5分でわかるブロックチェーン講座
イーサリアムに必要な電力量を調査、イーサリアム2.0によるPoSへの移行で99.95%が削減される見込み
MicrosoftがAzure Blockchain Serviceのサポートを終了
2021年5月25日 08:55
MicrosoftがAzure Blockchain Serviceのサポートを終了
Microsoftが、自社のクラウドコンピューティングサービスAzure上に展開していた「Azure Blockchain Service」のサポートを終了すると発表した。既に新規アカウントの作成やデプロイはできなくなっており、9月10日には全てのサポートを終了するとしている。
Azure Blockchainは、2015年に提供が開始されたエンタープライズ向けのブロックチェーンソリューションだ。「BaaS(Blockchain as a Service)」という新たなブロックチェーン市場を確立させた主要サービスの1つであり、黎明期の市場を発展させるのに大きな役割を果たしていた。
ブロックチェーン上にアプリケーションを開発するには、ノードを立てたりバーチャルマシンに接続したりと、初期構築のハードルが極めて高いと言える。Azure Blockchainなどのエンタープライズ向け製品を使えばこういった作業が不要になるだけでなく、日常的な運用コストも大幅に抑えることが可能だ。
Microsoftは、2015年の提供開始後すぐにイーサリアムの開発企業ConsenSysと共同で、「Ethereum Blockchain as a Service(EBaaS)」を発表している。これは、Azure Blockchainを通して簡単にイーサリアム上にアプリケーションを開発できるサービスであり、ローンチ直後のイーサリアムエコシステムを拡大させるのに大きく貢献していた。
今回のサポート終了に伴い、代替サービスとしてQuorumへの移行を促している。Quorumは、JPMorganが開発したエンタープライズブロックチェーン製品の1つであり、2020年にConsenSysが買収している。
Azure Blockchainには、GEやシンガポール航空、スターバックスなど大手企業が顧客として名を連ねているものの、今回の決定により移行を余儀なくされた。なお、サポート終了の経緯は明らかにされていない。
参照ソース
Migrate Azure Blockchain Service
[Microsoft]
イーサリアム2.0の消費電力を調査
イーサリアムの開発を主導するイーサリアム財団が、「イーサリアム2.0」によってコンセンサスアルゴリズムを変更することによる消費電力の削減について調査を行なった。その結果、99.95%もの電力を削減できる可能性があるとしている。
調査レポートによると、イーサリアム2.0のビーコンチェーンにおけるアドレス数とバリデータ数をもとに、ネットワークを稼働させるのにどれぐらいの電力が必要になるかを算出したという。
具体的には、アドレス数が16405、バリデータ数が140592になるとし、このうち取引所やステーキング関連サービスを除いた87897が個人宅からのバリデータになると仮定。1人あたり5.4台のノード(バリデータ)を動かしているとの結果が算出された。
なお事前に行われたとする調査では、1台のノードを動かすのに約15Wが必要になるとされ、掛けることの5.4台分で1人あたり100Wの電力が消費されることが明らかとなっている。ここにバリデータ数87897を掛けると、1.64MWの電力がイーサリアム2.0によって個人宅から消費される数値となった。
そしてここに除外した取引所やステーキング関連サービスの分を足し合わせると、合計2.62MWの電力消費になるとしている。これは、米国の一般家庭2100戸分の消費電力に過ぎないという。
現在のイーサリアムは、プルーフオブワーク(PoW)というマイニングが必要なコンセンサスアルゴリズムを採用している。マイニングには膨大な電力が必要となるため、度々環境への負荷が指摘されていた。
参照ソース
参照ソース
A country's worth of power, no more!
[Ethereum Foundation]
今週の「なぜ」イーサリアム2.0の消費電力削減はなぜ重要か
今週はMicrosoftのAzure Blockchain Serviceサポート終了やイーサリアム2.0による消費電力削減に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
イーサリアムは「イーサリアム2.0」でシャーディングの実装とPoSへの移行が行われる
PoSへの移行でマイニングが必要なくなる
環境負荷を下げることでイーサリアムは持続可能なネットワークへ
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
シャーディグの実装とPoSへの移行
イーサリアムは、ローンチ当時より将来的にコンセンサスアルゴリズムをPoWからプルーフオブステーク(PoS)へと移行することを計画してきた。約5年の月日を経て、2020年12月1日よりPoSへの移行を含む大型アップデート「イーサリアム2.0」が本格スタートしている。
イーサリアム2.0の主な目的は、スケーラビリティ問題の解消と環境負荷の軽減だ。前者はシャーディングの実装によって、後者はPoSへの移行によって実現される。
スケーラビリティ問題は、イーサリアムの処理性能をトランザクション数が上回ってしまうことによって生じる問題だ。現状のイーサリアムは、1秒間に15トランザクション程度しか処理できず、これではワールドコンピュータとしての役割を果たすことはできない。
また、トランザクションを即時処理するには手数料(ガス)を高めに設定する必要があるため、スケーラビリティ問題は結果的にガス代の高騰を引き起こしているのだ。
今回は詳細を割愛するが、スケーラビリティ問題に対してはシャーディングによる並列処理を実装することで対処する計画となっている。
PoSではマイニングが必要なくなる
環境負荷の軽減については、PoWからPoSへの移行によって実現される。PoSでは、ブロックを形成する際にマイニングは行われない。そのため、今回のイーサリアム財団の調査でもあった通り、大幅に電力消費を抑えることが期待されているのだ。
そもそもマイニングは、ネットワーク上で流通する価値(暗号資産)の源泉として据えられてきた。しかしながら、その仕組み上無駄になる電力が膨大に存在しているのも事実であり、昨今はPoWではなくPoSを採用するパブリックチェーンがほとんどになっている。
PoSでは、ステーキングという仕組みによってトランザクションが承認されブロックが形成される。ステーキングには、PoWにおけるマイナーと似た役割を担うバリデータというノードが存在し、自身の保有する暗号資産を預け入れる(ステークする)ことでネットワークに参加することが可能だ。
PoWでは電力を消費することでマイニングする一方、PoSでは暗号資産を預け入れることでステーキングする。両者の違いは、消費される電力量の差として顕著に表れるのだ。
イーサリアムを持続可能なネットワークへ
イーサリアム財団の調査レポートでは、PoWとPoSそれぞれが消費する電力の違いを現実世界の建築物に例えた比較図が提示された。
対象となったのは、PoWのイーサリアムとPoSのイーサリアムに加えて、PoWのビットコインだ。ビットコインの消費電力を、ドバイにある世界一の高さを誇るブルジュハリファに相当すると仮定した場合、PoWのイーサリアムはイタリアのピサの斜塔、PoS移行後のイーサリアムはネジに相当するという。
イーサリアム2.0は、過去にも未来にもあらゆるブロックチェーンにおいて最大のアップデートになると想定されており、その主要目的の1つである環境負荷が大幅に達成される見込みであることには、極めて大きな意義があると言えるだろう。
SDGsやESG投資といった昨今のトレンドを鑑みても、イーサリアムを稼働させるために必要な電力が削減されることは重要な意味を持つ。