清水理史の「イニシャルB」
Synology人気モデルの後継NAS「DS218j」登場 2500円差ならやっぱり新型!
「DiXiM Media Server」で録画番組のバックアップにも対応
2017年12月18日 06:00
Synologyから2ベイNASの新製品「DiskStation DS218j」が発売された。日本でヒット作となった「DS216j」の後継機で、SynologyのNASならではの多機能さを低価格で楽しめるコスパに優れた製品だ。DS216jから投入予定の「DiXiM Media Server」の事前評価版も入手できたので、デジタル放送のバックアップも含めて、実力を検証してみた。
新型「DS218j」の方が「DS216j」よりベターなのは確か
個人的には、動画を保存するなら「play(Value)シリーズ」をお勧めしたいし、Synologyの先進的な機能を余すところなく味わいたいならIntel CPU搭載の「Plusシリーズ」がベストだと思っている。
とは言え、何かと出費がかさむ年末年始が控えることを考えると、コストについてはシビアにならざるを得ず、少しでも安いものを選びたいという気持ちも大きい。
というわけで実は、2ベイクラスのNAS選びというのは、非常に悩ましい。実売で2万円強という価格で登場したSynologyの新型NAS「DiskStation DS218j」は、家庭用のNASとしては非常にバランスが良く、活用の幅も広い製品だ。現状、Synologyのラインナップの中でも、他社製品との比較でも、ベターな製品と言える。
まず、製品のスペックを見てみよう。従来製品であるDS216jと比べてみたのが下の表だが、ご覧の通り、CPUと消費電力以外のスペックはまったく同じで、筐体のデザインなども共通となっている。
DS218j | DS216j | |
実売価格 | 2万639円 | 1万7980円 |
CPU | Armada 385(デュアルコア 1.3GHz) | Armada 385(デュアルコア 1.0GHz) |
ハードウェア暗号化 | ○ | ← |
ハードウェアエンコード | × | ← |
メモリ | 512MB(DDR3) | ← |
ベイ数 | 2 | ← |
最大容量 | 24TB | ← |
ホットスワップ | × | ← |
LAN | 1000Mbps×1 | ← |
USB3.0 | 2 | ← |
本体サイズ | 100×225.5×165mm(幅×奥行×高さ) | ← |
重量 | 0.88kg | ← |
動作時消費電力 | 17.48W | 14.85W |
Synologyは、いわゆる年次改良を定期的に実施するメーカーで、今回のDS218jも完全な新モデルというより、その時点で入手できるCPUを搭載した2018年モデルという位置付けではあるのだが、確かにそこに目新しさはあまりない。
とは言え、同じように年次改良を繰り返すクルマであれば、いざオーナーになると、ちょっとしたデザインの違いも気になってくるもので、いくら安く手に入るからと言っても、わざわざ差がある旧型を選ぶのに抵抗を感じる場合もある。
今回の場合、従来モデルのDS216jとの価格差は約2500円で、ベンチマークを実行しても、新旧モデルでの差はごくわずかだ。
これなら安い方がいいという人も少なくないかもしれないが、SynologyのNASの場合、さまざまなパッケージを追加して、いろいろな用途に活用することを考えると、CPUパワーに余裕があった方がいいことは確かで、使い込むほどに1.3GHzのアドバンテージが効いてくる可能性がある。
後述する「DiXiM Media Server」のように、新機能が新機種から優先的に投入される場合もあるため、新旧の選択ということであれば、個人的には新型のDS218jをお勧めしたいところではある。
5000円や1万5000円の追加出費は必要なのか? DS218playやDS218+と比較する
ちなみに、冒頭でも触れたように、SynologyのNASには同じ2ベイでも複数のラインナップが用意されている。DS218であれば、今回のDS218jに加えて、DS218play、DS218+も購入候補として検討しておきたいところだ。
DS218j | DS218play | DS218+ | |
実売価格 | 2万639円 | 2万5787円 | 3万4988円 |
CPU | Armada 385(デュアルコア 1.3GHz) | RTD1296(クアッドコア 1.4GHz) | Celeron j3355(デュアルコア 2.0GHz) |
ハードウェア暗号化 | ○ | ○ | ○(AES-NI) |
ハードウェアエンコード | × | ○ | ○ |
メモリ | 512MB(DDR3) | 1GB(DDR4) | 2GB(DDR3L) |
メモリ増設 | × | × | ○ |
ベイ数 | 2 | ← | ← |
最大容量 | 24TB | ← | ← |
ホットスワップ | × | × | ○ |
ファイルシステム | EXT4 | EXT4 | EXT4/Btrfs |
LAN | 1000Mbps×1 | ← | ← |
USB 3.0 | 2 | 2 | 3 |
eSATA | × | × | 1 |
本体サイズ | 100×225.5×165mm(幅×奥行×高さ) | ← | 108×232.2×165mm(幅×奥行×高さ) |
重量 | 0.88kg | ← | 1.30kg |
動作時消費電力 | 17.48W | 16.79W | 17.23W |
上のスペック表のように、ハードウェア面ではCPU性能などに違いがあるが、注目はハードウェアエンコードの部分だ。今回のDS218jは対応していないが、上位のDS218playやDS218+は,、ハードウェアを利用して動画のトランスコードを高速かつ低いCPU負荷で実行することができる。
この機能は、さまざまな形式の動画をNASに保存する場合は便利だ。例えば、ビデオカメラで撮影した動画などをNASに保管し、スマートフォンなどで再生するなら、できればこの機能が搭載されていた方がいい。ストリーミング再生時に、スマートフォンで再生可能な形式に変換したり、帯域などに応じてトランスコードを行う場合、DS218jではCPU負荷が非常に高くなり、動画をスムーズに再生できない場合がある。4Kビデオの変換にも対応するので、むしろ5000円程度の出費で済むなら安いものだ。
しかしながら、例えば、その動画がそもそもスマートフォンで撮影したものだったり、スマートフォンでそのまま再生可能なMP4だったりする場合は、特に変換しなくても再生できるので、ハードウェアエンコードに対応しないDS218jでも、さほど不自由は感じない。一般的には、やはりDS218jで十分だろう。
一方、Plusシリーズとの違いで注目したいのは、ファイルシステムだ。DS218jやDS218playはEXT4にしか対応しないが、DS218+はBtrfsに対応する。
Btrfsには、データの信頼性を確保する機能など、さまざまなメリットがあり、その機能を前提としたパッケージもいくつか提供されている。例えば、データの履歴を自動的に取得する「Snapshot Replication」などがこれに相当する。共有フォルダーのデータを最短5分間隔で取得可能となっており、万が一、ファイルを削除した場合などでも以前の状態に復元できる。
同様のデータの履歴保持は、DS218jでも「Cloud Station Drive」や「Hyper Backup」を利用することで実現できるが、Cloud Station Driveが保持するのはPCから転送されたデータで、NAS上の共有フォルダーそのものではない点に注意が必要だ。
なお、同じCloud Station DriveをBtrfsで実行した場合、履歴によって消費される容量をEXT4より節約できるメリットもある。
このように、ファイルシステムはNASの根本的な部分に相当するため、1.5万円の差額で済むなら、Btrfsに対応するDS218+をお勧めしたい気持ちは大きい。
しかしながら、家庭での利用であれば、そこまでデータの信頼性に気を配る必要はない。PCの台数が少なければ容量面もそこまで大きな問題にはならない。こうした点を割り切って使えば、やはりDS218jで十分と考えても良さそうだ。
このほか機能的には、Intel CPUでしか使えない「Virtual Machine Manager」などもDS218jでは利用できない。使えれば楽しいが、個人ユースならなくても問題ないだろう。
DS218j | DS218play | DS218+ | |
iSCSIターゲット最大数 | 10 | 10 | 32 |
iSCSI LUN最大数 | 10 | 10 | 256 |
最大アカウント数 | 1024 | 2048 | 2048 |
同期最大フォルダー数 | 2 | 4 | 4 |
最大同時接続数 | 100 | 200 | 500 |
CMS | × | × | ○ |
Document Viewer | × | × | ○ |
MailPlus/Mail Plus Server | × | × | ○ |
Snapshot Replication | × | × | ○ |
Virtual Machine Manger | × | × | ○ |
DiXiM Media Serverにいち早く対応
DS218jを選ぶメリットとして、もう1つの理由となりそうなのが、「DiXiM Media Server」にいち早く対応する点だ。
DiXiM Media Serverは、DTCP-IPに対応した動画をネットワーク経由でNASにダウンロード(ムーブ)したり、ダウンロードした動画をPCやスマートフォン向けのアプリで再生できるようにするパッケージだ。
同様の機能は「sMedio DTCP Move」でも利用できるが、DiXiM Media Serverでは、転送したデータをファイルとして容易に扱えるため、自動ダウンロード機能によって意識せずに録画機器からNASへ番組を転送できる。
DTCP-IP関連のアプリには相性の問題などがある上、今回テストしたDiXiM Media Serverは正式リリース前の評価版であるため、筆者が試した限りでは、という点をあらかじめお断りしておくが、とりあえずnasneを利用してテストしてみた。
なお、DiXiM Media Serverの利用には、有料(8.5ドルの予定)のライセンスが必要になる。
使い方は簡単で、DS218jの設定画面からDiXiM Media Serverを起動後、ダウンロードを選択し、録画番組が保存されている機器(ここではnasne)を選択する。すると、録画済みの番組一覧が表示されるので、ダウンロードしたい番組を選んでDS218jに転送すればいい。3倍モードで録画した2時間の映画(約6GB)で試したところ、1Gbpsの有線LAN環境で約12分ほどで転送できた。
sMedioとの違いは、ダウンロード先のフォルダーが一般的な共有フォルダーとなる点だ。sMedioはアプリによって内部的に管理されたフォルダーに録画番組をダウンロードするが、DiXiM Media Serverでは通常の「DiXiMMediaServer」フォルダーで録画データが管理されるため、NAS側でバックアップの対象として録画データを扱うことができる。
このため、例えば録画機器からNASに大量の番組を転送して、NASの空き容量が残り少なくなったとしても、USB接続のHDDなどにファイルをコピーしたり、Hyper Backupを使って録画データをバックアップすることなどで、番組を別の場所に退避することができる。
ただ、待避したデータを再びNAS上で視聴可能にするには、DiXiM Media Serverの管理情報(暗号化の鍵など)が必要となる。このため、以下のように、復元した番組が視聴できなくなるケースもあるので注意が必要だ。
- ・自NAS内でのファイルの移動→視聴可能
ダウンロードした番組のファイルをNAS上の別の共有フォルダーやUSB HDD、ほかのNASに移動し、再び復元した場合でも番組は視聴可能
- ・DiXiM Media Serverの再インストール→視聴可能
録画されたデータを残した状態で、DiXiM Media Serverをアンインストールし、再びインストールした場合は視聴可能
- ・他NASでの視聴→視聴不可
NAS1にダウンロードした番組を、DiXiM Media Serverがインストールされた別のNAS2に移動した場合、NAS2上ではファイルが認識されない
- ・バックアップからの復元→視聴不可
番組のダウンロード後、Hyper Backupを利用してNASのシステムと録画データをバックアップ。NASのHDDを交換し、新規にDSMをインストール後、Hyper Backupからシステムとデータを復元しても、録画番組は認識されない
- ・マイグレート→視聴不可
DiXiM Media Serverをインストールし、ダウンロードした番組が保存された状態でNAS1のHDDを取り外し、NAS2に装着。セットアップでマイグレートを選択して、NAS1の設定を引き継いだ状態で稼働させた。録画番組はリストアップされるが、再生はできない
要するに、DiXiM Media Serverの管理情報さえ確保できていれば、番組データそのものを待避することは可能だが、障害などでこれが失われると、ファイルとしての番組データは残っていたとしても、それを再生することはできないことになる。
あくまでも評価版での実験なので、製品版ではHyper Backupのアプリバックアップ機能などで管理情報ごとバックアップできるようになるかもしれない(ぜひそうして欲しい……)が、注意しておくに越したことはないだろう。
DiXiM Media Serverのもう1つのメリットは、自動ダウンロードに対応する点だ。例えば、nasneで録画した番組のうち、「NHKスペシャル」は毎回NASに転送しておきたいとする。
この場合、「NHK」などのキーワードでフィルタを作成した自動ダウンロードの設定を仕掛けておけば、随時、もしくは指定した時間(標準は午前0時)に、nasneからNASへ自動的に番組がダウンロードされる。
すでにnasneに大量に番組が保存されている場合でも、ジャンルやチャンネル、放送日時などを条件に、ごっそり番組を転送できる上、これから録画する番組も自動的に転送できるので、わざわざブラウザーからムーブ操作をしなくて済む。
DTCP-IPのムーブソリューションとしては、非常に完成度が高いアプリと言っていいだろう。
なお、録画した番組は、DTCP-IPに対応したテレビやPC、スマートフォン向けのアプリで視聴可能だ。筆者が試した限り、ソニーのブラビアKDL-24W600A、PS3のいずれでも、nasneから転送した3倍モードとDRモードの番組を問題なく視聴できた。
なお、PC/スマートフォン向けのアプリはいずれも有料になる。価格は以下の通りだ。
DiXiM Media Server | sMedio DTCP Move | ||
---|---|---|---|
提供形態 | 買い切り | 月額 | 買い切りのみ |
NAS版価格 | $8.50 | ― | $8.50 |
Windows版 | 2600円 | 200円/月 | 1,922円 |
Android版 | 1300円 | 100円/月 | 900円 |
iOS版 | 1300円 | 100円/月 | - |
sMedioはiOS版アプリがいつまでたってもリリースされないため、iOSで使いたいならDiXiM Media Serverが選択肢になりそうだが、筆者がテストした時点ではアプリ側の対応がまだのようで、番組がグレーアウトして選択できず、再生できなかった。製品版のリリース後に、もう一度、テストしてみたいところだ。
やはりコスパは高い
以上、Synologyの新型NASであるDS218jを実際に使ってみたが、旧モデルからの変更点はCPUクロックだけとなるものの、2万円というリーズナブルな価格はやはり魅力的だ。上位モデルとの違いをきちんと把握しておけば、自分の用途と照らし合わせて、迷わず購入できるだろう。
機能的なトピックとしては、間違いなく、DTCP-IP対応のDiXiM Media Serverが特徴の1つとなりそうだ。将来的に他機種でも使えるようになる可能性も高いが、番組をファイルとして扱えるため柔軟性が高く、自動ダウンロードの仕組みも非常に便利だ。nasneとの組み合わせは、かなり便利なのではないかと思える。
そう考えると、データの保存と共有、バックアップ、録画番組のムーブと再生環境が、2万円で手に入るというのは、やはり魅力的だ。誰にでもお勧めできる、「いいNAS」と言えるだろう。