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第103回:iPhone向け本格ナビアプリ「NAVIelite」を使ってみました


「NAVIelite」製品紹介サイト

 iPhone向けのナビアプリが相次いでリリースされている中、カーナビメーカーのアイシン・エイ・ダブリュ株式会社が新たに「NAVIelite」というアプリを発売した。同社は1992年に世界初の音声案内機能付きナビゲーションシステムを開発したメーカーで、現在はトヨタなどの自動車メーカー9社および富士通テンなどのカーAVメーカー5社にカーナビを供給している。カーナビメーカーの大手が本格的に取り組んだこのアプリについて、その使い勝手や地図データをチェックしてみよう。

地図データをローカルにインストールできるカーナビアプリ

 NAVIeliteは、アイシン・エイ・ダブリュがスマートフォン向けのブランドとして立ち上げた「dribrain(ドライブレイン)」というシリーズの最初の商品であり、「elite(エリート)」というネーミングからして同社の意気込みが伝わってくる。価格は3800円だが、2月16日までは特別料金として2600円で提供されている。この価格で1年間の利用が可能だ。地図データの更新は年に6回で、最初の更新は2011年3月が予定されている。

 あらかじめ地図データをダウンロードしてiPhoneのローカルディスクにインストールするので、携帯電話の回線が通じないエリアでも地図を閲覧できる。それだけにアプリの容量は詳細地図を除いても1.81GBと大きく、ダウンロードはWi-Fi経由かPC上のiTunes経由で行う必要がある。

 詳細地図までダウンロードすると約4GBもの容量となる。このためにアプリの発売直後はサーバーへのアクセスが集中し、ダウンロードにかなり時間を要したという感想がiTunesにいくつか寄せられたが、間もなく改善されて現在はスムーズになっている。筆者が詳細地図データをダウンロードしたときは、早朝5時くらいにWi-Fi経由でダウンロードとインストールを開始して、1時間ほどで完了した。また、初回版にはインストール後に初めて立ち上げたときに地図画面が真っ黒になってしまうという不具合も見られたが、すでに改善されたアップデート版が公開されている。

起動画面建物の形状までわかる詳細市街図

VICSの渋滞情報を3GやWi-Fi経由で取得

 地図データがローカルにインストールできることに加えて、VICSの渋滞情報を見られる点も注目される。iPhone向けのナビアプリの中で渋滞情報に対応したアプリは少ないので、これはありがたい。渋滞情報を取得するには3G回線またはWi-Fiへの接続が必要となる。VICSの情報更新は5分おきで、ルート探索も渋滞を考慮した探索が行われる。得られた渋滞情報は音声案内でも流れるので運転中でも確認しやすい。

 もう1つの魅力が、目的地の目の前まで詳細な音声案内を行う「Door to Doorダイレクトガイド」という機能だ。カーナビを使っていると、目的地の近くに到着したのはいいものの、「目的地周辺です」というだけで、それ以上、詳しい位置まで案内してくれないことがよくあるが、NAVIeliteでは細かい街路も最後までナビゲーションを行う。

 もちろんハードウェアとしてiPhoneを使っている以上、車速やジャイロは使えないので自車位置の測位精度は車載用のフルナビには劣るが、現在地が正しく表示されている状態であれば、わかりにくい路地でも最後まで確実に案内してくれるというのが売りだ。

VICS渋滞情報を地図上に表示目的地が間近に迫っても案内を打ち切らない

ピンチ操作による地図の拡大・縮小は不可

 NAVIeliteは横画面専用アプリで、iPhoneを縦にした状態では使えない。2画面表示の場合は左右に並べたほうが見やすいので横画面のほうがいいかもしれないが、取り付けの自由度を高めるために、できれば縦画面でも使えるようにしてほしかった。

 ちなみにNAVIeliteの製品紹介サイトでは、iPhoneの車載マウントとしてサンワサプライやTETRAX社製のホルダーをいくつか紹介している。ダッシュボードやエアコンのフィンに取り付ける場合は、運転するのに邪魔にならない位置で、エアバッグが開いても影響がないことをよく確認し、走行中に衝撃で外れたりしないように十分に注意しよう。また、NAVIeliteは走行中にドライバーが操作できないように制限する機能が搭載されている。走行中の操作は危険なので、ドライバーが1人で使う場合は操作制限機能を必ず使うように心がけよう。

 地図の拡大・縮小については、画面下に縮尺バーが用意されている。縮尺バーは50m~200kmの範囲で13段階に区切ってあるが、実際はもっとステップが多く刻まれており、縮尺を細かく調整できる。縮尺の切り替えは、画面下部の左右端に配置された「広域」「詳細」という2つのボタンをタッチして行う。50mの時点で左下の「詳細」ボタンは「市街図」ボタンに切り替わり、これを押すと市街の詳細図が表示される。

 地図は2Dおよびバードビューによる3D表示が用意されている。縮尺の切り替えはピンチ操作ができず、画面下の左右に設けられた「詳細」「広域」というボタンを押す必要がある。Google Mapsなどでピンチ操作に慣れたiPhoneユーザーにとって、この操作はやりにくいかもしれない。車載用カーナビの操作性を踏襲したのだろうが、iPhoneならではのピンチ操作もできるようにしてほしかった。なお、このアプリには通常のカーナビと同様に昼画面と夜画面が用意されており、時刻により自動的に切り替えることが可能だ。

 1つ気になったのが、スクロールの重さだ。筆者の環境はiPhone 3GSだが、地図データをローカルに置いているにもかかわらず、今ひとつスムーズにスクロールできず、もっさりした使い心地で、狙った位置に地図を移動させようと思うと少々ストレスが溜まる。この点はできればアップデートで改善してほしいものだ。

東京駅周辺の詳細図東京駅周辺の中域地図
広域図にすると道路が強調表示されるさらに広域にすると国道の号数表示が目立つようになる
下部に表示される縮尺バー2Dや3D表示、2画面表示、高速路線マップなどに切り替えられる

市街地詳細図では建物の形状まで詳しく表示

 それでは、NAVIeliteおよびGoogle Maps、そして他社製ナビアプリとの地図画面の違いを見てみよう。比較するのは、ゼンリンデータコムの「いつもNAVI」、ワックドットコムの「navico」、ユビークリンクの「全力案内!ナビ」、インクリメントPの「MapFan for iPhone」だ。なお、Google MapsとMapFan for iPhoneは横画面に対応していないので縦画面のまま載せている。

押上駅周辺(NAVIelite)押上駅周辺(いつもNAVI)
押上駅周辺(navico)押上駅周辺(全力案内!ナビ)
押上駅周辺(MapFan for iPhone)押上駅周辺(Google Maps)

浅草橋駅周辺(NAVIelite)浅草橋駅周辺(いつもNAVI)
浅草橋駅周辺(navico)浅草橋駅周辺(全力案内!ナビ)
浅草橋駅周辺(MapFan for iPhone)浅草橋駅周辺(Google Maps)

 NAVIeliteは自動車専用のアプリで、自転車や歩行者向けのナビゲーション機能は搭載していない。地図の画面も道路の視認性を重視したものとなっており、縮尺を小さくした状態でも、道路の道筋や国道の号数が大きく強調されて描かれる。ただし市街詳細図には建物の形もかなり詳しく描かれている。詳細図以外の地図にも主要な建物の形は入っており、公共施設や駅、交差点名、ホテルなどの名称も随所に入っていて、カーナビの地図としては情報量は多いほうだと思う。大きな施設では3Dアイコンも入っているのでわかりやすく、街中での位置関係もつかみやすい。

 施設のアイコンもガソリンスタンドやコンビニ、レストラン、銀行、駐車場などジャンル別に表示と非表示を切り替えられるので、iPhoneの小さな画面の中でアイコンだらけにならないように配慮されている。また、VICSの渋滞表示も地図上に重ねられるので、どこが混んでいるかもひと目でチェックできる。

周辺施設表示の選択画面コンビニを表示させたところ

タウンページの施設情報を収録

 目的地の検索は、名称や住所、施設名のほか、タウンページのデータも収録しており、電話番号からも探せる。ルート検索の時間もそれほど待つことなく複数のルートを探索できる。ルート案内中に道を外れてリルート(再探索)を行うときもスムーズだ。ルートは「推奨」「有料優先」「一般優先」「距離優先」「別ルート」の5通りから選択可能で、ルートの行程一覧も見られる。

 ナビゲーションのきめ細やかさは、さすが老舗のカーナビメーカーだけあって優秀だ。交差点拡大図やレーンリスト表示はもちろん、高速分岐模式図や3Dの高速分岐イラストなども収録されている。レーンリスト表示は4つ先の交差点のレーンまで表示されるので、交差点の多い都市部の道路でも安心だ。また、到着予想時刻やVICSの取得時刻、方角表示など画面上に表示される情報も豊富だ。ただ、到着予想時刻がアナログ時計で描かれているのは少し見にくい。オーソドックスなデジタル表示のほうがよかったと思う。

 音声案内も充実しており、交差点の名称やVICSの交通情報などを案内するほか、「左折専用レーンがあります」といったレーン情報や、「この先、左車線から合流します」といった細かい案内まで丁寧に知らせてくれる。NAVIeliteの売りの1つであるDoor to Doorダイレクト機能も、使ってみると実に快適だ。普通のカーナビだと目的地まであと少しというところで案内を打ち切ってしまうが、最後の最後まで案内してくれるというのはかなり助かる。

目的地の検索画面目的地を設定
ルート表示5通りのルートから選択可能
ルートの詳細情報案内する内容を細かく指定できる
交差点の案内表示複数の交差点レーン情報を表示

VICSなしの「mini」版もリリース予定

 総合的に見ると、iPhone向けのカーナビアプリの中ではかなり完成度が高いと思うが、ピンチ操作ができないこととスクロールの重さが気になる。あと、市街詳細地図の出来がいいだけに、歩行者や自転車向けモードが搭載されていない点はやはり惜しい。この点についてもぜひ将来的には可能にしてほしいし、その際には縦画面での使用も可能にしてもらいたい。

 価格については、いつもNAVIが年間2800円であることや、navicoが年会費不要で2012年まで地図データ更新できるのに対して、NAVIeliteの年間3800円(2月16日までは2600円)というのは高めに感じるが、充実した地図データやVICSへの対応に魅力を感じる人は少なくないはずだ。

 あと、使っていて何よりも感じるのは、音声案内がとても充実していること。この点については低価格のPNDとは別次元の使い心地だ。レーン情報などをきめ細かく音声で案内してくれるので、それだけiPhoneの画面に目をやる機会を減らすことができ、安全性向上にもつながる。このような長所に目を向けると、NAVIeliteはiPhone向けナビアプリの購入を検討している人にとって有力な候補の1つになると思う。

 なお、iTunesを見ると、現在このアプリの名称は「NAVIelite カーナビ 渋滞情報プラス」となっている。NAVIeliteのサイトを見ると、VICS非対応の「NAVIelite mini」が「COMMING SOON」と表示されており、mini版のリリースも予定されているようだ。アイシン・エイ・ダブリュによると、将来的にはVICSに加えてプローブ情報への対応なども検討しているとのことなので、今後の進化が楽しみである。

山間部の地図スキンで画面デザインを変更可能
高速道路のときは片側にICやSAのリストを表示高速道路の分岐案内


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2011/2/3 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。