中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/4/13~4/19]

企業がプライベートな生成型AIを導入 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 企業がプライベートな生成型AIを導入

 生成型AIは企業などの組織でも利用しようという機運が高まっている。その際に問題になるのは機密の漏えいだ。組織内で何らかの処理をしようとAIに情報を送信すると、その情報をAIが学習してしまう可能性がある。もちろん、情報そのものがどこか意図しないところに漏えいする可能性もある。では、企業が利用を躊躇していいのかというと、そうも言ってはいられない。なぜなら、AIの使用を禁止したところで、組織内の誰かは使ってしまうからだ。

 パナソニック、ベネッセ、東京海上日動火災はプライベートな環境で利用できるチャット型AIの導入を進めている。

 パナソニックは4月14日から国内約9万人のパナソニックグループ全社員に向けてAIアシスタント「PX-GPT」を導入した(Impress Watch)。その上でも「AI活用における利用ルールを整備。社内情報・営業秘密・個人情報などの入力はしないなど、入力情報の取り扱いに注意を払い、適切に情報を活用するよう全社員に注意喚起を徹底していく」という運用をする。

 ベネッセでもグループ全社員約1万5000人に提供する。「AIチャットを活用した業務効率化や、商品開発に向けた活用の検証」などでの利用が想定されている(ITmedia)。

 東京海上日動火災は「代理店からの問い合わせに対応する照会応答業務に活用するAIのプロトタイプを開発する。保険の種類や補償内容の詳細といった問い合わせに対し、AIがデータベースなどを参照して回答を生成する。一次対応の自動化率を高めることで、工数の削減と対応の迅速化を目指す」としている(ITmedia)。

 すでに金融機関でも、みずほフィナンシャルグループや三井住友フィナンシャルグループも導入したり、活用の検討を進めたりしていることが報じられてきた。

 行政でも利用する例が出てきた。横須賀市役所は、全庁的にAIを活用する実証実験を実施する。文章作成の支援などで職員が利用するという(Impress Watch)。

 こうして組織で固有の実行環境を構築するのであれば、それぞれの組織が蓄積した情報を学習させ、その組織や業界に特化した性能を持つ環境を構築できるかもしれない。ただし、それなりの量の学習させるためのデータも必要になるだろうから、これまでのデジタル化、そして今後の運用が競争力につながることになるだろう。

ニュースソース

  • パナソニック、国内全社員9万人にGPT3.5ベースのAIアシスタント[Impress Watch
  • ベネッセ、社内用チャットAI「Benesse GPT」発表 グループ全社員1万5000人に展開[ITmedia
  • 東京海上日動火災が保険業界に特化した対話型AI開発 AIチャットbotのPKSHAと共同で[ITmedia
  • 横須賀市役所、職員の文章作成をChatGPTで支援[Impress Watch

2. イーロン・マスク氏が「TruthGPT」のコンセプトを語る

 イーロン・マスク氏は「ChatGPT」のライバルとなる技術について米国テレビの取材に応じた(CNET Japan)。イーロン・マスク氏が「『TruthGPT』と呼ぶこの人工知能(AI)プラットフォームは、MicrosoftやGoogleが提供する生成系AIに対抗することを目指している」という。これまで、AIについて懸念を表明してきたイーロン・マスク氏だが、現在、沸騰しているAIの機運に対して、1つの回答を示そうとしているということだろう。今われわれは技術の可能性に関心を持ってトライアルをしている段階だが、イーロン・マスク氏は「AIには、文明を破壊する可能性がある。その可能性は小さいかもしれないが、わずかではない」と述べている。

ニュースソース

  • イーロン・マスク氏、「ChatGPT」に対抗する「TruthGPT」について語る[CNET Japan
  • イーロン・マスク氏、AI企業「X.AI」を設立[CNET Japan

3. AIによる「作品」の完成度は高まったか?

 写真コンテスト「Sony World Photography Awards 2023」で、AIによって生成された画像がクリエイティブ部門の最優秀賞を受賞した。しかし、この作品の作者であるボリス・エルダグセン氏は「私は生意気な猿として、主催側にAI画像を受け入れる準備があるか調べるために応募した」と述べ、最終的に賞を辞退した(ITmedia)。

 さらに、ボリス・エルダグセン氏は「受賞作がAIで生成されたと分かった、もしくはそうでないかとうたがっていた人はどれくらいいるでしょうか。何か納得できないですよね。AI生成画像と写真はこのような賞で比較するべきではありません。違う存在なのだから。AI生成画像は写真ではない。よって私はこの賞を受け取りません」と述べている。

 ラッパーのドレイクとシンガーソングライターのザ・ウィークエンドの「コラボ曲」としてソーシャルメディアにポストされた作品はGhostwriter977と名乗る人物によって「ボーカルを含む全体の音楽が人工知能(AI)によって生成された」ものだった(CNET Japan)。「しかし米国時間4月17日、同曲は著作権侵害の申し立てにより、YouTubeを含むさまざまな音楽ストリーミングプラットフォームから削除された」と報じられた。

 これらの例は、作品として一定のクオリティがあるのだろう。AIはそこまでできるようになったということだ。新しく登場した技術に対する単純な興味だけではなく、これから一層、法的な問題、倫理的な問題、作品とは何かという本質的な議論を深める必要がある。

ニュースソース

  • 国際的写真コンテストでAI画像が優勝 「主催側にAIを受け入れる準備があるか試した」 作者は受賞拒否[ITmedia
  • 人気アーティストの声を使ったAI生成の楽曲がSNSで大人気--レーベルは削除要請[CNET Japan

4. アマゾンも生成型AIに本格参入――残るアップルはどうする?

 生成型AIの分野へついにアマゾンも参入する。AWSは生成型AIをAPI経由で利用できるサービス「Amazon Bedrock」を発表した(ITmedia)。さらに、「人間と自然言語で対話し質問に回答でき、要求に応じた文章の生成や要約などが可能で、不適切な入力や出力を検出し拒否するように設定された大規模言語モデル『Amazon Titan』」も発表している。

 アマゾンでは「小売業者が過去のキャンペーンで効果のあったキャッチコピーと関連する商品説明をラベルを付けて読み込ませることで、Amazon BedrockがソーシャルメディアやWebサイト向けの新しいキャッチコピーの案を生成してくれる」という例を示している。

 競争が激化してきた。次はアップルがどう対応するかというところに注目か。

ニュースソース

  • AWSが生成AIに本格参入 テキスト生成、文章要約、画像生成など API経由で利用できる「Amazon Bedrock」発表[ITmedia

5. [イベントカレンダー]Interop Tokyoは今年で30回目の開催

 ナノオプト・メディアは「Interop Tokyo 2023」を6月14日~16日に開催すると発表した。また、講演スケジュールも発表になっている(INTERNET Watch)。「インターネットの技術」を検証・展示するこのイベントは今年で30回目となる。テーマは「To the next 30 years」とし、「インターネットの『今』への挑戦の答えを披露することに加え、次の30年先も見据えた『新しいインターネット』をお見せし、体験できる場をお届けする」としている。

 注目のカンファレンステーマとして、ランサムウェアにより業務システムが停止した大阪急性期・総合医療センターの関係者が登壇する「医療機関におけるランサムウェア被害の実態と対策」がある。大きなニュースとなり、医療基盤が停止したこの事案から直接学ぶことができる。

ニュースソース

  • 1994年の「Interop Tokyo」初開催から今年で30回目! 6月14日~16日に「Interop Tokyo 2023」開催 「宇宙へ広がるインターネット市場」など次の30年も展望[INTERNET Watch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。