清水理史の「イニシャルB」

QNAPのメッシュWi-Fi「QMiro-201W」は2万円切りなのに拠点間VPNも構築OK、実力は?

2万円で買える「拠点間VPN」

 NASで有名なQNAPから、お手ごろなWi-Fiルーター「QMiro-201W」が登場した。

 IEEE 802.11acまでの対応ながら、メッシュWi-Fiが利用でき、実売で2万円を切る価格ながらメッシュ構築時のパフォーマンスを最大化できるトライバンド構成を採用した製品だ。

 しかも、ソフトウェア制御によりWAN環境を実現できるQNAP独自のSD-WAN技術「QuWAN」により、クラウドサービスを活用して会社と自宅などを結ぶ拠点間VPNも手軽に構築できるスグレモノだ。その実力を検証してみた。

QNAPのトライバンドメッシュWi-Fiルーター「QMiro-201W」

SD-WANとメッシュが身近に

 QNAPから登場した「QMiro-201W」は、「SD-WAN」と「メッシュ」に特徴を持つユニークなWi-Fiルーターだ。

 NASベンダーとして知られるQNAPだが、最近はネットワーク製品全般へとラインアップを広げており、10Gbps対応スイッチやWi-Fi 6対応ルーター、無料で使えるNAS向けの仮想ルーター(QuRouter)など、意欲的な製品を次々にリリースし、市場を賑わせている。

 今回登場したQMiro-201Wは、そんな同社のネットワーク製品の中でも、より家庭向きのデバイスだ。自宅でのテレワークなどを想定した安全で簡単な拠点間接続と、メッシュによる広い通信エリアを実現できる製品となっている。

 具体的には、同社が独自に提供するQuWANと呼ばれるSD-WAN技術を利用することで、QNAPのルーター製品(もしくは前述したESXi用の無料のQuRouter)と組み合わせ、数クリックで拠点間VPNを構築することができる。

 メッシュWi-Fiに関しても、トライバンドに対応することで、2系統ある5GHz帯の一方をバックホール専用として確保可能となっていて、コンシューマー向けのデュアルバンドメッシュWi-Fiでありがちな、中継による通信のロスを最小限に抑えられる。

 IPv6をサポートしないなど、現状はまだ発展途上の部分はあるものの、企業向けの本格的なWAN、Wi-Fi環境を家庭でも利用可能にする意欲的な製品と言えるだろう。

デザインは柔らかだが、スペックはハード

 それでは、実機を見ていこう。

NAS機能を統合した「QMiroPlus-201W」。2.5インチ対応ベイを2基搭載する

 今回登場したQMiroシリーズには、Wi-Fiルーター機能のみを搭載する「QMiro-201W」に加え、Wi-Fiルーター+NASを一体化した「QMiroPlus-201W」の2製品がある。今回はWi-Fiルーターのみの「QMiro-201W」を主に利用した。

正面

 本体サイズは68×100×175.5mmとスリムで、パッと見はWi-Fi中継機のような筐体となっている。

 デザインは、薄いブルーのシンプルなデザインで、スマートな印象だ。海外製ルーターというと、トゲトゲしく色合いも派手という印象があるが、本製品はどちらかというと丸みを帯びた優しい印象のデザインとなる。

 インターフェースは背面に集中しており、ギガビット対応のWAN×1、LAN×1ポート、およびUSB 3.2 Gen1×1を備える。前述したように、本製品はNAS機能を搭載しないが、USBポートに接続したストレージを利用し、FTPサーバーとして利用することができる。

側面
背面
有線ポートは全てギガビット対応。USBにストレージを接続すればFTPサーバーとして使用可能

 無線のスペックは、Wi-Fi 5ことIEEE 802.11acの867Mbps(5GHz帯)×2系統とIEEE 802.11nの400Mbps(2.4GHz帯)×1の合計3系統を同時に利用できるトライバンドに対応している。

 本製品は、複数のノードを組み合わせることで通信エリアを拡大できるメッシュWi-Fiに対応するが、このトライバンド+メッシュという組み合わせは、非常に相性がいい。

 デュアルバンドのメッシュだと、中継用のバックホールとWi-Fi子機の接続用として、2.4GHzもしくは5GHzの帯域を共有せざるを得ない。このため、バックホールの実効速度がスペック値の半分ほどになってしまうことがある。

 一方、トライバンドであれば、3系統ある帯域のいずれかをバックホール専用として割り当てられるため、バックホールの速度低下を抑えやすい。接続するWi-Fi子機の数が多い環境では、ほぼトライバンド一択と言っていい。

 3階建ての住宅やマンションなど、1台では通信エリアをカバーし切れない環境では、本機のようなトライバンドメッシュの威力が生きてくる。広いエリアをカバーしつつ、高速な通信を実現したい場合に最適だ。

QMiro-201W
実売価格1万8758円
CPUクアッドコア716.8MHz
メモリ512MB
Wi-Fiチップ(5GHz)Qualcomm
Wi-Fi対応規格IEEE 802.11a/b/g/n/ac
バンド数3
160MHz対応×
最大速度(2.4GHz)400Mbps
最大速度(5GHz-1)867Mbps
最大速度(5GHz-2)×
チャネル(2.4GHz)1~13
チャネル(5GHz-1)W52/W53/W56
チャネル(5GHz-2)×
新電波法(144ch)
ストリーム数2
アンテナ内蔵
WPA3×
DS-Lite×
MAP-E×
WAN1Gbps×1
LAN1Gbps×1
USB
動作モードRT/AP
ファームウェア自動更新
本体サイズ(幅×奥行×高さ)68×100×175.5mm

「QuRouter」アプリを使ってスマホで簡単セットアップ、メッシュノードの追加も容易

スマートフォン向けの「QuRouter」アプリで簡単にセットアップできる

 本製品はセットアップも簡単だ。スマートフォン向けの「QuRouter」アプリを利用したセットアップが可能となっており、画面上の指示に従って必要な項目を選択していくだけで設定が完了する。

 筆者宅ではBluetoothの電波状況が悪かったようで、Bluetooth経由でのセットアップはできなかったのだが、Wi-Fiや有線LANで接続すればPCからもセットアップできるので、困ることはない。セットアップ方法を柔軟に変更できるのもメリットだろう。

 セットアップ中には、ファームウェアのアップグレードやパスワードの変更などが強制されるため、セキュリティ対策も万全だ。

 なお、前述した通り、本機はIPv6自体をサポートしていないため、インターネット接続はIPv4固定、IPv4 DHCP、PPPoEのいずれかに限られる点には注意が必要だろう。

 今回は、冒頭で少し触れたQMiroPlus-201Wと組み合わせてメッシュを構成してみた。ノードの追加は、初期設定時もしくは後から、アプリやウェブブラウザーの設定画面で簡単に実行できる。

 追加画面を開くと、自動的にQMiroデバイスが一覧表示されるため、リストからノードを選択して追加するだけと簡単だ。こうした手軽さはメッシュならではのメリットと言えるだろう。

ノードの追加も簡単。自動的に近くのデバイスを検出して追加できる

 なお、メッシュの帯域は完全におまかせだ。中継用として2.4GHz帯と5GHz帯のどちらを使うかはユーザーが意識する必要はなく、最適な帯域を自動的に選択してくれる。

メッシュの状態。今回は5GHz-2(W52)がバックホールに選択された

2.4GHz帯をわりと使う

 パフォーマンスは良好だ。以下は、木造3階建ての筆者宅にてiPerf3によるテストを実施した結果だ。

 今回は、メッシュ構成が可能ということで、QMiro-201W単体の場合と、QMiroPlus-201Wとの組み合わせでメッシュを構成した場合で値を比較してみた。なお、メッシュ構成時は、QMiroPlus-201Wをプライマリ(1階設置)に、QMiro-201Wをノード(3階設置)として設定し、計測をしている。

iPerf3テスト結果
1F2F3F入口3F窓際
QMiro-201W単体iPhone上り330173203
下り5413266327
PC上り35229317538
下り448413246155
QMiroPlus-201W+QMiro-201WiPhone上り3232146176
下り4001145077
PC上り331244196201
下り439428271266

 結果を見ると、やはりメッシュ構成時の3階の結果がかなり向上する。PCをWi-Fi子機として利用した場合、単体では3階端の速度が155Mbps止まりだが、メッシュにすることで271Mbpsまで向上する。

 本製品の場合、単体でも十分な性能が実現できるが、メッシュにすることで、より広いエリアで高い速度を実現できるようになる。

 なお、上記のテスト結果では、iPhone 11の結果があまりよくないが、これは2.4GHz帯に接続しているためだ。

 本製品は、複数のWi-Fi子機が接続された際に、積極的に5GHz帯と2.4GHz帯を使い分けるようにチューニングされているようで、PCは5GHz帯(最大867Mbps)に接続されるものの、同時に接続したiPhoneは、5GHz帯ではなく最大400Mbpsとなる2.4GHz帯の方へ振り分けられた。

 筆者宅周辺では、2.4GHz帯の利用が多く壊滅的に速度が出ないので、この影響で、今回のテストではPCに比べて低い結果になったと言える。

 逆に2.4GHz帯が空いている環境では、こうした積極的な使い分けにより、数多くのWi-Fi子機を接続した際に混雑を避けやすく、トライバンドのメリットを生かしやすいと言える。

 前述したように、このあたりのアルゴリズムはルーターにおまかせなので、この挙動がメリットにつながるかどうかは環境次第と言えるが、積極的にトライバンドを使い分けようとする方向性は見えた印象だ。

エンタープライズ向けルーターが持つ拠点間VPNを実現する「QuWAN」しかも数クリックで

 最後に、本機の特徴のメインとも言えるQuWANについて見ていこう。

 この機能は、ソフトウェア構成でVPNによるWAN環境を構築可能なSD-WANの一種だ。QNAPが用意しているクラウドサービスを活用しQMiroシリーズや、以前にレビューしている、より高性能な「QHora」シリーズ、さらにQNAPのNASで稼働するESXi上の「QuRouter」などを、WAN経由で安全に相互接続する技術となる。

 通常、こうした拠点間の接続は、回線事業者のサービスを利用するか、エンタープライズ向けのルーターを駆使して拠点間VPN接続を構成する必要があり、コストや手間の面でかなり敷居が高いものだった。

 しかし、本製品では、こうした構成をわずか数クリックで実現できる上、グローバルIPが割り当てられない環境や、二重ルーターの環境でも(全体で1つはグローバルIPのハブの役割のルーターは必要)、既存のルーターのNATを越えてQuWANによるVPN接続を確立することが可能となっている。

QuWANのセットアップは簡単。接続先を選択するだけで接続可能。グローバルIPを持ったハブが1台あれば、あとはNATの内側からでも簡単に接続できる

 このソリューションは非常に手軽で、中小規模のオフィスに適した機能だ。これにより、例えば会社にQMiroPlus-201Wを設置し、社員宅にQMiro-201Wを配布することで、会社と社員宅を拠点間接続する環境を手軽に構築できる。

 前述したように、本製品は二重ルーターの環境でもQuWANに接続できるので、社員宅の回線やルーターの環境を問わず(ファイアウォールで明示的に特定のポートが閉じられている場合は除く)利用できるのがメリットだ。

 これにより、自宅のPCから、シームレスに会社のサーバーなどにアクセスできるようになる。テレワークの頻度が高く、ほとんどの時間、自宅で仕事をするような場合には、この方式は非常に便利だ。

「QuWAN Orchestrator」による管理画面。拠点間の接続状況をクラウド上で把握できる

2.5インチ2ベイNAS機能を備えたQMiroPlus-201Wでテレワークでの高度なデータ共有を実現する「QNAP Home Cloud 2.0」

 なお、QNAPでは、テレワークを前提としたワークスタイルをサポートするソリューションを「QNAP Home Cloud 2.0」と定義している。

 特に、今回一緒にリリースされたQMiroPlus-201Wは、QuRouterによるインターネット接続およびWi-Fi接続、QuWANによるSD-WANに加え、2.5インチHDD/SSDを装着可能な2つのフロントベイと2.5Gbps対応のLANを搭載したNAS機能が統合された製品で、QNAPならではの高度なストレージ共有機能を利用できる。

QMiroPlus-201Wを使えばデータの保存も1台で済むため、オフィスワークとテレワークを両立するハイブリッドなワークスタイルを簡単に構築可能

 これにより、会社にいるときはもちろんのこと、自宅や外出先でも安全にデータを利用できる環境を、QMiroシリーズで簡単に実現することができる。

 このメリットは大きい。

 トライバンドによるメッシュルーターとしての実力の高さも魅力ながら、低コストで拠点間VPNを構築できる非常に大きなメリットは、ほかの製品にはない本製品の魅力と言える。むしろテレワーク用途ということならば、本製品を積極的に選ぶメリットは大きいだろう。

(協力:テックウインド株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。