5分でわかるブロックチェーン講座

イーサリアム2.0のステーキングプールが秘密鍵を紛失、未だに解消されない秘密鍵の管理問題

国連が気候変動対策にブロックチェーンが有効だと主張

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

Eth2ステーキングプール内の秘密鍵が紛失

 イーサリアム2.0のステーキングプール大手のStakehoundが、顧客から預かっているETHを管理するための秘密鍵を紛失したと発表した。厳密には、大手カストディ企業Fiireblocksに秘密鍵の管理を委託していたとしており、Fireblocksが紛失したとしている。

 Stakehoundによると、Fireblocksの社員がバックアップを取らずに秘密鍵を削除したといい、同社に対して訴訟を起こしたという。

 一方のFireblocksは、秘密鍵の生成は顧客が行うことでありFireblocksが持つ秘密鍵はマスターキーではないと主張。仮に紛失したとしても資金の引き出しには影響がないとしている。

 暗号資産の管理には秘密鍵が必須であり、人間でもわかるようにインターフェースを整えたのがウォレットだ。ブロックチェーン上で流通する暗号資産には管理者が存在しないため、秘密鍵を紛失すると永久的にその資産にはアクセスできなくなってしまう。

 この秘密鍵の管理問題については、業界における最も重要な点として長らく議論されてきた。今週は、秘密鍵の管理については考察していきたい。

参照ソース


    Fireblocks ETH 2.0 Key Management Incident
    [Stakehound]

国連が気候変動対策にブロックチェーンが有効だと主張

 国際連合が、気候変動対策にブロックチェーンが有効であるとの見解を示した。ビットコインなどの暗号資産が大きく価格変動する中でも、その本質的な技術基盤であるブロックチェーンは、持続可能な世界の実現に向けて役に立つと言及している。

 ビットコインの仕組みに欠かせないマイニングには、膨大な電力が必要になっていることはもはや周知の事実だ。にも関わらず、国連がその技術基盤を高く評価していることは重要なトピックだと言えるだろう。

 当然ながら、マイニングを必要せずともブロックチェーンを動かすことは可能だ。イーサリアムがまさにその仕組み(PoWからPoSへの移行)の実現に向けて開発を進めている。こういった理解が進んでいることから、国連はブロックチェーンを評価しているのだろう。

 国連によると、ブロックチェーンによって気候変動対策が加速されるのは、透明性、気候ファイナンス、クリーンエネルギー市場の3つになるという。

  • 透明性:現状、各国から公表されている温室効果ガス排出量のデータは信頼性が低い。ブロックチェーンを活用することで、正しいデータを改ざんされない形で公表することができる
  • 気候ファイナンス:ESG投資の文脈から、企業や産業が低炭素技術へシフトできるよう資金が流入する
  • クリーンエネルギー:風力や太陽光などの再生可能エネルギーの供給源は、性質上既に分散化されているため、ブロックチェーンとの相性が良いと言える

参照ソース


    Sustainability solution or climate calamity? The dangers and promise of cryptocurrency technology
    [United Nations]

今週の「なぜ」秘密鍵の管理はなぜ重要か

 今週はイーサリアム2.0のステーキングプールにおける秘密鍵の紛失問題と気候変動対策へのブロックチェーン活用に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

秘密鍵を自身で管理することの重要性
秘密鍵の管理だけを行う事業も
秘密鍵の紛失をあえて利用したソリューションも存在

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

秘密鍵を自身で管理することの重要性

 イーサリアム2.0では、マイニングの代わりにステーキングと呼ばれる方法でブロックチェーンの運営が行われる。ステーキングでは、参加者がイーサリアムネットワークに対して特定量のETHを預け入れる仕組みだ。この預け入れることをステークというが、ステークするには易しくない作業が必要になるため、ステーキングプールと呼ばれる代行サービスが存在している。

 ステーキングプールを利用するには、自身の持つETHをプールの秘密鍵(ウォレット)に送金する必要があり、自身の管理下からは外れる。当然ながら引き出すことは可能だが、預け先の秘密鍵が紛失してしまった場合には引き出すことができなくなる。

 今回のStakehoundの件がまさにこれに該当し、Stakehoundを通してステーキングを行なっていた人たちのETHは永久的に引き出せなくなってしまった可能性があるのだ。

秘密鍵の管理だけを行う専門事業者

 この問題は、ステーキング以外でも発生しうる。その最たる例が取引所だ。ほとんどの人は、取引所で暗号資産を購入し、そのまま取引所に預けているだろう。この場合、取引所が秘密鍵を紛失してしまうと、預けていた暗号資産は永久的に引き出せなくなる。

 この問題は、暗号資産が認知され始めた頃からの重要課題の1つとして度々議論が行われてきた。暗号資産の取り扱いに慣れてくると、プールや取引所に預けっぱなしにすることはなくなるのだが、秘密鍵の管理には低くないハードルが存在する。

 自身で秘密鍵を管理していた場合に、誤って紛失してしまっては元も子もない。そのため、最近は秘密鍵の管理だけを行う事業者(カストディ企業)も急拡大してきている。

 多くのシェアを獲得しているのが、BitGoとFireblocksだ。BitGoは、5月に12億ドルで買収されるなどユニコーン企業となっており、カストディサービスの需要の高さが伺えるだろう。Fireblocksも確かな実績を有していたが、今回の件で信頼性に傷がつく形となってしまった。

 秘密鍵の管理にだけ特化していてもこのような問題が起こるという事実からは、暗号資産・ブロックチェーンが一般に普及する際の最大の障壁が未だ解消されていない実態を感じさせる。

秘密鍵をあえて紛失するバーン(トークン焼却)の仕組み

 一方で、秘密鍵の紛失を応用したユニークな仕組みも存在している。バーン(焼却)と呼ばれる手法では、あえて秘密鍵を紛失することで市場に流通する総量を減少させることが可能だ。株式会社における株式消却に似たものだと言えるだろう。

 厳密には、予め秘密鍵を紛失させたウォレット(アドレス)を用意しておき、そこへバーンする分の暗号資産を送金する。トークン発行母体が、運営資金を使って市場からトークンを買い上げバーンさせることでトークン価格を引き上げる際などに使用される。

 ステーブルコインDAIの発行・管理を行うMakerDAOでは、このバーンの仕組みをスマートコントラクトですべて自動実行している。管理者が存在しないブロックチェーンだからこそできることであり、使い方次第でネガティブだったものがポジティブにもなる良い例だ。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami