清水理史の「イニシャルB」

Wi-Fi 6対応のメッシュWi-Fiルーター、トライバンドで単体でも使える「Linksys Velop AX MX5300」

 ベルキンからLinksysブランドのWi-Fi 6対応ルーター「Linksys Velop AX MX5300」が発売された。メッシュWi-FiルーターであるVelopシリーズの最新モデルで、最大2400MbpsのWi-Fi 6に対応するのが最大の特徴だ。その実力を検証してみた。

Wi-Fi 6とトライバンドに対応したメッシュWi-Fiルーター「Linksys Velop AX MX5300」

実売4万円オーバーの高級モデル

 Linksysブランドで登場した「Velop AX MX5300」は、最大速度が2402+1733+1147Mbpsのトライバンドに対応したメッシュWi-Fiルーターだ。

 5GHz帯は、最大2402MbpsとなるWi-Fi 6ことIEEE 802.11ax対応(4ストリーム、80MHz幅)と、最大1733MbpsでWi-Fi 5ことIEEE 802.11ac(4ストリーム、80MHz幅)の2つ。さらに最大1147MbpsでIEEE 802.11ax(4ストリーム、40MHz幅)の2.4GHz帯の3つを同時に利用できる高性能な製品だ。

 「Velop」シリーズとしては、いずれもWi-Fi 5(11ac)に対応する2台セット(AC4400)と3台セット(AC6600)が先行して発売されているが、今回のWi-Fi 6対応ルーターは、1台のみの単体モデルとして販売がスタートしている。

 メッシュWi-Fi対応の製品なので、複数台を組み合わせないと意味がないのだが、実売価格(税込)が4万4540円(2020年4月28日現在、Amazon.co.jp調べ)とかなり高価で、2台を組み合わせるには資金にかなりの余裕が求められる。

 Wi-Fi 6に対応するトライバンドのメッシュWi-Fiルーターは、ネットギアジャパンの「Orbi WiFi 6(RBK852)」が存在するが、これと同等の高級品となる。

 ただし、Orbi WiFi 6は、2つの5GHz帯がいずれも最大2402MbpsのIEEE 802.11axに対応し、有線LANも2.5Gbpsに対応している。価格面では競合する2製品だが、単純なスペックをみると、本製品は若干控え目だ。

 しかしながら、本製品には「ダイナミックバックホール」と呼ばれる機能が搭載されており、前述した3つの帯域を、メッシュWi-Fiの中継用として動的に割り当て可能だ。

 比較対象となるOrbi WiFi 6は、基本的に中継用の帯域はW56の帯域を利用する5GHz帯に固定されるが、本製品では周囲の状況やメッシュの構成台数などを考慮し、1147Mbpsの2.4GHz帯や1733MbpsのWi-Fi 5の5GHzも中継用に利用できるわけだ。

 もともとメッシュWi-Fiは、こうした柔軟なネットワーク構成が可能な点がシステム面でのメリットでもある。それを現実のものとして提供しているのが、Velop AX MX5300ならではの特徴となっている。

デザインは前モデルを踏襲も、使い勝手を改善

 それでは実機を見ていこう。本製品は、柱のような角柱状の製品なのだが、よく見ると底面の4辺が丸みを帯びて、直線と曲線が入り交じった複雑なデザインとなっている。

 カラーはホワイトのみ、ロゴも控えめでシンプルだ。LEDも上部に1つだけで、古典的な通信機器臭さとは無縁なモダンな雰囲気を持っている。

正面
背面

 インターフェースは、背面側の角の1つを削り取った部分に配されており、共有ストレージ接続用のUSB 3.0×1、いずれもギガビット対応のWAN×1とLAN×4、電源ポートを備えている。

 各種ケーブルを斜めにつなぐ構造なので、見た目には違和感があるが、本体底部近くに配されているので、ケーブルを全てつないでも重みで本体が傾くようなこともない。ラッチは背面側の開けた方向を向いているため、LANケーブルの抜き差しもしやすい。意外と言っては失礼かもしれないが、デザインと実用性を兼ね備えた配置と言える。

LAN/WANポートはすべて1Gbps

 ちなみに、従来のWi-Fi 5対応のVelopは有線LANポートが底面のしかも奥にあり、ケーブルの抜き差しがしにくかったので、かなり改善された印象だ。

 このほか底面に、電源スイッチ、WPSボタン、リセットボタンが配置されており、初期設定で必要になるWi-Fiの初期設定パスワードもここに記載されている。

底面にスイッチ類が配置され、必要な情報が記載される

スマホアプリで設定は簡単、SSIDの手動割り当てはブラウザーで

 セットアップには、基本的にスマートフォン向けの「Linksys」アプリを利用する。

 設定自体はウィザードに従って管理用パスワードやWi-Fiの設定をしていくだけの簡単なものだが、底面に記載された初期設定用Wi-Fiパスワードの入力が要求されるのがやや面倒なのと、インターネット接続の検出やメッシュWi-Fi構成時の電波状況のチェックなどにやや時間がかかりがちで、セットアップにはそれなりに時間を要する。余裕のあるときに実行するといいだろう。

スマートフォン向けの「Linksys」アプリで初期設定が可能
管理画面。外出先からでも状態をチェックできる

 一度設定してしまえば、管理はアプリだけでなくPCからウェブブラウザーで行うことも可能で、例えばWi-Fiを2.4GHz帯と5GHz帯に別々のSSIDを割り当てたいときなどは、ウェブブラウザーから設定する必要がある。

PC向けの設定画面

 ただし、本製品は、前述したダイナミックバックホールのように、基本的にすべて「おまかせ」で運用するコンセプトとなっているため、あまり細かな設定はユーザーに許可されていない。

 手動設定できるSSIDも、2.4GHz帯と5GHz帯の2つのみで、トライバンドのもう1つの5GHz帯の設定はできないし、各帯域のチャネルも自分で選択することはできず、完全におまかせとなる。

SSIDを分割することはできるが、チャネル設定などはできない

 細かいことは意識せずに使えるので、一般的なユーザーにはありがたい機能だが、筆者もそうだが、「いじくりまわしたい」タイプの人間にとっては、かなり物足りないかもしれない。

2台を組み合わせたメッシュWi-Fi構成でも、単体でも利用可能

 前述した通り、本製品はメッシュWi-Fiルーターなので、本来であれば複数台を組み合わせて利用するのが理想だ。しかも、同じWi-Fi 6対応のVelop AX MX5300同士で組み合わせないと、実力をフルに発揮できない。ただ、単体での利用ももちろん可能だ。

 単体での利用時には、前述した3つの帯域をフルにWi-Fi子機との通信に割り当てられるので、接続台数が多く、しかも同時通信が発生しがちな環境では有利だとなる。

 ただし、各帯域の速度には注意が必要だ。Wi-Fi 6対応の5GHz帯、Wi-Fi 5対応の5GHz帯、2.4GHz帯ともに、4ストリームに対応している。Velop AX MX5300同士でメッシュWi-Fi構成し、帯域のうち1つをバックホールとして用いる場合は、この4ストリームをフル活用できるが、現状、ほとんどのWi-Fi子機は2ストリームまでの対応となるため、この最大速度を生かせないことになる。

 Wi-Fi 6に対応する製品でも、スマートフォンは2ストリームで1201Mbpsまでの対応が最大だ。PCの場合も、2402Mbps対応のIntel AX200は160MHz幅での通信が必要なので、160MHz幅に非対応の本製品では、スマートフォンと同じ1201Mbpsが通信速度の上限となる。

 もちろん、MU-MIMOに対応しているので、このストリーム数の多さは、複数台で同時通信した際に生きてくるが、80MHz幅までの対応となる点には注意が必要だ。

 さて、実際の速度はどれくらいなのかというと、以下が単体利用時のiPerf3の結果となる。

 いつも通り、木造3階建ての筆者宅で1階にVelop AX MX5300を設置し、各階で速度を計測しているが、計測時が外出自粛要請の時期と重なっており、周囲でWi-Fiの利用が増えていることから干渉を避けられず、若干、低めに値が出ている可能性がある点を、あらかじめお断りしておく。

iPerfテスト(単体)
1F2F3F入り口3F窓際
PC上り888315171115
下り86832616598
iPhone11上り4942697316
下り64444120748

 結果を見ると、Wi-Fi 6対応機としてはかなり物足りない。Wi-Fi 6であれば、低価格なアクセスポイントでも3階の窓際で200Mbps近く出る例も多いが、本製品では100Mbpsを下回ることも珍しくない。

 これは、2つの原因が考えられる。1つは前述した周囲の混雑状況だが、もう1つは、本製品ならではの「おまかせ」感が強いことの影響だ。

 実際、上記のテストでPCのリンク状況をチェックしてみたが、1階(同一フロア)であっても、Wi-Fi 6の2ストリームの上限である1.2Gbpsでリンクしてくれる場合もあれば、866.7MbpsとWi-Fi 5でリンクされてしまうケースも多く見られた(と言うか、筆者宅ではほぼWi-Fi 5接続だった)。

 上記テストでは、1階は1.2Gbps(5GHz、Wi-Fi 6)でリンクした際の計測結果だが、2階は408Mbps(5GHz、Wi-Fi 5)、3階入口は287Mbps(5GHz、Wi-Fi 5)、3階窓際は300Mbps(2.4GHz)でリンクした際の結果だ。

Wi-Fi 6対応PCとルーターが近距離であれば、Wi-Fi 6の1.2Gbpsでのリンクも可能
ただ近距離でも、Wi-Fi 5の866.7Mbpsでリンクするケースも多く見られた

 本製品は、トライバンド(とメッシュ)という特性を生かすためのファームウェアが搭載されていると考えられ、それによって積極的に帯域を使い分ける傾向が見られる。このため、Wi-Fi 6対応ルーターながら、Wi-Fi 6でつながらないケースもままあるわけだ。

 結果的に、本製品で最適と考えた帯域が選択されているはずなので、意識しなくて済むとも言えるが、近距離でもWi-Fi 5の866.7Mbpsでしかリンクされないと、「アレ?」と思ってしまう。

Wi-Fi 5対応Velopと組み合わせてみる

 続いて、Wi-Fi 5対応の従来モデルと組み合わせて利用してみた。

 前述したスマートフォンのアプリを利用してノードを追加することで、簡単にメッシュWi-Fiのネットワークを拡張できるので、初心者でも安心して使えるだろう。

Wi-Fi 6対応の「Velop AX MX5300」(右)を、Wi-Fi 5とトライバンドに対応する従来モデル「Linksys VELOP」(左)を組み合わせたメッシュWi-Fiでも試してみた

 前述した通り、同じVelop AX MX5300同士で組み合わせないと、5GHz帯4ストリームの2402Mbpsをバックホールとして使えないため、最大1733MbpsのWi-Fi 5での接続となるが、それでも2ノードあると、Wi-Fiの電波感度はグッと良くなる。

 以下は、1階にVelop AX MX5300を設置したまま、3階の階段踊り場にWi-Fi 5とトライバンドに対応する従来モデル「Linksys VELOP」を1台追加で設置した際のiPerf3の結果だ。

iPerfテスト(メッシュ)
1F2F3F入口3F窓際
PC上り726356323233
下り730372342255
iPhone 11上り487241202222
下り655206242165

 こちらは1階でも1.2Gbps接続がほとんど見られず、ほぼ866.7Mbps接続だったため、1階の値は下がっており、2階もほぼ同様だ(3階を経由している可能性がある)。ただし、3階の値はかなり改善した。

 3階入口で300Mbpsオーバー、3階窓際で200Mbpsオーバーなので、かなり満足できる結果だ。これなら、ストリーミングやダウンロードなどで不満を感じることなく利用できる上、接続台数が増えても各端末に十分な帯域を割り当てることができる。

 というわけで、結論から言えば、本製品はメッシュWi-Fiで使ってこその製品と言える。

 今回は機材調達の関係でWi-Fi 6とWi-Fi 5の組み合わせとなってしまったが、それでもメッシュWi-Fiらしい広いエリアと平均的に速い通信速度が実現されている。個人的にはWi-Fi 6同士の組み合わせのパフォーマンスに興味が沸くが、それはまた機会をあらためてテストしてみたいと思う。

 なので、単体でも高額な製品ではあるが、できればさらに1台をプラスして、複数台で利用することを強くお勧めしたいところだ。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。