第11回:フレッツ・ADSLを8Mタイプに移行
~8Mタイプ ADSL 3回線を比較する~



 イー・アクセス、アッカ・ネットワークスに続き、最後の回線として残しておいたフレッツ・ADSLもついに8Mタイプに移行。予想通り、速度は速くはなかったが、現状は安定している。3事業者の回線が同一環境になったのを機会に、それぞれの回線の特性を比較してみよう。





速度の限界は2Mbps

 フレッツ・ADSLを8Mタイプへ移行したことにより、筆者宅のADSL回線3本がようやくすべてG.dmt AnnexC環境に統一された。これで、Yahoo! BBを除き、国内のメジャー3回線を同一環境でテストできるようになったわけだ。

 そこで、今回はそれぞれの回線の特性をあらためて調査してみた。同一場所に敷設されたとはいえども、事業者が違ったり、回線の収容先が異なれば、速度や安定性にも違いが出てくる。実際にどれほどの違いがあるのかを調べてみた。

 まずは、新たに8Mタイプに移行したフレッツ・ADSLだが、結論から言えば下り2048Kbps、上り864Kbpsという速度になった。すでに本連載でも紹介した通り、アッカの回線も下りが2Mbps程度であったことを考えると妥当なスピードだ。

 ちなみに、筆者宅の状況はNTT東日本が提供する「電話回線の経路情報」(http://www.ntt-east.co.jp/line-info/)の結果では、線路距離長が2740m、伝送損失が39dBという結果になった。また、アッカが新たに提供を開始した「伝送損失によるおすすめサービス判定」(http://www.acca.ne.jp/area/index.html#course_check)では、3~4Mbps前後。この判定による伝送損失はあくまでも理論値であることを考えると、やはり2Mbpsという速度は妥当だろう。


アッカの「伝送損失によるおすすめサービス判定」による結果。理論上の39dBを実現できれば3~4Mbpsも実現可能そうだが、実際の伝送損失はもっと高いこともあるため2Mbps程度なら妥当なところだ。




同一環境でも異なる回線状況

 では、具体的にそれぞれの回線の詳細なデータを比較してみよう。なお、ここでは環境を統一するために、各回線に接続するADSLモデムをNEC製の「DIRECTSTARΔ DR30F」に統一してある。イー・アクセス、およびフレッツ・ADSLではDSLAM側がCentillium社製のモデムチップを採用しているため、ADSLモデム側もCentillium社製のチップを採用した「DR30F/CE」を、アッカの回線はGlobe Span社製のチップを採用しているので「DR30F/GS」を接続して、それぞれの回線状況を調べてみた。

 イー・アクセスアッカ・ネットワークスフレッツ・ADSL
Payload ADSL Line rate(Down)480(kbps)2304(kbps)2080(kbps)
Payload ADSL Line rate(Up)320(kbps)1024(kbps)864(kbps)
Interleave Delay(Down)1(mS)4(mS)4(mS)
Interleave Delay(Up)1(mS)4(mS)4(mS)
Interleave Depth(Down)188
Interleave Depth(Up)142
Current SNR Margin19(dB)7(dB)6(dB)
Current Output Power(Down)8(dBm)N/A(GSI)17(dBm)
Current Output Power(Up)8(dBm)10(dBm)12(dBm)
Current Attenuation45(dB)39(dB)46(dB)
TxCell/Frame Count0N/A(GSI)0
RxCell/Frame Count6N/A(GSI)1
HEC Discard Count271527
CRC8 Error Count3192122
Corrected Error Count012038169
Uncorrected Error Count539821212
Near-end ES Count1120
Far-end ES Count7820

DR30Fを利用して調査したADSL回線状況。SNRや伝送損失、エラー訂正などの値にそれぞれに特徴があることがよくわかる。

 結果は表の通りだ。速度に関しては、アッカの方が若干リンクアップ速度が速いが、フレッツ・ADSLとほぼ同等で2Mbps前後。イー・アクセスの回線は、導入当初から回線状況が悪いこともあり、事業者による回線調整が行なわれているため、下りで480Kbpsと極端に速度が遅くなっている。

 注目すべきは、「SNR Margin」と「Current Attenuation」の値だろう。SNR(Signal Noise Ratio)とは、文字通り回線の信号とノイズの比のことで、この値が大きいほどノイズ耐性が強く、高い速度を実現できることになる。回線調整がかけられているイー・アクセスの回線は別にして、アッカとフレッツ・ADSLの回線を比べると、やはりリンクアップ速度が高いアッカの方が7dBと高い値となっている。

 一方、Current Attenuationとは、前述したNTTの調査でも表示される伝送損失のことだ。局側のDSLAMから送信された信号が、ADSLモデムに届くまでにどれくらい減衰しているかを示している。この値は、SNRとは逆に大きいほど減衰率が高いことになり、それだけ速度が低下することになる。アッカの回線の場合はNTTの調査でも表示された39dBとなっており、これは理論値とほぼ同等の理想的な値になっているが、他の回線は45dB以上とかなり高い値になっている。これにより速度の低下が見られるのだろう。

 なお、SNRも伝送損失も回線全体の状態を表す値ではない点に注意したい。SNRはあくまでもADSLモデムが受信した信号とノイズの比率であり、DSLAM側や経路上では異なる値となる場合もある。また、伝送損失は特定の周波数の信号を送信したときに、それがどれくらい減衰するのかを示したものであるため、これ以外の周波数帯の信号は異なる減衰率となる場合もある。たとえば、高い周波数の信号は、それだけ距離による減衰の影響を受けやすいため、ADSLモデムなどに表示される減衰率よりも値は高くなる。





エラー訂正の値にも注目

 また、エラー訂正の値にも注目したい。フレッツ・ADSLでは、「Corrected Error Count」、および「Uncorrected Error Count」が少ない値となっているが、アッカの回線では「Corrected Error Count」が、イー・アクセスの回線では「Uncorrected Error Count」が異常に高い値となっている。これらは、エラー訂正がどれくらい実施されたか、エラー訂正でも訂正できなかったエラーがどれくらいあったかを示す値だ。

 ADSLでは、バーストノイズと呼ばれる局所的なノイズに対して、インターリーブという方式を利用して対抗する。たとえば、回線にAMラジオの信号が突発的に混入し、ADSLとの干渉を起こしたとしよう。すると、この周波数が重なる部分のデータは、連続的に欠損してしまい(バーストエラー)、エラー訂正能力を超えてしまう。すると、回線が頻繁に切断されるなどのトラブルに発展するわけだ。

 そこで、これを避けるため、インターリーブによってバーストエラーをランダムエラーに変換する。具体的には、下図のように、送信するデータをブロック単位に分割し、それぞれを並べ替えて送信するわけだ。こうすると、特定のブロックのデータがバーストエラーによって失われたとしても、それがランダムなエラーとして分散されるため、エラー訂正が可能となる。


インターリーブによるバーストノイズ対策。データをブロックごとに分割し、並べ変えて伝送するため、特定の周波数帯でバーストエラーが発生しても、エラー訂正が可能となる。

 つまり、「Corrected Error Count」は何らの原因により失われたデータを正常に訂正できたことを表し(FEC:Forward Error Correctionと呼ぶこともある) 、「Uncorrected Error Count」は訂正できなかったことを表すことになる。このため、筆者宅の環境では、「Uncorrected Error Count」の値が異常に大きいイー・アクセスの回線が不安定になっているわけだ。

 ちなみに、インターリーブをどのようなレベルで行なうかは、表中の「Interliave Depth」で表されており、値が高いほどエラー訂正能力が高いことを示す。ただし、あまりエラー訂正能力を高くすると、ADSLモデムに信号が届くまでに遅延が発生する。どれくらい遅延が発生するのかが表中の「Interleave Delay」の値だ。この値が大きいほど、回線は安定するが、それだけスループットは低下する(リンクアップ速度は変わらない)。事業者によっては、DSLAM側でインターリーブディレイの値を高く設定することで、エラー訂正能力を向上させ、回線を安定させるという対策をする場合もある。





収容替えで効果が期待できる可能性もある

 このように、それぞれの回線の状況を詳細に見てみると、どの回線がどのような特性を持っているのかがよくわかる。どうやら、筆者宅ではフレッツ・ADSLがもっとも安定しているようだ。

 この点を考えると、現状、頻繁に切断されるなどのトラブルに悩まされているユーザーは、収容替えで状況を改善できる可能性があることがよくわかる。同じ場所に引き込んだ回線でもこれだけ状況が異なるのだら、収容替えを試してみる価値はあるだろう。もちろん、効果がない、もしくは逆に回線状況が悪化することも考えられる点には注意したいが…。


関連情報

2002/4/16 11:15


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。