5分でわかるブロックチェーン講座
モビリティ・電力産業で進むブロックチェーン活用、サプライチェーンの効率化は実現するか
イギリスが暗号資産デリバティブを禁止へ 価格への影響は?
2020年10月13日 12:56
暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。
イギリスが暗号資産デリバティブを禁止
英国金融行動監視機構(FCA)が、個人投資家向けの暗号資産デリバティブ商品を禁止する決定を発表した。禁止方針自体は1年前より明らかとなっていたが、この度正式に決定された次第だ。
禁止令は2021年1月6日に施行される予定であり、今回の措置により5300万ポンド(約72億円)の被害を防ぐことができると、FCAは公表している。禁止対象とされたデリバティブ商品には、先物取引やオプション取引、上場投資証券(ETN)、差金決済(CFD)などが含まれる。
今回の発表に際し、FCAは以下の点を禁止理由として列挙した。
- 固有の原資産が存在せず、評価にあたり信頼できる根拠がない
- サイバー犯罪・盗難および金融犯罪の温床になる可能性がある
- ボラティリティが極端に高い
- 個人投資家の理解が不十分
- 個人投資家の暗号資産デリバティブに対する投資需要が不足している
FCAのSheldon Mills氏は、今回の発表について次のように述べている。「今回の禁止措置は、暗号資産デリバティブがいかに個人投資家に大きな潜在的リスクを与えるか、我々が真剣に受け止めていることを示しています。我々は、消費者保護という使命を果たさなければならないのです。」
ビットコインをはじめとして暗号資産の多くは総発行量が決まっているため、現物取引のみでサービスを提供するには限界があるといえる。実際のところ、暗号資産取引の大部分はデリバティブ商品によって形成されているのだ。
今回は、1年前からの方針が改めて正式に発表されただけであり急激な価格の下落は発生しなかったが、今後の長期的な市場の成長を考慮すると、大変ショッキングな出来事だったと言えるだろう。
参照ソース
個人投資家への暗号資産デリバティブの販売を禁止:イギリス
[CoinDesk Japan]
U.K. FCA Bans Sale of Crypto-Derivatives to Retail Investors
[Bloomberg]
モビリティ産業のブロックチェーン活用
モビリティ産業におけるブロックチェーン活用を促進する国際団体MOBI(モビ:Mobility Open Blockchain Initiative)が、発足後初となる共通規格をリリースした。
MOBIは、炭素排出量の削減や交通安全、渋滞改善、その他の社会的・環境的課題を解決することを目的として、2018年に設立された組織だ。BMWやGM、ルノーといった大手自動車メーカーを中心に、日本からもホンダやデンソー、トヨタなどが参画している。
MOBIでは、「電気自動車(EV)と電力供給網の統合」や「サプライチェーン」、「金融・証券化・スマートコントラクト」などの各テーマごとに参画企業がワーキンググループを形成する。今回発表された規格は、その中のEVGIというグループからだ。
EVGIは、電気自動車と電力供給網の統合を目的に形成され、ホンダとGMが主導している。規格の具体的な用途としては、「V2G(Vehicle to Grid:車両と電力網の接続)」、「TCC(Tokenized Carbon Credits:炭素クレジットのトークン化)」、「P2Pアプリケーション」の3つになるという。
ここ数年、モビリティやその周辺産業においてブロックチェーンの導入が活発に進んでいる。後半のパートでは、こういった産業でブロックチェーンがなぜ必要なのか考察を述べていきたい。
今週の「なぜ」モビリティとその周辺産業にとってブロックチェーンはなぜ重要か
今週はイギリスにおける暗号資産デリバティブの禁止令やモビリティ産業におけるブロックチェーン活用に関するトピックを取り上げた。ここからはなぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
【まとめ】
MOBIが解消するモビリティ産業の課題
電力のP2P取引基盤にブロックチェーンを採用
サプライチェーンをブロックチェーンで効率化
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
モビリティ産業の課題
国連によると、2050年までに全世界の都市部における人口は50%増加し、自動車などによる環境汚染がさらに進むとの報告が出されている。また、毎年125万もの人々が交通事故で死亡しているという。
また製造側の課題としては、規模の不経済が働くことでサプライチェーンの効率性が悪化したり、不特定多数のステークホルダーが絡むことで流通するデータに誤りが生じていたりする。
MOBIでは、モビリティに関連した上記のような課題を解決すべく、ブロックチェーンだけでなくAIやIoTといったテクノロジーを活用する組織として発足された。
電力のP2P取引をブロックチェーンで実現
モビリティと密接に関連する産業として、電力産業があげられる。日本は、電力の消費量が世界で4番目に多い国でありながら自給率は8%にとどまっており、先進国の中では圧倒的に低い水準となっている。そのため、電力消費の効率化や安定供給が至上命題なのだ。
世界的なトレンドとして、従来の巨大な発電所による集中的な発電方式から、より分散化された発電方式へと変化が起きつつある。これは、消費効率の観点から採用されている取り組みだ。そしてこの基盤システムに、ブロックチェーンが採用されるケースが目立つようになってきている。
ブロックチェーンを活用したP2P型の電力取引(個人間の電力を自由に売買)では、スマートコントラクトによって恣意性を排除することができる。取引を媒介する通貨も、ブロックチェーン上で発行される独自トークンを使用することで、余計なシステム開発や外部連携を行わずに済むのだ。
サプライチェーンをブロックチェーンで効率化
モビリティ産業と電力産業、両者に共通するのは複数のステークホルダーなしに事業が成り立たないという点だ。これはこの2つの産業に限った話ではなく、カオス化した昨今の経済では当たり前のことといえるだろう。
当然ながら、ステークホルダーが増えるにつれて行き交う情報も膨大なものになり、権限管理やセキュリティなどに課題が生じている。この問題を解決するのがブロックチェーンだ。
つまりサプライチェーンが存在する産業であれば、使用する共通データベースを置き換えるという点で、理論上は全ての産業にブロックチェーンを導入することができる。物流ではニトリが、MaaSではソニーが既に活用を本格化させている。
個人的には、産業にブロックチェーンを導入していく場合、複数社によるコンソーシアム型を採用した方が良いと考えている。結局のところ、ブロックチェーンはネットワークを構築するノードが分散している点に強みを持っているため、一社独占で運用してしまってはその良さが失われてしまうのだ。