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イーサリアムの大型アップデート「London(ロンドン)」はなぜ重要だったのか?

IMF「暗号資産を国の通貨にするのは早計だ」と発言

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

イーサリアムの「London(ロンドン)」ハードフォークが完了

 イーサリアムの大型アップデート「London(ロンドン)」ハードフォークが予定通り実装された。イーサリアム(ETH)にデフレ性を持たせるための仕組みであり、高騰するトランザクション手数料の削減にも繋がることが期待される。

 今回のハードフォークで実装された中でも特に注目を集めたのが、EIP-1559だ。EIP-1559では、トランザクションの手数料モデルを変更し、「BASE FEE」と「PRIORITY FEE」を新たに組み込んでいる。

 基本的にトランザクション手数料は報酬としてマイナーに支払われるものの、BASE FEEの部分はマイナーに支払われずBurn(バーン、焼却)されることになる。Burnは自社株の焼却と似たような仕組みで、市場に流通する総発行量(総供給量)を減少させることで価格の上昇圧力をかけることが可能だ。

 今回のハードフォークは、イーサリアムの仕組みを根本から変更する大きなアップデートだった。なぜここまで注目されたのか、今後どのような影響が出てくるのか、後半パートで解説していきたい。

参照ソース

IMFがブロックチェーン活用のデジタル通貨へ見解示す

 国際通貨基金(IMF)が、デジタル通貨への今後の方針についてブログで説明した。中でも暗号資産については、「国の通貨にすることは早計だ」との見解を示しています。

 IMFは、190にのぼる世界中の加盟国に対して為替政策の監視や融資など行う国際金融組織だ。今回公開したブログは、昨今急速に知名度を高めているデジタル通貨に対する今後の方針を示したものであり、特に暗号資産に対しては他のデジタル通貨と異なる性質を持つものとして慎重な構えを見せている。

 中南米の小国エルサルバドルで世界で初めてビットコインが法定通貨となったことを受け、市場をコントロールできない資産を法定通貨とすることにより金融政策の効果が薄れることや、マクロ経済への負担増などを懸念点として指摘した。

 IMFの定義するデジタル通貨には、CBDCやステーブルコイン、暗号資産などが含まれる。いずれもブロックチェーンを使って発行・管理される可能性が高いものであり、重要なユースケースの一つだ。

 これらのデジタル通貨が一般的に普及するようになると、民間システムはブロックチェーンへの対応を余儀無くされるだろう。そういった意味で、デジタル通貨の動向は重要な意味を持つと考えている。

参照ソース


    The Rise of Public and Private Digital Money
    [IMF]

今週の「なぜ」イーサリアムの「London(ロンドン)」ハードフォークはなぜ重要だったのか

 今週はイーサリアムの「London(ロンドン)」ハードフォークやIMFのデジタル通貨に対する見解に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

ガス代の高騰を抑えることでイーサリアムを持続可能なネットワークに
イーサリアムのブロックサイズを可変なものへ
「London(ロンドン)」ハードフォークはイーサリアム2.0に繋がる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ガス代の高騰を抑える仕組み

 ブロックチェーンをエンハンスしていく場合、基本的には後方互換性を持たせないためにハードフォークを実施することになる。ハードフォークとは、元々あったブロックチェーンとは別のチェーンを新たに作成し、そちらを正しいチェーンとしてノードが管理する仕組みだ。

 一度のハードフォークには複数のアップデートが含まれるが、今回の「London(ロンドン)」ハードフォークで注目を集めたのはEIP-1559だ。高騰するガス代(トランザクション手数料)を削減するための仕組みだけでなく、何と言ってもイーサリアム(ETH)の価格を上昇させていくための仕組みが導入されたことが注目を集めた理由としてあげられるだろう。

 ビットコインと違いETHには発行上限がないため、これまで価格を上昇させるための仕組みが存在していなかった。今回Burnの仕組みが導入されたことで、ETHにデフレ性が帯びることになる。

イーサリアムを持続可能なネットワークへ

 BurnされるETHの量は、その時のネットワークの混雑状況によって決定される。BurnされるETHはガス代の一部が対象となるため、結果的にガス代の高騰を抑える効果が期待できる。

 これまではユーザーが自由にガス代を設定していたものの、今後はアルゴリズムによって自動設定されるため、無駄にガス代を引き上げる必要がなくなるということだ。ガス代の高騰が解消できれば、イーサリアムがより多くのDAppsで使用されることになり、DeFiやNFTなどさらなる場面での活躍が期待できるだろう。

 また、EIP-1559が実装されたことで、イーサリアムブロックサイズを増減させることが可能となっている。これまで規定のブロックサイズに固定されていたものが可変となったことで、トランザクションの混雑状況を緩和できることも期待されている。

イーサリアム2.0へ繋がるハードフォーク

 ロンドンハードフォークは、イーサリアム2.0に繋がる重要な下準備でもある。イーサリアム2.0では、コンセンサスアルゴリズムがPoWからPoSへと移行される。すると、マイニングが必要なくなり代わりにステーキングによってネットワークが管理されることになるのだ。

 ステーキングは昨年12月より開始しており、現時点で650万ETH(約2兆円)以上がネットワークにロックされている。このETHはイーサリアム2.0のフェーズ1.5が完了するまで引き出すことができない。

 これは逆をいうと、フェーズ1.5が完了するとステーキングされていたETHが引き出されてしまう可能性があるということだ。PoSは、より多くの資産がステークされていた方がネットワークのセキュリティが高まるため、ETHのロック解除後にイーサリアムのセキュリティが低下してしまう恐れがある。

 そのために、ロンドンハードフォークでETHにデフレ性を持たせる実装を行なったのだ。ETHをステーキングしておくと一定の利子が付与されるため、ETHの価格が上がるのであれば引き続きステーキングしておこうというインセンティブが働く。

 ロンドンハードフォークを単なる価格上昇のための仕組みと捉えていては、将来的に起こるイーサリアム2.0の流れを汲み取ることはできないだろう。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami