清水理史の「イニシャルB」

AIがデザインする新サービス「Microsoft Designer」を試す。最終的には使い手のセンスの問題か…

 昨年発表されていたMicsoroftのAIデザインサービス「Microsoft Designer」のプレビューを試した。以前はウェイトリストへの登録と許可が必要だったが、現在は、Microsoftアカウントがあればすぐに利用できる。

 画像つきでSNSに投稿したいときなど、手軽に画像とテキストのを制作(生成)できるのは有り難いが、デザインのクオリティを追求すると、最終的にはユーザーの「センス」が必要だと感じさせられる。まだまだ「素人でもAIでプロ並みのデザイン」とはいかず、棲み分けはできているのだと実感した。

生産性を重視するデザインに

 Microsoft Designerは、デザイン作業の効率化を実現できるツールだ。

 現状の画像生成AIの進化を見ると、その完成度の高さには目を見張るばかりだが、こうした「質」の追求とは少し方向性が異なり、「そこそこ」のデザインを、短時間かつ大量に生産したい場合に適している。

 例えば、ソーシャルメディアの投稿が代表的だ。企業の担当者など、毎日メッセージを投稿しなければならない状況で、投稿の素材探しやメッセージの創作、デザインの調整などに、あまり時間をかけられないというケースは少なくない。「ひとりIT担当」ならぬ「ひとりSNS担当」の負担は、相当なものだ。

 Microsoft Designerは、こうした「デザインを大量に生産しなければならない現場」で、力を発揮する。

 ウェブサイトで新しい記事を公開したことを知らせるため、SNSに投稿する画像をMicrosoft Designerでデザインしてみよう。

 話題のChatGPTと同じように、「 Microsoft Designerを紹介する記事の掲載を通知するソーシャルメディアのアニメーション投稿 」などと作りたいものを自然言語で指示すれば、自動的に画像が用意され、デザインが行われる。デザインの詳細なカスタマイズも可能だ。

 デザインが決まったら、そのままSNSに投稿できる(Facebook、Instagram、LinkedInに対応している)。その際のテキストメッセージも、「 定期更新をフォロワーに通知する投稿:Microsoft Desinger、デザイン、簡単、センス必要 」のような自然言語の指示から生成できる。

 このようにして、Microsoft Designerが作ったものをそのまま投稿するだけなら、全部で5分もあれば十分だ。

 これまで、画像を探し、メッセージを考え、それらを配置し……と数時間かけていた作業が、数分で終わるのは、素晴らしい世界だ。

「Describe the Design you’d like to create」(作成したいデザインの説明)に、作りたいものを入力すると、デザインが生成される
生成したデザインは、ダウンロードするか、そのままSNSに投稿するかできる。「Write a quick description about it」(簡単な説明)に指示を入力することで、投稿する際のテキストメッセージを生成できる。このボックスの上の「What’s the main goal of this post ?」(投稿のゴール)が「Raise awareness」(認知向上)なっているが、「Build your community」(コミュニティを作る)や「Increase sales or bookings」(売上や予約を増やす)などにゴールを変更できる
投稿する際のメッセージの候補が複数生成された。好みのものを選んで投稿する。投稿可能なSNSはFacebook、Instagram、LinkedInの3つ

Microsoft Designerでできること

 もう少し、具体的にできることを紹介していこう。以下のウェブサイトにアクセスしてMicrosoftアカウントでサインインすることで、Microsoft Designerのプレビュー版を利用できる。

▼Microsoft Designer(プレビュー)
Microsoft Designer

 最新の状況については、以下の公式ブログでも公開されており、Edgeのサイドバーなども紹介されているが、段階的に展開されているようで、筆者の環境ではまだ利用できない機能もあった。本稿は2023年5月6日時点での機能に基づいていることを、あらかじめお断りしておく。

▼Microsoft 365 Blog 4月27日の記事
Microsoft Designer expands preview with new AI design features

自然言語によるデザインの作成

 冒頭でも触れたように、自然言語を利用したデザインの大枠を作成できる。用途(ソーシャルメディアの投稿)、伝えたいこと(××についての記事投稿や日付など)、デザインの種類(アニメーション)などを入力すると、イラストや写真と文字を組み合わせたデザインをいくつか提示してくれる。

日本語でも利用可能

自然言語による画像生成

 デザインで利用するイラストや写真などを画像生成AIで生成できる。アニメーションの生成も可能だ。日本語も使えるが、こちらは英語の方が正確に生成できるので、例えば、「 White bear cooling off in front of a fan, Japan animation style 」(扇風機の前で涼むシロクマ、日本のアニメーション風に)などとすることで、意図に近いものを生成できる。

イラストを生成できる

画像の背景の除去やフィルタ処理

 イラストや写真の背景が不要な場合は、ワンクリックで除去できる。複数の写真やイラストを組み合わせたレイアウトが簡単に作れる。

シロクマのイラストの背景を透過させ、デザインと重ね合わせたところ

レイアウトの提案

 生成した画像を貼り付けると、自動的にデザインの再構成が提案される。どこに配置しようか、どれくらいのサイズにしようかと迷うことがない。

画像などの新しい要素を組み込んだデザインが即座に提案される

コピーの作成

 「 毎年夏に訪れる冷やし中華の季節が到来 」のようなイメージを伝えるだけで、それに合ったコピーを考えてくれる。

提案されたコピー。短いタイトルから、長い説明文まで一度に考えてくれる

ブランドキット(イメージの統一)

 企業のイメージカラーなどをあらかじめ決めておくことで、ワンクリックでデザインを統一できる。

イメージを統一できる

ソーシャルメディア投稿用メッセージの作成

 Facebook、Instagram、LinkedInとの連携が可能で、アカウントを連携させておくことで作成した作品を直接投稿可能。その際、自然言語による指示で、投稿用メッセージとハッシュタグを生成できる。

「ついにこの季節がやってきた。夏、ひんやり、冷やし中華、きゅうりの触感」で生成したメッセージとハッシュタグ

なぜか手を入れるとダサくなる

 というわけで、数分もあれば、「そこそこ」見栄えのいいソーシャルメディア投稿用の画像とメッセージができあがる。

完成形のデザイン

 正直、本当に「そこそこ」だ。フォントの形状やサイズを何とかしたい感じもするが、前述したように、このサービスは、質を求めるというよりも、そこそこのデザインを最小限の手間で大量に生産するのに向いている。このため、修正は最低限にした方がいい。

 というか、筆者のようなデザインに関してなんの知識もない素人が修正しようとすると、やればやるほどダサくなる。

 ここ数日、いろいろ試した結果、絶望的にデザインセンスがない筆者の場合、誤字や改行位置の修正のみで、AIの提案を全面的に受け入れる方が無難だということが分かった。

 きっと、日本語対応が進んだり、日本的なデザインが学習されたりすると、AIの提案を全面的に受け入れても違和感がなくなるのだろうが、まだ、そこまでという印象はない。「そこそこ」である。

 昔から、筆者のきたないラフや稚拙なイラストイメージを、いい感じに仕上げてくれるデザイナーさんやイラストレーターさんを尊敬しているが、Microsoft Designerが目指している方向性と、そうしたプロの仕事とは異なる印象で、今のところ、きちんと棲み分けできているのではないかと感じた。

 手軽でおいしいレトルトカレーも増えてきたけど、プロによる極上のカレーを、お店の雰囲気も味わいながらゆっくり味わうのは全く違う経験だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。