第3回:iSCSIやバックアップ/複製機能を活用しよう


高度なストレージとしてのNASの利用

 文書や画像などのさまざまなデータを保存したり、複数のユーザーでデータを手軽に共有することができる「NAS」。今や家庭などにも普及しつつあるが、ビジネスシーンには、もはや無くてはならない存在と言えるだろう。

 そんなNASをもっとビジネスシーンで活用することで、さらに業務の効率化を図ろうという試みが、さまざまな企業の間で進められている。

 これまで本稿で紹介してきたWebサーバーやアプリケーションサーバー、メディアサーバーとしてNASを利用することももちろん業務の効率化に貢献するが、さらに業務に密接に関係する基幹的なシステムにNASを活用しようという試みだ。

 具体的には、大きく3つの用途が考えられる。1つ目はiSCSIを利用したエンタープライズサーバー向けストレージや仮想環境での活用、2つ目はリモート環境を含めたデータのレプリケーション環境での活用、そして3つ目はクライアントを含めたバックアップソリューションでの活用だ。

 これらは、これまで専用のハードウェアやソフトウェアが必要だったり、SIerによるインテクレーションが必要だったため、規模の小さな中小企業での活用が難しかったが、QNAPのNAS製品のように、高度な機能を搭載したNASを利用すれば、簡単な設定をするだけですぐに利用することができる。

「TS-809U-RP」。Intel Core 2 Duo 2.8GHzと2GBメモリ搭載のハイパフォーマンスモデル

 特定の地域で圧倒的な強みを持つ企業、1つ1つは小さな店舗だが、それを全国的に展開している企業など、中小と言えどもシステム的には高度な環境が求められる企業も少なくない。また、大企業でも、コスト削減などの目的で、これまでの高価なシステムから安価なNASへと環境を移行するケースが増えている。

 このような場合でも、QNAPのNASを利用すれば、手軽に仮想環境を利用したり、全国の拠点を結んだデータ連係を実現することが手軽に可能となるわけだ。では、その具体的な方法について見ていこう。

すぐに始められるiSCSI

 iSCSIのターゲットとして手軽に利用できる。これはQNAPのNASの大きな特長の1つと言えるだろう。

 ファイルサーバーとしてだけでなく、高度な”ストレージ”としての利用が想定されたQNAPのNASは、iSCSIターゲットサーバーの機能を標準で搭載しており、既存のアプリケーションサーバーのストレージを統合・拡張するために利用することができるうえ、仮想環境での活用も簡単な設定をするだけで手軽にできるようになっている。

 もちろん、1台の製品を、これまでに紹介したファイルサーバーやWebサーバー、アプリケーションサーバ-、メディアサーバーなどの機能を使いつつ、さらにiSCSIターゲットサーバーとして利用することもできるので、サーバーやストレージ機器にコストをあまりかけられない中小の環境でも利用できるのがメリットだ。

 では、具体的な使い方を見ていこう。今回は、比較的規模の大きな環境での利用にも対応できる高性能な機種ということで、19インチラックに収納する形態の「TS-859U-RP」、および「TS-809U-RP」を利用した例を紹介する。

 いずれも8つのベイを搭載した高性能NASだが、TS-859U-RPはデュアルコアのIntel ATOMプロセッサと1GBのメモリを搭載したコストパフォーマンスと静音性に優れたNAS製品となっており、もう一方の「TS-809U-RP」はIntel Core 2 Duo 2.8GHzと2GBのメモリを搭載したハイパフォーマンスNASとなっている。

「TS859-U-RP」正面「TS859-U-RP」背面
「TS809-U-RP」正面「TS809-U-RP」背面

 VMwareやWindows Server 2008 R2のHyper-Vとの互換性も確認されており、仮想環境での利用にも適した製品となっているのが特長だ。

 なお、QNAPのNAS製品はSOHO向けの製品でもiSCSIに対応するなど、機能的には共通化されている部分も多いため、今回紹介する機能を他の機種でも利用することも可能だ。設置場所などの問題があるケースでは、より小型の製品で試してみると良いだろう。

 iSCSIを利用するには、まずNAS上でサービスを有効にする。ネットワーク上のPCから設定画面にアクセスし、「ディスク管理」にある「iSCSI」を選択すると、サービスの設定画面が表示されるので、「iSCSIターゲットサービスの有効化」にチェックを付けておこう。これでiSCSIターゲットサーバーとしてNASを利用可能になる。

iSCSIターゲットサービスを標準で搭載。NAS上のボリュームをイニシエーターから利用できる
iSCSIの概要

 そもそもiSCSIは、ハードディスクのインターフェイスとして利用されていた「SCSI」のコマンドをネットワーク経由で利用できるようにしたプロトコルだ。

 SCSIコマンドを発行する「イニシエータ(ストレージを利用するサーバー側)」と、コマンドを受け取ってレスポンスを返す「ターゲット(ストレージを提供する側)」の2つの役割で構成されており、両者がネットワーク経由でデータをやり取りすることでストレージが利用可能になる。極端な例えとなるが、SCSI接続のハードディスクのケーブルをネットワークに置き換えたようなものと考えると良いだろう。

 つまり、QNAPのNAS上でサービスを有効にすることで、NASがiSCSIのターゲットとして利用可能になるわけだ。

 サービスを起動したら、ターゲットの構成をする。設定画面の「ターゲット設定」タブを表示すると、「クイック構成ウィザード」というボタンが表示される。これをクリックすればウィザード形式で手軽に設定することが可能だ。基本的には、イニシエータから参照するターゲット名を設定し、イニシエータに提供するディスク領域をLUN(Logical Unit Number)として設定するだけで完了だ。

 ちなみに、LUNの容量は実際のディスク容量以上に設定することも可能だ。今回の例では2TBのハードディスク2台をストライプ構成した4TBの物理容量を用意したが、設定画面からは32768GB(32TB)の容量を作成することも可能となっている。

 先にLUNとして必要な容量を確保しておき、物理容量は後からボリュームを拡張することで追加していくことも可能というわけだ。規模の大きな環境では、こういった使い方ができるのは1つのメリットだろう。

iSCSIの設定手順。ウィザード形式で設定可能まずはターゲット名とエイリアス名を設定する
CHAP認証を利用することも可能。パスワードは12文字以上の設定が必要容量を指定。物理ハードディスク以上の容量も設定可能
設定完了。LUNがマップされたiSCSIターゲットが設定できた

Windows Server 2008 R2からiSCSIターゲットを利用する

 作成したiSCSIのボリュームは、iSCSIイニシエータを搭載した環境から利用できる。Windows 7などのクライアントOSからも利用可能だが、ここではWindows Server 2008 R2のHyper-Vで利用してみた。

 使い方としては簡単で、ホスト側のWindows Server 2008 R2でコントロールパネルからiSCSIイニシエータを起動し、NASのIPアドレスを入力してターゲットを検索すれば、自動的にボリュームが接続される。

Windows Server 2008 R2から利用。iSCSIイニシエータを起動し、サーバーのIPを入力するサーバー上のLUNが自動的に検出され接続される
接続されたボリュームはローカルのハードディスと同様に扱えるHyper-VのVHDを保存して仮想環境でも利用可能。ディスクの管理でオフラインにすれば直接マウントすることもできる

 この状態でローカル接続のハードディスクと同じ使い方ができるため、ディスクの管理から領域確保とフォーマットをすればWindows Server 2008 R2から利用可能となる。Hyper-Vから利用する場合も、仮想ディスク(VHD)をiSCSIのボリューム上に配置すればいいだけなのですぐに設定できるだろう(オフラインに設定すれば仮想OSに直接マウントすることも可能)。

 iSCSIのメリットは、パフォーマンスの高さだ。以下はWindows 7から、TS-809U-RP上の共有フォルダ(SMB)とマウントしたiSCSIボリュームにアクセスした際の速度の違いだ。

iSCSIでWindows 7から接続しCrystalDiskMark3.0gを実行ネットワーク上のWindows 7から共有フォルダをマウントしてCrystalDiskMark3.0gを実行

 シーケンシャル、ランダム問わず、読み書きどちらも非常に高速だ。実環境で利用する際は、サーバーとNASを接続する専用のNICを用意するなど、他のトラフィックの影響を受けないように配慮したいところだが、ローカル接続のハードディスクに引けを取らないパフォーマンスを実現できていると考えて良いだろう。

 これなら複数台のサーバーを仮想化して統合するといった使い方にも十分に対応できるはずだ。

拠点間のデータ連係もNASにおまかせ

 このように、iSCSIを利用することで、NASを基幹システムに活用することができるが、QNAPのNASの応用範囲はこれだけにとどまらない。

 特に、遠隔地の拠点や事務所、店舗などを展開する企業で注目したいのが、QNAPのNASに標準で搭載されている「リモートレプリケーション」機能だ。

 リモートレプリケーションは、文字通り、データを複製するための機能だ。同じQNAPのNAS同士でデータを転送することが可能となっており(Rsyncでのバックアップも設定可能)、バックアップや拠点間のデータ同期に活用することができる。

 この機能の使い方も非常に簡単だ。バックアップを受け付ける設定は標準で許可されているため、同期したいデータが保存されている側でスケジュールを設定するだけで良い。

 データが保存されているNASの名前やIPアドレスなどを設定後、相手側のボリュームから同期したいフォルダーと、それをローカルのどこに保存するかを選択する。最後にレプリケーションを実行する日時を指定すれば完了だ。

リモートレプリケーションは標準で有効になっているため、スケジュールを作成する接続先のサーバーを指定。Dynamic DNSを利用すればWAN経由でもレプリケーション可能
フォルダーを自動的に認識するので、同期したいデータがあるフォルダーを送信側、受信側ともに選択するスケジュールを指定することで定期的に同期を実行できる
暗号化や圧縮などのオプションも設定可能

 スケジュールしたタイミングになると自動的に2台のNASの間でデータが同期され、それぞれのNASに同じデータが存在するようになる。

 同じデータが複数のNAS上に存在するようになるため、バックアップとして活用することも可能だが、前述したように遠隔地の拠点間のデータ連係が手軽にできるのが大きなメリットだ。

 物理的な場所が分散している企業では、各拠点でデータの整合性をいかに確保するかが大きな課題となる。たとえば、社内で使う申請書などの定型文1つにしても、拠点ごとにデータを管理していると、複数のバージョンが存在し、業務の効率化ができないケースがある。

 しかし、この機能で一定時間おきに常に本社側とデータを同期できるようにしておけば、どの拠点でも必ず同じデータを利用することが可能となる。複製オプションによって、データを暗号化したり、圧縮して送信することも可能となっているため、拠点間の連携を安全かつ効率的に、しかも低コストで実現できるというわけだ。この機能はシステムに大きな投資や専門の管理者を設置できない中小企業では非常に魅力的だろう。

クライアントのバックアップもおまかせ

 このように、リモートレプリケーションによって拠点間のデータ同期やNASそのもののバックアップが可能となるが、これ以外にクライアントのバックアップにNASを利用することも可能となっている。

 QNAPのNASには、「NetBak Replicator」というソフトウェアが付属しており、このアプリケーションをクライアントにインストールすることで、クライアントのデータを自動的にNAS上にバックアップすることが可能となっている。

 中小規模の企業の場合、サーバーのバックアップは実行しているものの、クライアントのバックアップまできちんと準備しているケースはあまり多くない。バックアップ用のハードウェアやソフトをクライアントごとに用意するのにコストがかかるうえ、そのための設定をしたり、さらにはバックアップによってユーザーの作業が中断するようなことがあると、業務に差し支える可能性があったからだ。
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クライアント用のバックアップアプリケーションも自動的に実行可能

 しかし、バックアップ先をNASにし、軽量のソフトウェアで自動的にバックアップできるQNAPのソリューションであれば、クライアントのバックアップも手軽に実行できるようになる。

 データの安全性という点を考えると、サーバーだけでなく、これからはクライアントのデータをいかに保護するかも考慮していかなければならない。そういった意味では、手軽なバックアップソリューションとしてQNAPのNASを導入する価値は十分にあるだろう。

 以上、iSCSIと仮想化、リモートレプリケーション、バックアップという3つのポイントで、ビジネスシーンでのQNAPのNASの活用例を紹介してきた。これからの企業システムでは、このような多機能なNASをいかに活用していくかが、業務の効率化やコスト削減などに大きく影響すると考えられる。自社の課題を解決するソリューションとしてNASの導入を検討してみると良いだろう。


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(清水 理史)

2010/11/8 00:00