も13年目に突入し、既に社会実装フェーズから実用化フェーズへと突入しているような状況である。

 本稿では、2021年のブロックチェーン業界のトレンドを「テクノロジー」「ビジネス」「規制」の3つに分類して考察していく。著しく変化の激しい業界ではあるものの、これまでの経験を活かして事実ベースで可能な限り現実的な考察となるよう努めたい。

 ここで言及した項目については、弊誌連載でも折に触れて言及していく予定だ。

テクノロジートレンド:イーサリアムの大型アップデート、異なるブロックブロックチェーンを繋ぐインターオペラビリティ……

 まずはテクノロジーについてだ。ここでいうテクノロジーとは、ブロックチェーンそのものに対する開発状況を意味する。現状、ブロックチェーンはインターネットのようにマジョリティに広がっているとは言い難い。これには、ブロックチェーンの核となる機能がまだまだ開発中であることが大きく影響している。

 なお、一口にブロックチェーンといっても多岐にわたるが、本来のブロックチェーンが意味するものは、動かすのに暗号資産(マイニング)が必要なパブリックチェーンだ。従って、ここではパブリックチェーン(例:ビットコインやイーサリアム)を対象に言及していく。いわゆるプライベートチェーンなどは後述の「ビジネス」カテゴリで考察したい。

イーサリアムが次のフェーズへ

 我々が普段ブロックチェーンという言葉で暗に意味しているのはイーサリアムだ。ブロックチェーンといっても、ビットコインやイーサリアム、Polkadot(ポルカドット)のようにいくつか種類が存在する。

 そんなイーサリアムが、2020年に過去最大のアップデートに成功した。「イーサリアム2.0」と称される開発プロジェクトでは、現状のイーサリアムが抱える処理性能の低さを解決するために開発が進められている。

 Web3.0を実現するにはイーサリアムの処理性能を高める必要があるため、米国を拠点に世界中の開発者がこれに取り組んでいるのだ。2021年は、イーサリアム2.0における4段階からなる大型アップデートの残りの3つが予定されている。

・フェーズ0:Beacon Chainの稼働、ステーキングの開始(2019年に実装済み)
・フェーズ1:Shardingの実装、シャードチェーンのテスト稼働(2021年に実装予定)
・フェーズ1.5:シャードチェーンのメイン稼働、PoSへの移行開始(2021年に実装予定)
・フェーズ2:シャードチェーンのフル稼働(2021年以降に実装予定)

 世界的にも、ブロックチェーンを使った事業がまだまだ少ないのは、後述する規制の影響とイーサリアムの処理性能が低いことでほとんど説明できる。2021年にイーサリアム2.0が完了すれば、それはWeb3.0の到来を意味すると言っても過言ではないだろう。

異なるブロックチェーンを繋ぐインターオペラビリティ

 そんなイーサリアムだが、これまでもこれからも大型アップデートを繰り返すことになっている。これまでの遅れを鑑みると、いささか未来への懸念が拭えていないのも事実だ。そんなイーサリアムを横目に、昨今はいくつかのプロジェクトが別のブロックチェーンにシステムを移行する様子が目立ってきている。

 厳密には、イーサリアム上でもサービスを稼働させつつ別のブロックチェーン上でも稼働させるといった具合だ。具体的には、Binance Smart ChainやSolanaといったブロックチェーンが知名度を上げてきている。

 ここで問題となるのが、エコシステムの分断だ。現状、例えばイーサリアムとSolanaには互換性がなく、それぞれで稼働しているサービスで取り扱うアセットを相互に移動させることができない。

 この互換性のことをインターオペラビリティというが、異なるブロックチェーン同士は現状インターオペラビリティを有していないのである。わかりやすくいうと、イーサリアム上ではビットコインを管理できず、ビットコイン上ではイーサリアムを管理できない。

 この問題に取り組んでいるのが、PolkadotやCosmosというプロジェクトだ。これらは、複数のブロックチェーンを繋ぐハブとしての役割を持つ。仮に、イーサリアム2.0の開発に遅れが生じる場合、他のブロックチェーンが市民権を得るようになることが予想される。

 そうなった場合、PolkadotやCosmosという名前を目にする機会も多くなるはずだ。

ビジネストレンド:CDBCの商用化、エンタープライズブロックチェーン、セキュリティトークン

 続いてはビジネスについてだ。ここでは、2021年に一定の市場を作り出すであろうトピックについて取り上げる。ビジネスという括りにしたため、これらのトピックでどのようにマネタイズできるのか考察していきたい。

CBDCは商用化フェーズへ

 CBDC(中央銀行デジタル通貨)は、2019年のLibra誕生と共に中国が世界の最先端をいくようになった。日本や米国では2020年に入って議論が進んだが、いずれも発行には至っていない。

 中国では既に実証実験を終え実用化のフェーズに入っていることから、2021年は商用化が現実のものとなるだろう。対する米国では、デジタル通貨に関心の薄かったトランプ氏に代わり、この分野に意欲的なバイデン氏が旗を振ることになったため、2021年中に何かしらの意思決定が確認できると考えている。

 我が国日本では、CBDCの是非に関する議論を2021年中に開始すると表明している。発行が具体化されるのは2022年以降だと言い切ってよさそうだ。

 CBDCがなぜここまで注目されているのか、理由の一つはやはりそこに巨大な市場が形成されるからだろう。イメージしやすいのが、CBDCに関する開発リソースの需要だ。CBDCを軸にした決済システムがローンチされる場合、民間もそれに対応しなければならなくなる。

 日本企業の多くは、未だ当たり前のようにITシステムの外注文化が根強く残っている。CBDC人材を多く抱えることで、一定の事業を作り上げることができそうだ。

マネタイズの中心はエンタープライズブロックチェーン

 CBDCを含む、法人向けのブロックチェーンソリューションを提供するのがエンタープライズブロックチェーンと呼ばれる領域だ。CBDCは必ずしもブロックチェーンを使うわけではないが、先を行く中国のCBDCではブロックチェーンが採用されている。仮に米国がブロックチェーン基盤のCBDCを発行する場合、日本もこれらに合わせる必要が出てくるだろう。

 企業がブロックチェーンを使って何かビジネスを行う際には、一社で独占して取り組もうと考えない方が良い。ブロックチェーンは、データを分散的に管理する仕組みであるため、クローズドな形態でできることはたかが知れているのだ。

 この前提の元に、2021年に盛り上がりそうなのがコンソーシアムの設立だ。2020年にも既に不動産や物流などの領域でコンソーシアムが立ち上がっている。具体的には、ブロックチェーンはパブリックなものを使って、それを中心となって管理するのがコンソーシアムという形だ。

 ブロックチェーンに限らず、自社だけでできることに限界がきた場合、アライアンスという形で他社を巻き込んで事業を拡大してきたのは言うまでもない。この際、データの管理方式や権限の設定がネックになることが少なくなく、なかなかスムーズに事業を進めることができていないのが現状だ。

 ブロックチェーンであれば、プロトコルに従ってデータを管理し、権限を自由に設定できるようカスタマイズすることで従来の問題は容易に解決できるだろう。

巨大な潜在市場を持つセキュリティトークン

 2020年5月に施行された改正金融商品取引法により、日本でも正式にセキュリティトークンの取り扱いが可能となった。セキュリティトークンは、文字通り証券をデジタル化したものであり、流動性を高めたりセカンダリーマーケットを創出したりと、大きな市場を作り上げる可能性を秘めている。

 さらに、セキュリティトークンによってSTOという資金調達も可能になった。ICOが詐欺の温床になってしまった結果誕生したのがSTOであり、特定の取引所を介すことで投資家は審査されたセキュリティトークンにアクセスすることができる。

 STOでは、少額からの投資が可能になったりグローバルでアクセスできたりと、こちらも一定の市場規模に育ちそうな気配を持っている。事業モデルとして既に立ち上がっているものは、株式や暗号資産と同様に取引所や、セキュリティトークン発行のコンサルティングなどだ。

 なお、セキュリティトークンに関しては、先述の改正金融商品取引法により日本でもライセンス制が整備されたため、気軽に参入できるものではなくなった点には留意いただきたい。

規制トレンド:トラベルルール、特区の設立?

 次に規制について考察していく。ブロックチェーン業界には規制のイメージがつきものだ。これは、ブロックチェーンを使った最初のアプリケーションである暗号資産に引きづられてのものである。本質的には、ブロックチェーンはインターネットと同種のものであり、規制で制御できるのもではない。

 そのため、ここではやや暗号資産に文脈が移るものの、ブロックチェーンに直接的に関係するもののみ取り上げる。

事業拡大を妨げるトラベルルール

 暗号資産・ブロックチェーン業界における最大の規制が、トラベルルールだ。トラベルルールとは、各国の暗号資産カストディ事業者(VASP)に対してFATF(金融活動作業部会)が整備している規制の一つだ。VASPが仲介する暗号資産の送受金に関して、送り手と受取手の情報を記録するよう規定している。

 日本を含む全世界のVASPが、莫大なコストを費やしてこの対応に追われている。そのため、ブロックチェーン事業へ投資資金が回せなかったり、トラベルルールに対応することができずに事業撤退するものも数多だ。

 FATFより正式にトラベルルールが勧告されたのは2019年のことであり、元々は2020年6月の完了目処とされてきた。しかしながら、2021年に入った現在でも全く完了する気配は立っていない。

 このトラベルルールへの対応がひと段落しない限り、暗号資産・ブロックチェーンの未来は不透明な部分が多いままであり、事業検討の難易度は一向に下がらないだろう。

日本でもブロックチェーン特区の設立を

 本稿の中で唯一断言はできないものの、希望的観測を込めてブロックチェーン特区の設立に触れておきたい。

 世界的には、中国はもちろんのことイギリスや韓国などでブロックチェーン特区が設立されている。特区に関しては、私も識者として参画した内閣官房主催の「ブロックチェーンに関する関係府省庁連絡会議(2020年2月)」で、ほとんど全ての識者から設立要請があげられた。

 世の中にはセーフハーバールールというものが存在するが、特区を設ける理由はまさにこのセーフハーバールールを適用する範囲を定義するためだ。日本の場合、私個人としては「カストディ規制」の緩和を適用すべきと考えている。

 こちらの記事で言及した内容の再掲になってしまうが、日本では、顧客やユーザーの暗号資産を1円相当でも管理する場合、交換業のライセンスが必要になる。これは、現行の資金決済法を取引所事業者のみで決めてしまったことによる弊害であり、そこにブロックチェーンの要素が考慮されていなかったことを示している。

 具体的には、例えばブロックチェーンを使って独自トークンを発行する場合、ユーザーに付与したトークンを発行体が管理するのに、交換業のライセンスが必要になる。発行されたトークンをユーザーに付与した場合、そのトークンは資産としてみなされるからだ。そのため、付与したトークンはユーザー自らが管理しなければならず、それには秘密鍵を扱うための高度なスキルが求められる。

 これではブロックチェーンの最大の特徴であるトークン発行の機能が失われたも同然であり、トークンを必要としないエンタープライズ向け製品(コンソーシアムチェーンなど)に限定されてしまっているのが現状だ。日本で純粋なブロックチェーン事業が出てこないのは、これが原因だといえる。

 特区で適用されるセーフハーバールールの私案では、例えば3万円相当までの暗号資産であれば、他人のものを管理してもライセンスは不要とする、といったものはいかがだろうか。

 考え方としては前払式支払手段などと同じで、一定の金額に達するまでは特に規制を設けず、万が一の場合に被害が大きくなるであろうと想定した閾値を超えた条件でのみ規制を設けるというものだ。

 アメリカでも、ICOで資金調達をしたプロジェクトは3年以内であれば証券法の規制対象にはならない、といったセーフハーバールールが提案されている。

 現行のカストディ規制は、消費者保護が全面的に押し出せれているため、考え方自体はもちろん称賛すべきではあるもののブロックチェーンによるイノベーションを完全に殺してしまっている点を、当局のや提言をする識者の方々には理解してもらいたい。

その他のトレンド:Libraスタート、PayPalの拡大、CoinbaseのIPO

 最後に、上記のカテゴリには分類されなかった2021年注目のトピックについて触れていく。なおここで言及するものは、いずれも現時点で2021年中のスケージュルが明確になっているものである。

Libraの発行がスタート

 Facebookの暗号資産Libraが、2021年1月にローンチされる予定だ。2019年に全貌が明らかとなって以降、度重なる規制当局からの指摘を受けて大幅な方針転換に迫られていた。そんなLibraがついに発行される。2021年最初の注目トピックといって良いだろう。

 Libraは、元々は複数の法定通貨を担保にしたバスケット型といわれるステーブルコインとして発行される予定だった。これが、AML/CFTの観点から追跡可能性に乏しいという理由により、単一の法定通貨を担保にしたステーブルコインとして発行される計画に切り替わっている。

 1月に予定されているのは米ドルを担保にしたLibraの発行のみだが、すぐに他の通貨(ユーロ、英ポンド、シンガポールドル)にも対応する予定だ。

 なお、Libraの発行による業界への影響は決して大きくないとみている。2019年時点でスムーズに発行まで漕ぎ着けていれば違ったものの、現在は全世界にいくつものステーブルコインが存在している。いくらFacebookといえど、ここからシェアを取りにいくのは一筋縄ではいかないだろう。

 Libraが苦戦する理由としては、独自のブロックチェーンを開発しておりLibraもそのチェーン上でのみ発行されるという点があげられる。イーサリアムに対応していないという点が大きなポイントで、つまり先述のインターオペラビリティが整備されないことにはLibra経済圏を拡大するのが困難なのである。

PayPalが全米に拡大

 2020年のビットコイン価格高騰の立役者となったPayPalが、2021年上半期には全米への事業拡大を予定している。現状、米国の一部エリアでしかサービスを提供していないにも関わらず既に絶大な影響力を見せつけているため、全米への拡大を経て更なる市場の盛り上がりが期待できそうだ。

 本トピックにおける確実な未来としては米国全土への拡大という点になるが、個人的な予測という観点では、PayPalによるステーブルコインの発行もそう遠くない未来だと考えている。

 現状、PayPalではビットコインやイーサリアムといったメジャーな暗号資産を取り扱っているが、ユーザーは価格変動の激しい暗号資産を支払いにしようとは思わないだろう。PayPalは決済プラットフォームであるため、いずれ暗号資産を支払い手段として導入したいと考えるはずだ。

 なぜなら、クレジットカードなどと違い手数料がほとんど発生せず、為替の影響も受けないからだ。となると、価格変動の小さいステーブルコインを導入すると考えるのが自然ではないだろうか。

Coinbaseが業界初のIPOへ

 個人的に、2021年に最も注目しているトピックが暗号資産取引所CoinbaseのIPOだ。2020年末にSEC(米証券取引委員会)への書類提出を終えたことが公表され、2021年中のIPOが見込まれている。

 Coinbaseのメイン事業は取引所であるものの、そこで出た利益の多くをブロックチェーン事業に投下しており、ベンチャー投資やM&Aも積極的に行なっている。

 マネタイズが難しいとされるブロックチェーン事業において、Coinbaseのような一種の出口先となる存在があることは、ベンチャー企業にとって非常に重要なのである。今回のIPOにより、ウォール街からの信頼を勝ち取ることにも繋がるため、ブロックチェーン業界への更なる資金流入が期待できそうだ。

 Coinbaseは日本にも法人拠点を構えているため、今回のIPOを経て日本での事業展開がどのような進展を見せるのかについても注目していきたい。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami