第47回:実力を発揮するのはこれから?
~ブロードバンドAVルータに隠された謎を解けるか~



 ソニーから、So-netユーザー限定という珍しい販売形態の無線ブロードバンドルーター「HN-RT1」が登場する(IEEE 802.11b準拠)。「ブロードバンドAVルータ」という名前が付けられているが、これだけでは正体が見えない謎の多い製品だ。評価用に試作機をお借りすることができたので、早速レポートをお届けしよう。





ブロードバンド“AV”ルータ

 「ここまで謎の多い製品に出会ったのはひさしぶりかもしれない」。ソニーのブロードバンドAVルータ「HN-RT1」を初めて目にしたときに浮かんだ感想は、こういったものだった。

 もちろん、ルータと名が付くのだから、インターネットに接続するための機器だということは容易に想像がつく。しかし、実際に製品を目の前にしても、「ブロードバンドAVルータ」の「AV」って何だ? 本体前面に配置されている液晶は何に使うのか? メモリースティックが装着できるとどんな良いことがあるのか? といった疑問しか沸いてこない。まあ、ある意味、このように見る者を「ワクワク」させるような製品はソニーならではと言えるのだが、今回の製品に限っては「ん?」と首をひねるような部分も多い。


そのネーミングや液晶の採用など、通常とはひと味もふた味も違った製品となるソニーのブロードバンドAVルータ「HN-RT1」




謎その1~液晶

 まず、目につくのは本体前面に用意された液晶だ。ISDN用ルータやTAが全盛期を誇っていた時代、通信機器に液晶が装備されていることはさほど珍しいことではなかった。しかし、時代がADSLなどのブロードバンドに移行してから、通信機器、特にルータに液晶が装備されることはほとんどなくなった。LEDのみの表示もわかりにくいと言えばわかりにくいのだが、実質的に機器のステータスや状態を表示するにはLEDでも十分なのだろう。

 しかし、HN-RT1には、その見かけなくなった液晶が搭載されている。では、これは何に使うのだろうか? インターネット接続の状況や速度を表示する? メールの有無を定期的にチェックしてその情報を表示する? それとも、インターネット上からニュースなどの情報をダウンロードしてを表示する? これらすべて否だ。

 現時点で、この液晶の存在意義は、あくまで簡単な初期設定と状態の確認のためでしかない。通常、液晶には「SONY AV ROUTER メニューセンタク」という文字が表示されており(設定でWAN側IPや時刻を表示するように変更することもできる)、液晶右側にあるボタンを押すと、「セツゾクジョウホウ」、「ファームウェアジョウホウ」、「システム」、「ムセンジョウホウ」の4つの機能が選択できるようになっている。つまり、液晶でWAN側のIPアドレスを確認したり、ファームウェアのバージョンなどを確認できるなど、基本的には、本体の最低限の設定を確認できるにすぎない。


液晶が存在すること自体は興味深いが、実際の使い方として何か面白いことができるのかというと、そういうわけではない

 唯一、気が利いてると感じた使い方としては、最新版のファームウェアがリリースされている場合は、それを検出し、液晶にバージョンアップをうながすメッセージが表示されるようになっている点くらいだ。本製品はファームウェアをアップデートすることで、進化していくというコンセプトの元に作られており、たとえば、直近ではファームウェアのアップデートでプリントサーバー機能が追加予定となっているし、将来的にはVPNによる家庭内へのリモートアクセス機能なども追加される予定となっている。

 このため、HN-RT1では、ファームウェアのアップデートが非常に重要視されており、この情報をユーザーが見逃さないように液晶に表示し、しかもパソコンを全く使用することなく本体前面のボタンを押すだけで実際のアップデートを手軽に行なえるような仕様となっている。この考え方自体は非常に正しい。ルータなどの機器を買ったままの状態で使い続けている人が多いことを考えれば、このような工夫をしたこと自体は高く評価できる。

 しかし、正直なところ、液晶の使い道としては「それだけ?」という感想をぬぐいきれない。せっかく液晶があるんだから、もっとほかの情報も表示できるようにできてもいいのでは? と残念に思ってしまう。たとえば、インターネットに接続したら、その時点で液晶に接続したというメッセージが表示されてほしいし、もともと時刻とWAN側IPアドレスを表示する機能を持っているのだから、手動ではなく自動的かつ、定期的にこれらの情報を液晶に表示できるようにもできそうなものだ。さらに進んで、前述したようにインターネット上で配信されているニュースをダウンロードして液晶に表示するようにしてもいい(後述するメモリースティックに保存すれば不可能ではないだろう)。

 しかも、本製品には、液晶のほかにLEDも装備されている。このLEDの位置が本体上面の真ん中という、見づらい場所にあること自体も謎だが、せっかく液晶があるなら、LEDではなく液晶に情報を表示すればいいのに…と考えてしまう。それこそ、今後、ファームウェアのアップデートによって、何らかの情報が液晶に表示されるようになるのかもしれないが、現時点ではあまり有効性を見いだすことができない。





謎その2~メモリースティック

 続いて気になるのは、本体に用意されたメモリースティックスロットだ。この使い方はなかなか面白い。デジタルカメラなどで撮影した画像が保存されたメモリースティックをHN-RT1に装着し、設定画面から公開の設定をすると、その画像をインターネット上に公開することができる。いわば、ルータが簡易のWebサーバーとして機能するわけだ。これはなかなか手軽な機能だ。


本体側面に配置されたメモリースティックスロット。デジタルカメラで撮影した画像などを手軽にインターネット上に公開することができる。メモリースティックPROは非対応

 ただし、実際に使うかと言われると難しい面もある。メモリースティックの画像自体を公開することは、設定画面から公開したいフォルダを選んで、「公開」ボタンを押すだけと手軽なのだが、それを見るのが面倒なのだ。


メモリースティックの画像などを公開するのは簡単。設定ページから公開したいフォルダを指定するだけでインターネット上に公開できる


公開された画像を見る場合は、ルータのWAN側IPアドレスを指定してアクセスする必要がある。一旦アクセスしてしまえば画像の参照は手軽だが、便利に利用するにはDynamicDNSサービスへの対応を待ちたい

 最近のルータの中には、インターネット上にサーバーを公開することを考慮して、DynamicDNSに対応している製品もあるが、HN-RT1は現在では対応していない。つまり、公開した画像を他のユーザーが参照したい場合は、WAN側に割り当てられたIPアドレスをいちいち通知しなければならないことになる。考えようによっては、仲間内だけで見たいような写真を公開するなら、この方法の方が適しているかもしれない。しかし、そうしたいならパスワードなどを設定できるようにして、セキュリティを確保できるようにすべきだ。残念ながら、本製品には公開したフォルダにパスワードなどを設定することもできない。

 これは、いささか中途半端としか言いようがない。ちなみに、メモリースティックに保存した画像は、インターネット側からだけでなく、ルータの設定画面を開くことでLAN内の複数のユーザーでも共有することができる。インターネットに公開する機能を加えるくらいなら、LANだけの参照にとどめておいた方がよかったのではないかと思ってしまう。この機能の考え方自体は面白いが、実際に使うユーザーの視点で機能が設計されているとは言い難い。





謎その3~AVポート

 3番目は、本製品の製品名としても採用されている「AV」という部分だ。本製品のLANポートにはAVポートと呼ばれるポートが用意されており、ここに接続した機器のデータ伝送を優先することができるようになっている。いわば「QoS」的な考え方が採用されているわけだ。

 具体的には、AVポート(標準ではポート1だが、変更することも可能)と設定されているポートはバッファ容量が多く取られており、これによりデータ伝送を優先して処理できるようになっている。たとえば、LAN内のネットワーク経由で映像を再生している最中に、他のPCが大量のデータをコピーするなどしても、このポートを利用していれば映像が途切れないというわけだ。



標準ではLAN1がAVポートに指定されているが、これは設定画面から変更することが可能となっている

 ただ、これもどこまでニーズがあるのか疑問だ。同社の製品であれば、おそらくVAIOシリーズの「VAIO Media(ホームサーバー機能)」を利用して、LAN上のPC間で映像を再生するときなどが想定されるが、たとえばGigaPocketで録画したテレビ番組などでもそのビットレートは最大で8Mbpsだ。特にQoSが必要なほど帯域を消費することはない。実際、筆者宅では普通のスイッチングハブを利用して、VAIO Media(主にルームリンク)を利用しているが、他のPCで大量のファイル転送をしたからといって映像が乱れた経験はない。おそらく、現存する機器やアプリケーションで、ここまで帯域に気を配らなければならないケースはまれだと思う。

 もしかしたら、ソニーが将来的に大量のデータ伝送を必要とする機器の発売やサービスの提供を計画しているのかもしれないが、現段階ではあまり意味がない。





現時点ではIP電話サービスとの併用ができない

 最後に、個人的には致命的だと思う部分を指摘しておく。それは、この製品がSo-netが提供するIP電話サービスである「So-netフォン」との併用ができない点だ。

 現状、So-netフォンを利用するには、ADSLモデム内蔵VoIPルータまたはVoIP機能搭載TA、を利用しなければならない。このADSLモデムは、ブリッジモードに変更することも可能なのだが、ブリッジモードにしてしまうとVoIPの機能は利用できなくなる。また、VoIP機能搭載TAは、本体がルータ機能を持ち、別のルータを介した接続はできない。要するに、So-netフォンを利用するか、HN-RT1を利用するかの二者択一を迫られるわけだ。HN-RT1の発表会で同社は、将来的にIP電話とも干渉しないような工夫をする予定と述べていたのだが、現時点を利用できないことを認識して購入を検討すべきだろう。


So-netのSo-netフォンで提供されるADSLモデム内蔵VoIPルータ。ブリッジへの動作モード変更も可能だが、その場合、IP電話機能は利用できなくなる




試みは面白いが、現時点では未完成の部分が多い

 このように、HN-RT1は機能的には非常に画期的だが、実際の利用シーンがあまり見えてこないうえ、越えなければならないハードルが多く残りすぎている製品だと言える。上記のIP電話の問題が顕著だが、無線LAN部分が802.11bにしか対応していない点も残念と言える。個人的には今リリースしなくても802.11gの正式策定後、もしくは802.11a/b/gコンボの供給がはじまってからリリースしても遅くはなかったのではないかと感じてしまう。このタイミングであれば、もしかしたらIP電話の問題も解決できるかもしれない。

 ただし、この製品は、前述したようにファームウェアのアップデートによって、進化していく可能性があるルータだ。もしかしたら、メーカー側が考えている製品の理想の姿が現段階では見えないだけで、これから徐々に真の姿が見えてくるのかもしれない。そう考えると、HN-RT1が真の実力を発揮するのはこれからなのかもしれない。いや、そう期待したい。

 なお、一応、スループットも測定してみたが、Bフレッツニューファミリーを利用した有線の速度は、下りで40.5Mbpsを計測した(RBB TODAYにて計測)。この製品の場合、スループットが特に問題となる製品ではなく、テストした製品が量産出荷前の試作品であるため、参考程度に考えてほしい。


関連情報

2003/3/11 11:10


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。