清水理史の「イニシャルB」

ケーブルは薄いけど速度も期待薄!? 窓から引き込めるCAT5eケーブル、サンワサプライ「500-LAN-FLFF」

 「何が何でも有線!」。無線が高速化した今なら、そこまで有線にこだわる必要もなさそうだが、それでも環境によっては、物理的にLANケーブルを配線したい場合もある。そんなときに頼りになりそうなのが、サンワサプライから発売された極薄のLANケーブル「500-LAN-FLFF」だ。窓やドアの隙間にも配線できるCAT5eケーブルを試してみた。

極薄のフィルムを採用したサンワサプライのLANケーブル「500-LAN-FLFF」

ペアを取ってない

 いきなり結論から言うと、このケーブルを使う場合は、速度の低下は避けられない。

 わずか0.25mmのフィルムケーブルでの配線なので当然と言えば当然なのだが、本製品は「ペアを取っていない」ため、ノイズに滅法弱いのだ。

 筆者宅でのテストでは、リンクまでの時間も長い(10数秒)上、100Mbpsでしかリンクしないので、正直、接続はできるが実用は厳しいという印象だ。

コネクター部分
側面からの写真。本当に薄い

 現状、筆者宅では、1階の仕事部屋と2階のリビングをWi-Fi(IEEE 802.11acの1733Mbps)で接続している。iPerfによる実行速度で300~400Mbps前後と、これでも実用上は十分だ。

 しかし、できれば「有線でつなぎたい」というのが筆者の考えなので、1階と2階を有線でつなぐチャンスをうかがっていた。

 そんなときにサンワサプライから発売されたのが、この「500-LAN-FLFF」だ。RJ-45のコネクターの間が、ノートPCの内部配線などでよく見かけるフィルムケーブルでつながれており、ごくわずかな隙間でも配線できるようになっている。

 ケーブルの仕様としては、CAT5e"相当"ということで、1Gbps環境でも一応は使えるものとなっている。

 しかしながら、届いたケーブルのパッケージを見ると「本製品はペアを取っていないため、テスターによってはスプリット(ペア割れ)となります」との記述が……。

 いや、まあ。ペアはどうやって取っているんだろうという、単純な興味はあったものの、この薄さなので「そうだよなぁ」という感想だ。

フィルムケーブル部分。配線は直結のため、いわゆるペア割れとなる

 LANケーブルを自作したことがある古い世代の方なら経験があるかと思われるが、LANケーブル内部の配線は、2本ごとにペアになって配線されている。

 内部のケーブル8本を1~8までとしたときに、1と2、3と4、5と6、7と8がペアになっているわけではなく、1と2、3と6、4と5、7と8のように、一部が入れ替わったペアとして配線されている。その上、配線方式(T568B)によっては、端子の両端で1-3、2-6、3-1、4-4、5-5、6-2、7-7、8-8のようにつながれている。

 要するに、端子の両端で1~8が、そのまま1~8とまっすぐ対につながっているわけではないのだ。これは、信号の送信と送信、受信と受信をペアにする(送受でペアにしない)ことで、漏話(クロストーク)の影響を少なくするためだ。

 ケーブルを自作する場合、こうした接続を意識せずに、うっかりケーブルを順番通りに配線すると、いわゆるスプリットペア(ペア割れ)となり、ケーブルテスターなどではエラーが発生することになる。

 ということで本題に戻ると、「本製品はペアを取っていないため、テスターによってはスプリット(ペア割れ)となります」というのは、まさに、この状態のことになるわけだ。

 0.25mmという薄さなので、確かにツイストさせることができないのはその通りなのだが、コネクター部分のサイズがそれなりに大きいし、どうにかできなかったのか? という気持ちが大きい。

上限は100Mbps

 というわけで、筆者宅でテストしてみたが、速度は100Mbps止まりとなった。

 マザーボードの内蔵LAN(Intel I219-V)、Realtekチップ搭載のUSB接続2.5Gbps対応LANアダプターなど、複数のネットワーク機器を接続してみたが、いずれの場合もリンクの確立までに十数秒を要した上、結果としてリンク速度は100Mbpsだった。

Intel製ユーティリティーでの速度。100Mbpsでしかリンクしない
iPerf3とPingの結果

 いったんリンクさえしてしまえば、iPerf3による測定で、上り94.7Mbps、下り94.6Mbpsで通信できるし、Pingの値も悪くない。長期間利用しても、今のところ安定してつながっている印象がある。

 とは言え、上記のテストは、本製品を床に置いた状態でテストしたものなので、実際に窓の外などの屋外で使ったとき、どれくらいノイズの影響を受けるかは、環境次第と言える。少なくとも、MAXの通信速度は100Mbpsと考えておくのが無難だ。

Intelユーティリティのケーブルテスト実行結果
同じテストをコマンドラインから実行した結果

 ちなみに、上の画面で示した「インテル PROSet アダプター構成ユーティリティー」は、Intel製NICを利用している環境で、ドライバーといっしょにIntelのウェブサイトからダウンロードできる。

 このユーティリティーを使うと(管理者権限で実行する必要あり)、簡単なケーブルテストを実行できるので、500-LAN-FLFFで接続した状態で実行してみた。

 一応、受信ステータスは正常と表示されたが、「ケーブルの長さ:255メートル」と表示された。実際のケーブルは15mなので、信号がかなり減衰していると考えられる。

こちらでレビューしたエレコムの中継コネクターを使った際のテスト。「500-LAN-FLFF」では表示されなかったケーブルの質のステータスが表示される
エレコムの中継コネクターのコマンドラインからの結果

 ちなみに、同じテストをエレコム製のLAN中継コネクターを使って実施してみたのが、上の結果だ。

 こちらも、ケーブル長の表示は「49メートル」と、実際の長さとかなりかけ離れているが、500-LAN-FLFFを使ったときは表示されなかったケーブルの質のステータスが、「優」と表示される。500-LAN-FLFFで接続した際には、質のチェックがパスされたか、基準を満たさなかった可能性がある。

つなぐだけなら……

 というわけで、サンワサプライの極薄フィルムケーブル「500-LAN-FLFF」を試してみたが、一定以上の速度が必要なケースではお勧めできない。

 とは言え、本体は本当に薄く、窓やドアで挟んで使えるので、どうしても従来のケーブルでは配線できない場合の緊急手段として利用するといいだろう。

本当に薄いので、ドアの下の隙間などは楽勝
窓に挟んだ場合も、このようにケーブルが折れ曲がるのでしっかり閉まる

 コネクター部分は防水対応ではないため、実際に屋外で利用する場合には、ケーブルをつないだ部分を防水テープなどで保護する必要がある。だが、それくらいの手間なら許容範囲と言えそうだ。

 なお、Amazon.co.jpを眺めていると、似たような、というか外観が全く同じ製品が別のメーカーから販売されている。中にはCAT 6準拠を謳う製品もあるが、ペア割れしている点は変わらないため、そこまでの品質が確保できているとは考えにくい。

 どうしても配線できないケースでは頼りになるが、個人的には、積極的にはお勧めできない製品と言えそうだ。

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