清水理史の「イニシャルB」
Wi-Fi 6なのにルーターとセットで1.5万以下! 6千円台の中継機、TP-Link「RE505X」
8千円台のルーター「Archer AX10」との激安Wi-Fi 6セットで幸せになれるのか?
2020年5月4日 06:00
TP-Linkから発売されている「RE505X」は、中継機としては初となるWi-Fi 6対応の製品だ。デュアルバンドで最大通信速度は1201Mbpsと、スペックは控えめながら実売価格は6891円とかなり安い。前回取り上げた「Archer AX10」とのセットでも1.5万円以下で買える激安Wi-Fi 6コンビの実力を試してみた。
Wi-Fi 6でも電波が届かないのはどんな環境?
Wi-Fi 6は速い。
最大通信速度が高いのはもちろんだが、どの製品も長距離での通信に強く、筆者宅でのいつものテストで言えば、最も遠い3階窓際でも、通信速度が200Mbpsを超える製品ばかり。普及価格帯の製品でも、Wi-Fi 5に対応する従来のハイエンドモデルを凌ぐ性能を持っているケースが多い。
実際、本連載で前回取り上げたTP-LinkのArcher AX10も、1階で最大807Mbps、3階窓際でも最大239Mbpsと、その性能はかなり優秀だった。これなら家中を1台で十分にまかなえるという印象だ。
とは言え、鉄筋造りのマンションなど5GHz帯の電波が届きにくい環境では、そこまで性能が出ないケースもあり、メッシュWi-Fiや中継機に頼らざるを得ない場合もままある。
そんな中で登場したのが、今回取り上げるTP-LinkのRE505Xだ。実売で6891円という低価格の中継機ながらWi-Fi 6に対応しており、前述したArcher AX10と組み合わせることで、Wi-Fi 6での通信範囲を広げられるようになっている。
Wi-Fi 6対応のメッシュWi-Fi製品は、ネットギアジャパンの「Orbi WiFi 6」や、Linksysの「Velop AX MX5300」などの高級品が存在するが、さすがに通信機器にそこまでの投資はできないという人も多いだろう。
RE505Xは、低価格ながら、もともと素性がいいWi-Fi 6ルーターを、中継によってさらに拡張できる注目の製品と言えそうだ。
「前へならえ」アンテナが残念
それでは実機を見ていこう。
本製品は、コンセント直結タイプの中継機だ。サイズ(幅×奥行×高さ)は74.0×46.0×124.8mmで、縦横は家庭用の2口用コンセントカバーと同等のサイズとなっている。
もちろん、ぴったり重なると2口のコンセントの両方が使えなくなってしまうので、接続には上側のコンセントを使うことになる。下側コンセントのスペースが若干狭くなるため、大きめのACアダプターなどを共存させることは難しいが、何とか2口を無駄にせず利用できる程度の大きさだ。
インターフェースは、左側面にギガビット対応の有線LANが1ポート搭載されている。Wi-Fiの中継のみに使うことはもちろん、有線LAN対応の機器を接続することで、いわゆる無線LANコンバーターのような使い方もできる。
アンテナは外付けタイプで、本体の両側面にそれぞれ1本ずつ、計2本が取り付けられている。長さは135mmと本体よりも長く、存在感があるが、取り付け部分を中心として上下180度しか可動しない。
このため、マンションなどで水平方向に電波を飛ばしたいときは問題ないが、筆者宅のように垂直方向(上下フロア間)へ電波を飛ばしたいときは、まるで「前へならえ」をさせるような格好で使うしかない。
もともと壁のコンセントから40mm近く飛び出している本機だが、アンテナの角度を「前へならえ」で使うと、壁から15cmほど飛び出す格好となり、まるで誰かの足をひっかけて転ばせようとしているかのようだ。
低価格モデルなので、ある程度は目をつぶる点があることも仕方ないが、同社の既存製品であるRE450やRE650のように、横方向から上へアンテナを持ち上げるタイプ(「ワーイ」と叫んでいるようなかわいさもある)のアンテナだと、筆者のような環境にはありがたいところだ。
デュアルバンドであることをお忘れなく
スペックは、IEEE 802.11axドラフト、2ストリームと80MHz幅への対応で、最大通信速度は1201Mbpsとなっている。160MHz幅に未対応だが、現状、スマートフォンは80MHz幅の1201Mbpsまでの対応なので、あまり問題はないだろう。
対応する周波数帯は、この5GHz帯と、最大300Mbpsとなる2.4GHz帯の2つのみで、いわゆるデュアルバンドまでの対応となる。
5GHz帯のWi-Fi 6は1帯域しかないので、クライアントの通信と中継の通信の両方で同時通信が発生すると、速度は低下してしまう。
「メッシュWi-Fiと中継機はトライバンドに限る」という筆者の考えは変わらないので、積極的にオススメとは言い難いが、現状は唯一のWi-Fi 6対応中継機で、しかも安価なので、デュアルバンド対応であることはガマンするしかないだろう。
TP-Link RE505X | |
実売価格 | 6891円 |
Wi-Fiチップ | 未公表 |
Wi-Fi規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
ストリーム数 | 2 |
最大速度(2.4GHz帯) | 300Mbps |
最大速度(5GHz帯) | 1201Mbps |
チャネル(2.4GHz帯) | 1~13 |
チャネル(5GH帯) | W52/W53/W56 |
新電波法対応 | × |
ストリーム数 | 2 |
アンテナ | 外付け×2 |
IPv6 | ○ |
DS-Lite | × |
MAP-E | × |
WAN | ― |
LAN | 1000Mbps×1 |
USB | ― |
動作モード | AP/RP |
ファーム自動更新 | ― |
HomeCare | ― |
セットアップは、同社製のAndroid/iOS向けアプリ「Tether」を使って、簡単に初期設定ができるようになっている。
初回のみ、暗号化ナシの初期SSID(TP-Link_Extender)に接続し、アプリを使って中継機である本製品と親機との接続などを設定できる。
最近では、メッシュ的な使い方ができる中継機も存在するが、本製品は親機とは別のSSIDを割り当てて利用する古典的なタイプだ。例えば、親機のSSIDが「tpwifi5」なら、中継機のSSIDは「tpwifi5_2.4GEXT」「tpwifi5_5GEXT」といった具合だ(2.4GHzと5GHzは共通にできる)。
個人的には、この方式はどちらにつないでいるかが分かりやすいので好みだが、普通に使うには、親機も中継機も同じSSIDでローミングもシームレスにできるようなメッシュ的な方が便利だろう。
ちなみに、TP-Linkは、一部の既存ルーターと中継機をメッシュWi-Fi対応にする「OneMesh」という技術を持っているが、今回、取り上げたArcher AX10およびRE505Xは、いずれも非対応だ。このあたりも低価格モデルにありがちなガマンポイントの1つだろう。
アンテナの向きに依存も若干速度は向上
実力はどうかというと、木造3階建ての筆者宅の場合には、正直言って微妙だ。
以下は筆者宅で、1階にArcher AX10、3階の階段踊り場にRE505Xを設置し、3階の入り口、3階の窓際でのiPerf 3の速度を計測した結果だ(1~2階の値はArcher AX10のもので、こちらの記事を参照)。
3F入口 | 3F窓際 | |||
iPhone11 | Archer AX10 | 上り | 238 | 102 |
下り | 381 | 239 | ||
AX10+RE505X(ななめ) | 上り | 203 | 179 | |
下り | 294 | 189 | ||
AX10+RE505X(水平) | 上り | 220 | 212 | |
下り | 319 | 285 | ||
PC(有線) | AX10+RE505X(水平) | 上り | 420 | 224 |
下り | 404 | 280 |
冒頭でも触れた通りArcher AX10の結果が高いので、筆者宅では、RE505Xの実力が見えてこない。というか、デュアルバンドなので、5GHz帯を、ルーターと中継機間の接続と、Wi-Fi子機との接続の2つで共有する点がボトルネックになり、中継機のすぐ側である3階入口では、むしろ速度が低下してしまう。
アンテナを水平(前へならえ)にすると、3階窓際で285Mbpsをマークできたので、やはりArcher AX10だけではカバーできないエリアがある場合には、中継機を追加するメリットがあると考えられる。
というわけで、実際にRE505Xを試してみたが、Wi-Fi 6対応ながら価格が安いので、Wi-Fiルーター1台ではどうしても電波が届かない場所があるときには、本製品が頼りになりそうだ。
鉄筋のマンションのような環境で試せば、中継の効果がさらに高まる可能性がある上、アンテナも「前へならえ」で使わなくて済むので、悪くない買い物と言える。
個人的には、今後、登場するであろう「低価格の」トライバンド対応のWi-Fi 6中継機や「低価格の」トライバンド対応Wi-Fi 6対応メッシュに期待したいところだ。
他社から発売されている現状のWi-Fi 6対応メッシュはあまりにも高すぎるので、TP-Linkには、ぜひこの相場を引き下げて欲しいところだ。