5分でわかるブロックチェーン講座

コカ・コーラが「センスの良い」ブロックチェーン活用を決定、その理由とは?

イーサリアムクラシックでブロックチェーンの巻き戻しが発生

(Image: Shutterstock.com)

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

コカ・コーラでブロックチェーン活用

 コカ・コーラのボトルサプライヤー12社の参画するパートナー団体「Coke One North America(CONA)」が、業務効率化を目的としたブロックチェーン活用の取り組みを発表した。イーサリアム基盤のBaseline Protocolを採用するという。

 具体的には、サプライチェーンにおける注文書の改ざんや人的ミスの防止、流通経路のトラッキングなどをブロックチェーンで管理する。また、外部のサプライヤーにも恩恵が出るよう設計していく方針も明らかにした。

 今回採用されたBaseline Protocolの技術的な優位点は以下の通りだ。

・イーサリアムのメインネットを従量制の参照基準として活用
・企業データは従来の記録システムに保存
・複雑でクローズドな組織のビジネスプロセスを自動化
・DeFiへのアクセスおよび資産のトークン化などのユースケースを提供
・オープンソースとしてOASIS(e-ビジネス標準化団体)の基準を満たす

 なお、CONAの取り組み結果は2020年内を目処に公開される予定だ。内容次第では、他領域への展開も期待できるだろう。

参照ソース


    コカコーラのボトル業者、DeFiシステム応用で業務効率化を目指す
    [CoinPost]
    Baselining the North America Coca-Cola Bottling Supply Chain
    [Unibright.io]

イーサリアムクラシックで大規模なReorg(巻き戻し)が発生

 イーサリアムクラシック(ETC)に、計4,000ブロックを超える大規模なReorg(リオーグ)が発生した(イーサリアム(ETH)ではない点に注意)。これは51%攻撃を受けたことによる対応であり、今週最も話題を集めたであろうニュースだ。

 「イーサリアムクラシック」「Reorg」「51%攻撃」、この3つはいずれもブロックチェーンの仕組みを学ぶ上で非常に参考になるワードだ。今回の事件の経緯と合わせて説明していきたい。

 まずイーサリアムクラシックとは、イーサリアムがハードフォークすることで誕生したブロックチェーンだ。ハードフォークの原因となったのは「TheDAO事件」である。

 TheDAO事件は、2016年に起きたイーサリアムのハッキング事件であり、筆者も被害者の1人である。残念ながら今や当たり前となってしまったハッキング事件だが、当時はまだまだ数が少なく、イーサリアムはこの事件を“無かったこと”にするために、ブロックチェーンのReorgを行なった。

 Reorgとは、ブロックチェーンを形成する各ブロックを手動で巻き戻すことを意味する。ブロックを巻き戻すことで、不正に使用された分のブロックを無かったことにできるのだ。しかしながら、これは非中央集権性に著しく反する行為であり、当然ながらイーサリアムコミュニティから多くの反発が生まれた。その結果誕生したのがイーサリアムクラシックである。つまり、Reorgに賛成のコミュニティによって支持されるイーサリアムと、Reorgに反対のコミュニティによって支持されるイーサリアムクラシックに、分裂(ハードフォーク)したということだ。

 続いて51%攻撃について説明する。今回のイーサリアムクラシックにおけるReorgの原因となったのが51%攻撃だ。51%攻撃とは、ブロックを形成するために必要なマイニングに使われるハッシュパワーの過半数を、特定のマイナーが独占してしまうことを意味する。独占することにより、意図的に不正を施したチェーンを正当なチェーンとしてネットワークに反映させることができてしまうのだ。

 ビットコインやイーサリアムのように十分な数のマイナーが存在する場合には、51%攻撃の成功確率は限りなくゼロに近い。しかしながら、イーサリアムクラシックには限られた数のマイナーしか存在しておらず、ハッカーは約19万ドルのコストで51%攻撃に成功し、580万ドルを得たと報告されている。

 1度でも51%が起きてしてしまうと、その後何度も起きてしまう可能性が高い。なぜなら、Reorgを行なったところでマイナーの数が突然増えるわけではないからだ。十分な数のマイナーによるサポートを獲得できないブロックチェーンは、このような懸念材料を払拭することが難しい。こうなってくると、セキュリティに不安のあるブロックチェーンは誰も使わなくなってしまうだろう。

 今回の一件は、いかにビットコインとイーサリアムが優れているかがわかる出来事であったといえるのではないだろうか。

参照ソース


    イーサリアムクラシック、今週2度目の「51%攻撃」を受ける
    [CoinDesk]
    Statement Regarding Ethereum Classic Chain Reorganization
    [Ethereum Classic Labs]

今週の「なぜ」コカ・コーラのブロックチェーン活用はなぜ重要か

 今週はコカ・コーラのブロックチェーン活用とイーサリアムクラシックの大規模Reorgに関するトピックを取り上げた。ここからは前者にトピックを絞りなぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

・ブロックチェーン選定時はエコシステムとの互換性を考慮
・エンタープライズでもイーサリアムを採用するべき理由
・Fat Protocolで占うWebサービスの未来

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

「センスが良い」、エコシステムとの互換性

 今回のコカ・コーラのブロックチェーン活用の取り組みは、非常にセンスが良いと感じた。理由は、リリース文に「providing extensibility for DeFi & asset tokenization use-cases;(DeFiへのアクセスおよび資産のトークン化などのユースケースを提供)」の一文が記載されていた点があげられる。

 先述の通り、本取り組みではイーサリアム基盤のBaseline Protocolを採用する方針が明かされている。「DeFiへのアクセス」が何を意味するかは不明確だが、イーサリアムを採用するメリットの1つにエコシステムとの互換性があげられる。

エンタープライズもイーサリアム

 経験してみるとわかるが、ブロックチェーンに限らず大規模システムに外部システムとの互換性を持たせるのは想像以上に困難を極める。億単位のコストをかけ数年規模でプロジェクト化した結果、最終的に断念して決算で特損を計上...といった始末になることは珍しくない。

 そのため、基盤に近い部分であるほど最初の設計が重要になる。つまり、互換性の観点からエンタープライズ領域でもイーサリアムを採用するメリットは十分にあるといえるだろう。なぜなら、イーサリアムのエコシステムが現状最も充実しているからだ。

Fat ProtocolとWeb3.0

 以前にも紹介した通り、これがFat Protocol理論で占うWebサービスの未来である。Web2.0までは、アプリケーション層の個々のWebサービスに評価が集まり、それらにとって欠かせないプロトコル層の基盤技術が過小評価されてきた。

 Web3.0からはこれが逆転する。例えば、全てのWebサービスがイーサリアム上に構築され相互互換性を持つ状態で利用されると、Webサービスの数が増えるほどイーサリアムの価値が高まっていく構図となる(評価は基軸通貨ETHで表される)。

 たとえ特定のシーンでのみブロックチェーンを活用する場合でも、外部サービスとの通信が発生しないケースはほとんど存在しないだろう。互換性は、あらゆるシステムにとって非常に重要な要素なのだ。

編集部より: 当連載は、第9回(3月末掲載)まで仮想通貨 Watchにて掲載していたものです。第9回以前はこちらからご覧ください

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami