山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

“人肉捜索”で企業の責任も問われる「侵権責任法」が施行 ほか
2010年7月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

“人肉捜索”でサービス事業社の責任も問われる「侵権責任法」が施行

個人情報漏洩を助長したとして百度が訴えられる

 7月、検索結果を通じて個人情報漏洩を助長したとして、百度が敗訴するというニュースが2件あった。

 ひとつは4月に上海で、恋愛関係にあった男女が別れ、男性が腹いせに女性の裸写真をネットに大量にアップした件。女性はすぐに警察に通報したものの、ネットでの伝播のスピードは早く、さらに一部のインターネット利用者らにより女性の素性が明かされることに。

 画像アップから1週間後、女性はネット上に弁護士の声明を発表、1カ月後に百度は女性に関する検索結果の削除に動き出した。女性は百度に対し、情報の伝播を助長したとして謝罪と賠償を要求していた。

 上海静安区の裁判所は、女性の名誉毀損行為をすぐ止めず、画像リンクや個人情報公開のサイトへのリンクを提供し続けたとして百度に対し、3日間のトップページの目立つ場所に配置した謝罪文掲載と、経済損失分2000元(約2万7000円)と見舞金2万元(約27万円)の支払いを命じた。

 もう一件は北京市延慶県に住む女装が趣味の67歳男性によるもの。男性は無断で撮影された写真を、百度の掲示板サービス「百度貼〓(〓は口へんに巴)」で晒されて話題となったのを男性本人が発見。掲示板上で罵られた精神的苦痛もも含め、百度貼〓を運営する「北京百度網訊科技」に対して、5万元(約68万円)の損害賠償を要求した。

 北京百度網訊科技は「他人がアップロードしたのであり、当社が原告の権利を侵害したわけではない」と弁明したが、北京延慶の裁判所は肖像権と名誉権を侵害したととして、「百度貼〓」サイトトップページの目立つところに謝罪文を15日間掲載した上で、6000元(約8万1000円)の見舞金を支払うよう命じた。

 7月1日には、生命権、健康権、著作権、継承権、プライバシー権などの保護を目的とした「侵権責任法」が施行された。侵権責任法では、“人肉捜索”(ネットユーザーがよってたかってブログの管理者など特定の人の個人情報を暴き、晒しあげること)でプライバシー権などを侵害した場合、ユーザーとサービス提供者の連帯責任になると解釈される。

中国のインターネット利用者、4億2000万人に。

 中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は15日、中国における2010年6月末時点でのインターネットの利用状況をまとめた「第26次中国互換網発展状況統計報告」を発表。2009年6月末時点のインターネット利用者は4億2000万人、ブロードバンド利用者は3億6381万人となった。

 CNNIC統計の詳細については、本誌別記事「中国のネット利用者は4億2000万人に、ブロードバンドが3億6000万人超(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100720_381370.html)」にまとめたので、参照していただきたい。

老舗SNSサイト閉鎖、人気サイトは著名人を囲い込み

易観国際による中国SNS人口の推移予想

 中国には多くの差別化されていない、そっくりSNSサイトが2008年下半期以降無数に登場していることは、本連載の2008年10月分の回(http://internet.watch.impress.co.jp/static/column/m_china/2008/11/07/index.htm)でお伝えした通りだ。

 そうしたサイトのひとつで、2007年6月に誕生した中国の老舗SNSサイト「360圏」が突然閉鎖を宣言して話題となった。同サイトは広告収入で運営していたが、2009年末に投資会社からの投資が停止したことがサイト閉鎖の原因ではないかと言われている。

 7月末に中国の調査会社「易観国際(Analysys International)」が発表した「中国SNS市場年度総合分析報告2010」によれば、2009年の中国SNS市場規模は前年比55.9%増となる7億7660万元(約105億円)、利用者数は前年同期比68.3%の1億7600万人となった。

 ちなみに前述のCNNICのレポートによれば、SNS利用者は利用者全体の45.8%にあたる2億1千万人。分析によれば、昨年はいわゆる農場ゲームの人気で利用者増加に拍車がかかったとしているが、こうしたゲームの流行は半年と持たず、現在は飽きられたため使われない非アクティブユーザーが多数いるだろうと予測。これは筆者の周辺の中国ネットユーザーを見ても同感だ。また追い打ちをかけるように、近い将来、SNS向けのウェブゲームにも中国政府による規制が入ることが報じられている。

 別の中国の調査会社大手「iReserch」は、中国3大SNSサイト(人人網、開心網、千橡開心網)を対象に、利用者のサイトの利用時間の傾向を調査。3サイトとも、2009年末以降、平均利用時間が大きく減少していることが判明した。またAlexaにおいても、やはり今年年始からトラフィック量が減少しているのが確認できる。

 ウェブゲームが飽きられ、ターニングポイントとなっている今、SNSサイトの最大手「人人網」は、日本のブログサービスのように、タレントやネットアイドルなど、ネット上の著名人をサイト会員として呼び寄せる戦略に出た。

 ネット上の著名人を中国語で「網絡紅人」と呼ぶが、彼らの商業価値は年々上昇し、以前はSNSサイト登録で500元支払われたギャランティーが、現在数万元まで上がったと報道するニュースもある。網絡紅人に憧れる若者が増えるにともない、ネット上の動画サイトなどで自分をアピール・パフォーマンスする人が増えていくだろう。


人気のネット小説サイト、海賊版を配信し提訴される

起点中文網ではアマチュア漫画も多数ある

 CNNICによれば、インターネット利用者の44.8%にあたる1億8800万人が利用している人気のサービスのネット小説。ネット小説配信サイトは数あるが、その中でも人気の起点中文網が、小説家に海賊版を配信しているとして訴えられた。

 訴えたのは「無罪」というペンネームで執筆活動を行う王輝氏。氏は、起点中文網が氏の著作「羅浮」を勝手に拝借することで、サイトのPVと知名度を上げようとした結果、経済的損害を被ったと訴える。

 これに対し起点中文網は、サイト自身インフラを提供しているだけであり、正規版コンテンツを配信するよう善処を尽くしているとコメント。数年前には音楽配信サイトが、海賊版コンテンツを配信し「インフラを提供しているので関係ない。海賊版には反対」とアピールしていたが、現在は正規版音楽を広告収入により無料で配信するようになった。

 中国でも著作権侵害への意識が高まるにつれ、こうしたネット小説サイトも変わっていくのではないかと思われる。


チャットソフト「QQ」の騰訊(テンセント)にPC誌が辛口批評

問題となった「計算機世界」の表紙

 中国では大人気のチャットソフト「QQ」をリリースし、ポータルサイト「QQ(qq.com)」、オンラインショッピングサイト「拍拍網」、オンラインゲームなど多角的に事業を拡大する騰訊(テンセント)に、PC誌「計算機世界」がQQのマスコットキャラクターのペンギンにナイフを刺すというインパクトある表紙を引っ提げて辛口批評を行った。

 「QQは元々の名称がOICQで、その名の通りICQのパクリであり、その後QQで勢いづくと、ネットベンチャーが新規に良サービスをリリースすると、パクリサービスを無料などさらにユーザーに良い条件で展開し、ネットベンチャーを潰す。良心のない騰訊はこれ以上何を望むのだろうか」というのが批評の内容だ。

 当然、この批判に対して騰訊は「取材もせずに、罵詈雑言を放つ『計算機世界』には法の下に責任をとってもらう」と強く反発した。

 以前からインターネット利用者間では、模倣サービスで騰訊が後追いする姿勢については、よく話題に上っていた。そのため、ネット上では「計算機世界」側を支持する意見が多い。

 他のニュースサイトでも「計算機世界」の文章を引用して報じた結果、「計算機世界」の批判は多くのインターネット利用者に知れ渡るにいたった。多くのインターネット利用者らが思っていたことを、1メディアが大きく取り上げ、騰訊に宣戦布告した形だが、どういう形で決着がつくのか。


88%のポータルサイト利用者「ハッカーが成績を改ざんしてくれる」

「ハッカーは大学入試試験の成績改ざんができる」信じるか否か

 前述の騰訊(テンセント)がポータルサイトで利用者に対し「ハッカーが大学受験の成績を改ざんできると思うか」という質問を掲載。9257名が回答し、うち88%にあたる8107名が「改ざんできる」と回答した。

 ハッカーグループのサイトが、中国版英語検定や公務員試験や大学入学試験などの成績の改ざん業務を行うとアピールしたニュースが話題となったため、このようなアンケートが実施された。対価はテストにより異なり、3000元(4万円強)から1万5000元(20万円強)まで様々。ハッカーのメンバーが自己名義のサイトで、こうしたサービスを呼びかけたことから、結局警察に御用となった。


CNNIC、信頼できるサイトへ御墨付きを与えるテストを開始

 先のCNNICの統計発表によれば、信憑性のないECサイトにアクセスしたときに、92%のインターネット利用者が別のサイトに移動し、86.9%が手続きをキャンセルするという。またCNNICの担当者によれば、人気ポータルサイト「QQ」で、2年間に4000回もフィッシングサイトやニセモノ販売の悪質なサイトの広告が表示されたという。

 こうした「広告を開けば詐欺サイト」という状況を打破すべく、CNNICは四川省限定で、信頼できるサイトに第三者認証機関による認定証を提供し、インターネット利用者に多くのサイトを安心して使ってもらおうとするシステムのテストを開始した。

中国は、海賊版サイトに対しブラックリスト制度を近く制定

 国家版権局、公安部、工業和信息化部(工業及び情報産業省)は7月21日より10月末まで「剣網行動」という名の海賊版サイト粛正に動き出した。2005年の初回の対海賊版作戦より6回目となる今回は、人気のテレビドラマ、出版されたばかりの書籍、オンラインゲーム、アニメ、音楽、ソフトや、上海万博絡みのコンテンツなどを重点的に調査する。

 また今回は、ブラックリスト制度を制定した。ブラックリスト作成後、各サービスプロバイダーにブラックリスト入り企業にサービスを提供しないよう働きかける予定だ。


関連情報

2010/8/5 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。