Chrome OSにみるGoogleのねらいとは?
なぜGoogleはChrome OSを無料で提供するのか(2)
本連載は、3月25日に発売されたインプレス・ジャパン発行の書籍「Google Chrome OS -最新技術と戦略を完全ガイド-」から、序章「Chrome OSにみるGoogleの狙いとは?」を著作者の許可を得て公開するものです。序章には小池良次氏の「Google社のクラウド戦略とChrome OSの使命」、中島聡氏の「なぜGoogleはChrome OSを無料で提供するのか」の特別寄稿2本が収録されており、INTERNET Watchでは、その特別寄稿2本の全文を6回に分けて日刊更新で掲載します。
●OSビジネスへのインパクト
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当然だが、Microsoftにとってはとても戦いにくい戦争になる。機能の豊富さでの戦いではないので、Microsoftが得意な(機能競争の)消耗戦に持ち込むことができないからだ。
OSの機能を増やせば増やすほど、レスポンスが悪くなって使いにくくなりセキュリティ・ホールが増えることは、Windows Vistaが証明した。その教訓から、MicrosoftはOSの起動時間の短縮などに力を入れてWindows7を開発しては来たが、本質的なアーキテクチャが変わったわけではない。ユーザーにとってのOSの価値観が 「最新のハードウェアの機能をどこまで活かせるか?」から「1ギガバイトしかメモリを積んでいない100ドルパソコン上でどのくらい軽快に安定して動くか?」にシフトした時、Windowsの持つ優位性は一気に失われる。
もちろん、これだけ普及したWindowsに対抗して、Chrome OSが一夜で大きなマーケットシェアを取ることなどまずありえない。Chrome OSの存在がすぐに影響を及ぼすと予想できるのは、Windowsのライセンス・フィーだ。
ハードウェアの部材コストだけを見れば100ドルパソコンの時代は目前である。 Windowsパソコンが1台売れるたびに、MicrosoftにWindowsのライセンス・フィーが30~40ドル入るという時代は、Chrome OSがあろうがなかろうが終わろうとしている。Microsoftのビジネスの根底が崩れようとしているのだ。OEMメーカーに「Windows以外の選択肢」を与えるChrome OSの存在はそのシフトをいっそう加速させることになるだろう。
結果的には、MicrosoftはWindows7のライセンス形態を今よりもさらに柔軟なものにせざるを得ないだろう。1000ドル以上のパソコンからは従来通りのライセンスフィーを取りながら、低価格パソコンからは10ドル程度のライセンスフィーで甘んじる、というものだ(ただし、この戦略にも大きな穴がある。1000ドル以上のパソコン市場はAppleが一人勝ちの状況にあるのだ)。
しかし、それでもWindowsビジネスには、エンタープライズ・ビジネスがあるのでまだましだ。悲惨なのは、モバイルを含めた組み込み機器向けのOS ビジネスだ。スマートフォン市場では、RIMとAppleに大きく水をあけられている上に、すぐ後ろにはオープンソースのAndroidが控えている。
よほどのことをしない限り、Windows Mobileは市場から消えてしまうだろう。Chrome OSやAndroidが(スマートフォン以外の)組み込み市場でどのくらいの影響力を持つかはまだわからないが、既にWindows CEよりもLinuxを選ぶメーカーが増えている状況に拍車をかけることは間違いないだろう。
●ハードウェア・ビジネスへの影響
ハードウェア・ビジネスへの影響は、Chrome OSよりもAndroid OSの方が影響の方が先に目に見える形になって来ているが、Chrome OSが存在する前から既に日本のメーカーなどに大きな脅威となっている台湾・中国などからの新規参入組の力が、AndroidやChrome OSなどにより一層強まることだけは明確だ。
MicrosoftからOSを正式にライセンスしなければ作れないWindowsパソコンと違い、オープンソースであるChrome OSであれば、どんなに小さなメーカーであれ、そこそこの技術力さえあればあっという間にパソコンを作ることができてしまう。これがパソコン市場に対する参入障壁を一気に押し下げ、人件費が安くて起業家精神の旺盛なアジア(特に中国)からの新規参入を一気に加速する。
設計・製造のすべてをアジアにアウトソースして、アイデアだけで勝負する米国のベンチャー企業も次々に参入して来る。Chrome OSを搭載した100ドルパソコンはもちろんのこと、Androidを搭載した100ドルパソコン、Chrome OSを搭載したネットテレビ、iPhoneサイズのChrome OSパソコンなど、既存のビジネスモデルに縛られるパソコンメーカーには、投資リスクの高さから手を出せないようなものが市場にあふれる。
もちろん、市場で成功するのはそのごくわずかだが、既存のパソコン・メーカー、ハードウェア・メーカーのほとんどは、そんな新規参入組の動きに翻弄されるだろう。
ちなみに、そんなメーカーの中でも、AppleはChrome OSの影響はほとんど受けない数少ないメーカーの1社と見て間違いはないだろう。すでにAppleは他のメーカーとの価格競争を避けて、常に差別化を意識して粗利益の高い製品に力を入れる戦略を取っている。
多くのメーカーがNetbookと100ドルパソコン市場での消耗戦に突入するのを横目で見ながら、1000ドル以上のパソコンでのマーケットシェアを維持しつつ、iPhone、iPadの2つの戦略商品で、モバイル・コンピューティングの市場でしばらくはリーダーシップの地位を走り続けるだろう。
Apple製品と、Chrome/Android OSを搭載した製品群の一番の違いはその「完成度」だ。スティーブ・ジョブズのリーダーシップのもとに、OSからチップまですべてに責任を持ち、常に使いやすく完成度の高いものだけをリリースするAppleと、Googleから提供された半完成品のOSを自分の箱に載せるだけのハードウェア・メーカーでは、最終成果物の完成度という面で大きな差がつくのはしかたがないところだ。
(つづく)
筆者:中島 聡(なかじま・さとし) 米国シアトル在住の自称「永遠のパソコン少年」。学生時代にGame80コンパイラ、CANDYなどの作品をアスキーから発表し、マイクロソフトではWindows95、IE 3.0/4.0 のアーキテクトとして、IEとWindows Explorerの統合を実現。設立企業「UIEvolution Inc.」「Big Canvas Inc.」。ブログ「Life is beautiful」(http://satoshi.blogs.com。近著「おもてなしの経営学」(アスキー新書)。iPhoneアプリ「PhotoShare」「PhotoCanvas」。現在はGoogleApp Engine上でのサービス作りに夢中。 |
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2010/4/8 06:00
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